上 下
2 / 69

侍女を助けてくれた敵の聖女を連れて王宮へ転移しました

しおりを挟む
「イリヤ!」
私は飛んでいった山賊など見向きもせずにイリヤにすっ飛んでいった。
イリヤを抱き起こすが、血まみれのイリヤはびくともしない。
イリヤはまだ14歳だ。無理言って近くの村から私の侍女として来てくれたのだ。私の盾になって斬られるなんて、そんな。
「ちょっとイリヤ、死なないで」
私は大声で泣き叫んでいた。



私は焦りに焦っていたのだ。本来は冷静に考えて行動すれば良かったのだ。本当に駄目な王女だ。

だって今までは、平民のアンとしてしか生きてきていないのだ。そんなすぐに王女然と振る舞えるわけは無いのだ。

でも、本当に馬鹿だった。普通はエルダかイングリッド、あるいはフィル様が指摘してくれたのだが、今ここにはいない。
馬車に同乗していた伯爵令息の二クラスや護衛のミーケルやマッケルはただただ慌てるばかりで指摘してくれなかった。

「ヒール!」
後ろから私の慌てように同情したのか、今まで勇者と一緒にいた女がヒールをイリヤにかけてくれていたのだ。

ヒールを浴びてイリヤの傷がみるみる塞がったのだ。

「良かった。あなた有難う。本当に有難う」
私はイリヤを抱きしめながらその子に御礼を言った。その子はとても戸惑っていた。

「そこのお前、山賊の一味だな」
そこに私が弾き飛ばした勇者をふん縛っていた、マッケルが帰ってきて女を拘束しようとした。

「マッケル何しているのよ。その子はイリヤを治してくれたわ」
私がムッとして言うと

「しかし、王女殿下、この女は襲撃犯の一味です」
こいつは全然融通がきかない。
元々お前ら護衛が勇者の襲撃を防いでくれていたら、イリヤが傷つくことも無かったのだ。防ぎきれなかったからこうなったのだろうが。

この女は重症のイリヤを助けてくれたのだ。それを敵だと言って拘束するのか?

私は怒りを何とか抑えようとした。ここで怒鳴り散らしても仕方がない。



そもそも、私、アンは、通っていた隣国オースティンの王立学園で公然とブルーノに襲われた。スカンディーナの内政に関わろうとなんてしていなかったのに。両親の仇を取ろうとも思ってもいなかった。ただ、ブルーノの魔の手から逃げていただけなのだ。逃げているだけでも襲われるのなら、いっそのこと、仇討ちに行った方が良いのではないかと周りに丸め込まれて? このオースティン王国との国境にある、ヴァンドネル伯爵領に来たのだ。

元々ヴァンドネル伯爵家は私の遠縁で、私を支援しようとしてくれていた。しかし、ブルーノはそんな伯爵家を許す訳もなく、疫病を流行らせて、見せしめにしようとしていたのだ。本当にブルーノは冷酷非情で卑怯な奴なのだ。
その疫病にかかった人々を私が必至にヒールで治していたのだが、しびれを切らしたブルーノが軍を動員して、領民全てを皆殺しにしようとしたのだ。

それを私たちは全員の力を結集して何とか防いだのが現時点だ。

ここまでくればもう私も腹を括るしか無い。流石にこんなちっぽけな国土では女王を名乗るのは烏滸がましいと、エルダによると中途半端な忖度で、私はアンネローゼ王女を名乗り、アンネローゼ王国を建国したのだ。おそらく、領地の大きさでも人口でも、世界最小クラスだ。何しろ領地の大きさはブルーノの治めるスカンディーな王国の1%にも満たないのだ。兵士の数は3千人もいない。スカンディーナ王国の兵力の100分の1くらいだ。これでブルーノに勝てるのかと絶望するほどの超弱小国なのだ。

更に私に付いて来た、と言うか面白いからやってきたオースティン王国からの面々と、元々私を支援してくれようとしたスカンディーナの面々が反発し合っていて派閥争いになっており、もうヒッチャカメッチャカなのだ。

今回も隣の領地のクイバニ伯爵家に外交に、うまく行けば我が陣営に引き込もうとして行こうとしたのだが、スカンディーンナ派、つまり、国内貴族派、いや、ヴァンドネル地方貴族派が派遣メンバーで文句をつけてきたのだ。

スカンディーナの貴族を調略に行くのだから、スカンディーナの人間を使うべきだと。
「何しろ、クイバニ伯爵は利に聡く、美しいものに目がないお方です。ここは親しくしておられたヴァンドネル伯爵家当主になられたニクラス様が、交渉の場につかれて、ブルーノが如何に冷酷非道かを理論整然と説かれるのが良いかと。その横でお美しいアンネローゼ様が涙で訴えられれば、伯爵もこちらの陣営に付くのは確実かと」
マッケルの父のダール子爵が言うんだけど。

利に聡い奴に情で訴えても効果があるのか? それに、美しいって私の容姿は人並みだ。王宮筆頭女官のエルダとか私付きの補佐官のイングリッドとかの方が余程美しいと思うんだけど・・・・私は疑問だらけだった。

私でもそう思うのだ。会議は紛糾に紛糾を重ねたが、「ここは地元の人間にお任せしよう」と内務官のイェルド様が黒い笑みを浮かべて言われたて決まったんだけど、私は不吉な予感しかしなかったのに。絶対にイェルド様は何か良からぬことを考えている。

元々不安しか無いのに、護衛も含めて馴染みのない地元の人間で固められて、不安この上ない状態でここまで来て、早速山賊に襲われたのだ。
勇者とかいきなり主役クラスが現れたんだけど・・・・これって絶対に敵に情報が漏れているんじゃないだろうか?

張り倒した山賊勇者は大した怪我はしていないはずだが、斬られたメルケルやイリヤをこれ以上連れて行くわけにいは行かないだろう。

「二クラス様、1時間ここで休憩しておいてください。メルケルとイリヤの代わりを連れて来ます」
「えっ、アンネローゼ様」
慌てた二クラスが叫ぶが、私は無視して、メルケルとイリヤ、それにここに置いておいたら何されるかわからない聖女を連れて王宮へ転移したのだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

運命の番(同性)と婚約者がバチバチにやりあっています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,789pt お気に入り:30

俺、悪役騎士団長に転生する。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:12,255pt お気に入り:2,505

邪霊駆除承ります萬探偵事務所【シャドウバン】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:1,576pt お気に入り:15

皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:2,443

私の愛する人は、私ではない人を愛しています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:20,855pt お気に入り:6,623

目覚めた公爵令嬢は、悪事を許しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:43,694pt お気に入り:3,317

処理中です...