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花祭りが終わった後、俺とアルフォンス、ヴィンスは王宮のとある部屋にこもっていた。
ザックは既に夢の中だ。メイドを近くに控えさせているし、護衛もいるから大丈夫だろう。
俺の隣にはヴィンスが、テーブルを挟んだ向かい側にはアルフォンスが。先程淹れてもらった紅茶の香りが、ふんわりと鼻腔を擽った。
花祭りが始まる前、話したいと告げた。アルフォンスはそれに誠意を以って応じてくれている。
「単刀直入に言うね、シルティア。君は、誰かしらに命を狙われている」
「……は?なに、言って」
「嘘じゃない、僕とレオン殿下と一緒に調べたんだ…それくらい、あの時の君の行動は異常だったから」
「あの時?」
あの時。俺が、アルフォンスを手篭めにしようと誘拐した時の事件だ。
遅かれ早かれ、ヴィンスには言おうと思ってた。今がいい機会だからと、正直に話した。
ヴィンスは驚いたように目を見開いた後、考え込んでしまう。あぁ、失望されてしまっただろうか。俺から魔術を教わりたくないと、言われるだろうか。
数秒だったか、数分だったか。沈黙を破ったのはヴィンスだった。
「私はまだ、数週間しかシルと接してはいない。だが、そんな事件をシルが起こすとは思えない」
「…え、」
「君は心優しい青年だ。自身どころか、下手したら侯爵家…弟君にすら被害が及ぶ危険がある事をするとは思えない。恋は盲目とは言うが、その行動は異常だ」
真っ直ぐ俺を見つめる満月に、涙がこぼれそうになった。彼は、俺を心の底から信じてくれている。
「僕もレオン殿下も、そう思った。君は何かに善くない物に操られているんじゃないかって…王宮の魔術師に事件現場を調べさせたら、僅かにだけど呪いの形跡が残ってた」
「呪いって、それ…本当なのか?」
呪いとは、文字通り呪いだ。魔術の媒介を人の血や臓物にし、対象者を苦しめたり操ったりする悪しき魔術。
それ相応の魔術の才能と、媒介を手に入れる資金。それと、異常なまでの執着や怨念がなければ成功したりはしない。だから国の法律で禁止しているし、全うな魔術師はそもそも呪いなんて行使しない。
だが呪いの対抗策の研究は日々行われている。そうしなければ、王族が狙われたりするから。
でも、俺が狙われるなんて。俺はそこまで呪いに詳しくないからまんまと術中に堕ちてしまったんだろう。
「うん。だから、一旦君をこの国に避難させたんだ…勿論、両国の陛下達も了承の上でね」
その言葉に、大きく目を見開く。俺のユースチス行きは、体のいい罰ではなかったのか。
ちらりとヴィンスを伺うと、彼も驚いていた。この件に関してはヴィンスも知らなかったみたいだ。
アルフォンスが言うには、ヴィンスの魔術の教師の件も検討していたらしい。俺は魔術の腕も立つから丁度いいと、ユースチス陛下が二つ返事で受け入れてくれたようだ。元々両国の王達は仲が良いと評判だったので、それも少なからずあるだろう。
だとしても疑問が残る。しがない侯爵子息の俺に、第一王子は何故そこまで気遣ってくれるのだろうか。
「君の疑問は分かるよ。でも、理由に関してはまだ言えないんだ。先ずは君の命を狙ってる輩をどうにかしないと」
「…分かった。俺は、この後どうすればいい?」
「このままここで、今まで通りに殿下の魔術の指南をしていて欲しい。もし進展があれば、内密に教えるから。それと、ヴィンセント殿下に折り入ってお願いがあります」
普段の穏やかさが消え、真っ直ぐ真摯な瞳でアルフォンスがヴィンスを見据える。
何かの覚悟を感じ取ったのか、ヴィンスも居住まいを正して聞く姿勢をとった。俺の身体も自然と強張って、こくりと喉が鳴ってしまう。
アルフォンスは一体、ヴィンスに何を求めるのだろうか。俺に関してだろうが、皆目検討がつかない。
ふうと深い息を吐き出した後、アルフォンスは口を開いた。
「シルティアを、守って欲しいんです。もしかしたらこの国にも、犯人が彼を殺そうと刺客を送ってくるかもしれない…その脅威から、必ず守っていただきたい」
「アルフォンス、それは…」
「勿論、良いでしょう」
ヴィンスの二つ返事に驚く。どうしてそこまで、俺を気遣ってくれるのだろうか?
そんな考えがまるっきり顔に出てしまっていたのか、ヴィンスはゆるりと口元を緩める。その後ぽん、と優しく俺の肩を叩いた。
「私の大切な友人を守るのは、当たり前のことだろう?」
「…ありがとう」
彼の言葉に、何故か胸がちくりと痛む。浮かべた笑みが引き攣っていない事を切に願った。
ザックは既に夢の中だ。メイドを近くに控えさせているし、護衛もいるから大丈夫だろう。
俺の隣にはヴィンスが、テーブルを挟んだ向かい側にはアルフォンスが。先程淹れてもらった紅茶の香りが、ふんわりと鼻腔を擽った。
花祭りが始まる前、話したいと告げた。アルフォンスはそれに誠意を以って応じてくれている。
「単刀直入に言うね、シルティア。君は、誰かしらに命を狙われている」
「……は?なに、言って」
「嘘じゃない、僕とレオン殿下と一緒に調べたんだ…それくらい、あの時の君の行動は異常だったから」
「あの時?」
あの時。俺が、アルフォンスを手篭めにしようと誘拐した時の事件だ。
遅かれ早かれ、ヴィンスには言おうと思ってた。今がいい機会だからと、正直に話した。
ヴィンスは驚いたように目を見開いた後、考え込んでしまう。あぁ、失望されてしまっただろうか。俺から魔術を教わりたくないと、言われるだろうか。
数秒だったか、数分だったか。沈黙を破ったのはヴィンスだった。
「私はまだ、数週間しかシルと接してはいない。だが、そんな事件をシルが起こすとは思えない」
「…え、」
「君は心優しい青年だ。自身どころか、下手したら侯爵家…弟君にすら被害が及ぶ危険がある事をするとは思えない。恋は盲目とは言うが、その行動は異常だ」
真っ直ぐ俺を見つめる満月に、涙がこぼれそうになった。彼は、俺を心の底から信じてくれている。
「僕もレオン殿下も、そう思った。君は何かに善くない物に操られているんじゃないかって…王宮の魔術師に事件現場を調べさせたら、僅かにだけど呪いの形跡が残ってた」
「呪いって、それ…本当なのか?」
呪いとは、文字通り呪いだ。魔術の媒介を人の血や臓物にし、対象者を苦しめたり操ったりする悪しき魔術。
それ相応の魔術の才能と、媒介を手に入れる資金。それと、異常なまでの執着や怨念がなければ成功したりはしない。だから国の法律で禁止しているし、全うな魔術師はそもそも呪いなんて行使しない。
だが呪いの対抗策の研究は日々行われている。そうしなければ、王族が狙われたりするから。
でも、俺が狙われるなんて。俺はそこまで呪いに詳しくないからまんまと術中に堕ちてしまったんだろう。
「うん。だから、一旦君をこの国に避難させたんだ…勿論、両国の陛下達も了承の上でね」
その言葉に、大きく目を見開く。俺のユースチス行きは、体のいい罰ではなかったのか。
ちらりとヴィンスを伺うと、彼も驚いていた。この件に関してはヴィンスも知らなかったみたいだ。
アルフォンスが言うには、ヴィンスの魔術の教師の件も検討していたらしい。俺は魔術の腕も立つから丁度いいと、ユースチス陛下が二つ返事で受け入れてくれたようだ。元々両国の王達は仲が良いと評判だったので、それも少なからずあるだろう。
だとしても疑問が残る。しがない侯爵子息の俺に、第一王子は何故そこまで気遣ってくれるのだろうか。
「君の疑問は分かるよ。でも、理由に関してはまだ言えないんだ。先ずは君の命を狙ってる輩をどうにかしないと」
「…分かった。俺は、この後どうすればいい?」
「このままここで、今まで通りに殿下の魔術の指南をしていて欲しい。もし進展があれば、内密に教えるから。それと、ヴィンセント殿下に折り入ってお願いがあります」
普段の穏やかさが消え、真っ直ぐ真摯な瞳でアルフォンスがヴィンスを見据える。
何かの覚悟を感じ取ったのか、ヴィンスも居住まいを正して聞く姿勢をとった。俺の身体も自然と強張って、こくりと喉が鳴ってしまう。
アルフォンスは一体、ヴィンスに何を求めるのだろうか。俺に関してだろうが、皆目検討がつかない。
ふうと深い息を吐き出した後、アルフォンスは口を開いた。
「シルティアを、守って欲しいんです。もしかしたらこの国にも、犯人が彼を殺そうと刺客を送ってくるかもしれない…その脅威から、必ず守っていただきたい」
「アルフォンス、それは…」
「勿論、良いでしょう」
ヴィンスの二つ返事に驚く。どうしてそこまで、俺を気遣ってくれるのだろうか?
そんな考えがまるっきり顔に出てしまっていたのか、ヴィンスはゆるりと口元を緩める。その後ぽん、と優しく俺の肩を叩いた。
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「…ありがとう」
彼の言葉に、何故か胸がちくりと痛む。浮かべた笑みが引き攣っていない事を切に願った。
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