満月に囚われる。

柴傘

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26:綺麗だね

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「さ、できましたよ…今夜の舞踏会で、シル様以上に美しいご令嬢やご令息は絶対に居ません!」

自信たっぷりなレイモンドの声に、化粧をする為に閉じていた瞼を持ち上げる。

目の前に差し出された鏡を覗き込むと、物凄く綺麗になった俺が驚いたように此方を見返していた。
白く透き通る肌に、程よい血色の頬。唇は薄っすら桜色の紅が引かれていて、艶々と輝いていた。いつもは降ろしているだけの黒髪は、ハーフアップにされている為顔が良く見える。

決して化粧が濃いわけじゃない。なのに普段より、何倍も綺麗になっているのが分かる。

「流石、レイモンドだな…これ、新しく考えた化粧だろう?」
「はい、私の自信作です!最近の流行を取り入れつつ、いかに濃くせずシル様に似合うかを夜な夜な研究しておりました!」

凄い、その一言しか出てこなかった。

延々と化粧についてのポイントをレイモンドが説明しているとき、コンコンと部屋の扉がノックされる。
その音に気づいたレイモンドが扉を開ける。そこには、黒い礼服に身を包んだヴィンスが立っていた。もう迎えに来てくれたらしい。俺も立ち上がり彼の傍に行くと、ヴィンスはじっと俺のことを見つめていた。

その眼差しに、熱が篭っている。それに気づき、少しだけ恥ずかしくなった。

「…何か言ってくれよ。黙ってられると、恥ずかしいんだけど」
「あぁ、いや、その…想像していた何倍も綺麗で、言葉を失ってしまった。すまない。」

ヴィンスの嘘偽りの無い言葉に、カッと身体が熱くなる。

俺の手を取るヴィンスの指先が、緩む口元が、優しい眼差しが…その全てに、愛が籠もっているのを感じ取ってしまう。
ついさっきまでこの間の事で落ち込んでたのが馬鹿みたいだ。

こんなに全身で愛情表現をしてくれてるヴィンスを、疑ってしまうなんて。

「…ふ、耳まで真っ赤だな。かわいい」
「うるさい、笑うなっ…!」

いつもは髪で隠れている耳も、今日は髪型のせいで露わになっている。

顔どころかそこまで真っ赤だと言われた挙句、可愛いだなんて…反論しても仕方ないだろう。
小さく悪態をついた後、どうにか意趣返し出来ないだろうかと考えを巡らせる。
ふと思いついた悪戯を実行すべく、ヴィンスの礼服の袖をくいと引き俺に耳を傾ける様主張した。

油断しているヴィンスは、素直に俺に耳を傾ける。そっと内緒話をする様に、ごく小さな声で囁いた。

「…ヴィンスも、今日の衣装似合ってる。かっこいいよ」
「なっ…!」

態と甘やかな吐息を混ぜた声に、ヴィンスが慌てて耳を押さえる。

効果的面なその姿に、思わず笑い声が溢れた。どうだ、俺にだってヴィンスを照れさせる事が出来るんだぞ。
未だ驚いたように口を開閉しているヴィンスの腕を軽く引き、俺達を見守っていたレイモンドを振り返る。

「じゃあ、いってきます」
「行ってらっしゃいませ、シル様…楽しんで来てくださいね」

レイモンドのその言葉に、俺は満面の笑みを浮かべた。
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