満月に囚われる。

柴傘

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34:殿下と衣装合わせ

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「ヴィンセント殿下、動かない!」
「…ぐう、」

龍神祭にて、私とシルの結婚を発表する際に着用する正装の衣装合わせ。

勿論私も気合を入れている。だけどそれ以上に燃えてしまった私の乳母が、ぎらぎらと目を光らせていた。
苦しくて少しでも動こうものなら先程のように叱責が飛び、軽く背中を叩かれる。それに私が黙って耐えているのは、乳母が本当に心の底からこの婚約を喜んでいると知っているから。

今まで私は、王位継承権に波風が立つからと婚約者を持とうとしなかった。

単純に結婚したいと思える人物が居なかったという面もあるが、一番重きを置いていたのは王位問題だ。
私が何処かの高位の令嬢若しくは令息と婚約すれば、未だに私を王位にと推している者達が影で動きかねない。乳母もそれを理解してくれていたが、やはり心配だったようだ。

そんな私が、ついに婚約し半年後には結婚発表。しかもこの国の貴族との縁戚関係が一切無い隣国の侯爵子息。

ある種の政略結婚とも言える。ルイーゼ国は昔から友好国ではあるが、我が国との血縁関係は一切無かった。
それが今回、王弟の私と侯爵子息であるシルが婚約した事により両国の関係が一層近しくなった。それに、私に令嬢子息を宛がおうとしていた連中も此処最近は鳴りを潜めている。

余りにも順調すぎて、少し怖いくらいだ。何事も無く結婚発表が終われば良いが…。

「…ヴィンセント殿下、シルティア様に無茶させたりしてませんよね?」
「は?何言ってるんだ、私がシルに無茶など…」

突然疑いの眼差しを向けてきた乳母に、反射的に返事をする。

彼女がちょいちょいと指差した方向を見ると、柔らかそうな長椅子の上でシルが気持ち良さそうに眠っていた。
その穏やかな表情に和まされる。今日は私より朝早く起きていたようだし、衣装合わせも相まって疲れてしまったんだろう。この後結婚発表の打ち合わせもあるし、今は寝かせてあげても…。

そう考えていた時、乳母の肌を刺す様な鋭い視線に気がついた。

「近頃、疲れやすいみたいですよ。あんな事があって、体力が落ちてるのもあるのでしょうが…殿下も、ちゃんと気にかけてあげてくださいまし」
「…あぁ、そうだな」

言われたとおり、シルは最近少々疲れやすいようだった。

医者に診てもらった所見では、慣れない環境で張り詰めていたのが先日の呪いの件で決壊し、心身ともに疲れやすくなっているとの事だった。
確かに、我が国に来る事もかなり直前に決まったようだし、愛して止まない弟君と離れているのもある。更には呪い関連で精神をすり減らしても居ただろう…今はゆっくり、休ませてやりたい。

一時的になら動いて良いと言われたので、すやすや眠るシルに近寄る。そっと柔らかな髪を撫でれば、思わず頬が緩んだ。

「…シル、愛してる」

私の声に応えるように、シルは穏やかに笑っていた。
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