36 / 48
35:まどろみ
しおりを挟む
『シルティア、我が愛しい子』
きらきらと輝く誰かが、俺の身体を優しく抱き上げた。
そのまま逞しく優しい腕に抱かれ、眠るのを促すようにゆったりと揺さぶられる。その揺れが心地よくて頼もしくて、俺は直ぐにうとうとと船を漕ぎ始めた。
そんな俺を一組の男女が愛おしそうに見つめている。一人は俺の本当のお母様、もう一人は…。
『愛しているよ、シルティア。お主が無事に生きてくれるなら、我は何としてでも守り抜いてやる…この世のあらゆるもの全てから、たった一人シルティアを守るよ』
宝石のように輝くアメジストの双眸が、嬉しそうに眇められた。
「…なんだ、今の」
真夜中、ふと目が覚める。お母様ともう一人、見知らぬ男性が居た気がする。
誰だろう、あの人は。はっきりと顔を見たはずなのに、目が覚めた今靄がかかったようにぼんやりとしている。
お母様の顔は思い出せるのに。彼の顔が思い出せなくて、少しだけ悲しい。
何でこんなにも気になるのだろうか。ただの夢だ、そう思えている筈なのに。
「ヴィンス、」
愛しい彼の名前を呼ぶ。勿論この部屋には居ないから、返事なんて返ってこない。
そっとベッドから降り、部屋の奥の扉に手をかける。ヴィンスとの婚約が決まった後、彼の部屋と繋がっている部屋へ居を移した。
一緒に寝ている訳じゃない。だけど直ぐ近くに居たいと、彼が望んでくれたから部屋を移動した。俺も、少しでもヴィンスの近くに居たかったから。
まだこの扉から、ヴィンスの部屋へ行った事はない。だけど無性に、ヴィンスに会いたかった。今すぐ、彼の顔を見たくなった。
かちゃり、なるべく音を立てないように扉を開ける。天蓋付きのベッドに近寄れば、すやすやと眠る彼の姿。
「…ヴィンス、おれ」
何かを言いかけて、口を噤む。俺は今、何て言おうとした?
彼に触れようと伸ばしていた手を、そっと掴まれる。驚いてヴィンスの顔を見やれば、満月の双眸とかち合った。
どうやら起こしてしまったらしい。申し訳なくて謝ると、気にするなと言ってヴィンスは笑った。
身体を起こした彼は、ベッドに座るよう俺を促す。素直に従い、柔らかな布団の上へ腰掛けた。
「眠れないのか?それとも、怖い夢でも見たのか?」
俺の背を優しく撫でる掌に、自然と脱力していた。どうやら無意識に力んでいたらしい。
ヴィンスの肩に額を乗せる。俺の背を撫でていた手は、そっと俺の事を抱き上げていた。そのままヴィンスの腕の中へ移され、抱き締められる。
そっと胸元へ顔を寄せ、彼の心音に耳を澄ませる。とくとくと一定のリズムで動く音に、酷く心が穏やかになる。いつだって、ヴィンスの腕の中は安心できる。
ぎゅっと彼の服を握り締めると、旋毛に口付けを落とされた。
「今夜は一緒に眠ろうか」
「…うん、」
ヴィンスの甘やかなお誘いに、自然と頷いていた。
抱擁を解かれた後、もぞもぞとベッドの中へと潜り込む。俺の体勢が落ち着いた後、再びヴィンスの腕の中へと招かれた。
素直に腕の中へと収まり、胸元に顔を埋める。髪を梳くように撫でる掌の心地よさに、直ぐに眠気が訪れた。
何かヴィンスと喋っていたけど、眠気で言葉になっていない気がする。
「おやすみ、シル」
彼の愛おしい声が聞こえたのを最後に、俺は再び眠りの世界へ落ちていった。
きらきらと輝く誰かが、俺の身体を優しく抱き上げた。
そのまま逞しく優しい腕に抱かれ、眠るのを促すようにゆったりと揺さぶられる。その揺れが心地よくて頼もしくて、俺は直ぐにうとうとと船を漕ぎ始めた。
そんな俺を一組の男女が愛おしそうに見つめている。一人は俺の本当のお母様、もう一人は…。
『愛しているよ、シルティア。お主が無事に生きてくれるなら、我は何としてでも守り抜いてやる…この世のあらゆるもの全てから、たった一人シルティアを守るよ』
宝石のように輝くアメジストの双眸が、嬉しそうに眇められた。
「…なんだ、今の」
真夜中、ふと目が覚める。お母様ともう一人、見知らぬ男性が居た気がする。
誰だろう、あの人は。はっきりと顔を見たはずなのに、目が覚めた今靄がかかったようにぼんやりとしている。
お母様の顔は思い出せるのに。彼の顔が思い出せなくて、少しだけ悲しい。
何でこんなにも気になるのだろうか。ただの夢だ、そう思えている筈なのに。
「ヴィンス、」
愛しい彼の名前を呼ぶ。勿論この部屋には居ないから、返事なんて返ってこない。
そっとベッドから降り、部屋の奥の扉に手をかける。ヴィンスとの婚約が決まった後、彼の部屋と繋がっている部屋へ居を移した。
一緒に寝ている訳じゃない。だけど直ぐ近くに居たいと、彼が望んでくれたから部屋を移動した。俺も、少しでもヴィンスの近くに居たかったから。
まだこの扉から、ヴィンスの部屋へ行った事はない。だけど無性に、ヴィンスに会いたかった。今すぐ、彼の顔を見たくなった。
かちゃり、なるべく音を立てないように扉を開ける。天蓋付きのベッドに近寄れば、すやすやと眠る彼の姿。
「…ヴィンス、おれ」
何かを言いかけて、口を噤む。俺は今、何て言おうとした?
彼に触れようと伸ばしていた手を、そっと掴まれる。驚いてヴィンスの顔を見やれば、満月の双眸とかち合った。
どうやら起こしてしまったらしい。申し訳なくて謝ると、気にするなと言ってヴィンスは笑った。
身体を起こした彼は、ベッドに座るよう俺を促す。素直に従い、柔らかな布団の上へ腰掛けた。
「眠れないのか?それとも、怖い夢でも見たのか?」
俺の背を優しく撫でる掌に、自然と脱力していた。どうやら無意識に力んでいたらしい。
ヴィンスの肩に額を乗せる。俺の背を撫でていた手は、そっと俺の事を抱き上げていた。そのままヴィンスの腕の中へ移され、抱き締められる。
そっと胸元へ顔を寄せ、彼の心音に耳を澄ませる。とくとくと一定のリズムで動く音に、酷く心が穏やかになる。いつだって、ヴィンスの腕の中は安心できる。
ぎゅっと彼の服を握り締めると、旋毛に口付けを落とされた。
「今夜は一緒に眠ろうか」
「…うん、」
ヴィンスの甘やかなお誘いに、自然と頷いていた。
抱擁を解かれた後、もぞもぞとベッドの中へと潜り込む。俺の体勢が落ち着いた後、再びヴィンスの腕の中へと招かれた。
素直に腕の中へと収まり、胸元に顔を埋める。髪を梳くように撫でる掌の心地よさに、直ぐに眠気が訪れた。
何かヴィンスと喋っていたけど、眠気で言葉になっていない気がする。
「おやすみ、シル」
彼の愛おしい声が聞こえたのを最後に、俺は再び眠りの世界へ落ちていった。
44
あなたにおすすめの小説
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
大嫌いなこの世界で
十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。
豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。
昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、
母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。
そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる