満月に囚われる。

柴傘

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45:アルバム

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『ご覧、シルティア。お主が産まれたばかりの頃の写真だ』

ある日の昼下がり、お茶をしながらアルバムを開いているお父様が嬉しそうに話し出す。

どうやら俺は、この家で生まれた後二年ほど暮らしていたらしい。
流石に幼すぎて当時の事は覚えていないが、写真の中の赤子は確かに自身だと認識できるほど似ていた。

何より一緒に映っているお母様が本物だ。本当に俺は、この家で暮らしてたんだなぁ。

『初めて赤子という存在を見た時、衝撃を受けた。こんなにもか弱く愛おしい存在が居ていいのかと、一生守って愛してやらねばと』
「お父様、それは言い過ぎでは…」
『言い過ぎなどではないよ。それ程、シルティアが産まれてきてくれたのが嬉しかった…愛してるよ、シルティア』

真っ直ぐに俺を見つめ、愛情がたっぷりと含まれた声で告げられる。

優しく抱き締められると抵抗なんて出来なくて、これからずっとこの愛情に溺れていたくなる。
ふわふわと柔らかくて、はちみつのように甘ったるい愛情に。俺が憧れていた、父という存在に。

優しく頭を撫でてくれる掌の心地よさに、うとうとと眠気が襲ってくる。まだ寝たくなくて、ぐずるように呻いた。

『眠いならおやすみ、愛しい子。父はずっと側に居よう』

頭の中にまで響くような優しい声に、俺はゆっくりと意識を手放した。



忙しなく、色々な人が動いている。あちこちでメイドが走り回り、騎士は皆ピリピリとした空気を纏っていた。

その中で一際目立つ白銀に、酷く見覚えがある。
満月のように輝く金色の双眸から目が離せない。彼は酷く怖い顔で、苛立ちを一切隠していなかった。

「全く足取りが掴めないとはどういう事だ」

バンッと勢いよく机を叩く彼は、低く唸る様に騎士を睨み付けた。

睨まれた騎士は顔色ひとつ変えず、淡々と報告を続ける。恐らく団長クラスの熟練者なのだろう。
手に持った書類に再び目を落とし、彼に同じ説明を繰り返した。その後じっと彼を見つめ、諌めるような言葉を紡ぐ。

己が苛立ちで当たっているのは自覚していたのか、彼はくしゃりと顔を歪めてしまう。

「分かっている、分かっているんだ!相手が余りにも悪すぎる…種族としての情報が殆ど無い上に、魔術を苦手とする我々にとって相性が最悪だ…だが、私は」
「殿下のお気持ちは分かっておりますし、我々近衛騎士団としても見過ごせない状況です。それに、あの方が殿下にとってどれほど大切なのかも理解しております…必ず、救い出しましょう」

騎士の言葉に、白銀の彼は力強く頷く。

その姿が勇ましくて、愛おしくて。胸がぎゅっと締め付けられるように痛んだ。
彼は誰かを救い出そうとしている。無謀だと分かっていても、それでも尚助けたいと。

そこまでその人物を、愛しているのだと。

羨ましい、彼に愛されている誰かが。俺も、彼の側に在りたいと思ってしまったから。
あの白銀の横で、満月の双眸に見つめられて…お互い笑い合って、幸せに暮らしたいと。

徐に伸ばした指先は、彼に触れる事なくすり抜けていった。
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