47 / 48
46:満月に焦がれて
しおりを挟む
ふと目を開くと、俺は何処か見覚えのある城の中に佇んでいた。
周囲には誰も居なくて、冷たい石の床が壁に掛かっている仄かな光を反射している。
こんなお城に来た事なんてないはずだ、母国の王城の造りとも違う。だけど俺はその王城内の床を慣れた足取りで歩いていた。
ぺたぺた、歩く度静かな廊下に足音が響く。暫く歩いている内に、とある扉の前に辿りついた。
「…知らない、はずなのに」
知ってる。俺は、この先の部屋の内装を。
ふかふかと柔らかいカーペットに、大きなベッド。品の良い細工で彩られた衣装棚。
そして、一番奥には扉がもう一つ。隣の部屋へと続いている、大事な大事な扉だ。入った事なんてないのに、酷く懐かしい。
カチャリ、扉を開けると誰かが居た。
「ッ誰だ、この部屋には誰も入れるなと……は、」
何処か苛立ったように振り返った彼は、俺を視界に入れると驚きから目を見開いている。
その金色の双眸に、愛しさが溢れて堪らない。あぁそうか、俺は彼に会いたくてこの部屋にやってきたのか。
一目でもいいから、会いたくて。あの日夢の中で触れられなかった彼に少しでも触れたくて、それで。
原理なんて分からない。きっと、無意識に転移魔術を使ってしまったんだろう。
「…シ、ル…?」
どくり、心臓が大きく跳ねた。何故彼は俺の愛称を知っているのだろうか。
俺は彼の名前すら知らないのに。いや、違う。知ってる筈なんだ。忘れるわけがない。
彼が大好きで大好きで堪らなくて、将来ずっと一緒にいようって誓い合ったのに。
何で俺は、こんな大事なことを。
「…ヴィンス、ごめん。ごめんな。おれ、もう…」
手が震え始める。駄目だ、これは思い出しちゃいけない。
早く彼の事を忘れないと。そして早く、お父様の下へ帰らなければ。
だって、そうしないと駄目なんだ。俺一人がお父様の傍に居るなら、全てが解決するのだから。
だから俺は、もう。
「俺のことはもう、探さないでくれ。お願いだ、ヴィンス…俺はヴィンスが、一番大事だから」
「私だってそうだ、シルが傍に居てくれるのなら何も要らない!城での暮らしも、地位も、財産も…シル、頼むから私の元へ帰ってきてくれ」
懇願するようなヴィンスの言葉に、ぐらりと心が揺れ動く。
今すぐ傍に駆け寄って、ヴィンスを目一杯抱き締めたい。抱き締めて頬ずりして口付けて、二人だけの時間を過ごしたい。
でも駄目だ、駄目なんだ…ヴィンスや俺じゃ、お父様の力には敵わない。今のあの人は、きっと平気でヴィンスを殺す。
それ程俺を大事にしてくれている。もう二度と、家族を失いたくないと思っている。
「ごめん、ヴィンス…俺、まだあの人と居てあげなくちゃ」
お父様は、俺と同じだから。本当の家族の愛に飢えて、周りが見えなくなっている。
だから俺が正さないと。俺は此処にいるよ、貴方を置いてなんか行かないよって…大丈夫、ずっと一緒だからって。
…誰も、傷付けちゃいけないんだよって。お父様は、誰かを傷付ける必要なんかないんだからって。
だからごめん、ヴィンス。俺はまだ…。
「もう少しだけ、時間が欲しい。あと3日…いや、2日。2日経っても俺が戻ってこなかったら、迎えに来て」
「……分かった。2日だけだ、それ以上は譲歩できない」
「ありがとう、ヴィンス」
俺はヴィンスにそっと近寄り、正面から抱き締めた。
鼻腔を満たすヴィンスの匂いに、凄く心が安らいでいく。2日で、全部を終わらせなきゃ。
そっと背伸びをして、ヴィンスの頬へ口付けた。それと同時に、ヴィンスの身体に少しだけ俺の魔力を流しておく。
こうしておけばきっと、ヴィンスなら俺の居場所が分かるから。
「…愛してる、私のシルティア」
「俺も。愛しててるよ、ヴィンセント」
互いの唇を重ねた後、俺は転移魔術を使い箱庭へと戻った。
周囲には誰も居なくて、冷たい石の床が壁に掛かっている仄かな光を反射している。
こんなお城に来た事なんてないはずだ、母国の王城の造りとも違う。だけど俺はその王城内の床を慣れた足取りで歩いていた。
ぺたぺた、歩く度静かな廊下に足音が響く。暫く歩いている内に、とある扉の前に辿りついた。
「…知らない、はずなのに」
知ってる。俺は、この先の部屋の内装を。
ふかふかと柔らかいカーペットに、大きなベッド。品の良い細工で彩られた衣装棚。
そして、一番奥には扉がもう一つ。隣の部屋へと続いている、大事な大事な扉だ。入った事なんてないのに、酷く懐かしい。
カチャリ、扉を開けると誰かが居た。
「ッ誰だ、この部屋には誰も入れるなと……は、」
何処か苛立ったように振り返った彼は、俺を視界に入れると驚きから目を見開いている。
その金色の双眸に、愛しさが溢れて堪らない。あぁそうか、俺は彼に会いたくてこの部屋にやってきたのか。
一目でもいいから、会いたくて。あの日夢の中で触れられなかった彼に少しでも触れたくて、それで。
原理なんて分からない。きっと、無意識に転移魔術を使ってしまったんだろう。
「…シ、ル…?」
どくり、心臓が大きく跳ねた。何故彼は俺の愛称を知っているのだろうか。
俺は彼の名前すら知らないのに。いや、違う。知ってる筈なんだ。忘れるわけがない。
彼が大好きで大好きで堪らなくて、将来ずっと一緒にいようって誓い合ったのに。
何で俺は、こんな大事なことを。
「…ヴィンス、ごめん。ごめんな。おれ、もう…」
手が震え始める。駄目だ、これは思い出しちゃいけない。
早く彼の事を忘れないと。そして早く、お父様の下へ帰らなければ。
だって、そうしないと駄目なんだ。俺一人がお父様の傍に居るなら、全てが解決するのだから。
だから俺は、もう。
「俺のことはもう、探さないでくれ。お願いだ、ヴィンス…俺はヴィンスが、一番大事だから」
「私だってそうだ、シルが傍に居てくれるのなら何も要らない!城での暮らしも、地位も、財産も…シル、頼むから私の元へ帰ってきてくれ」
懇願するようなヴィンスの言葉に、ぐらりと心が揺れ動く。
今すぐ傍に駆け寄って、ヴィンスを目一杯抱き締めたい。抱き締めて頬ずりして口付けて、二人だけの時間を過ごしたい。
でも駄目だ、駄目なんだ…ヴィンスや俺じゃ、お父様の力には敵わない。今のあの人は、きっと平気でヴィンスを殺す。
それ程俺を大事にしてくれている。もう二度と、家族を失いたくないと思っている。
「ごめん、ヴィンス…俺、まだあの人と居てあげなくちゃ」
お父様は、俺と同じだから。本当の家族の愛に飢えて、周りが見えなくなっている。
だから俺が正さないと。俺は此処にいるよ、貴方を置いてなんか行かないよって…大丈夫、ずっと一緒だからって。
…誰も、傷付けちゃいけないんだよって。お父様は、誰かを傷付ける必要なんかないんだからって。
だからごめん、ヴィンス。俺はまだ…。
「もう少しだけ、時間が欲しい。あと3日…いや、2日。2日経っても俺が戻ってこなかったら、迎えに来て」
「……分かった。2日だけだ、それ以上は譲歩できない」
「ありがとう、ヴィンス」
俺はヴィンスにそっと近寄り、正面から抱き締めた。
鼻腔を満たすヴィンスの匂いに、凄く心が安らいでいく。2日で、全部を終わらせなきゃ。
そっと背伸びをして、ヴィンスの頬へ口付けた。それと同時に、ヴィンスの身体に少しだけ俺の魔力を流しておく。
こうしておけばきっと、ヴィンスなら俺の居場所が分かるから。
「…愛してる、私のシルティア」
「俺も。愛しててるよ、ヴィンセント」
互いの唇を重ねた後、俺は転移魔術を使い箱庭へと戻った。
43
あなたにおすすめの小説
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
大嫌いなこの世界で
十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。
豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。
昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、
母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。
そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる