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それから
47:執行日
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謁見の間とは正反対の、黒く重厚な雰囲気の部屋。
俺は今、シャスイン侯爵の処刑に立ち会っている。
部屋の雰囲気には少し不釣り合いな、豪奢な椅子。
その椅子に腰掛ける陛下は、とても鋭いオーラを放っている気がする。
空気がピリピリと、肌に刺さるような。
そんな感じさえする空気は、重く苦しい…息が詰まりそうだ。
陛下の隣に立つクロ様、その横に用意された椅子に座る俺。
真向かいには、両腕の後ろで拘束されながら跪くシャスイン侯爵。
以前社交会で見かけた時とは大分変わった姿…痩けた頬に、虚ろな双眸。
然し、俺を視界に入れた途端ギラリとその両目が光る。
憎々しげに、俺を見る侯爵。
彼にあったのはこれで2度…いや、3度目だろうか?
あまり会話もしなかったし、話しても友好的だったように思える。
俺の何が、そんなに憎いのか。
キッと睨み返すと、彼は一瞬驚いたように目を見開き、笑った。
これから死ぬ人間とは思えない程、明朗快活に。
「っふ、本当に面白いな…お前は、自分1人では何も出来ないほど弱いのに!いつまでもそこの王子様に守ってもらうんだなぁ!」
突然大声を上げるシャスイン侯爵。
俺を守るように前に出るクロ様の腕を、そっと引く。
騎士に押さえつけられても尚、俺に罵声を浴びせ続ける彼をじっと見つめ返した。
静かに、真っ直ぐと。
きっとこの人は、俺が動揺したり怒ったりするのを見たいんだろう。
俺の何がそんなに憎々しいのか、一切わからないけど。
とにかく俺は、彼に嫌われている。
「…なんだ、その目は。もっと怒れ、感情を露わにしろ!醜い本性を大好きな王子様に見てもらえよ…なぁ!?」
心を動かさず、ただじっと彼を見つめ返す。
騎士達によってとうとう猿轡をされてしまった彼は、悔しそうに顔を歪める。
彼の娘や愛しているリリアンヌ妃を害したのが気に食わないんだろうか。
でもどれも不可抗力で、俺は被害者側だった。
「…これより、被告人の処刑を行う。ノーマン、前へ」
名前を呼ばれゆっくりと前に出てくる処刑人。
真っ黒な装束に身を包み、口元まで布で覆っている…静かな双眸しか、見えない。
ノーマンがゆっくり近づいても尚、シャスイン侯爵は俺を睨み付けていた。
そんな姿に、何故かふつふつと怒りが込み上げてくる。
これは何だ?本当に、俺の感情だろうか。
どこか違うようで、違わないような…。
銀色に輝く剣が振り上げられる。
俺は、首が飛ぶ直前の彼から目が離せなかった。
スパン!小気味良く何かが切れる音と同時に飛び散る紅。
シャスイン侯爵の首無しの遺体がドサリと床に落ちる。
じわじわ広がる、赤、紅、赫。
いやだ、死にたくない…俺は2度と、理不尽に殺されたくなんて。
やめて、助けて。
「…レオ、大丈夫。私はここにいる」
突然視界が遮られ、温かな存在に包み込まれる。
安心するクロ様の匂い…思いっきり深呼吸すれば、上の方から小さな笑い声が聞こえた。
そっと見上げると、心配そうなクロ様の顔。
すごい、あっという間に気分が落ち着いてしまった。
ちらりとクロ様の背後を覗けば、既に遺体は片付けられている…ノーマンと呼ばれた彼だけが、跪き祈っていた。
俺もそっと瞼を閉じ、黙祷を捧げる。
そんな俺の姿に気づき、クロ様も同じように黙祷を捧げていた。
…天国で、安らかに眠れますように。
そっと心の中で呟いて、俺達は処刑部屋から出た。
俺たちの後ろ姿を、ノーマンだけが見送っていた。
俺は今、シャスイン侯爵の処刑に立ち会っている。
部屋の雰囲気には少し不釣り合いな、豪奢な椅子。
その椅子に腰掛ける陛下は、とても鋭いオーラを放っている気がする。
空気がピリピリと、肌に刺さるような。
そんな感じさえする空気は、重く苦しい…息が詰まりそうだ。
陛下の隣に立つクロ様、その横に用意された椅子に座る俺。
真向かいには、両腕の後ろで拘束されながら跪くシャスイン侯爵。
以前社交会で見かけた時とは大分変わった姿…痩けた頬に、虚ろな双眸。
然し、俺を視界に入れた途端ギラリとその両目が光る。
憎々しげに、俺を見る侯爵。
彼にあったのはこれで2度…いや、3度目だろうか?
あまり会話もしなかったし、話しても友好的だったように思える。
俺の何が、そんなに憎いのか。
キッと睨み返すと、彼は一瞬驚いたように目を見開き、笑った。
これから死ぬ人間とは思えない程、明朗快活に。
「っふ、本当に面白いな…お前は、自分1人では何も出来ないほど弱いのに!いつまでもそこの王子様に守ってもらうんだなぁ!」
突然大声を上げるシャスイン侯爵。
俺を守るように前に出るクロ様の腕を、そっと引く。
騎士に押さえつけられても尚、俺に罵声を浴びせ続ける彼をじっと見つめ返した。
静かに、真っ直ぐと。
きっとこの人は、俺が動揺したり怒ったりするのを見たいんだろう。
俺の何がそんなに憎々しいのか、一切わからないけど。
とにかく俺は、彼に嫌われている。
「…なんだ、その目は。もっと怒れ、感情を露わにしろ!醜い本性を大好きな王子様に見てもらえよ…なぁ!?」
心を動かさず、ただじっと彼を見つめ返す。
騎士達によってとうとう猿轡をされてしまった彼は、悔しそうに顔を歪める。
彼の娘や愛しているリリアンヌ妃を害したのが気に食わないんだろうか。
でもどれも不可抗力で、俺は被害者側だった。
「…これより、被告人の処刑を行う。ノーマン、前へ」
名前を呼ばれゆっくりと前に出てくる処刑人。
真っ黒な装束に身を包み、口元まで布で覆っている…静かな双眸しか、見えない。
ノーマンがゆっくり近づいても尚、シャスイン侯爵は俺を睨み付けていた。
そんな姿に、何故かふつふつと怒りが込み上げてくる。
これは何だ?本当に、俺の感情だろうか。
どこか違うようで、違わないような…。
銀色に輝く剣が振り上げられる。
俺は、首が飛ぶ直前の彼から目が離せなかった。
スパン!小気味良く何かが切れる音と同時に飛び散る紅。
シャスイン侯爵の首無しの遺体がドサリと床に落ちる。
じわじわ広がる、赤、紅、赫。
いやだ、死にたくない…俺は2度と、理不尽に殺されたくなんて。
やめて、助けて。
「…レオ、大丈夫。私はここにいる」
突然視界が遮られ、温かな存在に包み込まれる。
安心するクロ様の匂い…思いっきり深呼吸すれば、上の方から小さな笑い声が聞こえた。
そっと見上げると、心配そうなクロ様の顔。
すごい、あっという間に気分が落ち着いてしまった。
ちらりとクロ様の背後を覗けば、既に遺体は片付けられている…ノーマンと呼ばれた彼だけが、跪き祈っていた。
俺もそっと瞼を閉じ、黙祷を捧げる。
そんな俺の姿に気づき、クロ様も同じように黙祷を捧げていた。
…天国で、安らかに眠れますように。
そっと心の中で呟いて、俺達は処刑部屋から出た。
俺たちの後ろ姿を、ノーマンだけが見送っていた。
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