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お兄さま襲来
4:人をだめにするお兄さま
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「おはようミーシャ、今日も世界一かわいいね」
蕩けるようなほほえみをぼくに向けるリディ兄さまこそ、世界一すばらしいとぼくは思う。けれどお兄さまは、ぼくだけが世界一だと頑として譲らなかった。
どうやら随分好かれているみたいだ。この調子でいい子である事をつづけていれば、小説のようになぞの死を遂げることはないかもしれない。
「はいミーシャ、あーん」
「…リディ兄さま、はずかしいです」
「照れてるミーシャも可愛いね」
ぼくの口元へ近づけられているフォークには、ひとくちサイズにされたフルーツタルトが乗せられていた。遠まわしにひとりで食べられると抗議をするけれど、リディ兄さまに華麗にかわされる。
あきらめて口を開けると、待ってましたと言わんばかりに口の中にタルトが入ってきた。フルーツがみずみずしくて、カスタードクリームも濃厚だ。タルト生地はサクサクしてて、バターの香りがすごくいい。やっぱりわが家のシェフたちは超一流!
紅茶をのんで、タルトを食べて…かるくおなかが満たされる頃になってからふと気付く。やばい、全部お兄さまにあーんされている。ぼくが駄目になりそうだ!
「リディ兄さま、ぼく、ひとりでお茶くらいできます!」
「それくらい分かってるよ、ミーシャはもう4歳だものね。でも、俺がミーシャを甘やかしたいんだ…だめかな?」
「う、ぐう」
お兄さまの超絶うるうるおめめでのお伺いに、思わず二つ返事をしそうになる。だめだ、このおねだりを許しちゃぜったいにだめ!でも、でも…!
うんうん唸りながら悩んでいるぼく。たすけを求めるようにシルベスターに視線をむけるけど、にっこりと微笑まれてしまった。あれは、たすけてくれないやつだ!うらぎりもの!
「ミーシャ、お願い。今まで一人で頑張ってたすごーく偉いミーシャを、めいっぱい甘やかしたいんだ」
「う、でも、こんなにされたら…ぼく、だめになっちゃう」
「ふふ、大丈夫。駄目になっちゃったら、兄さまが今まで以上にお世話してあげるから」
何か不穏な事を言われたような気がするけど、正直兄さまの顔がよすぎて全然話をきいていなかった。うう、顔がよすぎる。キラキラしててまぶしい。
散々なやみになやみ抜いたあと、ついに圧に屈してしまった。だって仕方ないじゃないか、ことわろうとすると捨てられた犬みたいにかなしそうな顔をするんだもの!
ぼくへの好意をかくさずにぶつけてくれる兄さまを、だれが突っぱねられようか。少なくとも、ぼくはむりだ。
不服の意をかくさず兄さまの胸元へおでこをぐりぐりと押し付けると、兄さまはくすぐったいよとたのしそうに笑った。その笑顔にほだされてしまって、ぼくはやっぱりだめだめだなぁと思う。
小説ではきっと、ぼくは兄さまを心の底からきらっていて、色んないじめをおこなっていたんだろう。そう思うと、今の兄さまのえがおはとても尊いものなのだろうなと思う。ずっとずっと、笑っていてほしい。
「リディ兄さま」
「ん?どうしたの、ミーシャ」
兄さまが不思議そうな顔でぼくをみる。いまのぼくは、一体どんな顔をしているんだろう…きっと、なさけない顔をしているに違いない。
そんなぼくの心情をしってかしらずか、兄さまはぎゅうっと優しくだきしめてくれた。そのうでがとってもあったかくて、安心する。そういえば、兄さま以外でぼくを抱き締めてくれるのはシルベスターだけだったなぁ。
古い記憶をほりおこしても、おとうさまに抱き締められたきおくはない。おとうさまはきっと、ぼくのことをそんなに好きじゃないと思う。けど、たった一人のむすこだからそれなりの暮らしをさせてくれてるんだろう。
そうおもうと、少しだけかなしい。あいしてほしいとは思っていないけれど、それと気にかけてほしくないのとはまたべつの感情だから。
「…兄さまは、ぼくのこと好き?」
「当たり前だろう?大好きだよ、世界で一番ね」
「ぼくも、お兄さまがいちばんです」
そういってぎゅっと抱きつくと、兄さまはぼくの頭を優しくなでる。そして少しこまったように笑うと、当主様は?と問い掛けてきた。
もちろん、おとうさまも好きだ。大好きだ。けれどおとうさまは、ぼくのことをきらっているだろう。だって、ぼくはおとうさまの大事なひとを…。
「おとうさまも、すき。だけど、おとうさまはぼくのこと嫌いだから」
「そんなことないよ、当主様もミーシャのことが…」
「きらいです、ぜったい。だって、ぼくがおかあさまを殺したから」
「…え?」
兄さまの驚いたような声にはっとする。しまった、こんな事いうつもりじゃなかったのに。咄嗟にからだを離して兄さまのひざのうえから飛び降りると、振り返らずに走った。
反応をみたくなかった。きらわれたらっておもうと、苦しくてたまらなかった。ぼくにとって兄さまは、家族としての愛情をおしえてくれた初めての人だから。そんな兄さまに、軽蔑されたくなかった。
ぼくのバカ。なんであのことを言ってしまったんだ!やり直したい、今すぐに。そんな事はできないとわかっているけれど。
「捕まえた!ミーシャ、お願いだから逃げないで」
だから、想像してなかったんだ。兄さまが、ぼくを追いかけてくるなんて。
蕩けるようなほほえみをぼくに向けるリディ兄さまこそ、世界一すばらしいとぼくは思う。けれどお兄さまは、ぼくだけが世界一だと頑として譲らなかった。
どうやら随分好かれているみたいだ。この調子でいい子である事をつづけていれば、小説のようになぞの死を遂げることはないかもしれない。
「はいミーシャ、あーん」
「…リディ兄さま、はずかしいです」
「照れてるミーシャも可愛いね」
ぼくの口元へ近づけられているフォークには、ひとくちサイズにされたフルーツタルトが乗せられていた。遠まわしにひとりで食べられると抗議をするけれど、リディ兄さまに華麗にかわされる。
あきらめて口を開けると、待ってましたと言わんばかりに口の中にタルトが入ってきた。フルーツがみずみずしくて、カスタードクリームも濃厚だ。タルト生地はサクサクしてて、バターの香りがすごくいい。やっぱりわが家のシェフたちは超一流!
紅茶をのんで、タルトを食べて…かるくおなかが満たされる頃になってからふと気付く。やばい、全部お兄さまにあーんされている。ぼくが駄目になりそうだ!
「リディ兄さま、ぼく、ひとりでお茶くらいできます!」
「それくらい分かってるよ、ミーシャはもう4歳だものね。でも、俺がミーシャを甘やかしたいんだ…だめかな?」
「う、ぐう」
お兄さまの超絶うるうるおめめでのお伺いに、思わず二つ返事をしそうになる。だめだ、このおねだりを許しちゃぜったいにだめ!でも、でも…!
うんうん唸りながら悩んでいるぼく。たすけを求めるようにシルベスターに視線をむけるけど、にっこりと微笑まれてしまった。あれは、たすけてくれないやつだ!うらぎりもの!
「ミーシャ、お願い。今まで一人で頑張ってたすごーく偉いミーシャを、めいっぱい甘やかしたいんだ」
「う、でも、こんなにされたら…ぼく、だめになっちゃう」
「ふふ、大丈夫。駄目になっちゃったら、兄さまが今まで以上にお世話してあげるから」
何か不穏な事を言われたような気がするけど、正直兄さまの顔がよすぎて全然話をきいていなかった。うう、顔がよすぎる。キラキラしててまぶしい。
散々なやみになやみ抜いたあと、ついに圧に屈してしまった。だって仕方ないじゃないか、ことわろうとすると捨てられた犬みたいにかなしそうな顔をするんだもの!
ぼくへの好意をかくさずにぶつけてくれる兄さまを、だれが突っぱねられようか。少なくとも、ぼくはむりだ。
不服の意をかくさず兄さまの胸元へおでこをぐりぐりと押し付けると、兄さまはくすぐったいよとたのしそうに笑った。その笑顔にほだされてしまって、ぼくはやっぱりだめだめだなぁと思う。
小説ではきっと、ぼくは兄さまを心の底からきらっていて、色んないじめをおこなっていたんだろう。そう思うと、今の兄さまのえがおはとても尊いものなのだろうなと思う。ずっとずっと、笑っていてほしい。
「リディ兄さま」
「ん?どうしたの、ミーシャ」
兄さまが不思議そうな顔でぼくをみる。いまのぼくは、一体どんな顔をしているんだろう…きっと、なさけない顔をしているに違いない。
そんなぼくの心情をしってかしらずか、兄さまはぎゅうっと優しくだきしめてくれた。そのうでがとってもあったかくて、安心する。そういえば、兄さま以外でぼくを抱き締めてくれるのはシルベスターだけだったなぁ。
古い記憶をほりおこしても、おとうさまに抱き締められたきおくはない。おとうさまはきっと、ぼくのことをそんなに好きじゃないと思う。けど、たった一人のむすこだからそれなりの暮らしをさせてくれてるんだろう。
そうおもうと、少しだけかなしい。あいしてほしいとは思っていないけれど、それと気にかけてほしくないのとはまたべつの感情だから。
「…兄さまは、ぼくのこと好き?」
「当たり前だろう?大好きだよ、世界で一番ね」
「ぼくも、お兄さまがいちばんです」
そういってぎゅっと抱きつくと、兄さまはぼくの頭を優しくなでる。そして少しこまったように笑うと、当主様は?と問い掛けてきた。
もちろん、おとうさまも好きだ。大好きだ。けれどおとうさまは、ぼくのことをきらっているだろう。だって、ぼくはおとうさまの大事なひとを…。
「おとうさまも、すき。だけど、おとうさまはぼくのこと嫌いだから」
「そんなことないよ、当主様もミーシャのことが…」
「きらいです、ぜったい。だって、ぼくがおかあさまを殺したから」
「…え?」
兄さまの驚いたような声にはっとする。しまった、こんな事いうつもりじゃなかったのに。咄嗟にからだを離して兄さまのひざのうえから飛び降りると、振り返らずに走った。
反応をみたくなかった。きらわれたらっておもうと、苦しくてたまらなかった。ぼくにとって兄さまは、家族としての愛情をおしえてくれた初めての人だから。そんな兄さまに、軽蔑されたくなかった。
ぼくのバカ。なんであのことを言ってしまったんだ!やり直したい、今すぐに。そんな事はできないとわかっているけれど。
「捕まえた!ミーシャ、お願いだから逃げないで」
だから、想像してなかったんだ。兄さまが、ぼくを追いかけてくるなんて。
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