謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘

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お兄さま襲来

5:おかあさまをころしたぼく

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「な、なんで」

 リディ兄さまに後ろから抱き上げられ、ぷらぷらと両足がゆれる。まさか追いかけてくるとはおもっていなかった。
 そのまますっぽりと身体を包み込まれるように抱き締められて、兄さまの胸元に耳がくっついた。とくとくと聞こえる心臓の音に、なぜだか涙がでそうになる。

「ミーシャ、ごめん。実は俺、亡くなった奥様の事知ってるんだ」
「え、うそ。やだ、兄さまきらいにならないで」

 兄さまの口からでた衝撃的なじじつに、一瞬であたまのなかが真っ白になる。すがりつくように兄さまの服を握り締めて、必死になってこんがんした。ぼくをきらわないでと。
 なんて傲慢なんだろう、ぼくの心のおくの冷静な部分がそうののしってくる。みっともなくて情けなくても、あたたかな兄さまの愛情をうしないたくなかった。たった数週間で、ぼくのなかで兄さまの存在がとんでもなく大きくなってしまっている。
 兄さまはぼくの背中を優しくなでると、額にキスをしてくれた。ぼくを安心させるように。

「嫌いになんかならない、約束する。それにね、ミーシャは奥様を殺してなんかいないんだよ。あれは、不幸な事故だったんだ」
「…ちがう、ぼくが、ぼくがおかあさまを殺した。だって、」
「誰かに、そう言われたんだね」

 確信めいた兄さまの声に、ぐっと唇を噛んでだまりこむ。その通り、ぼくはかつてこの邸に居たメイドに罵詈雑言を浴びせられた。
 おかあさまが死んだのはぼくのせいだ、ぼくを産んだからしんだのだ、お前なんてうまれなければよかったのにと。
 頭ではわかっている。おかあさまが亡くなったのは、産後のひだちがわるかったから。生まれたてのぼくがどうこうできる問題じゃない。出産は、どう足掻いても命がけになってしまうのだ。
 それでも、おかあさまを失って悲しむひとはいっぱいいた。おとうさまや例のメイド、おかあさまの実家のひとたち。ぼくは、その人たちにかおむけが出来ない。
 メイドの一方的なうらみだということもわかっているけれど、あの時の言葉が脳裏にこびりついてはなれない。呪いのように、ぼくのこころを蝕みつづける。

「今の俺がどれだけ言っても、きっとミーシャの心は救えないね。でもね、覚えていて欲しいんだ。俺は、ミーシャが生まれてきてくれて嬉しいって思ってるよ」
「…ん」

 とんとんとやさしく背中を叩きながら、言い聞かせるようにお兄さまがそう告げる。まだ救えないと言っているけれど、お兄さまの言葉でだいぶ心がかるくなっているような気がした。
 すくなくとも、生きていたいと思うようになった。ぼくの事を、好いてくれる人がいるってちゃんと思えた。信じることができるような気がした。

「ミーシャはとっても頑張りやさんで、賢くて、世界一可愛いんだ。そんな子が愛されない世界なんて、お兄さまがぜーんぶ壊してあげるからね」
「お兄さま、それはちょっとこわいです」
「ふふ、例えばの話だよ。それくらい、俺はミーシャが大好きってこと」

 あまりにも極端な言葉に、おもったままを口にすると冗談だと言われた。けど、ぼくは冗談にきこえなかった。
 お兄さまならやりそう…と思ってしまったのはひみつだ。でも、仮にも主人公だからそれくらいやり遂げてしまう気がする。
 でも、その言葉がうれしかった。兄さまの首元にぎゅっと抱きついて、すりすりと頬同士をこすりあわせる。くすぐったそうに兄さまが笑うけど、ぼくはずっとやめずにすりすりし続けた。
 だいすき、だいすきと繰り返し伝えるように。言葉にするのは、まだちょっぴり恥ずかしいから。この人が少しでも笑ってくれると、ぼくもしあわせな気持ちになるから。

「ミーシャのほっぺはふにふにで気持ちいいね」
「リディ兄さまのほっぺたはすべすべです!」
「肌の手入れもっと頑張らなきゃな」

 そう朗らかに笑う兄さまの姿をみると、さっきまで抱えていた鬱々とした気持ちはきれいさっぱりなくなっていた。
 やっぱりぼくの中で兄さまの存在がとっても大きくなっているみたいだ。そう考えると同時に、すこしだけ不安に思うこともある。
 兄さまはいずれ、運命のであいを果たすことになる。この世界をえがいた小説は、元々BL小説だったから。すなわち、相手役がいるのである。
 正直兄さまをとられたくない。けれど、そこで邪魔をしたら相手役にうらまれて何らかの理由で小説とおなじ未来をたどるかも…そう考えて、思わずぶるりとふるえた。

「大丈夫?身体冷えちゃったかな、もう屋敷の中に戻ろうね」

 ぼくのふるえを都合よく解釈してくれた兄さまに頷くと、だっこされたまま歩きだした。歩けるとうったえても、おろしてくれそうにはない。
 素直にあきらめて兄さまに身をゆだねる。あとどれくらいの間、こうして甘えることができるだろうか?ねがわくば、半永久的につづけばいいと思っている。これは、ぼくのわがままに過ぎないのだけれど。

「…兄さま、だいすきです」
「俺もミーシャが大好きだよ、愛してる」

 そう言ってぼくの額にちゅーをしてくれる。それがうれしくてくすぐったくて、くすくすと笑い声をこぼした。
 お返しに兄さまのほっぺたにちゅーをかえす。すると兄さまからもほっぺたにちゅーしてくれて、しばらくの間お互いにちゅーをしあっていた。
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