謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘

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ヒーローが、来た

6:リディ兄さまとおでかけ

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「お茶かい、ですか」
「うん。俺としてはミーシャを連れて行きたくないんだけど、当主様からの命令なんだ」

 心底嫌そうに顔をしかめるリディ兄さま。お茶かい、お茶かいかぁ…なにかを忘れてるようなきがするんだけど、思い出せない。うーん。
 ふと顔をあげると、さっきまで不機嫌そうだった兄さまがニコニコと笑いながらぼくを見ていた。この一瞬で機嫌が治るなんて、いったいなにがあったんだろう?あ、分かった。今日のおやつが美味しかったんだ。

「リディ兄さまは、チョコレートがおすきなんですね!」
「ん?うん、そうだね」
「ぼくもすきです!」

 リディ兄さまはチョコレートが好物、ちゃんと覚えておこう。もしまた喧嘩しちゃったらチョコレートを差し入れして、素直にごめんなさいするんだ。いや、喧嘩なんてしないにこしたことはないんだけど。念のため念のため。
 ぼくが必死に頭のなかに兄さまの好物を叩きこんでいると、視界にチョコクッキーを持った兄さまの指先がうつりこんだ。つい癖で口をあけると、サクサクとしたクッキーが口の中に入ってくる。
 口のなかでほろほろと崩れていくクッキーと、たっぷり入ったチョコチップがたまらない。その美味しさに思わずうっとりとしていると、クスクスとおかしそうな兄さまの笑い声が聞こえてきた。

「ミーシャ、ほっぺた落ちちゃいそうだね」

 そう言ってぼくのほっぺを指の背でふにふにといじるリディ兄さまはすごく楽しそうだ。正直もぐもぐしづらいからやめてほしいけど、機嫌がいいなら仕方ない。存分にぼくのほっぺを堪能するといい!
 兄さまの手ずからゆっくりとクッキーをたんのうしている最中、突然兄さまがあ、と声を漏らした。もぐもぐとクッキーを咀嚼しながら兄さまを見上げると、いい事思いついたといわんばかりの輝かしいえがお。

「ミーシャ、今からお出かけしようか」
「おでかけ!?」

 いままで邸の敷地内からでたことのないぼくにとって、兄さまのお誘いはあくまてきな魅力に満ちていた。でも本当にいいのだろうか?兄さまの様子からして、お父さまにきょかを取っているようにはおもえない。
 期待はんぶん、不安はんぶんなぼくを見て、兄さまはずっと楽しそうにわらっている。助けをもとめるようにシルベスターをみるけど、にこにこと微笑まれた。またうらぎったなシルベスター!

「ほらミーシャ、行こう?」
「うぐう…」

 目の前にぶらさげられたおいしそうなえさに、ぼくは飛びつく選択肢しかなかった。

 ◇

「わぁあ…!」

 馬車の車窓からみえる景色は、まさに西洋ファンタジー!ってかんじのレンガ造りが主だ。すごくきれい!
 そとの様子をみているだけなのにとってもわくわくする!ぼく、本当にずっとお邸のなかでしか過ごしてなかったからなぁ…あれ、なんでお邸からでなかったんだっけ?
 そう言えば、シルベスターもなんかいかお邸の外へさそってくれていた気がする。でもぼくは、頑なにでたがらなかったんだ。その理由は、全然おもいだせないけれど。

「…ミーシャ、突然黙り込んでどうしたんだ?」
「っいえ、なんでもないです!」

 兄さまの声ではっとする。いけないいけない、思考のうみにしずんでしまっていた。今はこのおでかけを目一杯たのしむのがぼくの使命なのに!
 窓のそとに見えるきになったものを片っ端からリディ兄さまにしつもんしたりして楽しく過ごしていると、馬車はとあるお店のまえに止まった。御者がとびらを開け、兄さまがさきに降りたあとぼくに手を差し出す。
 すこしだけ恥ずかしいけれど、兄さまのエスコートが王子様みたいでかっこいいからすきだ。
 目の前のお店はいかにも老舗です!ってかんじの重厚感たっぷりな店構え。兄さまと手をつないだまま店のなかへ足を踏み入れれば、ガラスケースに並ぶ宝石がずらり。どうやらここは、宝飾店らしい。

「兄さま、宝石かうんですか?」
「うん。実はね、今日は頼んでいたものを受け取りに来たんだ」
「うけとりに?」

 どうやら既に、今回のおでかけは仕組まれていたらしいことを悟る。だからシルベスターはなにも言わなかったのか。いやでも、すこしくらいおしえてほしかった。悩んでたじかんがもったいない!
 そんな事を考えているあいだに、店主がてのひらサイズの小箱を持っておくから出てきた。兄さまとぼくに見えるように箱をあけてくれる。
 その箱のなかには、翼をモチーフにした繊細な銀細工の髪飾りが収まっていた。お店の照明に細工やちりばめられた黒いほうせきがきらきらと反射していてとっても綺麗。
 ほぁあ、とおもわずまぬけな声が出てしまう。兄さまはそんなぼくに一つ笑みをこぼしたあと、そっと髪飾りを手にとってぼくのこめかみあたりにつけてくれた。銀細工なのに、宝石もついてるのにぜんぜん重たくない。

「…うん、良く似合ってる。ミーシャの綺麗な金髪には銀細工が良く合うね」
「え、あ、うう…」

 ありがとうと言いたいのに、兄さまにも似合いますよって言いたいのに。
 兄さまがあまりにも蕩けるような、心底愛おしいひとにむけるような笑みを浮かべるものだから、かおがカッと熱くなる。いまごろ、ぼくはみみまで真っ赤になっている気がしてならない。
 照れ隠しにぎゅうぎゅうと兄さまにだきつけば、優しくせなかを撫でたあと抱きしめ返してくれた。なんだか胸がくるしい。

「…リディ兄さま、だいすきです」
「俺も、ミーシャが大好きだよ。この世で一番ね」

 恥ずかしくてかおがみれないけれど、兄さまはやさしく微笑んでくれているよう気がした。
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