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呪いのことばとお母さま
15:思い込みはよくないです
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「おはようミーシャ、一緒に朝食にしようか」
ぼくが起きてすぐ、着替えすら終えていない時に兄さまはやってきた。ちなみに、ここ最近ずっとこうだ。
シルベスターからぼくの洋服をうけとり、嬉々として着替えをてつだう姿にもすっかり慣れた。というか、慣れざるをえなかった。最初こそはずかしいって言ってきょひしてたけど、ひびめげずにやって来る兄さまを見てあきらめてしまったのだ。まぁ、はずかしいだけで嫌なわけじゃないし…。
着替えがおわると、兄さまと手をつないで食堂まであるく。これも最初はだっこで運ばれていたけど、それは流石にまずいと思って自分であるくと主張した。そう言わなかったら、なんだかあるかせて貰えないような気がしたから。多分だけど、このちょっかんはあってると思う。
「…兄さま」
「うん、どうしたの?何だか不満そうだね」
「ふまん、というか…ふあんというか」
「不安?ミーシャ、何が不安なのか兄さまに言ってごらん」
兄さまはそう言ってきれいな微笑みをうかべると、ひょいっと軽々ぼくをだきあげた。こうなったらもう、下ろしてくれない。
何だかいろいろと諦めてしまったぼくは、ぎゅっと兄さまに抱きつく。それだけで嬉しそうな笑い声をあげる兄さまは、よっぽどぼくの事がすきなんだろうな。
……それはちょっと、嬉しいけど。
「兄さまに甘やかされすぎて、だめ人間になりそうでふあんです」
「あぁなんだ、そんな事か。兄さまはミーシャがだめだめになっちゃっても大好きだよ」
「むう、そうじゃないのに…」
いまいちぼくの意図は伝わっていないらしい。本当にこのまま甘やかされつづけて、兄さまがいないと生きていけなくなっちゃったらどうしよう…いや、それはそれでとか思ってない。断じて。
ぼくたちの少しうしろを歩いているシルベスターを見ると、とてもニコニコしていた。くそう、シルベスターは味方じゃないことが確定してしまった。うらぎりものめ。
このままじゃ駄目なことくらい、じぶんでもわかっている。わかっているけど兄さまからのやさしさがあまりにも心地よくて抜け出せない。あらがえばあらがうほど、兄さまからの無償の愛におぼれていく。
兄さまもぼくも、いつかは誰かとけっこんするのに。それこそ兄さまは、本来であればダニエルと相思相愛のはずなんだ。何故かいまはとっても仲が悪いけど、もしかしたらいつか本当にむすばれる未来があるかもしれない。
それを考えると、とても悲しくてくるしくなる。ずっとずっと、ぼくだけの兄さまでいてほしい。ずっとずっと、死ぬまでそばにいてほしい。そう考えるたび、自己嫌悪でもっとくるしくなる。
ぼくほど兄さまにふさわしくない人間はいないと、思ってしまう。
「ん゛~~…」
「今日は随分とご機嫌斜めだね、ミーシャ」
くすくすと何処かたのしそうにわらう兄さまの首元に、ぼくはぐりぐりと頭をおしつけた。
◇
「兄さま…?」
控えめなノックをしてもおへんじがこなくて、ぼくはそおっと兄さまのお部屋の扉をあけた。
いつもだったらお茶の時間になると現れる兄さまがこなくて、ちょっぴり不安になったぼくはシルベスターをつれて兄さまのお部屋にやってきていた。
お行儀わるいけどシルベスターも一緒だし、なかに入っちゃおう。もしかしたら兄さまがお部屋にもどってくるかもしれないから、驚かしちゃおうかな…そんな楽しいそうぞうをしながら、何だか物がすくないお部屋をぐるりとみわたす。
勉強机の上に、本がすうさつとちいさな額縁。そう言えばこのあいだ、肖像画いっしょに描いてもらったっけ。額縁のなかには、兄さまにだっこされて嬉しそうにわらっているぼくとそんなぼくを抱き締めてくれている兄さまが描かれていた。
勝手にお部屋のものにさわるのは流石にマナーいはんなので、さわらないぞという意思をこめて手をぎゅっと握り締める。ふと兄さまのベッドに視線をむけると、薄い冊子みたいなものが開かれたまま無造作に置かれていた。
ぼくがさわってあけたわけじゃない。だから、見てもいいよね…そんな好奇心に駆られて、そっと冊子をのぞきこむ。数秒前のぼくを殴りたくなるほど、そのなかみを見たことを後悔した。
「…これ、なに」
「これは肖像画ですね。家紋から察するに、ロダン辺境伯家のお嬢様かと」
「へんきょうはく…」
冊子のなかには、水色のドレスを身に纏ったどこかのお嬢さまの肖像画がはられていた。辺境伯家のお嬢さま。もしかしなくても、兄さまの婚約者こうほの一人なんだろう。
ドクドクと心臓がいやなおとを立てる。くるしい。いやだって思っちゃだめなのに、だめなのは分かってるのに…いつの間にかぼくはその肖像画をうでにかかえていた。
「坊ちゃま、いけません。それはリディエル様のものですから」
「わ、わかってる。わかってるけど、でも」
「…ミーシャ、何してるの?」
ガチャリと突然とびらがひらいて、不思議そうな兄さまの声がきこえた。ぼくはその場から動けなくて、ひゅっと息をのみこむ。だめだ、この絵をはなさないと。でも、でも。
すてなきゃ、すてないと。兄さまをとられちゃう。ちがう、とられるんじゃない。兄さまだって、きっとお嫁さんをもらうことを望んでいるはずなのに。
やだ。ぼくいがいが兄さまに愛されるのは、ぜったいにいやだ。
「ミーシャ、その絵を頂戴?」
「あ…」
目の前に膝をついてしせんを合わせてくれる兄さまから、ぼくはちっともめをそらすことが出来なかった。
ぼくが起きてすぐ、着替えすら終えていない時に兄さまはやってきた。ちなみに、ここ最近ずっとこうだ。
シルベスターからぼくの洋服をうけとり、嬉々として着替えをてつだう姿にもすっかり慣れた。というか、慣れざるをえなかった。最初こそはずかしいって言ってきょひしてたけど、ひびめげずにやって来る兄さまを見てあきらめてしまったのだ。まぁ、はずかしいだけで嫌なわけじゃないし…。
着替えがおわると、兄さまと手をつないで食堂まであるく。これも最初はだっこで運ばれていたけど、それは流石にまずいと思って自分であるくと主張した。そう言わなかったら、なんだかあるかせて貰えないような気がしたから。多分だけど、このちょっかんはあってると思う。
「…兄さま」
「うん、どうしたの?何だか不満そうだね」
「ふまん、というか…ふあんというか」
「不安?ミーシャ、何が不安なのか兄さまに言ってごらん」
兄さまはそう言ってきれいな微笑みをうかべると、ひょいっと軽々ぼくをだきあげた。こうなったらもう、下ろしてくれない。
何だかいろいろと諦めてしまったぼくは、ぎゅっと兄さまに抱きつく。それだけで嬉しそうな笑い声をあげる兄さまは、よっぽどぼくの事がすきなんだろうな。
……それはちょっと、嬉しいけど。
「兄さまに甘やかされすぎて、だめ人間になりそうでふあんです」
「あぁなんだ、そんな事か。兄さまはミーシャがだめだめになっちゃっても大好きだよ」
「むう、そうじゃないのに…」
いまいちぼくの意図は伝わっていないらしい。本当にこのまま甘やかされつづけて、兄さまがいないと生きていけなくなっちゃったらどうしよう…いや、それはそれでとか思ってない。断じて。
ぼくたちの少しうしろを歩いているシルベスターを見ると、とてもニコニコしていた。くそう、シルベスターは味方じゃないことが確定してしまった。うらぎりものめ。
このままじゃ駄目なことくらい、じぶんでもわかっている。わかっているけど兄さまからのやさしさがあまりにも心地よくて抜け出せない。あらがえばあらがうほど、兄さまからの無償の愛におぼれていく。
兄さまもぼくも、いつかは誰かとけっこんするのに。それこそ兄さまは、本来であればダニエルと相思相愛のはずなんだ。何故かいまはとっても仲が悪いけど、もしかしたらいつか本当にむすばれる未来があるかもしれない。
それを考えると、とても悲しくてくるしくなる。ずっとずっと、ぼくだけの兄さまでいてほしい。ずっとずっと、死ぬまでそばにいてほしい。そう考えるたび、自己嫌悪でもっとくるしくなる。
ぼくほど兄さまにふさわしくない人間はいないと、思ってしまう。
「ん゛~~…」
「今日は随分とご機嫌斜めだね、ミーシャ」
くすくすと何処かたのしそうにわらう兄さまの首元に、ぼくはぐりぐりと頭をおしつけた。
◇
「兄さま…?」
控えめなノックをしてもおへんじがこなくて、ぼくはそおっと兄さまのお部屋の扉をあけた。
いつもだったらお茶の時間になると現れる兄さまがこなくて、ちょっぴり不安になったぼくはシルベスターをつれて兄さまのお部屋にやってきていた。
お行儀わるいけどシルベスターも一緒だし、なかに入っちゃおう。もしかしたら兄さまがお部屋にもどってくるかもしれないから、驚かしちゃおうかな…そんな楽しいそうぞうをしながら、何だか物がすくないお部屋をぐるりとみわたす。
勉強机の上に、本がすうさつとちいさな額縁。そう言えばこのあいだ、肖像画いっしょに描いてもらったっけ。額縁のなかには、兄さまにだっこされて嬉しそうにわらっているぼくとそんなぼくを抱き締めてくれている兄さまが描かれていた。
勝手にお部屋のものにさわるのは流石にマナーいはんなので、さわらないぞという意思をこめて手をぎゅっと握り締める。ふと兄さまのベッドに視線をむけると、薄い冊子みたいなものが開かれたまま無造作に置かれていた。
ぼくがさわってあけたわけじゃない。だから、見てもいいよね…そんな好奇心に駆られて、そっと冊子をのぞきこむ。数秒前のぼくを殴りたくなるほど、そのなかみを見たことを後悔した。
「…これ、なに」
「これは肖像画ですね。家紋から察するに、ロダン辺境伯家のお嬢様かと」
「へんきょうはく…」
冊子のなかには、水色のドレスを身に纏ったどこかのお嬢さまの肖像画がはられていた。辺境伯家のお嬢さま。もしかしなくても、兄さまの婚約者こうほの一人なんだろう。
ドクドクと心臓がいやなおとを立てる。くるしい。いやだって思っちゃだめなのに、だめなのは分かってるのに…いつの間にかぼくはその肖像画をうでにかかえていた。
「坊ちゃま、いけません。それはリディエル様のものですから」
「わ、わかってる。わかってるけど、でも」
「…ミーシャ、何してるの?」
ガチャリと突然とびらがひらいて、不思議そうな兄さまの声がきこえた。ぼくはその場から動けなくて、ひゅっと息をのみこむ。だめだ、この絵をはなさないと。でも、でも。
すてなきゃ、すてないと。兄さまをとられちゃう。ちがう、とられるんじゃない。兄さまだって、きっとお嫁さんをもらうことを望んでいるはずなのに。
やだ。ぼくいがいが兄さまに愛されるのは、ぜったいにいやだ。
「ミーシャ、その絵を頂戴?」
「あ…」
目の前に膝をついてしせんを合わせてくれる兄さまから、ぼくはちっともめをそらすことが出来なかった。
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