謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘

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呪いのことばとお母さま

14:異変

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 あの日のできごとが衝撃的すぎて、わすれようわすれようと必死だった。相変わらずお父さまはお仕事で忙しいから、ぼくがくるしくて泣きつくのは決まって彼女かシルベスター。
 もしかしたら、彼女の時のほうが多かったかもしれない。多分ぼくは、無意識に“母親”という存在を求めていたのかも。いまとなっては、当時の気持ちはよくわからないけど。
 だけどある日を境に、ぼくは彼女に寄りつかなくなった。それは、にどめのアレルギー反応で苦しんでいた時にみた彼女の表情がげんいんだった。

「……ふ、」

 過呼吸で苦しくて、腕やくびがかゆくてしかたなくて。おくすりが効いてくるまでの間発疹を冷やしてもらいながら、ふと部屋の入り口ふきんにいた彼女に目をむけたしゅんかんだった。
 ほんの、すこし。一瞬だけ。彼女のくちもとは、確かに弧を描いたようにみえた。なんで笑ってるの?ぼくはこんなに苦しいのに。ほかのみんなは、心配そうに顔をゆがめているのに。
 なんで、なんで。そればかりが頭の中を占拠する。きもちわるくて吐きそうだったけど、吐いちゃうと飲んだばっかりのおくすりも出てきちゃうからがまんした。
 もしかしたら、こんかいのアレルギーも?そう考えたけど、ぼくは証拠をもってない。それに、邸の中の誰もが彼女を疑ったりしないだろうという確信があった。それくらい彼女は、みんなから慕われている。
 ぼくだってあの表情を見なかったら、彼女を微塵も疑わなかったとおもう。
 それくらい彼女は、ぼくにとって大事なひとだった。けれどそれ以降、警戒心しかもてなくて。ひどい罪悪感ときょうふに、しぜんと体調をくずすことがおおくなってしまった。

「坊ちゃま、私がそばにおりますよ。大丈夫です、大丈夫ですから…」

 ぼくが彼女に寄り付かなくなったから、かわりにシルベスターがそばにいてくれた。熱を出しても一生懸命つくしてくれて、大丈夫っておまじないをかけてくれる。
 シルベスターのおまじないはとってもよく効くから、かけてもらうとすぐに寝てしまった。たぶん、緊張の糸がぷつんと切れてしまってたんだとおもう。
 それほど、がストレスだったんだろうと、のちにお医者さまから言われた。

 そして、ぼくの4歳の誕生日…おきてはならない事件がおきた。

 ◇

 ガシャッ、パリン!となにかが落ちたりわれたりする音が部屋にひびく。料理長たちがすごくきれいに作ってくれた誕生日ケーキが、ぐしゃりと床の上でくずれていた。
 目の前で起きていることがりかいできない。なんで彼女は手にナイフをもっているんだろう。どうして、ぼくを庇ったメイドの腕から、真っ赤な血がしたたり落ちているんだろう?
 分かってた。分かってたけど、りかいしたくなかった。だってりかいしてしまったら、なにかが壊れてしまうと思ったから。ぼくが、ぼくでなくなってしまう気がしたから。

「あ、なんで…」

 ぼくのそんな小さな声を、彼女は耳ざとく拾いあげた。普段の彼女からは想像できないほどゾッとする笑い声をあげたあと、わけのわからない言葉を並べたてる。
 曰く、ぼくはひとごろしだと。ぼくは生まれてこなければよかったのだと…ぼくは、お母さまの代わりにならなければいけないのだと。
 ちっとも訳がわからなかった。ぼくはぼくで、お母さまはお母さまだ。けど確かに、ぼくが生まれなければお母さまは死ななかった。それは事実で、かえられない。だから、ぼくは、お母さまの代わりにならなきゃいけない?
 ちがう。ちがわない。でも。でもじゃない。ぼくはdれ。ぼくは、ぼくは…。

「何するの!離せ!離しなさい!」

 いつの間にか我が家の騎士たちが邸の中にはいってきて、彼女をしっかりと拘束してつれていった。ぼくを庇ったメイドも傷が浅かったおかげで傷跡も残らず元気だ。いまでも邸で働いていて、現在のメイド長は彼女だ。
 ぼくの誕生日はさいあくな形でおわり、彼女はぼくのこころに深い傷跡をのこすことに成功した。それは悪夢の形をとり、日々じわじわと蝕んでいく。
 それからぼくは、癇癪を起こしやすくなった。普段とちがう匂いがするものが恐ろしいし、怒りさえ湧いてくる。そっか、それでいっつも怒ってたんだ。すっかり忘れていた。

「…ミーシャ、もういいよ」
「にい、さま?」

 無意識のうちにうつむけていた顔を上げると、そこにはやさしい笑みをうかべた兄さまがいた。不思議におもってじっと見つめていると、兄さまのゆびさきがぼくの頬をなぞる。
 目もとからあごへ、ながれた涙のあとを辿るように。誰よりもやさしく、ていねいに。

「ミーシャ、俺の天使。辛いことを話してくれてありがとう」
「…えっと、どう、いたしまして…?」
「ふふ、そうだね」

 少しだけおかしそうに笑った兄さまは、もう一度ぼくの目元にゆびを這わせたそしてそのまま兄さまの顔がゆっくりと近づいてくる。
 ちゅ、と。小さな音がきこえた。なにが起こったか全然わからなくて、でも理解した途端いっしゅんで顔がねつをもつ。
 ぼく、いま、にいさまに。

「えあ、え!?」
「目元にキスしただけで真っ赤だ。ミーシャ、かわいい」
「あの、兄さま、そういうのは、はずかし…」
「ふふ、うん。分かった。もうなるべくしない」

 ほっと息を吐いたけど、すぐに言葉の意味に気づいて首をかしげる。なるべく?ってことは、絶対しないわけじゃない?
 えええ!と、ぼくの大きな声が周囲にひびいた。
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