謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘

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呪いのことばとお母さま

17:お父さまにごめんなさい

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「ミーシャ…ミーシャ?おーい」

 シルベスターとお庭をおさんぽしていれば、邸のほうこうから兄さまの声が聞こえてきた。普段だったらぼくのおさんぽを邪魔ましたりしない兄さまにしては珍しい。
 はぁい、大きな声でお返事しながら兄さまの声が聞こえる方へとかけ出せば、目当ての人物のもとへあっという間に辿りついた。
 兄さまもぼくを見つけたらしい。すごくいい笑顔で腕をひろげてくれたから、迷わずその中へととびこむ。やさしくぎゅっと抱きしめられて、そのまますりすり頬擦りされる。んふふ。

「そんなところに居たのか。ミーシャ、もうすぐ当主様が帰って来るから準備しようね」
「お父さま、帰ってくるんですか」
「うん、そうだよ。ミーシャも会いたかったんでしょ?」

 兄さまの言葉に思わず動揺すると、やさしく頭を撫でながら確認される。問いかけに素直に頷くと、よしよしと宥められた。
 ぼくは、お父さまに会いたかった。あの時パニックになって、欲しいものを聞いてくれたお父さまを蔑ろにしてしまったから。ごめんなさい、したかった。
 けれど本当にゆるしてもらえるだろうか?兄さまもシルベスターも大丈夫だと言ってくれるけど、ぼくには到底そうおもえない。
 だってお父さまは、きっとぼくのことなんて…いやでも、そしたらなんでぼくに欲しい物を聞いたんだろう?どうして、ぼくはお父さまを恐れていたんだっけ?

「ミーシャ!」
「あ、え…?」

 突然聞こえた、兄さまの大きな声ではっとする。兄さまはぼくの両肩を手でつかんで、さっきまで揺さぶっていたみたいだった。
 兄さまはとても焦ったような、かなしい顔をしていた。そんな表情をさせてしまったのは、きっとぼくなんだろう。
 それがどうにも居た堪れなくてごめんなさいと呟くと、兄さまは笑って許してくれた。そのままぼくを抱きしめて、やさしく頭を撫でてくれる。
 大好きな兄さまがやさしくしてくれて、とても嬉しい。だけど罪悪感もたしかにあって、どんな顔をすればいいのか分からなくなる。

「ミーシャ。兄さまはね、ミーシャのことが大好きだよ」
「…うん」
「だからいっぱい我儘を言って、怒って、笑って…色んなミーシャが見たいんだ」
「いろんな、ぼく?」

 兄さまの言いたいことが少しわかりづらくて、首を傾げながら問いかける。頷きながらニコニコと笑っている兄さまはすごく楽しそうだ。
 いろんなぼくを見たい。それはきっと、心の底から思っている事なんだろうと納得してしまう。兄さまは、ぼくが何をしていたって嬉しそうにしてくれるような…そんな気がする。

「だからね、ミーシャが悩む必要なんてないんだよ。兄さまにいーっぱい迷惑かけていいんだ。だって、俺はそれが嬉しいんだから」
「…うん。ありがとう、リディ兄さま」
「どういたしまして、ミーシャ」

 至極嬉しそうに笑う兄さまに、いま一度ぎゅっと抱きついた。

 ◇

「…」
「…」
「…」

 お父さまの部屋のなかに落ちる、ずしりとした重たいちんもく。兄さまはすぐ傍にいてくれるけど、今回はぼくががんばらないとだから助けをもとめるのは最終手段にしたいと予めそうだんしていた。
 けれど既に根をあげてしまいそうだ。この空間、あまりにもいたたまれない…!
 お父さまはずっと不機嫌そうなこわい顔をしている。やっぱり、この間失礼な事をしてしまったのを怒っているんだろう。兄さまはだいじょうぶだって言ってくれたけど、これ絶対ゆるしてもらえないやつだ。

「あ、あの、お父さま…」
「…なんだ」
「ひぇ」

 低くおなかのそこに響くようなこえには、確かに怒気がはらんでいた。やっぱりすごく怒ってる!こわい!
 ぼくの情けないこえに余計機嫌をそこねてしまったのか、お父さまの眉間にはさらに深いしわがきざみこまれている。どうしようどうしよう、こわいよぉ。
 ひとりおろおろとしていると、兄さまがぼくの頭の上にぽんと掌をおいた。どうやらたすけてくれるらしい。ひとりで頑張ろうとおもっていたけど、ここは兄さまに任せたほうがかしこい気がしてきた。

「当主様、ミーシャが怯えています」
「気付いている。何故怯えているのか分からないだけだ」
「怖いからですよ、当主様の顔が」
「あ、に、にいさまっ!?」

 あまりにもドストレートに言ってしまうものだから、思わず驚いた声をあげてしまった。そんな事言ったら、兄さまがお父さまを怒らせておいだされちゃう!
 咄嗟に兄さまのまえにでて、お父さまにむかって頭をさげる。もちろん腰はきっかり90度だ。誠心誠意のしゃざいだ。

「ご、ごめんなさいお父さま!あの、兄さまはぼくを助けようとして…!」
「…何故ミーシャが謝る。リディも、別に悪い事をした訳じゃないだろう?」
「へ…?」

 その言葉にそろそろと顔をあげると、相変わらず眉間にしわをきざんでいるけれどどこか不思議そうに首を傾げているお父さまのすがたがあった。まるで、ぼくの行動が心底ふかかいだといわんばかりに。
 ふと、そこで違和感をかんじる。いまだお父さまのお顔はこわいままだけど、もしかして。

「…お父さま、怒ってないんですか?」
「怒る?何に対してだ。私の知らないところで何かとんでもないことでもしたのか?」
「なにも!なにもしてません!お家で兄さまといい子にしてます!」

 慌ててむざいをしゅちょうすると、お父さまはそうかと一言つぶやいた。相変わらず、お顔はとってもこわい。けど、怒っている訳ではないことはわかった。
 ……もしかして。いや、もしかしなくても…ぼくは今まで、ちっとも怒っていないお父さまを表情だけで怒ってると勘違いしていたのだろうか。
 兄さまを見上げると、なぜかニコニコと笑っている。まるでぼくの心の中を読んで、そうだよと肯定しているみたいに。

 今までの勘違いにきづいたぼくは、あまりにもはずかしくて逃げ出しそうになってしまった。
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