謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘

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呪いのことばとお母さま

18:ぼくが一番ほしいもの

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「ほらミーシャ。誤解も解けた事だし、当主様のお膝に乗せてもらったら?」
「え、お父さまのおひざ?」
「そうそう、当主様のお膝」

 はずかしさでそわそわしていたところに、兄さまから新たな提案をされた。一瞬理解ができなくてぽかんとしてしまったけれど…え、お父さまのお膝?
 だめだ、何度考えても訳がわからない。どうして兄さまは突然そんなことを言いだしたのだろうか。
 お父さまの様子をうかがうと、まっすぐぼくを見つめていた。それはもう、穴が空いちゃうんじゃないかってくらいじーっと。
 もしかして、お膝の上にぼくを乗せたいのだろうか…?いや、そんなまさか。
 ぼくがどうしようかと悩んでいると、不意にふわりとした浮遊感におそわれた。びっくりして固まっていたら、そのすぐ後におしりに人肌をかんじる。おそるおそる視線をあげると、すこしだけ驚いたように目を見開くお父さまがいた。きょり、ちかい。

「あ、あの、その…」
「……お前は、小さいな」
「はぇ?」

 しみじみとした声で呟くお父さまに、思わず素っ頓狂な声をあげた。たしかにぼくは、お父さまに比べたらものすごく小さいけど…でも、これでも平均身長くらいなはずだ。たぶん。きっと。
 ひとり心のなかでいいわけを並べ立てていると、大きな掌がそっとぼくの背中にふれて優しくだきよせてきた。まるで壊れものをあつかうように、やさしくていねいに。少しでもちからを入れたら壊れてしまうと、おそれているように。
 きっとお父さまは、ぼくをどうあつかっていいのか分からないのだろう。それもそうか。今までぼくとお父さまは、まともなふれ合いをせずに過ごしていた。血の繋がった家族とはおもえないほど、疎遠だった。
 日頃兄さまにべったりすぎて忘れていたけど…ぼくはずっと、お父さまに甘えたかった。たったひとり、ぼくと深い血のつながりがあるお父さまに。ずっと、ずっとずっと焦がれていた。だけどぼくは、お父さまに嫌われるのがこわくてどうしていいか分からなかった。
 …もしかしたらお父さまも、どうしたらいいのか分からなかったのかな。そう思うと辻褄が合うような気もするけど、都合のいい妄想のようにも思える。でもまぁ、どっちでもいいか。

「ミーシャ?」
「お父さま、ぼくのお願いきいてくれますか」
「…あぁ、私が叶えてやる事が出来るものなら何でも」

 真面目なお顔で返事をくれるお父さまに、おもわずふふっと笑い声がこぼれる。普通の父親ならきっと、もっとにこやかなお顔をするだろうに。でも、これがぼくのお父さまなんだって思うとむしょうにうれしくなる。
 ぼくの、たった一人のお父さま。背がたかくてお顔がかっこよくて、でもちょっぴりこわくて…でも、公爵としてのカリスマせいはとってもすごくて。だいすきな、お父さま。
 そんなお父さまにわがままを言うのは、これが初めてのような気がする。お父さまの前でだけは、聞き分けのあるいい子を演じていたから。けど、それじゃ駄目なんだって気付いた。

「ぼく、ぼくお父さまと一緒にお馬さんにのりたいです!」
「お、お馬さん…」

 ぼくたちのやりとりに、兄さまが笑いをかみころしているのが視界の端にうつった。

 ◇

「ミーシャ、急に大きな声を出したりしないように。お馬さんは、とても耳がいいからな」
「は、はい…!」

 お父さまに言われるまま、ひそひそ声でお返事をする。ぼくは今、お父さまと一緒に真っ黒なお馬さんの上にのってお庭をお散歩していた。因みにぼくたちの隣には、兄さまが優雅に白いお馬さんにのっている。すごくかっこいい。
 ぼくのお腹にはしっかりと紐がくくりつけられている。その先は、お父さまのおなかだ。万が一にもおっこちないように、お父さまとつなげられてしまった。
 そんな事しなくても、いい子にしてるのに…シルベスターにそう文句を言ったら、お父さまの言いつけだからといわれてしまった。それは逆らえない、ごめんねシルベスター。
 兄さまにだっこされている時よりずっと高い視界にかんどうして、ついついきょろきょろしてしまう。お空がいつもよりちかい。すごい。

「ミーシャ、そんなに楽しいのか?」
「はい、すっごく!お父さま、お馬さんってすごいんですね!」
「…そうだな」

 お父さまからの問い掛けに、こくこくと一生懸命うなずく。だってすごい。お父さまを乗せて、さらにぼくをのせても全然ふあんていじゃない。いくらぼくが軽いとはいえ、人をふたりも乗せれるなんてとってもすごい。あと真っ黒でとってもかっこいい。
 ぼくを乗せているから走ったりはできないけど、きっとお父さまを乗せて走るこの子はすごくかっこいいんだろう。そう言えば、この子のお名前はなんというのだろうか?

「お父さま、このお馬さんのお名前は何ですか?」
「あぁ、教えてなかったか。この馬は、カラメルという」
「…カラメルって、あのプリンのカラメル?」
「そうだ、プリンのカラメルだ」

 数秒間、ぼくとお父さまはみつめあった。いや、あの、そんな可愛いお名前だとおもいもしなかったから。なんかこう、てっきりもっといかついお名前だと。
 カラメルの鬣をそっとなでると、心地良さそうに鼻をならしてくれた。かわいい。かわいいけど、カラメル。なんだろう、この何ともいえない気持ち。

「因みに、俺が乗ってるこの子はミルクっていうんだよ」
「…ミルクちゃん」
「そう、ミルクちゃん。名前は当主様がつけたみたいだね」

 またもや出てきたおいしそうなお名前に、思わずお父さまの顔をみあげる。お父さまはそんなぼくを不思議そうにみていた。どうかしたのか?って言われそうなお顔だ。
 うむむ、もしかしたらお父さまはとっても天然さんなのかもしれない。というか、きっとそうだ。天然の天然さんなんだ。

「ミーシャ、体調が悪いのか?」
「…んふふ、いーえ。ぼくはへいきです」

 黙りこんだぼくを心配したお父さまが、顔を覗き込もうとかがんでくれる。その時にお父さまの髪がさらりと揺れて、ぼくをおおうカーテンみたいになった。
 相変わらず表情筋はお仕事をほうきしているようだけど、お父さまがぼくを心配してくれていることはわかる。それが何だかとっても嬉しくてたまらない。

「お父さま、ぼくお父さまがだいすきですよ!」
「……そうか」

 照れたように目をそらすお父さまが、かわいくて大好きでたまらなかった。
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