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呪いのことばとお母さま
19:大丈夫のおまじない(Side:シルベスター)
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目の前で至極幸せそうな寝顔を晒している小さな主に、心の底からほっとする。あぁ、私の主は漸く大切な居場所を手に入れる事が出来たのだと。
今までミーシャ様は、ずっと神経を張り詰めて生きてきた。私を信頼してくださってはいたものの、あくまで召使である私ではミーシャ様の居場所たり得なかった。それがどれほど悔しく、もどかしかったことか。
ある日突然、旦那様が連れてきた一人の養子。最初こそミーシャ様の地位を脅かし、危害を加える存在ではないかと疑っていた。然し彼…リディエル様は、ミーシャ様を一番の宝物であるかのように大切に慈しんでくれた。ミーシャ様もその気持ちに応え、どんどん心を開いていった。
私はそれが、本当に嬉しかった。今まで誰にでもある程度の境界線を引いていたミーシャ様が、心から気を許せる相手に出会えた事に。
その上、一年前のあの事を話したという。今まで我々使用人達は、あの事に関連しているものには最新の注意を払っていた。全ては、ミーシャ様に恐怖を与えないために。公爵家お抱えの医師の指導の下、なるべく刺激を与えないようにしてきたのだ。
なのに、ミーシャ様は自らリディエル様に話されたと言う。これを喜ばずして、何を喜ぶというのか。幼い主のとんでもない成長具合に、思わず場所も弁えず泣き出してしまう所だった。
『シルベスター、だいじょうぶのおまじないして』
まだ心の傷も癒えぬ頃、悪夢を見ては飛び起き私を呼び出していたミーシャ様。決まって強請るのは、いつだったか私がかけたおまじない。発端は、転んで泣き出しそうだった時に気休めに発した言葉だったと思う。
大丈夫大丈夫。痛くない、坊ちゃまは強い子ですと…たったそれだけの言葉なのに、それを拠り所にしてくれていた。大丈夫のおまじないは、今ではリディエル様が使ってくれている。
その事が嬉しいと同時に、もう私のおまじないは必要ないのだろうかと一抹の寂しさを覚えた。ミーシャ様の成長は勿論嬉しいが、これからもっと私から離れていくのだろうかと思うと切ない。勿論、私から離れていく心算は微塵もないけれど。
だけどいつの日かミーシャ様は、坊ちゃんではなくなる。私の手から離れ、立派な貴族になるだろう。今は天使のような愛らしさの容姿も、あと十年も経てば男らしさも出てくるはずだ。そうしたらきっと、リディエル様の過保護がこれまで以上に激しくなるだろう。
でもきっと、ミーシャ様はその過保護の意味に気付かない。今でもリディエル様は、いろんな意味で苦労されているのだから…万人を引きつけるミーシャ様の性質は、成長するにつれ威力も増していく。公爵位を継ぐ頃には、とんでもない事になっているような気がしてならない…きっと、私以外もそう思っている。
我が主、ミーシャ様。ミーシャ坊ちゃま。
天使のような容姿に、繊細なお心を持っている愛しい我が主。シルベスターめは、残りの人生全てを坊ちゃまに捧げると誓っております。きっと今その事を言っても良く分からないでしょうから、もう少し大人になったらこの話をしましょうね。
貴方にはずっとずっと笑っていてほしい。そのためならば、どんな汚れ仕事でも請け負いましょう。貴方の居場所がリディエル様の隣なのだと仰るのなら、私めは全力でリディエル様のサポートも致しましょう。
この命は全て、貴方様…ミーシャ・ルリアン様の為に。
「ん…しるべすたあ?」
「はい、坊ちゃま。私はここにおりますよ」
「しるべすたあ、兄さまは?」
私の服の袖を軽く引っ張りながら、リディエル様の所在を尋ねる坊ちゃま。今はお勉強なさってますと告げると、リディエル様の部屋に行きたいとごねはじめる。
その愛らしい姿に願いをすぐに叶えてしまいたくなるけれど、この勉強の時間はリディエル様が将来ミーシャ様の傍に居るのに必要な教養の授業。いくら坊ちゃまといえど、邪魔させるわけには行かない。
寝起きでぽやぽやとしている坊ちゃまの頭を撫でた後、巧みに散歩に意識を向けさせる。多少ごねるかとも思ったがそんな様子も見せず、素直に散歩の準備を始めてくれた。
数週間前のミーシャ様であれば、ぐずりながら我儘を言っていたことだろう。こんな所で主の成長を見られると思っていなかったので、数秒思考が停止してしまった。嬉しい反面、やはり寂しく思ってしまうのは仕方のない事だろう。なんて贅沢な悩みであることか。
着替えを手伝い終えると、主は自ら歩き出した。これも少し前なら、私と手を繋いでいたところだろう。あぁ、我が主の成長が著しくて感激の波が一向に引いていかない。
今はまだ、私の腰下までしかない身長はどれ程高くなるのだろう。奥様似であるミーシャ様は、小柄で華奢なままなのだろうか?それとも、旦那様に似てスラリと高い背丈になるのだろうか?
全ての成長を見切れないのは重々承知ではあるが、悔しいものがある。私があと十年ほど若ければ、主が立派な大人になるところを何年も見ていることが出来るだろうに。
あぁ、坊ちゃま。私の主。どうかこの老いぼれを、死ぬまで使ってくださいませ。
今までミーシャ様は、ずっと神経を張り詰めて生きてきた。私を信頼してくださってはいたものの、あくまで召使である私ではミーシャ様の居場所たり得なかった。それがどれほど悔しく、もどかしかったことか。
ある日突然、旦那様が連れてきた一人の養子。最初こそミーシャ様の地位を脅かし、危害を加える存在ではないかと疑っていた。然し彼…リディエル様は、ミーシャ様を一番の宝物であるかのように大切に慈しんでくれた。ミーシャ様もその気持ちに応え、どんどん心を開いていった。
私はそれが、本当に嬉しかった。今まで誰にでもある程度の境界線を引いていたミーシャ様が、心から気を許せる相手に出会えた事に。
その上、一年前のあの事を話したという。今まで我々使用人達は、あの事に関連しているものには最新の注意を払っていた。全ては、ミーシャ様に恐怖を与えないために。公爵家お抱えの医師の指導の下、なるべく刺激を与えないようにしてきたのだ。
なのに、ミーシャ様は自らリディエル様に話されたと言う。これを喜ばずして、何を喜ぶというのか。幼い主のとんでもない成長具合に、思わず場所も弁えず泣き出してしまう所だった。
『シルベスター、だいじょうぶのおまじないして』
まだ心の傷も癒えぬ頃、悪夢を見ては飛び起き私を呼び出していたミーシャ様。決まって強請るのは、いつだったか私がかけたおまじない。発端は、転んで泣き出しそうだった時に気休めに発した言葉だったと思う。
大丈夫大丈夫。痛くない、坊ちゃまは強い子ですと…たったそれだけの言葉なのに、それを拠り所にしてくれていた。大丈夫のおまじないは、今ではリディエル様が使ってくれている。
その事が嬉しいと同時に、もう私のおまじないは必要ないのだろうかと一抹の寂しさを覚えた。ミーシャ様の成長は勿論嬉しいが、これからもっと私から離れていくのだろうかと思うと切ない。勿論、私から離れていく心算は微塵もないけれど。
だけどいつの日かミーシャ様は、坊ちゃんではなくなる。私の手から離れ、立派な貴族になるだろう。今は天使のような愛らしさの容姿も、あと十年も経てば男らしさも出てくるはずだ。そうしたらきっと、リディエル様の過保護がこれまで以上に激しくなるだろう。
でもきっと、ミーシャ様はその過保護の意味に気付かない。今でもリディエル様は、いろんな意味で苦労されているのだから…万人を引きつけるミーシャ様の性質は、成長するにつれ威力も増していく。公爵位を継ぐ頃には、とんでもない事になっているような気がしてならない…きっと、私以外もそう思っている。
我が主、ミーシャ様。ミーシャ坊ちゃま。
天使のような容姿に、繊細なお心を持っている愛しい我が主。シルベスターめは、残りの人生全てを坊ちゃまに捧げると誓っております。きっと今その事を言っても良く分からないでしょうから、もう少し大人になったらこの話をしましょうね。
貴方にはずっとずっと笑っていてほしい。そのためならば、どんな汚れ仕事でも請け負いましょう。貴方の居場所がリディエル様の隣なのだと仰るのなら、私めは全力でリディエル様のサポートも致しましょう。
この命は全て、貴方様…ミーシャ・ルリアン様の為に。
「ん…しるべすたあ?」
「はい、坊ちゃま。私はここにおりますよ」
「しるべすたあ、兄さまは?」
私の服の袖を軽く引っ張りながら、リディエル様の所在を尋ねる坊ちゃま。今はお勉強なさってますと告げると、リディエル様の部屋に行きたいとごねはじめる。
その愛らしい姿に願いをすぐに叶えてしまいたくなるけれど、この勉強の時間はリディエル様が将来ミーシャ様の傍に居るのに必要な教養の授業。いくら坊ちゃまといえど、邪魔させるわけには行かない。
寝起きでぽやぽやとしている坊ちゃまの頭を撫でた後、巧みに散歩に意識を向けさせる。多少ごねるかとも思ったがそんな様子も見せず、素直に散歩の準備を始めてくれた。
数週間前のミーシャ様であれば、ぐずりながら我儘を言っていたことだろう。こんな所で主の成長を見られると思っていなかったので、数秒思考が停止してしまった。嬉しい反面、やはり寂しく思ってしまうのは仕方のない事だろう。なんて贅沢な悩みであることか。
着替えを手伝い終えると、主は自ら歩き出した。これも少し前なら、私と手を繋いでいたところだろう。あぁ、我が主の成長が著しくて感激の波が一向に引いていかない。
今はまだ、私の腰下までしかない身長はどれ程高くなるのだろう。奥様似であるミーシャ様は、小柄で華奢なままなのだろうか?それとも、旦那様に似てスラリと高い背丈になるのだろうか?
全ての成長を見切れないのは重々承知ではあるが、悔しいものがある。私があと十年ほど若ければ、主が立派な大人になるところを何年も見ていることが出来るだろうに。
あぁ、坊ちゃま。私の主。どうかこの老いぼれを、死ぬまで使ってくださいませ。
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あっという間に読んでしまいました😭😭続きを読みたくて仕方ありません😭😭
はじめまして✨とても 楽しく読ませて頂いております🎵
ミーシャホントに可愛いですね~( *´艸)ダニエルは ちょっと可哀想だけど 俄然リディ推しなので 心穏やかに楽しませて頂いております🎵
続きも 楽しみに待ってます( *´艸)
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