53 / 55
2章
52.愛より友情を
しおりを挟む
「たくちゃんの事、出逢った時からずっと好きだったの……」
冷たい粉雪が心に滴る真冬のバレンタインデー。丈の揃わった制服を左右で揺らしながら少女は好きな男に愛を伝えた。少女は肩を小刻みに震わせて手作りであろうチョコを好きな男……卓郎の前に突き出している。卓郎は一瞬だけ目を見開き、笑顔を浮かばせてからぎゅっと下唇を噛んだ。
──俺も星の事が好きだ……。けど、この告白を受け入れて俺だけが幸せになって本当にいいのか?
***
星と卓郎は高校の入学式で出逢い、卓郎は直ぐに可憐な見た目をしたマツバボタンのように美しい彼女に一目惚れをした。マツバボタンというのはボタンの花を小さくさせたような可愛らしい色とりどりの花。小柄で雰囲気がふわふわとしている彼女にはピッタリの表現だったわけだ。
もしかしたら神様からのささやかなプレゼントかもしれない。星と卓郎は共通の趣味があった事から、入学早々他のクラスメイトよりも仲を深める事ができた。そして星の幼馴染であり彗の父……豊永昴、昴と同じクラスの茂とも話をするようになる。
「なあ、お前らって星の事好きなのかよ?」
しかし、女一人と男三人でグループを作って恋愛沙汰の問題が起きる筈がない。ある日茂からのその質問に卓郎はハッキリNOと否定してしまった。本当は好きで好きで堪らなかったのにも関わらず……。一方で昴は違う。無愛想な顔をしながらも「俺は好きだけど」とカミングアウトしたのだ。
星が卓郎の事を慕っているのは三人から見ても明らかな事だった。そう、昴は自分は片想いだと分かっている中、星への好意を伝えたという事だ。卓郎にはそれを上回る勇気もきちんとした好意を持った理由もなく、長年純粋に好意を抱いている昴に対して俺も好きだとは到底言おうと決心が出来なかった。
***
その時の光景が星に告白されたとき不図、頭に浮かんできたのである。もしこのまま告白を受け入れたとしても昴との友情は如何なるのだろうか。
──俺達の事を笑顔で祝ってくれるのか……? それとも気不味くなった挙句に絶交されてしまう……?
という複数の意見が卓郎の頭の中で混沌と渦巻いていた。まあ、好きだとも言っていなかったのに友人と幼馴染が付き合い始めたら素直に祝える筈がない。
「ごめん。星の事は友達としか見れない」
紛れもない嘘だった。今すぐ側に駆け寄って、抱きついて、俺も好きだと卓郎は言いたかっただろう。星は悟ったように涙を堪えながら「そうだよね、ごめんね」と謝っている。
──何で星が謝るんだ……。悪いのは俺なのに……。好きな人からの好きを素直に受け取れなかった俺が悪いのに。
確かに卓郎のこの行動は自業自得であり、何方かと言えば星達は被害者である。卓郎は自らの愛よりも友情を選んだ。それだけの話。けれども卓郎は今でもこの結論に少しばかり複雑な心情を抱いている。
その後、昴からの何十回ものアプローチにより星と昴は付き合う事になった。今では彗が産まれてラブラブな夫婦。友情は一欠片も崩れていない。大人になっても彼等は一緒に飲む仲だ。恋愛だって卓郎自身が我慢したら良いだけの話。
卓郎の判断は間違っていなかった。そう、間違っていなかったのだ。毎日のように卓郎は自身の胸にこう言い聞かせている。
冷たい粉雪が心に滴る真冬のバレンタインデー。丈の揃わった制服を左右で揺らしながら少女は好きな男に愛を伝えた。少女は肩を小刻みに震わせて手作りであろうチョコを好きな男……卓郎の前に突き出している。卓郎は一瞬だけ目を見開き、笑顔を浮かばせてからぎゅっと下唇を噛んだ。
──俺も星の事が好きだ……。けど、この告白を受け入れて俺だけが幸せになって本当にいいのか?
***
星と卓郎は高校の入学式で出逢い、卓郎は直ぐに可憐な見た目をしたマツバボタンのように美しい彼女に一目惚れをした。マツバボタンというのはボタンの花を小さくさせたような可愛らしい色とりどりの花。小柄で雰囲気がふわふわとしている彼女にはピッタリの表現だったわけだ。
もしかしたら神様からのささやかなプレゼントかもしれない。星と卓郎は共通の趣味があった事から、入学早々他のクラスメイトよりも仲を深める事ができた。そして星の幼馴染であり彗の父……豊永昴、昴と同じクラスの茂とも話をするようになる。
「なあ、お前らって星の事好きなのかよ?」
しかし、女一人と男三人でグループを作って恋愛沙汰の問題が起きる筈がない。ある日茂からのその質問に卓郎はハッキリNOと否定してしまった。本当は好きで好きで堪らなかったのにも関わらず……。一方で昴は違う。無愛想な顔をしながらも「俺は好きだけど」とカミングアウトしたのだ。
星が卓郎の事を慕っているのは三人から見ても明らかな事だった。そう、昴は自分は片想いだと分かっている中、星への好意を伝えたという事だ。卓郎にはそれを上回る勇気もきちんとした好意を持った理由もなく、長年純粋に好意を抱いている昴に対して俺も好きだとは到底言おうと決心が出来なかった。
***
その時の光景が星に告白されたとき不図、頭に浮かんできたのである。もしこのまま告白を受け入れたとしても昴との友情は如何なるのだろうか。
──俺達の事を笑顔で祝ってくれるのか……? それとも気不味くなった挙句に絶交されてしまう……?
という複数の意見が卓郎の頭の中で混沌と渦巻いていた。まあ、好きだとも言っていなかったのに友人と幼馴染が付き合い始めたら素直に祝える筈がない。
「ごめん。星の事は友達としか見れない」
紛れもない嘘だった。今すぐ側に駆け寄って、抱きついて、俺も好きだと卓郎は言いたかっただろう。星は悟ったように涙を堪えながら「そうだよね、ごめんね」と謝っている。
──何で星が謝るんだ……。悪いのは俺なのに……。好きな人からの好きを素直に受け取れなかった俺が悪いのに。
確かに卓郎のこの行動は自業自得であり、何方かと言えば星達は被害者である。卓郎は自らの愛よりも友情を選んだ。それだけの話。けれども卓郎は今でもこの結論に少しばかり複雑な心情を抱いている。
その後、昴からの何十回ものアプローチにより星と昴は付き合う事になった。今では彗が産まれてラブラブな夫婦。友情は一欠片も崩れていない。大人になっても彼等は一緒に飲む仲だ。恋愛だって卓郎自身が我慢したら良いだけの話。
卓郎の判断は間違っていなかった。そう、間違っていなかったのだ。毎日のように卓郎は自身の胸にこう言い聞かせている。
0
あなたにおすすめの小説
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる