たとえ“愛“だと呼ばれなくとも

朽葉

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2章

52.愛より友情を

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「たくちゃんの事、出逢った時からずっと好きだったの……」

 冷たい粉雪が心に滴る真冬のバレンタインデー。丈の揃わった制服を左右で揺らしながら少女は好きな男に愛を伝えた。少女は肩を小刻みに震わせて手作りであろうチョコを好きな男……卓郎の前に突き出している。卓郎は一瞬だけ目を見開き、笑顔を浮かばせてからぎゅっと下唇を噛んだ。

 ──俺もの事が好きだ……。けど、この告白を受け入れて俺だけが幸せになって本当にいいのか?

 ***

 星と卓郎は高校の入学式で出逢い、卓郎は直ぐに可憐な見た目をしたマツバボタンのように美しい彼女に一目惚れをした。マツバボタンというのはボタンの花を小さくさせたような可愛らしい色とりどりの花。小柄で雰囲気がふわふわとしている彼女にはピッタリの表現だったわけだ。

 もしかしたら神様からのささやかなプレゼントかもしれない。星と卓郎は共通の趣味があった事から、入学早々他のクラスメイトよりも仲を深める事ができた。そして星の幼馴染であり彗の父……豊永昴とよながすばる、昴と同じクラスの茂とも話をするようになる。

「なあ、お前らって星の事好きなのかよ?」

 しかし、女一人と男三人でグループを作って恋愛沙汰の問題が起きる筈がない。ある日茂からのその質問に卓郎はハッキリNOと否定してしまった。本当は好きで好きで堪らなかったのにも関わらず……。一方で昴は違う。無愛想な顔をしながらも「俺は好きだけど」とカミングアウトしたのだ。

 星が卓郎の事を慕っているのは三人から見ても明らかな事だった。そう、昴は自分は片想いだと分かっている中、星への好意を伝えたという事だ。卓郎にはそれを上回る勇気もきちんとした好意を持った理由もなく、長年純粋に好意を抱いている昴に対して俺も好きだとは到底言おうと決心が出来なかった。

 ***

 その時の光景が星に告白されたとき不図、頭に浮かんできたのである。もしこのまま告白を受け入れたとしても昴との友情は如何なるのだろうか。

 ──俺達の事を笑顔で祝ってくれるのか……? それとも気不味くなった挙句に絶交されてしまう……?

 という複数の意見が卓郎の頭の中で混沌と渦巻いていた。まあ、好きだとも言っていなかったのに友人と幼馴染が付き合い始めたら素直に祝える筈がない。

「ごめん。星の事は

 紛れもない嘘だった。今すぐ側に駆け寄って、抱きついて、俺も好きだと卓郎は言いたかっただろう。星は悟ったように涙を堪えながら「そうだよね、ごめんね」と謝っている。

 ──何で星が謝るんだ……。悪いのは俺なのに……。好きな人からの好きを素直に受け取れなかった俺が悪いのに。

 確かに卓郎のこの行動は自業自得であり、何方かと言えば星達は被害者である。卓郎は自らのを選んだ。それだけの話。けれども卓郎は今でもこの結論に少しばかり複雑な心情を抱いている。

 その後、昴からの何十回ものアプローチにより星と昴は付き合う事になった。今では彗が産まれてラブラブな夫婦。友情は一欠片も崩れていない。大人になっても彼等は一緒に飲む仲だ。恋愛だって卓郎自身が我慢したら良いだけの話。

 卓郎の判断は間違っていなかった。そう、間違っていなかったのだ。毎日のように卓郎は自身の胸にこう言い聞かせている。
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