とある『家族』の物語

小山田 華

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1.妹の真由

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 真由には三つ上のお姉ちゃんがいる。
 井澤いざわ美晴みはる。それがお姉ちゃんの名前。
 体が弱くて幼稚園行くより病院に行くことが多い真由と違って、お姉ちゃんは病院知らずの健康体。
 毎日『行ってきます』って楽しそうに学校に行くのを、いつも窓から見送ってた。



 小学生になっても真由の病院通いは変わらなかった。お姉ちゃんと一緒に歩いて学校に行きたくても、ママが許してくれなかった。

「ママが車で学校まで送るから。少しでも具合が悪くなったら先生にすぐに言いなさい」

 真由はちゃんとママの言う通りにしていた。
 真由が具合が悪いと感じたらすぐに先生に言って保健室に。そしてママがお迎えに来る。
 そんな毎日だったから、仲のいいお友達は全然できなかった。

「今日、お姉ちゃんの誕生日だよね? まだ帰らないの?」 

 夕方になってもお姉ちゃんの姿が見えないのでママに聞いてみたら、

「美晴はお友だちのお家が祝ってくれるって」

 そう言われた。
 テーブルの上にはいつもと同じお皿が並んでる。ちょっと豪華な料理もケーキも見当たらない。

 そっか。お友達のお家かぁ。お姉ちゃん良いなぁ。真由にはトモダチ、いないもん…

 真由はお姉ちゃんの誕生日を羨ましく思った。
 翌年の誕生日もお姉ちゃんは暗くなるまで帰らず、

「今年もお友だちのところで祝ってもらってるのよ」

 ってママが毎年言うようになった。
 同じように真由の誕生日にもお姉ちゃんの姿はなく、

「お友達の所に行ってくるって、さっき出て行ったわ」

 ママがいつもお姉ちゃんの行先を教えてくれた。お姉ちゃんはいつも友達の所に行ってて、あたしの誕生日を祝ってくれたことがない。きっと、真由よりも友達が好きなんだ。
 毎年、友達に囲まれてお誕生日を祝ってもらっているお姉ちゃん。
 毎年、パパとママの三人でのお誕生日パーティーの真由。
 なんで姉妹なのに、こんなにも違うんだろう?





 お姉ちゃんは中学生になると、帰る時間が遅くなった。と言っても八時前には帰るけど。

「お姉ちゃん、帰り遅いけど塾に行ってるの?」

 中学生になると塾に通う人がいると学校で聞いたから、ママに聞いてみたら

「部活よ」
「部活?」
「何かは秘密にしてて教えてくれないけど、友達と楽しそうにしてるわよ」

 そっか、部活かぁ。中学にはそういうのもあるんだな。
 中学生になったら真由も部活を楽しみたいな。




 中学生になり身体が大きくなったせいか少しは体力も付いて病院に行く回数は減った。けれど、保健室で休む時間は変わらずだった。真由に部活なんてする余裕はない。だって学校の勉強についていけなくなってきたんだもの。
 焦る真由にママが家庭教師をつけてくれた。
 7つ上のいとこの誠吾せいごお兄ちゃん。
 年末年始とか、夏休みとかの親戚の集まりの時に、いつもお姉ちゃんが独り占めしているお兄ちゃん。背が高くて格好良くて、声も優しそうで。お兄ちゃんと一緒にいる間、お姉ちゃんは自慢げに楽しそうに過ごしてる。
 お兄ちゃんはとても有名な大学の、有名な学部にいるんだって。そういえば、お兄ちゃんが大学生になった年、お姉ちゃんが何度も凄い凄いって言っているのを、遠くから見たことがある。
 親戚の集まりの時は、真由はパパとママの傍にいなきゃいけなかった。ちょっと離れるとママが怒るんだもの。だから、お兄ちゃんと一緒にいることができるお姉ちゃんがズルいと思っていた。

 真由だってお兄ちゃんと一緒に遊びたいのに。お話ししたいのに!

 ずっとそう思ってたから、お兄ちゃんが家庭教師で来てくれると知った日はとても嬉しくて、来てくれる日を楽しみにしてた。
 誠吾お兄ちゃんがお姉ちゃんじゃなくて、真由と勉強してくれるんだもの。真由がお兄ちゃんを独り占めできるんだもの。
 初めてお兄ちゃんが家に来た日は、お姉ちゃんが珍しくリビングにいた。いつもは自分の部屋に籠っているのに。
 きっと親戚の集まりの時のようにお兄ちゃんを独占したいんだろうな。でも、お兄ちゃんは真由の家庭教師なの!
 真由はお姉ちゃんと話していたお兄ちゃんを引っ張って、自分の部屋に案内した。




 ある時、お姉ちゃんがネックレスをしてるのを見た。可愛いネックレスだった。
 昨日はお姉ちゃんの誕生日だったから、友達から貰ったプレゼントなのかもしれない。
 とにかく、可愛くて。

「ママ、お姉ちゃんのネックレス見た? 可愛いね。いいなあ。真由も欲しいな」

 真由はお夕飯の時に、お姉ちゃんの胸元を見ながら何度もそう言っていた。そうしたらお風呂から上がった真由にお姉ちゃんがそのネックレスをくれた。
 そうだよね。お姉ちゃんは友達からいっぱいプレゼントを貰ってる。毎年パパとママからしかプレゼント貰ってない真由とは違う。
 それに今までお姉ちゃんからプレゼントを一度も貰ったことないもの。
 たまに一つくらい何かを貰っても、いいよね。




 お姉ちゃんは高校に通うようになってから、帰る時間が更に遅くなった。

「またあの子は遊び歩いて。困った子よね」

 ママが不機嫌にそう毎日言っている。
 遊び歩いてママを心配させるなんて!って思うけど、半面羨ましい。真由の門限、6時なんだもの。
 中学生だし、無理するとすぐに寝込んじゃうから仕方ないのもわかっているけど。
 ……お姉ちゃんは自由でいいな。



 誠吾お兄ちゃんは真由の家に週4回来てくれて、お兄ちゃんの教え方が上手いのか、真由のやる気が出たせいなのか、それなりに有名な高校に無事進学することができた。
 高校に入ってからもお兄ちゃんは変わらず家庭教師を続けてくれている。高校生になってからの誕生日はパパとママだけじゃなくて、お兄ちゃんも交えてのパーティーに変わった。
 お姉ちゃんは相変わらず夜遅くまで帰ってこない。真由へのプレゼントも相変わらずない。
 でも良いの。お兄ちゃんが代わりにプレゼントくれるもの。
 それに。

「真由は可愛いよね」

 お兄ちゃんはよくそう言ってくれるの。
 時々ママも言ってくれる。

「誠吾さんと真由はお似合いね」

 『お似合い』だって!
 真由と誠吾お兄ちゃんは正式にお付き合いしているわけじゃないけど、4年も週4回は必ず真由の家庭教師として家に来てくれている。家庭教師の日はご飯も一緒に食べている。これって、親公認で付き合っているのと変わらないよね?




 17歳の誕生日パーティー。
 参加者はパパとママと誠吾お兄ちゃん。主役は真由。
 ママの作ってくれた料理とケーキを皆で囲む。ケーキに刺さった蝋燭の火を、吹いて消して。

「誕生日おめでとう!」

 皆に祝福の言葉をもらう。プレゼントをもらう。笑顔に囲まれている。
 うれしい…友達なんかいらない。お姉ちゃんなんかいなくても構わない。
 パパとママと、誠吾お兄ちゃんがいれば!
 美味しい料理を4人で食べてケーキを食べて、お喋りタイム。

「もう17なんだなぁ」

 パパが感慨深くそう言えば、

「本当、17年って早いわ」

 ママが頷く。

「あっという間にお嫁にいきそうですね」

 真由を見てお兄ちゃんが笑う。
 お嫁さん、かぁ。いつかお兄ちゃんのお嫁さんになりたいなぁ。

 それが今の真由の細やかな夢。




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