群青の緋

竜田彦十郎

文字の大きさ
14 / 66
或いは夢のようなはじまり

13 新條家前で

しおりを挟む
 明かりも消えた新條家前。

『……すまん。見失った』

 申し訳なさそうに頭を垂れながら合流したパートナーを前に、少女は僅かに眉根を寄せた。
 黒服の少女の正体を掴めなかった事は残念だが、それはそれでひとつの収穫とも言える。
 なにしろ、凄腕ハンターであるパートナーの追跡を逃れるだけの身体能力、或いはその技術ないし装備を有しているという事に他ならない。
 それだけで要注意人物だと断定できる。

「それにしても……」

 合流を待つ間に思考を巡らせていたが、今夜は妙に近隣の犬や猫が騒がしい。深夜帯になろうというのに、街路樹のそこかしこで鳥の群れが落ち着きなく鳴く声も耳に届いている。
 正確に言えば、マンション爆発の前後あたりから様々な鳴き声が急に増えていると感じていた。

「あなたも、何か感じているの?」

『そうだな……』

 人間を超える感覚を持つパートナーならば明確な解答を用意してくれるとも期待したが、その口調は歯切れが悪い。

『…似た感覚なら、覚えている』

 しかし、その感覚を浴びたのはかなり昔の出来事だ。
 まさか生きている間に同様の経験を積むとは考えていなかった事もあり、本当に同一の事を指し示しているのかどうか。
 周辺の動物は己が本能に衝き動かされるままに騒ぎ立てるが、自身を律する事の出来る身としては迂闊な発言を漏らす訳にはいかない。
 似ているというだけで、その可能性を口にするのは早計すぎる。それだけの重みを持った発言になってしまうのだ。

「まぁ、いいわ。今夜のところは帰りましょう」

 少女は溜息混じりに踵を返した。
 あまり楽観できない事ばかりが積み重なってきている気がするのは錯覚ではないだろうが、今の時点で予防線を張るというのも闇雲過ぎて徒労に終わるというのが目に見えている。

 一度だけ、新條家を振り返る。
 直樹も香月も、今夜の内に場所を移すような事にはならないだろう。
 目には見えぬ厚い力に護られているこの家ならば、悪意をもって武装した者に攻め込まれない限りは安全だ。

 小さく息を吐くと、周囲に注意を払いながらその場を後にする。
 黒服の少女、もしくはその仲間が気を抜いた自分達を尾行していないとも限らない。
 背負い込まなくて良いリスクは、できるだけ減らしておきたいものだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...