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異世界転生から始まる……?
冒険者長屋
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姐御……じゃなくて、アルテイシアさんは妙に機嫌が良かった。
楽天的な人なのかとも思ったが、常に鼻歌交じりで行動する人はそうそういないだろう。
「アルテイシアさん、なにか楽しい事でも?」
わざわざ案内してもらうのだ。
黙ったままよりは、合う話題があれば口を動かしていた方が良いだろう。
「ははは。シアでいいよ。お姫様みたいな名前で笑っちゃうだろ」
アル……シアさんは困ったように笑った。
鍛えられた身体に加えて豪快な口調なので荒っぽくも見えるが、目鼻立ちは整っているし、歩く姿勢も美しい。
身なりを整えれば、誰も笑ったりはできないだろう。
(…って、余計なお世話か)
冒険者稼業とは生き抜くための手段だ。
才能に溢れている者であれば服飾や趣味に時間を割く事も可能だろうが、大多数の者はそうではない。
目の前を歩くシアさんも、その大多数である可能性が高いのだ。
彼女がどれだけ魅力的なのだとしても、それを知るのは彼女のパートナーだけで良い。
「機嫌が良く見えるのなら、あんたのお陰だよ」
俺の心中など知らないシアさんは、がははと続ける。
「サマンズさんの商隊を助けてくれたんだってね。私も貴重な薬を取り寄せて貰っていてさ。私から見ても、あんたは恩人なんだよ。
そんなあんたの力になれるなら、そりゃあ鼻歌も出てこようってもんさ」
シアさんは隣に並ぶと、俺の首に腕を回してきた。
「うわ…っ、ちょ、胸が……!」
鍛え上げ、脂肪を削ぎ落とした身体であると見えたが、それでも女性特有の柔らかさと匂いを押し付けられて狼狽えてしまう。
革製の防具がみっちりと身体を包んでいるものの、特にその胸は見た目以上のボリュームを隠している。
「なんだいなんだい。こんな身体に反応してくれるんなら、それもまた嬉しいねえ!」
いよいよ楽しくなってきたのか、シアさんは目的地に着くまで俺の首に回した腕を外してくれなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「よし着いた。この『冒険者長屋』が今日からユースケの住まいだ!」
太陽が朱く染まり始めた頃、町外れにある目的地に到着した。
長屋とは言うが、建物自体は細長い訳ではなく極めて普通の印象だ。
その昔に大きな宿屋として建てられたそうだが、思うように集客が伸びず潰れてしまったらしい。
そこをギルド組合が買い上げ、ギルド登録している者から希望者を住まわせているそうだ。
通称こそ『冒険者長屋』だが、冒険者ギルド以外のギルド員もいるとの事。人数の比率からそう呼ばれ始めたのだろう。
う~ん、寮みたいなものと考えればいいか。
「たまに偏屈な奴も居るが、長い事住んでいれば仲良くなるさ」
「いや、そんな長くは……」
ここに来るまでに、シアさんには旅の目的を話している。
しばらくはここに厄介になるが、離れ難くなる前には次の町を目指すつもりだ。
「なぁに、予定だろ。予定。そのうちに気が変わる事だってあるさ!」
マイペースなシアさんである。なんというか、姐御だ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それじゃあ、また後でな!」
案内された部屋は、6畳程度の広さだった。
ベッドや本棚、小さいながらも机もあるが、生活必需品を置くだけで空いているスペースは埋まってしまいそうだ。
ここよりも狭い部屋を自室としていた身としては、これだけでも随分と出世した気分だが。
食堂やトイレは共同であり、水道も食堂にある井戸のみ。水差しは必須アイテムのひとつだろう。
夕食の時間はまちまちだが、少ししたらシアさんが案内がてら迎えに来ると言っていた。
とりあえずベッドに腰掛けた。
「うへっ」
埃が舞い上がった。
長い間、誰も住んでいなかったのか、見えないところに埃が積もっている。
『掃除するの!』
エリカさんに撫でられまくって以降、気配すら感じさせずにいたアメジィが飛び出してきた。
アメジィに言われるまでもなく、これは掃除をしないと健康に支障を来すのは想像に難くない。
定番の浄化魔法とか、そんなやつの出番だ。
『風魔法の練習するの!』
風?
光魔法の浄化とかじゃなくて?
『練習って言ったの! ムーンソードの力なら、光魔法なんて簡単すぎるの!』
ふむ……よし、やるか。
思っていたよりも早く寝床を確保できたし、この先の事を考えれば色々と出来なければ俺自身が困るだけだ。
目の前に舞う埃を払い除けながらベッドから立ち上がる。
『イメージなの!』
室内全体に風を、気流を渦巻かせながら、隅々に積もっている塵を浮かせ、掬い上げる。
手の届かないベッドの下や本棚の裏、天井板まで。
ベッドのマットレスや、布団の繊維の隙間にも風を通して細かい埃を掻き出す。
部屋の端から徐々に中心へと向かって、気流を圧縮し続ける。
やがて部屋の中央には、直径20センチほどの灰色の球体が出来上がった。
埃と塵の塊だ。
『燃やすの!』
風魔法を行使しながらに火魔法とか無茶を言ってくれると思ったが、目の前の塊は一瞬で炎に包まれた。
気流を内側に向けて圧縮し続けていたお陰で、炎は周囲に飛び散ることもなく消失した。
「…こんなもんか」
炎が確かに存在したという証の熱が頬に残されたが、それもすぐに消えてゆく。
服や皮膚に付着していた汚れまでもが削ぎ落とされたと分かる。
なんちゃってとはいえ、凄いな魔法って。
「お…おい、今のって……」
部屋の入口から聞こえる震えた声。
視線を向けると、そこにはシアさんが呆然と立ち尽くしていた。
楽天的な人なのかとも思ったが、常に鼻歌交じりで行動する人はそうそういないだろう。
「アルテイシアさん、なにか楽しい事でも?」
わざわざ案内してもらうのだ。
黙ったままよりは、合う話題があれば口を動かしていた方が良いだろう。
「ははは。シアでいいよ。お姫様みたいな名前で笑っちゃうだろ」
アル……シアさんは困ったように笑った。
鍛えられた身体に加えて豪快な口調なので荒っぽくも見えるが、目鼻立ちは整っているし、歩く姿勢も美しい。
身なりを整えれば、誰も笑ったりはできないだろう。
(…って、余計なお世話か)
冒険者稼業とは生き抜くための手段だ。
才能に溢れている者であれば服飾や趣味に時間を割く事も可能だろうが、大多数の者はそうではない。
目の前を歩くシアさんも、その大多数である可能性が高いのだ。
彼女がどれだけ魅力的なのだとしても、それを知るのは彼女のパートナーだけで良い。
「機嫌が良く見えるのなら、あんたのお陰だよ」
俺の心中など知らないシアさんは、がははと続ける。
「サマンズさんの商隊を助けてくれたんだってね。私も貴重な薬を取り寄せて貰っていてさ。私から見ても、あんたは恩人なんだよ。
そんなあんたの力になれるなら、そりゃあ鼻歌も出てこようってもんさ」
シアさんは隣に並ぶと、俺の首に腕を回してきた。
「うわ…っ、ちょ、胸が……!」
鍛え上げ、脂肪を削ぎ落とした身体であると見えたが、それでも女性特有の柔らかさと匂いを押し付けられて狼狽えてしまう。
革製の防具がみっちりと身体を包んでいるものの、特にその胸は見た目以上のボリュームを隠している。
「なんだいなんだい。こんな身体に反応してくれるんなら、それもまた嬉しいねえ!」
いよいよ楽しくなってきたのか、シアさんは目的地に着くまで俺の首に回した腕を外してくれなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「よし着いた。この『冒険者長屋』が今日からユースケの住まいだ!」
太陽が朱く染まり始めた頃、町外れにある目的地に到着した。
長屋とは言うが、建物自体は細長い訳ではなく極めて普通の印象だ。
その昔に大きな宿屋として建てられたそうだが、思うように集客が伸びず潰れてしまったらしい。
そこをギルド組合が買い上げ、ギルド登録している者から希望者を住まわせているそうだ。
通称こそ『冒険者長屋』だが、冒険者ギルド以外のギルド員もいるとの事。人数の比率からそう呼ばれ始めたのだろう。
う~ん、寮みたいなものと考えればいいか。
「たまに偏屈な奴も居るが、長い事住んでいれば仲良くなるさ」
「いや、そんな長くは……」
ここに来るまでに、シアさんには旅の目的を話している。
しばらくはここに厄介になるが、離れ難くなる前には次の町を目指すつもりだ。
「なぁに、予定だろ。予定。そのうちに気が変わる事だってあるさ!」
マイペースなシアさんである。なんというか、姐御だ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それじゃあ、また後でな!」
案内された部屋は、6畳程度の広さだった。
ベッドや本棚、小さいながらも机もあるが、生活必需品を置くだけで空いているスペースは埋まってしまいそうだ。
ここよりも狭い部屋を自室としていた身としては、これだけでも随分と出世した気分だが。
食堂やトイレは共同であり、水道も食堂にある井戸のみ。水差しは必須アイテムのひとつだろう。
夕食の時間はまちまちだが、少ししたらシアさんが案内がてら迎えに来ると言っていた。
とりあえずベッドに腰掛けた。
「うへっ」
埃が舞い上がった。
長い間、誰も住んでいなかったのか、見えないところに埃が積もっている。
『掃除するの!』
エリカさんに撫でられまくって以降、気配すら感じさせずにいたアメジィが飛び出してきた。
アメジィに言われるまでもなく、これは掃除をしないと健康に支障を来すのは想像に難くない。
定番の浄化魔法とか、そんなやつの出番だ。
『風魔法の練習するの!』
風?
光魔法の浄化とかじゃなくて?
『練習って言ったの! ムーンソードの力なら、光魔法なんて簡単すぎるの!』
ふむ……よし、やるか。
思っていたよりも早く寝床を確保できたし、この先の事を考えれば色々と出来なければ俺自身が困るだけだ。
目の前に舞う埃を払い除けながらベッドから立ち上がる。
『イメージなの!』
室内全体に風を、気流を渦巻かせながら、隅々に積もっている塵を浮かせ、掬い上げる。
手の届かないベッドの下や本棚の裏、天井板まで。
ベッドのマットレスや、布団の繊維の隙間にも風を通して細かい埃を掻き出す。
部屋の端から徐々に中心へと向かって、気流を圧縮し続ける。
やがて部屋の中央には、直径20センチほどの灰色の球体が出来上がった。
埃と塵の塊だ。
『燃やすの!』
風魔法を行使しながらに火魔法とか無茶を言ってくれると思ったが、目の前の塊は一瞬で炎に包まれた。
気流を内側に向けて圧縮し続けていたお陰で、炎は周囲に飛び散ることもなく消失した。
「…こんなもんか」
炎が確かに存在したという証の熱が頬に残されたが、それもすぐに消えてゆく。
服や皮膚に付着していた汚れまでもが削ぎ落とされたと分かる。
なんちゃってとはいえ、凄いな魔法って。
「お…おい、今のって……」
部屋の入口から聞こえる震えた声。
視線を向けると、そこにはシアさんが呆然と立ち尽くしていた。
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