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はじまり
007 人類に仇なすもの
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「圭ちゃん?」
右腕を引かれ我に返る。ついには圭の足は止まっており、眞尋が心配そうに圭を見上げていた。一樹も促すような視線を投げかけてきている。
「ああ……ごめんごめん。なんでもないんだ」
空いている左手で眞尋の頭を軽く撫で、止まっていた足を駅へと向ける。
昨日の出来事に気持ちが向いていたせいで気分が悪くなったかと心配したが、少なくとも自覚するほどの影響はない。
他人の目からはどうだったろうかと眞尋の頭越しに一樹に無言で問いかけてみたが、こちらも傍目に分かるような変化は認められないようだった。
昨日は眞尋が一緒でなくて本当に良かったと圭は思った。
日直当番で圭達よりも先に登校していなかったならば、あの惨劇の立会人となってしまったのは間違いない。
眞尋は時に大胆な行動を見せたりもするが、その実は繊細で多感な少女である。血生臭い場面に遭遇してトラウマを抱える事になろうものなら、明るい筈の将来は危ういものへとすり替わってしまうだろう。
重くなり始めた場の空気から逃げ出すように、駅へと急ぎ足になる一同。しばらくは通り道を変えるべきだろうな、そんな事を思案する圭達の前を見慣れない三台のトラックが通り過ぎた。
先頭を無彩色に近い草色で統一された小型トラックが、そして威圧感に満ちた同色の二台の大型トラックが追従する。
「…哨戒部隊ってやつか」
三台の車輌の側面にペイントされた共通のマーキングを見て一樹が呟き、眞尋が無言で首肯した。
哨戒部隊。
『対侵蝕者殲滅遊撃部隊』を誰が言い出したのか、そんな呼称が一般人の間では定着していた。
数年前からその存在は白日に晒され、今や誰の目を憚る事なく活動している。
昔はともかく、個人でも全世界に向けて情報を発信できる現代である。侵蝕者という存在が、国家権力が作る壁では隠す事ができなくなった結果と言えた。
「初めて実物を見たな。この辺にも侵蝕者が出る可能性があるって事か」
眉根を寄せる一樹の言葉に、誰も答える事が出来ない。肯定も否定すらも。
――侵蝕者。
古の時代に宇宙より飛来したものとも、姿なき悪意が形を為したものだとも言われている。
現在に至り、いくつか判明している事もあるが、その存在の核心に迫る事柄は未だに想像の域を脱しない。
ただひとつ確実な事。侵蝕者は人間を敵視しており、ひとたび出現すればその身が朽ちるまで人間を無差別に襲うという事。そして人間との戦いはゆうに千年を越えているという事だ。
(そういえば、この道路も…)
靴底の下に広がる舗装道路。これも侵蝕者対策の一環だと知った時には驚いたものだった。
侵蝕者は柔らかい土塊を己の肉体にするため、道を鋪装する事によって侵蝕者の出現そのものを抑えているのだという。
これまでに報告されている被害地域が山間部の町や村に多いのはそのためだとも。
しかし、そういった対策も人間側の憶測の結果でしかなく、結局のところ最終的には武力による強制排除が物を言うのだ。
そして被害を最小限に抑えるための哨戒部隊である。常に巡回し侵蝕者の出現に備え、その報が飛び込めば即座に駆け付ける尖兵となるのだ。
噂によれば対侵蝕者の探知器も備えているのだとか。装置の探査範囲の狭さを補うために車輌を用い、常に動き回っているのだという話も妙に説得力を帯びている。
「まぁ、こんなコンクリートジャングルの中じゃ、侵蝕者も無闇に出てこれやしないだろうけどな」
一樹の軽口が、この話題はここまでだという合図になった。
これからの将来、決して無視し続ける事は出来ないであろう題目ではあるが、差し当たって学生の身である三人には遅刻しない事の方が重要なのだった。
右腕を引かれ我に返る。ついには圭の足は止まっており、眞尋が心配そうに圭を見上げていた。一樹も促すような視線を投げかけてきている。
「ああ……ごめんごめん。なんでもないんだ」
空いている左手で眞尋の頭を軽く撫で、止まっていた足を駅へと向ける。
昨日の出来事に気持ちが向いていたせいで気分が悪くなったかと心配したが、少なくとも自覚するほどの影響はない。
他人の目からはどうだったろうかと眞尋の頭越しに一樹に無言で問いかけてみたが、こちらも傍目に分かるような変化は認められないようだった。
昨日は眞尋が一緒でなくて本当に良かったと圭は思った。
日直当番で圭達よりも先に登校していなかったならば、あの惨劇の立会人となってしまったのは間違いない。
眞尋は時に大胆な行動を見せたりもするが、その実は繊細で多感な少女である。血生臭い場面に遭遇してトラウマを抱える事になろうものなら、明るい筈の将来は危ういものへとすり替わってしまうだろう。
重くなり始めた場の空気から逃げ出すように、駅へと急ぎ足になる一同。しばらくは通り道を変えるべきだろうな、そんな事を思案する圭達の前を見慣れない三台のトラックが通り過ぎた。
先頭を無彩色に近い草色で統一された小型トラックが、そして威圧感に満ちた同色の二台の大型トラックが追従する。
「…哨戒部隊ってやつか」
三台の車輌の側面にペイントされた共通のマーキングを見て一樹が呟き、眞尋が無言で首肯した。
哨戒部隊。
『対侵蝕者殲滅遊撃部隊』を誰が言い出したのか、そんな呼称が一般人の間では定着していた。
数年前からその存在は白日に晒され、今や誰の目を憚る事なく活動している。
昔はともかく、個人でも全世界に向けて情報を発信できる現代である。侵蝕者という存在が、国家権力が作る壁では隠す事ができなくなった結果と言えた。
「初めて実物を見たな。この辺にも侵蝕者が出る可能性があるって事か」
眉根を寄せる一樹の言葉に、誰も答える事が出来ない。肯定も否定すらも。
――侵蝕者。
古の時代に宇宙より飛来したものとも、姿なき悪意が形を為したものだとも言われている。
現在に至り、いくつか判明している事もあるが、その存在の核心に迫る事柄は未だに想像の域を脱しない。
ただひとつ確実な事。侵蝕者は人間を敵視しており、ひとたび出現すればその身が朽ちるまで人間を無差別に襲うという事。そして人間との戦いはゆうに千年を越えているという事だ。
(そういえば、この道路も…)
靴底の下に広がる舗装道路。これも侵蝕者対策の一環だと知った時には驚いたものだった。
侵蝕者は柔らかい土塊を己の肉体にするため、道を鋪装する事によって侵蝕者の出現そのものを抑えているのだという。
これまでに報告されている被害地域が山間部の町や村に多いのはそのためだとも。
しかし、そういった対策も人間側の憶測の結果でしかなく、結局のところ最終的には武力による強制排除が物を言うのだ。
そして被害を最小限に抑えるための哨戒部隊である。常に巡回し侵蝕者の出現に備え、その報が飛び込めば即座に駆け付ける尖兵となるのだ。
噂によれば対侵蝕者の探知器も備えているのだとか。装置の探査範囲の狭さを補うために車輌を用い、常に動き回っているのだという話も妙に説得力を帯びている。
「まぁ、こんなコンクリートジャングルの中じゃ、侵蝕者も無闇に出てこれやしないだろうけどな」
一樹の軽口が、この話題はここまでだという合図になった。
これからの将来、決して無視し続ける事は出来ないであろう題目ではあるが、差し当たって学生の身である三人には遅刻しない事の方が重要なのだった。
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