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◇◇◇
「ゆのかっ、今日の放課後、私んち来てよ~
お母さんが、ケーキ作ったんだって!せっかくだから、海に持っていって食べよーよ!」
次の日の休み時間、水湖がゆのかの腕に絡みつく。
「おっ、ケーキ!いいねぇ~!!
オレの大好物じゃん!!よしも来いよ!今日、塾ない日だろっ?」
「いや、俺は別に…」
襟元を掴まれた大和に、良也は迷惑そうな顔をする。
「誰もあんた達、誘ってないしっ!」
「えぇ~いいじゃん!
みぃのケチィ~!そんなんじゃ、モテないぞ…ウグッ!」
「よけーなお世話!!」
水湖の鉄拳が、大和の顎に炸裂。良也は呆れ顔をしている。そんな…いつもと変わらない生活。
……だが
『今日から放課後、遊びに行くの禁止。
破ったら罰、って昨日言ったよね?』
朝、学校に行く前、航に言われた言葉が、ゆのかの頭を支配する。
(罰って…何…?
お家、帰ったら…おじいちゃんはいなくて……あの怖い航ちゃんが、いるの…?
嫌だ…どうして航ちゃんは…あんなに怖くなっちゃったの?元の航ちゃんは、どこに行ったの…?)
泣きそうになるのを、必死に耐える。
葬式の次の日。本当なら、学校を休んでもよかった。
それでも何とか登校したのは…恐ろしい祖母と航がいるあの家に居たくなかったからだ。
「…………いっ!
おい、ゆのか!」
大和の声に、ハッと我に返った。
3人が、ゆのかに視線を送っている。咄嗟に、明るい声を出す。
「あ……ごめんね!
えっと…聞いてなかった。何?」
「…大丈夫か?」
大和の腕から逃れた良也が、心配そうにゆのかに聞く。
(きっと…おじいちゃんが亡くなった次の日だから、元気がないんだろうって…みんな、心配してくれてる……)
なんて言えばいいのか分からず、ゆのかは必死に考えた。
(航ちゃんが帰ってきたよ…って、言うべき…?
でも、あの航ちゃんを見て……みんな、何て思うかな…………)
言いたい気持ちと、言ってしまえばみんなが傷つきそうな気がして……さらに深く考え込む。
(でも………みんなに隠し事はしたくないし……
でも…でもっ……!)
何が正しいのか、分からない。ゆのかはもう、頭がぐちゃぐちゃだった。
「ちょ…ゆのか?!
えっとっ……ハンカチ…ハンカチ………あれっ、ポッケにない!!!」
いつの間にか、ボロボロ泣いていたゆのか。水湖が、慌ただしくハンカチを探す。
そんな水湖を横目に…良也はゆのかに、ティッシュを渡した。
「大事な人が亡くなって…大丈夫なわけないよな。」
「よし…くっ…」
「あのイヤミなババアに、何か言われたのか?
それとも…他に何かあった?」
「っ…!」
良也の優しい言葉に…ゆのかは、我慢の糸が切れてしまった。
「航…ちゃんっ……帰っ…て…きたの…っ………」
3人の表情が固まった。
「航くんが、帰ってきた……?
どういうこと?!!」
水湖は、ハンカチを探すのを止めて、目を大きく開いている。
「昨日……っ、突然…私の家に…来て……っ……
私の…ボディー…ガード……っ、する…って……」
「マジかよ…っ!
アイツ、帰ってきたのか?!すげぇじゃんっ!!!」
「……なんでゆのかは、泣いてんの?」
嬉しそうな大和とは対照的に、良也は冷静だった。
「私だってっ……航ちゃんが、生きててくれて……会えて……本当に…嬉しかったっ…!……でもっ…航ちゃん…変わっちゃった…」
この2年間、航に何があったのかは知らない。
だが、確実に……航は、あの時の航ではなかった。
「怖…くて……っ、どうすれば、いいか…分かんなくて……ふっ…く…」
ゆのかの手を、力強く振り払った航。ずっと無表情で言葉は冷たくて、ゆのかに憎しみをぶつけるように笑っていた。
何か訳があるに違いない。そんな可能性が考えられないくらい…祖父を亡くしたゆのかに、心の余裕はなかった。
「じゃあさっ!」
大和が、明るく口を開く。
「今日、ゆのかんちに、遊びに行ってもいいか?」
「……え?」
「航にも、久しぶりに会いたいし!
覚えてるか?航ってさ、昔はすげぇチビで、俺がいなきゃ、上級生にいじめられてさ……航と2人でよく、仕返ししてただろ?
だから…もし、航が変わっても……戦友の俺なら、何とか出来る気がすんだよな!………なーんて。」
「私も、航くんにめちゃくちゃ会いたい!!
ゆのかの様子も変だし、私も遊びに行ってもいいかなっ?」
水湖も、大和の意見に賛成する。
「よしは?来るよなっ?」
大和が良也に聞く。ついてくるのが当然のような空気に、良也は溜め息を1つ吐いた。
「俺は……あまり、乗り気じゃない。」
「なっ…!なんでだよっ!?」
「今の州長に関して、あまりいい噂が流れてないから。
裏でヤバい奴らと組んでて、犯罪をもみ消しているらしいとか…近々、禁海法を実施するかもしれないとか…
もしかしたら……航の母親の死と関係している可能性もある。」
「……?!!」
良也の言う噂に、ゆのか達3人は、驚きを隠しきれない。
「それ、マジか?!」
「……まぁ、あくまでも噂だからな。
けど、そんな噂が出るような州長だ。普通なら、無闇に関わらない方がいい。」
正論に何も言い返せないようで、水湖と大和は黙った。
だけど、良也は…ゆのかを見て、小さく笑った。
「でも…ゆのかが関わってる。
航だって大事な幼馴染だ。俺は2人を放っておけない。」
「……!」
クールで、たまに何を考えているのか、分からない時もあるが……良也の顔は、優しかった。
ゆのかはまた、涙が出そうになった。
「それに…少なくとも、ケーキよりかは興味があるし。」
「おまえ、一言余計だっつーの!!
それ言わなきゃ、かっこよかったのに…くそっ、もったいないっ!」
大和が残念そうに呟く。水湖は、クスクス笑った。
いつもの様子を見て、ゆのかの気持ちは、ほんの少し軽くなった。
(それに…明日は、小学校の卒業式……落ち込んでなんか…いられない。
とにかく、3人に会わせて……航ちゃんを、元に戻さなきゃ…!)
両頬をペチンと叩いて、ゆのかは、なんとか自分を奮い立たせた。
だが、この選択が、後に大きな過ちにとなることを……この時のゆのかは、知る由もなかった。
◇◇◇
卒業式前日ということで、学校は早帰りとなった。
いつもより長い放課後。ゆのかは3人を連れて、家までやってきた。
門を開けてもらって、庭を通りかかる。すると大和の目が輝いた。
「いつ見ても、ゆのかんちってスゲーよなぁっ!
でっけーイスに座って、オホホ~とか、やるんだろ?!」
「うーん……
ちょっと…やってないかなぁ…」
ちょっとというか、全くやってないゆのかは、返事に困ってしまう。その様子に、水湖は頬を膨らませた。
「大和はしゃぎすぎっ、ゆのかがそんな風に笑うわけないでしょ?!
まったく…少しは、よっしー見習ったら??」
「みぃだって、いつもはうるさいくせに~こーゆー時だけ、いい子ぶるなよ~」
「はぁ?!あんたにだけは言われたくない!!」
水湖と大和が、さっそく漫才をしている。
「…もういい。
ゆのか、あの2人ほっといて、早く中に入ってくれ。」
良也は、すっかり呆れ顔だった。ゆのかは苦笑いしながら、ドアを開ける。
「ただい…」
「遅い。」
ビクッ!と、鋭い声に肩が飛び跳ねる。
腕を組んで、目の前に立っていたのは…航だった。
「一体、こんな時間まで、どこで何をしてたの。
今日は早く帰ってこいって、言ったはずだよね?」
「あっ……や、その……………………」
あまりにも突然のことに、思わず泣きそうになる。
(駄目っ……みんなが、いるんだから……泣いちゃ駄目!
これ以上…心配、かけるわけにはいかない……っ、泣き顔なんて…見せられない……!)
唇を噛み締める。頬がひきつるのを感じながら、ゆのかは航に笑顔を向けた。
「きょっ…今日ねっ……みぃちゃんと、大和と、よしくんが、遊びに来てくれた…から……ひっ、久しぶりに…お話ししない……?」
言い終えた瞬間、泣き出さないようにまた唇を噛んだ。
(…言えた。)
かなり、無理をした気がするが、とりあえず、ホッとした。
「航!久しぶりじゃん!!
覚えてっか?オレ、大和!」
「航くん!!みぃだよ?
戻ってきてくれて、嬉しい!!」
「元気そうだな。」
3人は気さくに、航に話しかける。そんな3人を、航はジロジロ見た。
「……それもそうだね。」
航の声が、穏やかになった気がした。
(よかった……声、優しくなった……
この3人と話せば……もしかしたら、航ちゃんは、元に戻るかも…)
安心して、胸を撫で下ろす。
「警告。これ以上、ゆのかに近づくな。
僕からはそれ以外、話すことはない。」
だが、次の瞬間、ゆのかは一気に、現実へ引き戻された。
航の言い方は、酷く機械的で冷たくて、ゆのかは言葉を発することができなかった。
「おっ…おいおい!
航…何言ってんだよ?冗談はよせっ!」
「ゆのかが誰と仲良くするなんて、航に決める権利はないだろう。」
「そっ…そそっ、そうだよ航くん!
私達、ゆのかの大親友なんだよ…?」
大和は戸惑い、良也はしかめ面をした。水湖はゆのかに抱きついて、航の変貌ぶりに目を丸くしている。
航は…はぁ。と、溜め息を漏らした。そして、ゆのかを睨みつけた。
「ゆのか。」
「っ…!!」
体がビクリと震える。
航がゆのかの腕を強く引っ張ると、水湖の手は、簡単に離れていった。
「放課後は遊ぶなって、言ったよね?
よっぽど罰受けたいんだ。来て。」
「痛っ……
やっ…離して……航ちゃん!」
冷たい声に、必死に、抵抗する。
手を引っ張られている状況は、同じなのに
『ゆのかちゃんっ、行こ!!』
出会った頃の優しさなんて、どこにもなかった。
「航っ…テメェ…ふざけんな!!」
「きゃっ……」
大和が、航に体当たりした。その衝動で、ゆのかの手は航から離れる。
ゆのかはその場で、尻もちをついた。
「………チッ」
「ゆのかっ…大丈夫!?」
「う…ん………」
水湖が駆け寄って、手を差し出してくれた。
その手に掴まって、慌てて立ち上がる。大和が、航の胸倉を掴んでいた。
「なにがあったんだよ……っ?!
勝手にいなくなりやがって…やっと戻って来たと思ったら、こんなんになって……
昔のオマエはっ…俺らの知ってる航は、どーしたんだよっ?!」
怒りと悲しみが混ざった眼差しを航に向ける。
「弱いくせにっ…ヤなことあっても、誰も傷つけねぇくらい、優しいヤツで…
オマエはいつも、誰かを笑顔にしてたよな?!なんでゆのかを…み…んなをっ………悲しませるよーなことするんだよ!!!」
大和は肩で息をしている。
「ふ…あははははははは!!」
航は、そんな大和を馬鹿にするように笑った。
「てめぇ…何笑ってんだ!!」
「ははっ…あははははは!!!!
あのさ。誰に向かって…口を聞いているわけ?」
低い声に、ゆのかは心臓が止まりそうになった。航は、ギロリと大和を睨みつける。
「僕は、州長直々の部下。お前ごとき、簡単に潰すことができる。
身をわきまえて欲しいんだけど。」
「チョーシに乗るんじゃねぇよ!!」
大和は拳を振り上げて、航を殴ろうとした。
「ゆのかっ、今日の放課後、私んち来てよ~
お母さんが、ケーキ作ったんだって!せっかくだから、海に持っていって食べよーよ!」
次の日の休み時間、水湖がゆのかの腕に絡みつく。
「おっ、ケーキ!いいねぇ~!!
オレの大好物じゃん!!よしも来いよ!今日、塾ない日だろっ?」
「いや、俺は別に…」
襟元を掴まれた大和に、良也は迷惑そうな顔をする。
「誰もあんた達、誘ってないしっ!」
「えぇ~いいじゃん!
みぃのケチィ~!そんなんじゃ、モテないぞ…ウグッ!」
「よけーなお世話!!」
水湖の鉄拳が、大和の顎に炸裂。良也は呆れ顔をしている。そんな…いつもと変わらない生活。
……だが
『今日から放課後、遊びに行くの禁止。
破ったら罰、って昨日言ったよね?』
朝、学校に行く前、航に言われた言葉が、ゆのかの頭を支配する。
(罰って…何…?
お家、帰ったら…おじいちゃんはいなくて……あの怖い航ちゃんが、いるの…?
嫌だ…どうして航ちゃんは…あんなに怖くなっちゃったの?元の航ちゃんは、どこに行ったの…?)
泣きそうになるのを、必死に耐える。
葬式の次の日。本当なら、学校を休んでもよかった。
それでも何とか登校したのは…恐ろしい祖母と航がいるあの家に居たくなかったからだ。
「…………いっ!
おい、ゆのか!」
大和の声に、ハッと我に返った。
3人が、ゆのかに視線を送っている。咄嗟に、明るい声を出す。
「あ……ごめんね!
えっと…聞いてなかった。何?」
「…大丈夫か?」
大和の腕から逃れた良也が、心配そうにゆのかに聞く。
(きっと…おじいちゃんが亡くなった次の日だから、元気がないんだろうって…みんな、心配してくれてる……)
なんて言えばいいのか分からず、ゆのかは必死に考えた。
(航ちゃんが帰ってきたよ…って、言うべき…?
でも、あの航ちゃんを見て……みんな、何て思うかな…………)
言いたい気持ちと、言ってしまえばみんなが傷つきそうな気がして……さらに深く考え込む。
(でも………みんなに隠し事はしたくないし……
でも…でもっ……!)
何が正しいのか、分からない。ゆのかはもう、頭がぐちゃぐちゃだった。
「ちょ…ゆのか?!
えっとっ……ハンカチ…ハンカチ………あれっ、ポッケにない!!!」
いつの間にか、ボロボロ泣いていたゆのか。水湖が、慌ただしくハンカチを探す。
そんな水湖を横目に…良也はゆのかに、ティッシュを渡した。
「大事な人が亡くなって…大丈夫なわけないよな。」
「よし…くっ…」
「あのイヤミなババアに、何か言われたのか?
それとも…他に何かあった?」
「っ…!」
良也の優しい言葉に…ゆのかは、我慢の糸が切れてしまった。
「航…ちゃんっ……帰っ…て…きたの…っ………」
3人の表情が固まった。
「航くんが、帰ってきた……?
どういうこと?!!」
水湖は、ハンカチを探すのを止めて、目を大きく開いている。
「昨日……っ、突然…私の家に…来て……っ……
私の…ボディー…ガード……っ、する…って……」
「マジかよ…っ!
アイツ、帰ってきたのか?!すげぇじゃんっ!!!」
「……なんでゆのかは、泣いてんの?」
嬉しそうな大和とは対照的に、良也は冷静だった。
「私だってっ……航ちゃんが、生きててくれて……会えて……本当に…嬉しかったっ…!……でもっ…航ちゃん…変わっちゃった…」
この2年間、航に何があったのかは知らない。
だが、確実に……航は、あの時の航ではなかった。
「怖…くて……っ、どうすれば、いいか…分かんなくて……ふっ…く…」
ゆのかの手を、力強く振り払った航。ずっと無表情で言葉は冷たくて、ゆのかに憎しみをぶつけるように笑っていた。
何か訳があるに違いない。そんな可能性が考えられないくらい…祖父を亡くしたゆのかに、心の余裕はなかった。
「じゃあさっ!」
大和が、明るく口を開く。
「今日、ゆのかんちに、遊びに行ってもいいか?」
「……え?」
「航にも、久しぶりに会いたいし!
覚えてるか?航ってさ、昔はすげぇチビで、俺がいなきゃ、上級生にいじめられてさ……航と2人でよく、仕返ししてただろ?
だから…もし、航が変わっても……戦友の俺なら、何とか出来る気がすんだよな!………なーんて。」
「私も、航くんにめちゃくちゃ会いたい!!
ゆのかの様子も変だし、私も遊びに行ってもいいかなっ?」
水湖も、大和の意見に賛成する。
「よしは?来るよなっ?」
大和が良也に聞く。ついてくるのが当然のような空気に、良也は溜め息を1つ吐いた。
「俺は……あまり、乗り気じゃない。」
「なっ…!なんでだよっ!?」
「今の州長に関して、あまりいい噂が流れてないから。
裏でヤバい奴らと組んでて、犯罪をもみ消しているらしいとか…近々、禁海法を実施するかもしれないとか…
もしかしたら……航の母親の死と関係している可能性もある。」
「……?!!」
良也の言う噂に、ゆのか達3人は、驚きを隠しきれない。
「それ、マジか?!」
「……まぁ、あくまでも噂だからな。
けど、そんな噂が出るような州長だ。普通なら、無闇に関わらない方がいい。」
正論に何も言い返せないようで、水湖と大和は黙った。
だけど、良也は…ゆのかを見て、小さく笑った。
「でも…ゆのかが関わってる。
航だって大事な幼馴染だ。俺は2人を放っておけない。」
「……!」
クールで、たまに何を考えているのか、分からない時もあるが……良也の顔は、優しかった。
ゆのかはまた、涙が出そうになった。
「それに…少なくとも、ケーキよりかは興味があるし。」
「おまえ、一言余計だっつーの!!
それ言わなきゃ、かっこよかったのに…くそっ、もったいないっ!」
大和が残念そうに呟く。水湖は、クスクス笑った。
いつもの様子を見て、ゆのかの気持ちは、ほんの少し軽くなった。
(それに…明日は、小学校の卒業式……落ち込んでなんか…いられない。
とにかく、3人に会わせて……航ちゃんを、元に戻さなきゃ…!)
両頬をペチンと叩いて、ゆのかは、なんとか自分を奮い立たせた。
だが、この選択が、後に大きな過ちにとなることを……この時のゆのかは、知る由もなかった。
◇◇◇
卒業式前日ということで、学校は早帰りとなった。
いつもより長い放課後。ゆのかは3人を連れて、家までやってきた。
門を開けてもらって、庭を通りかかる。すると大和の目が輝いた。
「いつ見ても、ゆのかんちってスゲーよなぁっ!
でっけーイスに座って、オホホ~とか、やるんだろ?!」
「うーん……
ちょっと…やってないかなぁ…」
ちょっとというか、全くやってないゆのかは、返事に困ってしまう。その様子に、水湖は頬を膨らませた。
「大和はしゃぎすぎっ、ゆのかがそんな風に笑うわけないでしょ?!
まったく…少しは、よっしー見習ったら??」
「みぃだって、いつもはうるさいくせに~こーゆー時だけ、いい子ぶるなよ~」
「はぁ?!あんたにだけは言われたくない!!」
水湖と大和が、さっそく漫才をしている。
「…もういい。
ゆのか、あの2人ほっといて、早く中に入ってくれ。」
良也は、すっかり呆れ顔だった。ゆのかは苦笑いしながら、ドアを開ける。
「ただい…」
「遅い。」
ビクッ!と、鋭い声に肩が飛び跳ねる。
腕を組んで、目の前に立っていたのは…航だった。
「一体、こんな時間まで、どこで何をしてたの。
今日は早く帰ってこいって、言ったはずだよね?」
「あっ……や、その……………………」
あまりにも突然のことに、思わず泣きそうになる。
(駄目っ……みんなが、いるんだから……泣いちゃ駄目!
これ以上…心配、かけるわけにはいかない……っ、泣き顔なんて…見せられない……!)
唇を噛み締める。頬がひきつるのを感じながら、ゆのかは航に笑顔を向けた。
「きょっ…今日ねっ……みぃちゃんと、大和と、よしくんが、遊びに来てくれた…から……ひっ、久しぶりに…お話ししない……?」
言い終えた瞬間、泣き出さないようにまた唇を噛んだ。
(…言えた。)
かなり、無理をした気がするが、とりあえず、ホッとした。
「航!久しぶりじゃん!!
覚えてっか?オレ、大和!」
「航くん!!みぃだよ?
戻ってきてくれて、嬉しい!!」
「元気そうだな。」
3人は気さくに、航に話しかける。そんな3人を、航はジロジロ見た。
「……それもそうだね。」
航の声が、穏やかになった気がした。
(よかった……声、優しくなった……
この3人と話せば……もしかしたら、航ちゃんは、元に戻るかも…)
安心して、胸を撫で下ろす。
「警告。これ以上、ゆのかに近づくな。
僕からはそれ以外、話すことはない。」
だが、次の瞬間、ゆのかは一気に、現実へ引き戻された。
航の言い方は、酷く機械的で冷たくて、ゆのかは言葉を発することができなかった。
「おっ…おいおい!
航…何言ってんだよ?冗談はよせっ!」
「ゆのかが誰と仲良くするなんて、航に決める権利はないだろう。」
「そっ…そそっ、そうだよ航くん!
私達、ゆのかの大親友なんだよ…?」
大和は戸惑い、良也はしかめ面をした。水湖はゆのかに抱きついて、航の変貌ぶりに目を丸くしている。
航は…はぁ。と、溜め息を漏らした。そして、ゆのかを睨みつけた。
「ゆのか。」
「っ…!!」
体がビクリと震える。
航がゆのかの腕を強く引っ張ると、水湖の手は、簡単に離れていった。
「放課後は遊ぶなって、言ったよね?
よっぽど罰受けたいんだ。来て。」
「痛っ……
やっ…離して……航ちゃん!」
冷たい声に、必死に、抵抗する。
手を引っ張られている状況は、同じなのに
『ゆのかちゃんっ、行こ!!』
出会った頃の優しさなんて、どこにもなかった。
「航っ…テメェ…ふざけんな!!」
「きゃっ……」
大和が、航に体当たりした。その衝動で、ゆのかの手は航から離れる。
ゆのかはその場で、尻もちをついた。
「………チッ」
「ゆのかっ…大丈夫!?」
「う…ん………」
水湖が駆け寄って、手を差し出してくれた。
その手に掴まって、慌てて立ち上がる。大和が、航の胸倉を掴んでいた。
「なにがあったんだよ……っ?!
勝手にいなくなりやがって…やっと戻って来たと思ったら、こんなんになって……
昔のオマエはっ…俺らの知ってる航は、どーしたんだよっ?!」
怒りと悲しみが混ざった眼差しを航に向ける。
「弱いくせにっ…ヤなことあっても、誰も傷つけねぇくらい、優しいヤツで…
オマエはいつも、誰かを笑顔にしてたよな?!なんでゆのかを…み…んなをっ………悲しませるよーなことするんだよ!!!」
大和は肩で息をしている。
「ふ…あははははははは!!」
航は、そんな大和を馬鹿にするように笑った。
「てめぇ…何笑ってんだ!!」
「ははっ…あははははは!!!!
あのさ。誰に向かって…口を聞いているわけ?」
低い声に、ゆのかは心臓が止まりそうになった。航は、ギロリと大和を睨みつける。
「僕は、州長直々の部下。お前ごとき、簡単に潰すことができる。
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