夢の音を奏でます!〜第1話 始まりの唄〜

水澄 涼海

文字の大きさ
14 / 35
再会

変貌

しおりを挟む
 だが…航の顔の目の前で、その手が止まった。良也が大和の手首を…掴んでいたからだ。

「よしっ……邪魔するな!!」
「……駄目だ。」

 大和が、邪魔をしてきた良也を睨む。

「大和……それを振り下ろしたら、どうなるのか…分かっているのか?」
「はぁっ!?」
「州長直々の部下。
 ってことは、お前の個人情報…こいつに全部、漏れているってことだ。」
「だったらなんだよ?!」

 だが、良也はそんな大和に怯むことなく、言い返す。

「お前が航に、逆らったら……航が裏で手を回して、お前の周りの人間に、危害を加わえることができるってことだよ。」
「はぁ?!」
「お前の家族…サッカークラブのコーチやチームメイト……俺とみぃだって、例外じゃない。
 仮に航の仕業だとバレても、州長の力でもみ消される。
 お前は……それでもいいのか?」

 良也は悔しそうに、唇を噛む。

「けど、ゆのかは、どーなんだよっ…このままでいいわけねぇだろ!??
 それに、あの泣き虫の航だぜっ?アイツに何ができんだよ!?」
「手のたこ、耳の形、手足の筋肉…どう見ても、異常だ。
 多分、普通の大人は…航を倒せない。」
「オマエ、何言って……」
「近所迷惑。さっさと帰れくれないかな。
 変な噂たてられたら、どう責任取るの?」

 航が2人を睨む。

「…ざけんな!!」

 ゴン……ッ!!!!
 大和は、良也の制止を振り払って、航の頬を殴っていた。

「近所迷惑…だと……?」

 航の頬は赤くなっている。だが、全然気にしていないようで…顔色1つ変えなかった。

「ヒキョーな手ぇ使っておどして…っ、ゆのかを拘束するのかよ?!!」
「大和、駄目……っ、もうやめて!!!」

 ゆのかは、思わず叫んだ。

(この人…航ちゃんじゃない……)

 ようやく気づくことができたゆのかは、自分の愚かさを恨んだ。

(優しくて、いつも眩しくて……私に、元気をくれた……あの航ちゃんは…もう、いないんだ……)

 そう痛感した瞬間、この人に逆らってはならないと理解した。

「航ちゃん…よしくんが、さっき言ってたこと…ほんと……?」
「そうだよ。僕は今から、コイツを潰す。」

 何もかもが遅かった。どんなにゆのかが謝っても、きっとこの人の意思は変わらない。
 心臓が目まぐるしく波打った。

「…めて」
「州長様にも、ゆのかの害となるような奴らは、全て殺せって言われてるしね。
 何がいいかな?骨折ってもいいし、気絶するまで爪剥いでもいいし……あ。
 死ぬまで殴り続けるなんて、どう?」
「やめて!!」

 耳を塞ぎたくなるような残酷なことを、航は楽しそうに言う。
 ゆのかは、大和と航の間に、割り込む。
 航と向き合うのはとても怖い。だが、何がなんでも、阻止しなければならない。
 僅かな勇気を振り絞って、ゆのかは航に叫んだ。

「なんでっ…おばあちゃんの命令だからって……幼馴染でしょ?!
 みんな、航ちゃんのこと……っ、ずっと待って……ずっと、会いたかったのに」
「邪魔。」

 だが、呆気なく強い力で押しのけられる。

「っ……!!」

 航に突き飛ばされ……気づいた時には、大和から離れた場所にいた。

「っ!大和!!」

 航は、指をボキボキ……と鳴らす。

(本当に…大和を……殺そうとしてるの………?)

 ゆのかがホペ州に来る前から、4人はずっと、仲良しだった。
 特に大和は…航のことを、気にかけていた。

(あんなに仲良しだったのに…みんなで、いつもいつも、笑い合ってたのに……)

 そんな大和を、航は殺す気で殴ろうとしている。

「やめてえぇぇぇっっ!!」

 叫んだけど、もう遅い。

(どうして…いつも、こうなの…?)

 大事な物を手に入れては、いつも失う。
 逃げて欲しいのに。大和はその場から、動こうとはしなかった。ただ航を、切なそうに睨んでいた。

「死ね。」

 バキィッ!!!
 聞きたくない音がした。思わず目をつぶる。

「なっ……おい?!」

 大和が、驚きの声をあげる。とても殴られたような声ではなくて…ゆのかは、目を開けた。
 ゴィンッ
 映像が、ゆっくり流れる。
 地面に倒れたのは……大和ではなく、水湖だった。

「みぃちゃん?!!」

 水湖は、大和と航の間に入って、航に殴られた。
 危険な場所に、自ら飛び込んでいった水湖に、誰もが目を疑った。

「みぃ?……みぃ!
 おいっ…みぃ!!!」

 良也が、水湖の名前を呼ぶ。だが、水湖の反応は……ない。

(夢だ。)

 漠然と、そう思った。あまりにも悪いことが続きすぎていたからだ。

(きっと……これは、悪い夢。
 目が覚めたら……きっと…きっと、みんな笑顔だった頃に、戻れる………
 おじいちゃんも、航ちゃんも、航ちゃんのお母さんも……きっと、みんな笑顔で…また、楽しい日々が過ごせるんだ………)

 そう、思いたかった。…けど
 航を待っていた2年が…あまりにも長くて
 祖父の死が…あまりにも鮮明に、心に残っていて
 水湖の殴られた右頬が…あまりにも痛々しく、腫れていて

(違う……これ…現実?)

 サァ……と、血の気が引いた。

「みぃちゃん……っ!」

 慌てて駆け寄ろうとしたが、航に腕を掴まれて、ゆのかは動けなくなってしまった。

「行くな。」
「やだっ…みぃちゃんの傍にいる……っ!」

 ゆのかは航をキッ…と睨んだ。
 すると航は冷たく笑い、ゆのかの耳元でボソッと呟いた。

「ゆのかがここに残ろうが残るまいが、アイツは病院に連れて行かれる。ついていったら、ゆのかが今日遅く帰ってきた罰が、受けられなくなるよね?」
「っ…!!!」
「言っとくけど…罰を放棄したら、僕はあの2人に何をするか分からないよ。特に大和にはまだ、殴られたお礼していないし。
 罰を完璧にこなせば、今日のことは、全部チャラにしてあげる。
 こなせなかったら…分かってるよね?」

 大和を殴り殺す。
 ゆのかは…航に従うしかないことに、気づかされた。

「オ…オレのせいでっ………」
「大和っ、落ち着け。
 今から医者を呼んでくる、お前はみぃから目を離すな!」
「でも…オレが……オレも、オマエと行く」
「しっかりしろ!!
 みぃを1人にする気か?!!」

 遠くで2人の声がする。

(冷静で、しっかりしてるよしくんがいるから…きっと、みぃちゃんは、助かる。
 私は…私なりのやり方でみんなを助けないと………)

 3人を背にして、ゆのかは家に入る。
 厳かな音をたてて……ドアが閉まった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...