24 / 35
君を絶対…
たった1つだけ…?
しおりを挟む
◇◇◇
しばらくブランコで遊び、2人は公園を後にした。
靴投げで、うみには勝てなかったものの、コツを掴み、真っ直ぐ前に飛ぶようになった。最終的には距離も伸ばせた。
(楽しかった…………でも)
公園を出る直前までは、満足感に溢れていたが、そうは思っていられない状況になってしまった。
(この角を曲がって…少し歩いたら………家。
逃げたい……でも、駄目…………大事なギターが…取り戻せなくなる…………
それに、今逃げたら…使用人さんに、捕まるかもしれない……この人から、離れちゃ駄目………)
家に近づくにつれて…何かに体が支配されるように、動きがぎこちなくなる。足取りは重く、手はガタガタ震えていた。
(大丈夫…大丈夫…怖く、ない………
ちょっと…家に、戻るだけ…………大丈夫だから……)
手をギュッと握りしめるが、力が入らない。
「大丈夫?」
ゆのかの体が、ピクッ!と強ばった。
「え…?」
「まぁ……ほぼ初対面の俺を、信用しろっていうのも、ちょっと無理があるけどね。」
うみはクスッと笑った。爽やかで、どこか憂いを帯びていた。道を歩く女性達が、顔を赤らめてうみの方を振り返る。
(信用してないって、思われてる…?
もしかして…それで、気分が悪くなった……?)
だが、ゆのかの顔は真っ青だった。
家に近づくプレッシャーで、何もかもが良い方向に考えられない。うみの微笑み1つさえ、何かあると思い込んでしまうほど、ゆのかは追い詰められている。
(そんなことない、って…訂正、しなきゃ…………
ただ…家に行くのが……怖いだけ……
……って、違う。怖くない。さっき、言い聞かせたでしょう…?)
深呼吸して、落ち着かせようとも……浅い呼吸しかできない。
すると、うみが突然、クルリと方向転換して、ゆのかの目の前に立った。
「…!!!」
「だから、驚きすぎだって。」
思わず後ずさりしてしまうゆのかを見て、うみは苦笑いした。少しかがんで、ゆのかと目線を合わせる。
「今更だけど…無理させて、本当にごめん。
怖いかもしれないけど…あと少しだけ、頑張ってくれないかな。」
すぐに震える体。関われば関わるほど見えてくる、怯えた表情。
ゆのかの限界が、とっくの昔にきていることに、うみは気づいていた。
(できれば、安全圏で待っていて欲しかった。
でも、アウェイな場所で、1人でギターを探すくらいなら……家やこの州のことを知っているゆのかを、守りながら行く方が、早いし確実なんだよね。)
うみは、まだ怯えているゆのかに、安心できるよう優しく声をかけた。
「あ。でも、歩けなくなったら、すぐ言っ」
「私っ…!」
ゆのかは、うみを遮った。今までそんなことはなかったので、うみは驚きの表情を見せる。
(怖くないっ……だってさっき、言い聞かせたから………怖く…ない!!)
ゆのかは、何とか悟られまいと、必死に言葉を続ける。
「大……丈、夫…
無理…して…ない……怖く、ない…………大…丈夫…………」
「……なんで、そんなこと言うの。」
それまでとは違う低めの声色。ゆのかの体は、ビクッ…と震えた。
(え……この人…怒ってる……?
なんで…………?)
さっきまで、にこやかだったうみが、少し怒ったような表情を見せている。理由が分からないゆのかは、頭が真っ白になった。
「誤魔化すなら、もっと上手にやらないと。無理してるの、バレバレだよ?」
「そん…な……無理、なんて…して…ない……」
「よく言うよ。色々、抱え込んでるくせに。」
心の隅々まで見透かされそうな気分になる。ゆのかは、うみを見ていられなくなって、目を逸らした。
「そ…そんなこと……ない…」
うみは、決して怒っているわけではない。頑なに弱音を吐かないゆのかに、意地になっているだけだった。
だが、それでもまだ、バレバレの嘘を吐くゆのかに…うみはとうとう、口にしてしまった。
「へぇ。じゃあ、聞くけど。
ゆのかが、家出した理由…“頑張る意味が見いだせなくて”“意味のない生活から逃げたかったから”って言ってたけど…それ、本当なの?」
時が止まったように感じた。
(………………え?)
うみは、ゆのかを…真っ直ぐ見つめている。
「本当は…もっと別の理由があったから、家出したんでしょ?」
ドクン、と大きな音が聞こえる。
鋭利な刃物が心臓を引き裂き、その血が口から出てきそうな感覚に襲われる。
「…………っ!!」
猛烈な吐き気。頭痛が酷い。生暖かい春風に、身震いする。
だがゆのかは、そんなこと、気にもならなかった。
(なんでっ……どうして…?!
“あの事”…隠してるって……なんで…っ、気づかれたの……?!!)
隠し通せたと、これでもう触れられることはないと、完全に油断していた。
(これから、仲間に、なる人っ………隠し事なんかしちゃ…嘘なんか吐いちゃっ…駄目で……
でも…本当の事を言ったら………あいるさんと星さんに、全部伝わって…っ、2人に絶対、嫌われる……)
気を失いそうな不意打ちに、血の気が引く。息が吸えない。酸素がどんどん奪われていく。
(もし…嫌われたら?
私は、大好きな2人に見捨てられて…ののかにも、会えなくて………それどころかっ、航ちゃんに捕まって…また…罰を受けることになる…?)
最悪のシナリオが、頭の中で完成した。
(家出のこともあるから…きっといつも以上に、重い罰……
それだけじゃない…………っ、私は、また…人を傷つけ続ける地獄のような生活に…戻らなきゃいけないの…?)
視界が、ぐわんぐわんと揺れている。それでも、“家には戻らない”という強い意志で、なんとか小さい体を支える。
「…っ、ち…がっ…違、い……っます……ほん…とに…私、が……弱…くて…だから…っ………」
だが、どんなに強い意志を持とうとも…一度怪しまれてしまったこの状況を打破することは、ゆのかにはできなくて
結局、うみにまた、嘘を吐くことになってしまい……そのことが、ゆのかを余計に苦しめた。
すると、うみはしゃがんで、俯いたゆのかの顔を覗き込んだ。ゆのかの体が、ビクン!と飛び跳ね、半歩後ずさりする。
「なーんだ。そうだったんだ~」
明るい声。強ばった体の力が、思わず抜けていく。
「え…………?」
「疑っちゃって、ごめんね。
話聞いてる感じ、頭良いみたいだからさ。本当に勉強嫌なのかな?って、思っただけ。」
「え…あ……」
「でも、そうだよね。俺はエール号で自由気ままに生きてるから、あんま想像できないけど…どこかに縛られるなんて、考えただけでも鳥肌立つもん。
いくら頭良くても…そりゃ、そんな家、出ていきたくなるよね~」
うんうん。と納得するうみに…ゆのかの震えは、いつの間にか止まっていた。
吐き気も頭痛も、目眩も収まっている。呼吸もだいぶ楽になっていた。
(誤魔化せた……?
よかった………これで、船を追い出されずに…済む…………)
心臓はまだ速く動いているものの、うみはニコニコ笑っている。ゆのかは安堵の溜め息を吐いた。
(あぶな……)
一方で…うみは内心、ヒヤリとしていた。
ゆのかが怖がる顔は、嫌という程見てきた。だが、今にも倒れそうなくらい青ざめて、ふらつき、絶望に覆われたあの顔は、今が初めてだった。
(あれ、過呼吸起こしてたよね…?冗談抜きで、倒れる寸前で…それだけトラウマになってる隠し事ってこと…?)
星とあいるは、ゆのかの隠し事がきっと重いものであると、見当がついていた。ゆのかがこうなることすら、予測していたのだろうか。
(そんな隠し事を…出会ったばかりの俺に、言うわけがない。あれほど親しいあいるさんと星さんにさえ、打ち明けられてないっていうのに…)
それを、無理矢理聞き出そうとする自分の愚かな行動に…うみは猛省していた。
(しかも、星さんに、探るなって言われたのに……本当、悪い癖がついたよな…)
財宝を扱うトレジャーハンターにとって、信用できる人物を見極める能力は、必要不可欠だ。だから、うみは、常に人の真意を暴こうとする癖がついている。
(でも…今、目の前で震えてる娘は…身一つで海に飛び込んで、過去にたくさん大事な人を失って…尋常じゃないほど、何かに怯えていて…いつも苦しそうで……
どう見ても……欲に目がくらんで、嘘を吐いているわけじゃないだろ…………)
少しは顔色が良くなったゆのかを見て、うみはホッとした。
(あそこまで怖がらせたなら、本当は土下座レベルだけど…さっきのゆのかの嘘が、俺にバレてるって知られたら、引きずりかねない。
落ち着け……今するべきことは、敵しかいないゆのかの家から、ゆのかを守りながらギターを奪還すること。ゆのかの宝物を取り返して…ゆのかを喜ばせること。
ゆのかの隠し事を暴いて、怖がらせることじゃない。)
この状況での正解は、ゆのかの嘘が通じたと、ゆのかに思い込ませることだ。だからうみは、咄嗟にゆのかの嘘に乗っかったのだ。
「でも、本当にしんどかったら、遠慮なく言ってね?
エール号の先輩だし…一応ゆのかより、1年長く生きてるからさ。」
隠し事の話から、何気なくフェードアウトすると……ゆのかは、目を丸くした。
「え……?」
「ん?」
「え……そ、の…
17…歳……?」
「あれ、何その反応。もっと年寄りかと思った?」
うみは、いたずらっぽくゆのかに聞いた。
長身で、物腰柔らかなのに、堂々として、かなりの自信があるうみ。ゆのかから見て……少なくとも、立ち振る舞いは、たった1つ違いには見えなかった。
(勝手に…20歳ぐらいかなって…思ってた……)
だが、確かによく見せるあどけない表情は、高校生でも違和感はない。
「年寄り…じゃ、なくて……その…もっと、年上…か、と………」
「うっわ。俺、老け顔?やだなー。」
うみがおどける。
(老け顔って……顔は、年相応なのに。)
極度の緊張から逃れ、安心したせいか…面白いと思える余裕が、ゆのかに生まれていた。
「あはっ…」
クリクリした深い緑の瞳が、細くなる。キュッと、口角がほんの少しだけ上がった。
ゆのかは思わず、声に出して、笑っていた。
(わっ…笑っちゃった…?!今の、絶対……失礼、だよね…?!)
うみは、驚いた表情で黙り込む。ゆのかはほんのり顔を赤くして、慌てて謝罪した。
「ご…ごめん…なさい………」
「笑った…?」
「!!
ごっ…ごめ……」
「なんで謝るの?
今の」
“笑顔可愛い。もっと見せてよ。”……なんて言いかけたキザったらしい台詞を、うみは慌てて飲み込んだ。
(それは流石に、ゆのかには駄目。引かれる。)
うみは、ニコッと笑って誤魔化すことにした。
「…いや。
さっき俺も笑っちゃったし。それでおあいこ。」
「……?」
何も知らないゆのかは、不思議そうにうみを見た。
しばらくブランコで遊び、2人は公園を後にした。
靴投げで、うみには勝てなかったものの、コツを掴み、真っ直ぐ前に飛ぶようになった。最終的には距離も伸ばせた。
(楽しかった…………でも)
公園を出る直前までは、満足感に溢れていたが、そうは思っていられない状況になってしまった。
(この角を曲がって…少し歩いたら………家。
逃げたい……でも、駄目…………大事なギターが…取り戻せなくなる…………
それに、今逃げたら…使用人さんに、捕まるかもしれない……この人から、離れちゃ駄目………)
家に近づくにつれて…何かに体が支配されるように、動きがぎこちなくなる。足取りは重く、手はガタガタ震えていた。
(大丈夫…大丈夫…怖く、ない………
ちょっと…家に、戻るだけ…………大丈夫だから……)
手をギュッと握りしめるが、力が入らない。
「大丈夫?」
ゆのかの体が、ピクッ!と強ばった。
「え…?」
「まぁ……ほぼ初対面の俺を、信用しろっていうのも、ちょっと無理があるけどね。」
うみはクスッと笑った。爽やかで、どこか憂いを帯びていた。道を歩く女性達が、顔を赤らめてうみの方を振り返る。
(信用してないって、思われてる…?
もしかして…それで、気分が悪くなった……?)
だが、ゆのかの顔は真っ青だった。
家に近づくプレッシャーで、何もかもが良い方向に考えられない。うみの微笑み1つさえ、何かあると思い込んでしまうほど、ゆのかは追い詰められている。
(そんなことない、って…訂正、しなきゃ…………
ただ…家に行くのが……怖いだけ……
……って、違う。怖くない。さっき、言い聞かせたでしょう…?)
深呼吸して、落ち着かせようとも……浅い呼吸しかできない。
すると、うみが突然、クルリと方向転換して、ゆのかの目の前に立った。
「…!!!」
「だから、驚きすぎだって。」
思わず後ずさりしてしまうゆのかを見て、うみは苦笑いした。少しかがんで、ゆのかと目線を合わせる。
「今更だけど…無理させて、本当にごめん。
怖いかもしれないけど…あと少しだけ、頑張ってくれないかな。」
すぐに震える体。関われば関わるほど見えてくる、怯えた表情。
ゆのかの限界が、とっくの昔にきていることに、うみは気づいていた。
(できれば、安全圏で待っていて欲しかった。
でも、アウェイな場所で、1人でギターを探すくらいなら……家やこの州のことを知っているゆのかを、守りながら行く方が、早いし確実なんだよね。)
うみは、まだ怯えているゆのかに、安心できるよう優しく声をかけた。
「あ。でも、歩けなくなったら、すぐ言っ」
「私っ…!」
ゆのかは、うみを遮った。今までそんなことはなかったので、うみは驚きの表情を見せる。
(怖くないっ……だってさっき、言い聞かせたから………怖く…ない!!)
ゆのかは、何とか悟られまいと、必死に言葉を続ける。
「大……丈、夫…
無理…して…ない……怖く、ない…………大…丈夫…………」
「……なんで、そんなこと言うの。」
それまでとは違う低めの声色。ゆのかの体は、ビクッ…と震えた。
(え……この人…怒ってる……?
なんで…………?)
さっきまで、にこやかだったうみが、少し怒ったような表情を見せている。理由が分からないゆのかは、頭が真っ白になった。
「誤魔化すなら、もっと上手にやらないと。無理してるの、バレバレだよ?」
「そん…な……無理、なんて…して…ない……」
「よく言うよ。色々、抱え込んでるくせに。」
心の隅々まで見透かされそうな気分になる。ゆのかは、うみを見ていられなくなって、目を逸らした。
「そ…そんなこと……ない…」
うみは、決して怒っているわけではない。頑なに弱音を吐かないゆのかに、意地になっているだけだった。
だが、それでもまだ、バレバレの嘘を吐くゆのかに…うみはとうとう、口にしてしまった。
「へぇ。じゃあ、聞くけど。
ゆのかが、家出した理由…“頑張る意味が見いだせなくて”“意味のない生活から逃げたかったから”って言ってたけど…それ、本当なの?」
時が止まったように感じた。
(………………え?)
うみは、ゆのかを…真っ直ぐ見つめている。
「本当は…もっと別の理由があったから、家出したんでしょ?」
ドクン、と大きな音が聞こえる。
鋭利な刃物が心臓を引き裂き、その血が口から出てきそうな感覚に襲われる。
「…………っ!!」
猛烈な吐き気。頭痛が酷い。生暖かい春風に、身震いする。
だがゆのかは、そんなこと、気にもならなかった。
(なんでっ……どうして…?!
“あの事”…隠してるって……なんで…っ、気づかれたの……?!!)
隠し通せたと、これでもう触れられることはないと、完全に油断していた。
(これから、仲間に、なる人っ………隠し事なんかしちゃ…嘘なんか吐いちゃっ…駄目で……
でも…本当の事を言ったら………あいるさんと星さんに、全部伝わって…っ、2人に絶対、嫌われる……)
気を失いそうな不意打ちに、血の気が引く。息が吸えない。酸素がどんどん奪われていく。
(もし…嫌われたら?
私は、大好きな2人に見捨てられて…ののかにも、会えなくて………それどころかっ、航ちゃんに捕まって…また…罰を受けることになる…?)
最悪のシナリオが、頭の中で完成した。
(家出のこともあるから…きっといつも以上に、重い罰……
それだけじゃない…………っ、私は、また…人を傷つけ続ける地獄のような生活に…戻らなきゃいけないの…?)
視界が、ぐわんぐわんと揺れている。それでも、“家には戻らない”という強い意志で、なんとか小さい体を支える。
「…っ、ち…がっ…違、い……っます……ほん…とに…私、が……弱…くて…だから…っ………」
だが、どんなに強い意志を持とうとも…一度怪しまれてしまったこの状況を打破することは、ゆのかにはできなくて
結局、うみにまた、嘘を吐くことになってしまい……そのことが、ゆのかを余計に苦しめた。
すると、うみはしゃがんで、俯いたゆのかの顔を覗き込んだ。ゆのかの体が、ビクン!と飛び跳ね、半歩後ずさりする。
「なーんだ。そうだったんだ~」
明るい声。強ばった体の力が、思わず抜けていく。
「え…………?」
「疑っちゃって、ごめんね。
話聞いてる感じ、頭良いみたいだからさ。本当に勉強嫌なのかな?って、思っただけ。」
「え…あ……」
「でも、そうだよね。俺はエール号で自由気ままに生きてるから、あんま想像できないけど…どこかに縛られるなんて、考えただけでも鳥肌立つもん。
いくら頭良くても…そりゃ、そんな家、出ていきたくなるよね~」
うんうん。と納得するうみに…ゆのかの震えは、いつの間にか止まっていた。
吐き気も頭痛も、目眩も収まっている。呼吸もだいぶ楽になっていた。
(誤魔化せた……?
よかった………これで、船を追い出されずに…済む…………)
心臓はまだ速く動いているものの、うみはニコニコ笑っている。ゆのかは安堵の溜め息を吐いた。
(あぶな……)
一方で…うみは内心、ヒヤリとしていた。
ゆのかが怖がる顔は、嫌という程見てきた。だが、今にも倒れそうなくらい青ざめて、ふらつき、絶望に覆われたあの顔は、今が初めてだった。
(あれ、過呼吸起こしてたよね…?冗談抜きで、倒れる寸前で…それだけトラウマになってる隠し事ってこと…?)
星とあいるは、ゆのかの隠し事がきっと重いものであると、見当がついていた。ゆのかがこうなることすら、予測していたのだろうか。
(そんな隠し事を…出会ったばかりの俺に、言うわけがない。あれほど親しいあいるさんと星さんにさえ、打ち明けられてないっていうのに…)
それを、無理矢理聞き出そうとする自分の愚かな行動に…うみは猛省していた。
(しかも、星さんに、探るなって言われたのに……本当、悪い癖がついたよな…)
財宝を扱うトレジャーハンターにとって、信用できる人物を見極める能力は、必要不可欠だ。だから、うみは、常に人の真意を暴こうとする癖がついている。
(でも…今、目の前で震えてる娘は…身一つで海に飛び込んで、過去にたくさん大事な人を失って…尋常じゃないほど、何かに怯えていて…いつも苦しそうで……
どう見ても……欲に目がくらんで、嘘を吐いているわけじゃないだろ…………)
少しは顔色が良くなったゆのかを見て、うみはホッとした。
(あそこまで怖がらせたなら、本当は土下座レベルだけど…さっきのゆのかの嘘が、俺にバレてるって知られたら、引きずりかねない。
落ち着け……今するべきことは、敵しかいないゆのかの家から、ゆのかを守りながらギターを奪還すること。ゆのかの宝物を取り返して…ゆのかを喜ばせること。
ゆのかの隠し事を暴いて、怖がらせることじゃない。)
この状況での正解は、ゆのかの嘘が通じたと、ゆのかに思い込ませることだ。だからうみは、咄嗟にゆのかの嘘に乗っかったのだ。
「でも、本当にしんどかったら、遠慮なく言ってね?
エール号の先輩だし…一応ゆのかより、1年長く生きてるからさ。」
隠し事の話から、何気なくフェードアウトすると……ゆのかは、目を丸くした。
「え……?」
「ん?」
「え……そ、の…
17…歳……?」
「あれ、何その反応。もっと年寄りかと思った?」
うみは、いたずらっぽくゆのかに聞いた。
長身で、物腰柔らかなのに、堂々として、かなりの自信があるうみ。ゆのかから見て……少なくとも、立ち振る舞いは、たった1つ違いには見えなかった。
(勝手に…20歳ぐらいかなって…思ってた……)
だが、確かによく見せるあどけない表情は、高校生でも違和感はない。
「年寄り…じゃ、なくて……その…もっと、年上…か、と………」
「うっわ。俺、老け顔?やだなー。」
うみがおどける。
(老け顔って……顔は、年相応なのに。)
極度の緊張から逃れ、安心したせいか…面白いと思える余裕が、ゆのかに生まれていた。
「あはっ…」
クリクリした深い緑の瞳が、細くなる。キュッと、口角がほんの少しだけ上がった。
ゆのかは思わず、声に出して、笑っていた。
(わっ…笑っちゃった…?!今の、絶対……失礼、だよね…?!)
うみは、驚いた表情で黙り込む。ゆのかはほんのり顔を赤くして、慌てて謝罪した。
「ご…ごめん…なさい………」
「笑った…?」
「!!
ごっ…ごめ……」
「なんで謝るの?
今の」
“笑顔可愛い。もっと見せてよ。”……なんて言いかけたキザったらしい台詞を、うみは慌てて飲み込んだ。
(それは流石に、ゆのかには駄目。引かれる。)
うみは、ニコッと笑って誤魔化すことにした。
「…いや。
さっき俺も笑っちゃったし。それでおあいこ。」
「……?」
何も知らないゆのかは、不思議そうにうみを見た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる