夢の音を奏でます！〜第1話 始まりの唄〜

君を絶対…

約束、守れなくてごめんね

◇◇◇

　うみにお姫様抱っこされること、数十分。

「着～いた。」

　うみの上機嫌な声とともに、とうとう“立入禁止”と書かれた壁の前に到着した。
　壁にあるドアを、うみが蹴って開けると……ドアの先には、広い大海原があった。
　砂浜に、立派な帆が張られた大きな船───エール号が、打ち上がっている。

「立てる？」

　ゆのかは、自分の体が元に戻っていたことに気がついた。
　そして、それまでずっとうみにしがみつき、街中を走っていたことを思い出した。

「っ、ひゃあっ…ご、ごめん…な…さい……！！
　お、お…降りっ……お…」
「ふふっ。慌てすぎ。
　大丈夫だよ。軽すぎて、全然腕疲れなかったし。なんなら、このまま船乗る？」

　ゆのかは焦っていたが…せめてそれだけはしてはならないことだけは分かったので、首を横にブンブン！と振った。
　顔を赤くするゆのかを、うみは楽しそうに降ろした。

「行けそう？」

　うみは、ゆのかに聞いた。船エール号に乗る。つまり、旅立ちであり…第2の故郷を、捨てなければならない。
　ゆのかは、後ろを振り返った。辛い日々が、数え切れないほどあった。だが…

（家族を失った私に…優しくしてくれた人がいた。
　思い出を、たくさんもらった……）

　あれほど家から出たかったのに、大切な人達を想うと、胸が苦しくなる。

（でも、私は……ホペ州ここにはもう、いられない……ううん。“いちゃ駄目”だから…………）

　ゆのかは、覚悟を決めた。

（“待ってる”って約束…守れなくて、ごめんね。
　ありがとう………離れていても、ずっと……大好き。）

　幼馴染達に、届くことのない別れを告げた。
　そしてゆのかは、うみに導かれて……エール号へ乗船した。