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エール号、出航
可愛い湊
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「何、飲ませたの?湊。」
うみが子どもに聞く。
「うーんと…
超育毛剤・飲み薬ver.だよ。
1粒飲むと、髪の毛が3cm伸びる予定だったの!」
「湊が発明したの?」
「うんっ!」
ゆのかは、子どもの有り得ない返事に驚いた。
(育毛剤…?発明……?
どういうこと…この子…小さいよね……?)
周りの船員達を見たが……誰もゆのかと同じ反応をしていない。
「おー!流石だな!!湊!」
「面白ぇじゃん!!!」
「でも、1つぶで、あんなに長くなっちゃったから、しっぱいかも。
みんなも、のんでみるっ?はい、うみ!」
子どもは、女2人と戦っているあいるを見て、天使のような微笑みを浮かべる。
「いや…気持ちだけ受け取っとくよ。
スカイにあげれば?」
「そうだねっ!
スカイ、あーーん?」
「アホか?!オレがあんなの、飲むわけないだろっ!」
スカイは、30cm以上伸びたあいるの髪の毛を、チラッ…と見た。
「おい、スカイ!!
なに哀れんだ目で、あたしを見てるんだ?!!早く助けろ!!!」
「いや、別に哀れんでるわけじゃなくて…
あいるさんが、やぁーっと女らしくなったというか、なんというか…」
「オッマエ……あたしに、ケンカ売ってんのかっ??!」
「売ってないわよぅ!」
「スカイは本当のこと言っただけでしょ?!!」
女2人がスカイの味方をすると、周りの男の船員も口を揃えた。
「あいる。オマエ…そのままの方がいいんじゃね?」
「そーだそーだ!」
「何でだよ!!!?」
「そりゃー…可愛」
「バッカ!オマエやめろ!!
後で星にぶっ飛ばされるぞ?!!」
あいるの髪を切る・切らない問題は……いつの間にか、広場にいた船員達を巻き込んでいた。
「湊。今日から、このお姉ちゃんが仲間になるんだ。ご挨拶して?」
そんな中、うみは激しくカオスな議論に参加せず、小さな子ども──湊の肩を抱き寄せた。
湊は、ゆのかを見て…ニコッと笑う。
「うんっ、わかった!
こんにちは、湊ですっ!
6才ですっ!はつ明が大すきですっ!
みんなからは、みなとってよばれてますっ!よろしくね?」
ペコッ!と小さくお辞儀をして、湊はまた、ニコニコ笑う。
ゆのかは、6歳児の好きなものが“発明”ということに対して驚くより前に、愛らしい湊にメロメロだった。
(湊君……かっ…可愛い……っ!!
私も…自己紹介、しなきゃ…!)
ゆのかはしゃがんで、湊と目線を合わせた。
少し考えて…ゆのかも微笑む。
「こん…にちは……ゆのか…です。
今日…から……仲間に…なります……
お歌…歌う…こと、が…好き、です。よろしく…ね…?」
「わぁーいっ!お姉ちゃんが、できたぁっ!」
湊は、何の躊躇いもなく、ゆのかにギュッと抱きついた。
「…!!」
「ゆのかぁ~!よろしくねっ?」
小さくて温かい手。柔らかい頬が、ゆのかの顔に当たる。
(わ……ちっちゃい…
私も…抱きしめて、いいのかな…?)
ゆのかは、宙で手を彷徨わせる。
「ギュッ、って、してくれないの…?」
「…!!!」
しょんぼりした声が、ゆのかの戸惑いを吹き飛ばした。
ギュ、と湊を抱きしめる。湊は小さくて温かかった。
「えへへ~」
湊の嬉しそうな声に、ゆのかはキュンとした。
「…おいっ、湊!
なに、くっついてんだよ?!離れろ!!」
だが、心穏やかになったのはほんの一瞬で…ゆのかは、体をビクンッ!と震わせた。
あいるの髪の毛問題に巻き込まれていたスカイが、突然湊に怒り始めたのだ。
湊は、ゆのかに強くしがみついた。
「やだやだぁ~~っ!」
「大体っ、オマエもオマエだっつーの!!」
スカイは、明らかにゆのかを睨んでいる。オマエとは、ゆのかのことらしい。
怒りの矛先が向いたことに、ゆのかの心臓が、速く動いた。
(どうして…怒っているの…?私がさっき……謝りそびれたから………?
あ……どうしよう…涙、出てきそう……泣いたら、怒られちゃう……っ、他の人の気分も、悪くさせちゃうかな………)
ゆのかは、小さな口を開いた。
「ご……ごめ…」
「スカイ。何怒ってんの?
2人は何もしてないでしょ。」
ゆのかの謝罪を遮って、うみが庇う。
「いーや!誰もつっこまねぇから、言わせてもらうけど…湊、すーぐ調子乗るんだぜ?!甘やかすんじゃねぇよ!!!」
「不仲より、全然マシじゃん。」
「そーかもしんねぇけど、おかしくね?!!
オマエら2人は、もう仲良くなってるってのに…なんでまだっ、オレだけ、ビビられてんだよ?!!」
スカイの叫びに、ゆのか以外の船員達はやれやれと呆れた。
そんなイラついた姿を見せないうみでさえ、怖がられる始末なのに。大声を出すなと、どうやって伝えようか、うみが迷っていた時だった。
「へっ…6歳児に嫉妬?
いい歳して、器ちっちゃ。」
ゆのかの腕の中から、底意地悪そうな声が聞こえる。だが腕の中には…まだ6歳の可愛い子どもしかいない。
(今の…湊君…?
ううん…可愛い湊君が、そんなこと言うわけない…)
ゆのかが、空耳だと納得していると…上からただならぬオーラを感じた。
スカイが、先程の形相でゆのかの方を睨んでいたのだった。
「んだと?!!
テメェ、今のもう一度言ってみろ!!!」
「ゆのかぁーーっ!こわいよぉおお!!」
一応、彼の名誉のために言っておくと…スカイは、当然、湊を睨んでいた。湊は、ゆのかとの時間を邪魔された腹いせにスカイを煽ったし、スカイもそれを分かっていて、湊を“テメェ”と怒った。
うみは、頭を押さえた。
(……馬鹿。)
湊には、一瞬で心を開いたゆのか。うみや他の船員に見せなかった表情を、湊には出会ってすぐに向けていた。
その湊が“怖い!”と言って抱きつき、スカイが怒りを顕にしてしまえば……ゆのかにとって、スカイはもう恐怖の対象でしかない。
「わ…私が…全、部……悪い…ん……ですっ……
ごっ…ごめ…ごめん……なさい…!!!」
ゆのかは、細い体を更に小さくして…湊を強く抱きしめている。
スカイは、青い顔で謝るゆのかと、ゆのかには見えないように黒く笑う湊を見て…ようやく、やってしまったことに気づいた。
オロオロして、うみに助けを求めるような視線を送る。
「スカイ、まぁた新人ちゃんいじめてんのか~??」
すると、最悪のタイミングで、船員達が再びスカイをからかってきた。
「いやー、オレ、見てたけどよぉ。今のは、スカイが悪ぃだろ~」
「しかも、湊と張り合ってんだぜ?」
「なんだ、いつものことじゃん。」
「ちげぇよ!!!アイツがオレをバカにしたんだろ?!!」
スカイが叫ぶ度に、ゆのかは震えている。スカイは未だに、そのことに気づいていない。
(スカイは後で説教するとして…ゆのかを、広場から出さなきゃ。
これ以上いたら、マジでぶっ倒れそうだし。)
だが、ゆのかを連れ出す必要はなかった。
「くそっ!!!
わーあったよっ!!!」
スカイが勢いよく立ち上がり、広場の出口へ向かったのだった。
「スカイ、どこ行くの?」
「あぁ?
自分の部屋だよ!文句あんのか?!」
「もうすぐ、昼飯なのに?」
「どーせ、まだいねぇヤツらは、自分の趣味で遅れんだろ?!
だったら、いいじゃねーかよ!!時間まで、自分の部屋にいたって!!!どーせオレはっ、ジャマみてぇだしよ!!!」
スカイは、うみと言い合って、とうとう広場から出て行ってしまった。
思いっきりへそを曲げて、いじけたスカイ。周りの大人達は呆れていたが…ゆのかだけは、そんな風には思えなかった。
(どうしよう…っ?!
謝らなきゃ……っ、きっと…許してくれない……行かなきゃ…)
震える足で立ち上がって、ゆのかはスカイの後を、ついて行こうとする。
だが、その手をうみは握った。
「え……?」
「気にしなくて、大丈夫だよ。」
「で…っ、でも…!!」
「ゆのかは悪くないでしょ。
この2人の喧嘩だから、放っといて大丈夫。」
ゆのかは、不安そうにうみを見る。うみは優しく笑った。
「この2人、いつもこんな感じなんだ。ね?湊。」
「そぉだよ~!
だからゆのかは、なんにもわるくないの!」
「そーだそーだ!」
「お嬢ちゃんは、何も悪くねぇぞ!!」
周りの船員も、2人に加勢する。
(2人も、他の船員さんも……さっきの出来事…特に何も、思っていないの……?)
周りの雰囲気と、自分の気持ちとのギャップに、ゆのかは少しだけ焦った。
「それより…湊。
スカイは単細胞ってこと、知ってるでしょ?あんま煽っちゃ駄目。」
「だって、おもしろいんだもん!」
「ったく……
ゆのか。本当に、気にしなくていいからね?スカイは飯食ったら、さっきのこと全部、忘れるから。」
ゆのかは、釈然としなかったが…とりあえず、首を縦に振った。
(ご飯食べれば忘れるなんて……そんなこと、あるのかな…?)
うみや湊を含めた周りの人は、何事もなかったかのように広場にいる。本当に食べたら忘れるくらい、スカイは単純な男なのだ。
だが、スカイを知らないゆのかは、不安に駆られる。心臓がドクドク動いていた。
「ねー、ゆのか!もんだい!!」
湊は、少しゆのかから離れて、甘えたような声を出す。
「エールごうの船いんは、全ぶで何人いるでしょ~か?」
子ども特有の問題に、ゆのかは、先程の恐ろしい出来事を、少し忘れることができた。
「え…と………
あいるさん…星さん……湊君に、うみに…スカイ君……いかりさんと……」
辺りを見渡すと、スカイをからかっていた男が3人いる。
(さっき、女の人が2人いたから……全部で11人。まだ、他の人もいるらしいから……)
「1…7人…とか?」
「ぶっぶー!」
湊は口を尖らせる。
「20…人?」
「ぶっぶっぶー!もっと多いで~す!」
「うーん……30…人?」
「ちがぁう!正かい、言っていい?」
きゃはは!と楽しそうな声をあげた湊に…ゆのかは、首を縦に振った。
「正かいは~25人!」
「……!
そう…なんだ…」
「そぉだよ~!
あ、でも、今日から26人だね~!」
湊が、ゆのかを受け入れてくれることを知り……ゆのかは嬉しくて、ほんのり頬が赤くなった。
「おれが、1ばん年下なの~
つぎは、スカイでー…そのつぎが、うみでー…あとは、みーんな大人で、わかんない!
あ、でも、さい年長は、いかりさん!」
湊は無邪気に、新しくできたお姉ちゃんに船員のことを教えた。
(最年長って…湊君、まだ6歳だよね…?難しい言葉を知ってるんだ………ん?)
ゆのかは、重大な事実に気がついた。
(うみが私の1つ上で、スカイ君がうみより年下ってことは……スカイ君って、私と同い年か年下ってこと??)
がたいのいい船員の中では、比較的細いスカイだが、それでも身長はゆのかより遥かに高く、態度も大きい。
ゆのかは、スカイが自分より年下の可能性があることに驚いた。
「スカイは、ゆのかと同い年だよ。」
「……!」
うみが、ゆのかの考えていることを読み取ると……ゆのかは、目を見開いた。
「君付けしなくて、大丈夫だから。逆に拗ねて、さっきみたいになっちゃうし。」
ゆのかは少し、困った顔をした。
(仲良くないのに…怒らせたのに…呼び捨て…?
ていうか…どこが拗ねてたの…?本気で、怒ってなかった…?)
頭の中の疑問が残ったまま、とりあえず首を縦に振ると…湊が両手を上げた。
「うみもスカイもズルい!!
おれもっ、湊ってよんで?」
頬をぷっくり膨らませて、ゆのかの脚に抱きついた。
(あぁ……可愛いなぁ…………
きっとうみは、気を使って、ああいう言い方をしてくれたけど…拗ねるってきっと、こういうことだよね。
驕っちゃ駄目。後できちんと、謝らないと…)
ゆのかは、もう一度しゃがんで…湊に笑いかけた。
「うん…分かった。」
「じゃー、れんしゅーね?
ゆーのかっ!」
とびきりの笑顔ときらきらの瞳に…ゆのかの心臓から、きゅん。と音がした気がした。
(私の名前…こんなにも愛らしく呼ばれるなんて……生まれて初めてかも…)
ゆのかは、少し緊張しながら口を開いた。
「み…湊…」
「わぁい!!
ねーねー、ゆのかー!」
「な…なぁに…?湊…」
「えへへっ…よんでみただけ~」
「!!!!!」
ゆのかの頬が、紅潮した。
(マジか。)
あれだけ長い時間、ゆのかと一緒にいたうみには、そんな表情はしない。
湊には、一瞬で心を開いたにしては、開きすぎているような気がして、かなり大きなショックを受ける。
(勉強、それなりに、頑張ってきたつもりだったけど…この子の可愛いさを、表現できる言葉が、見当たらない…!
そのくらい…可愛い…!!)
だが、ゆのかは、うみの気持ちなんて知らず、湊の愛らしさに興奮している。
「ゆのか!仲良くなってるとこ、悪ぃんだけど…」
あいるがゆのかに、声をかける。
(……あれ?)
あいるの方を向くと……あいるの髪は、出会った時と同じショートヘアだった。
「他のヤツら、まだ集まんなくてさ。
先に、ゆのかの部屋を案内してやっから、ついてこい!」
「あいるさん……髪…」
「これかっ?そこら辺の刃物で、切ってやった!」
なんともワイルドな髪の切り方に、ゆのかは目を丸くした。
「え…」
「ほれっ、れっつごー!」
あいるは、ゆのかの肩をくるっと回して…そのまま広場を後にした。
うみが子どもに聞く。
「うーんと…
超育毛剤・飲み薬ver.だよ。
1粒飲むと、髪の毛が3cm伸びる予定だったの!」
「湊が発明したの?」
「うんっ!」
ゆのかは、子どもの有り得ない返事に驚いた。
(育毛剤…?発明……?
どういうこと…この子…小さいよね……?)
周りの船員達を見たが……誰もゆのかと同じ反応をしていない。
「おー!流石だな!!湊!」
「面白ぇじゃん!!!」
「でも、1つぶで、あんなに長くなっちゃったから、しっぱいかも。
みんなも、のんでみるっ?はい、うみ!」
子どもは、女2人と戦っているあいるを見て、天使のような微笑みを浮かべる。
「いや…気持ちだけ受け取っとくよ。
スカイにあげれば?」
「そうだねっ!
スカイ、あーーん?」
「アホか?!オレがあんなの、飲むわけないだろっ!」
スカイは、30cm以上伸びたあいるの髪の毛を、チラッ…と見た。
「おい、スカイ!!
なに哀れんだ目で、あたしを見てるんだ?!!早く助けろ!!!」
「いや、別に哀れんでるわけじゃなくて…
あいるさんが、やぁーっと女らしくなったというか、なんというか…」
「オッマエ……あたしに、ケンカ売ってんのかっ??!」
「売ってないわよぅ!」
「スカイは本当のこと言っただけでしょ?!!」
女2人がスカイの味方をすると、周りの男の船員も口を揃えた。
「あいる。オマエ…そのままの方がいいんじゃね?」
「そーだそーだ!」
「何でだよ!!!?」
「そりゃー…可愛」
「バッカ!オマエやめろ!!
後で星にぶっ飛ばされるぞ?!!」
あいるの髪を切る・切らない問題は……いつの間にか、広場にいた船員達を巻き込んでいた。
「湊。今日から、このお姉ちゃんが仲間になるんだ。ご挨拶して?」
そんな中、うみは激しくカオスな議論に参加せず、小さな子ども──湊の肩を抱き寄せた。
湊は、ゆのかを見て…ニコッと笑う。
「うんっ、わかった!
こんにちは、湊ですっ!
6才ですっ!はつ明が大すきですっ!
みんなからは、みなとってよばれてますっ!よろしくね?」
ペコッ!と小さくお辞儀をして、湊はまた、ニコニコ笑う。
ゆのかは、6歳児の好きなものが“発明”ということに対して驚くより前に、愛らしい湊にメロメロだった。
(湊君……かっ…可愛い……っ!!
私も…自己紹介、しなきゃ…!)
ゆのかはしゃがんで、湊と目線を合わせた。
少し考えて…ゆのかも微笑む。
「こん…にちは……ゆのか…です。
今日…から……仲間に…なります……
お歌…歌う…こと、が…好き、です。よろしく…ね…?」
「わぁーいっ!お姉ちゃんが、できたぁっ!」
湊は、何の躊躇いもなく、ゆのかにギュッと抱きついた。
「…!!」
「ゆのかぁ~!よろしくねっ?」
小さくて温かい手。柔らかい頬が、ゆのかの顔に当たる。
(わ……ちっちゃい…
私も…抱きしめて、いいのかな…?)
ゆのかは、宙で手を彷徨わせる。
「ギュッ、って、してくれないの…?」
「…!!!」
しょんぼりした声が、ゆのかの戸惑いを吹き飛ばした。
ギュ、と湊を抱きしめる。湊は小さくて温かかった。
「えへへ~」
湊の嬉しそうな声に、ゆのかはキュンとした。
「…おいっ、湊!
なに、くっついてんだよ?!離れろ!!」
だが、心穏やかになったのはほんの一瞬で…ゆのかは、体をビクンッ!と震わせた。
あいるの髪の毛問題に巻き込まれていたスカイが、突然湊に怒り始めたのだ。
湊は、ゆのかに強くしがみついた。
「やだやだぁ~~っ!」
「大体っ、オマエもオマエだっつーの!!」
スカイは、明らかにゆのかを睨んでいる。オマエとは、ゆのかのことらしい。
怒りの矛先が向いたことに、ゆのかの心臓が、速く動いた。
(どうして…怒っているの…?私がさっき……謝りそびれたから………?
あ……どうしよう…涙、出てきそう……泣いたら、怒られちゃう……っ、他の人の気分も、悪くさせちゃうかな………)
ゆのかは、小さな口を開いた。
「ご……ごめ…」
「スカイ。何怒ってんの?
2人は何もしてないでしょ。」
ゆのかの謝罪を遮って、うみが庇う。
「いーや!誰もつっこまねぇから、言わせてもらうけど…湊、すーぐ調子乗るんだぜ?!甘やかすんじゃねぇよ!!!」
「不仲より、全然マシじゃん。」
「そーかもしんねぇけど、おかしくね?!!
オマエら2人は、もう仲良くなってるってのに…なんでまだっ、オレだけ、ビビられてんだよ?!!」
スカイの叫びに、ゆのか以外の船員達はやれやれと呆れた。
そんなイラついた姿を見せないうみでさえ、怖がられる始末なのに。大声を出すなと、どうやって伝えようか、うみが迷っていた時だった。
「へっ…6歳児に嫉妬?
いい歳して、器ちっちゃ。」
ゆのかの腕の中から、底意地悪そうな声が聞こえる。だが腕の中には…まだ6歳の可愛い子どもしかいない。
(今の…湊君…?
ううん…可愛い湊君が、そんなこと言うわけない…)
ゆのかが、空耳だと納得していると…上からただならぬオーラを感じた。
スカイが、先程の形相でゆのかの方を睨んでいたのだった。
「んだと?!!
テメェ、今のもう一度言ってみろ!!!」
「ゆのかぁーーっ!こわいよぉおお!!」
一応、彼の名誉のために言っておくと…スカイは、当然、湊を睨んでいた。湊は、ゆのかとの時間を邪魔された腹いせにスカイを煽ったし、スカイもそれを分かっていて、湊を“テメェ”と怒った。
うみは、頭を押さえた。
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その湊が“怖い!”と言って抱きつき、スカイが怒りを顕にしてしまえば……ゆのかにとって、スカイはもう恐怖の対象でしかない。
「わ…私が…全、部……悪い…ん……ですっ……
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ゆのかは、細い体を更に小さくして…湊を強く抱きしめている。
スカイは、青い顔で謝るゆのかと、ゆのかには見えないように黒く笑う湊を見て…ようやく、やってしまったことに気づいた。
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「なんだ、いつものことじゃん。」
「ちげぇよ!!!アイツがオレをバカにしたんだろ?!!」
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(スカイは後で説教するとして…ゆのかを、広場から出さなきゃ。
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「くそっ!!!
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「スカイ、どこ行くの?」
「あぁ?
自分の部屋だよ!文句あんのか?!」
「もうすぐ、昼飯なのに?」
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だったら、いいじゃねーかよ!!時間まで、自分の部屋にいたって!!!どーせオレはっ、ジャマみてぇだしよ!!!」
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思いっきりへそを曲げて、いじけたスカイ。周りの大人達は呆れていたが…ゆのかだけは、そんな風には思えなかった。
(どうしよう…っ?!
謝らなきゃ……っ、きっと…許してくれない……行かなきゃ…)
震える足で立ち上がって、ゆのかはスカイの後を、ついて行こうとする。
だが、その手をうみは握った。
「え……?」
「気にしなくて、大丈夫だよ。」
「で…っ、でも…!!」
「ゆのかは悪くないでしょ。
この2人の喧嘩だから、放っといて大丈夫。」
ゆのかは、不安そうにうみを見る。うみは優しく笑った。
「この2人、いつもこんな感じなんだ。ね?湊。」
「そぉだよ~!
だからゆのかは、なんにもわるくないの!」
「そーだそーだ!」
「お嬢ちゃんは、何も悪くねぇぞ!!」
周りの船員も、2人に加勢する。
(2人も、他の船員さんも……さっきの出来事…特に何も、思っていないの……?)
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「それより…湊。
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「だって、おもしろいんだもん!」
「ったく……
ゆのか。本当に、気にしなくていいからね?スカイは飯食ったら、さっきのこと全部、忘れるから。」
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だが、スカイを知らないゆのかは、不安に駆られる。心臓がドクドク動いていた。
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「ぶっぶー!」
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つぎは、スカイでー…そのつぎが、うみでー…あとは、みーんな大人で、わかんない!
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「スカイは、ゆのかと同い年だよ。」
「……!」
うみが、ゆのかの考えていることを読み取ると……ゆのかは、目を見開いた。
「君付けしなくて、大丈夫だから。逆に拗ねて、さっきみたいになっちゃうし。」
ゆのかは少し、困った顔をした。
(仲良くないのに…怒らせたのに…呼び捨て…?
ていうか…どこが拗ねてたの…?本気で、怒ってなかった…?)
頭の中の疑問が残ったまま、とりあえず首を縦に振ると…湊が両手を上げた。
「うみもスカイもズルい!!
おれもっ、湊ってよんで?」
頬をぷっくり膨らませて、ゆのかの脚に抱きついた。
(あぁ……可愛いなぁ…………
きっとうみは、気を使って、ああいう言い方をしてくれたけど…拗ねるってきっと、こういうことだよね。
驕っちゃ駄目。後できちんと、謝らないと…)
ゆのかは、もう一度しゃがんで…湊に笑いかけた。
「うん…分かった。」
「じゃー、れんしゅーね?
ゆーのかっ!」
とびきりの笑顔ときらきらの瞳に…ゆのかの心臓から、きゅん。と音がした気がした。
(私の名前…こんなにも愛らしく呼ばれるなんて……生まれて初めてかも…)
ゆのかは、少し緊張しながら口を開いた。
「み…湊…」
「わぁい!!
ねーねー、ゆのかー!」
「な…なぁに…?湊…」
「えへへっ…よんでみただけ~」
「!!!!!」
ゆのかの頬が、紅潮した。
(マジか。)
あれだけ長い時間、ゆのかと一緒にいたうみには、そんな表情はしない。
湊には、一瞬で心を開いたにしては、開きすぎているような気がして、かなり大きなショックを受ける。
(勉強、それなりに、頑張ってきたつもりだったけど…この子の可愛いさを、表現できる言葉が、見当たらない…!
そのくらい…可愛い…!!)
だが、ゆのかは、うみの気持ちなんて知らず、湊の愛らしさに興奮している。
「ゆのか!仲良くなってるとこ、悪ぃんだけど…」
あいるがゆのかに、声をかける。
(……あれ?)
あいるの方を向くと……あいるの髪は、出会った時と同じショートヘアだった。
「他のヤツら、まだ集まんなくてさ。
先に、ゆのかの部屋を案内してやっから、ついてこい!」
「あいるさん……髪…」
「これかっ?そこら辺の刃物で、切ってやった!」
なんともワイルドな髪の切り方に、ゆのかは目を丸くした。
「え…」
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あいるは、ゆのかの肩をくるっと回して…そのまま広場を後にした。
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