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2章:テイマーとしての覚悟

37. かくし芸大会の開催

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「さぁ、ついに始まりました毎年恒例のかくし芸大会! 司会はこの私、プログレス・オンラインの公認アイドルことロロアが務めさせて頂きます♪」

 ついにこの日が来てしまった。ロコさんの紹介でミシャさんに相談してから早10日、その間にミシャさん監修のもとパフォーマンスのトレーニングに明け暮れ、あっという間にかくし芸大会当日。今からこんな大勢の前に立つことになるのかとドキドキが激しくて苦しくなってきた。

「緊張してるの? 大丈夫大丈夫、ステージに立ってしまえば何とかなるって♪」
「うぅ、そうは言ってもこんな大勢の前に出るなんて、人生初めてのことなんでやっぱり緊張しちゃいます」
「ナツちゃん、パフォーマーにとって観客は負荷じゃなくてエナドリなんだよ。観客からの視線や歓声をエナドリなんだと思い込んで、『うおおおお、エナドリが体に染みわたって来たー!!』って思ってみ! ちょー飛ぶぜ♪」
 
 ――いくら私が思い込みの激しい系女子だったとしても、いきなりその境地には立てそうにないですよぉ……。

「こらこら、人前に出ることに慣れておらぬ者に無理を言うでない」
「ロコさん、人前でも緊張しない裏技とかって無いですか?」
「う~ん。裏技という訳ではないが、わっちの場合は目の前の自分のやるべきことに集中しておるな。初めてテイマーの大会などに出た際はやはり緊張したものじゃが、後は慣れとやるべきことに集中することで気にならんようになったのじゃ」
「目の前のやるべきことに集中ですね……」

 そちらの方が私には合っているかもしれない。そう、私は猪突猛進でよく周りが見えなくなる女。……ヨシ!
 今回の大会出場者は全部で42名。動画サイトで下調べした際に見たプレイヤーもちらほら居るし強敵ばかりだ。この中で1番になるためにはミシャさんが授けてくれた秘策をしっかりやり遂げるしかない!

「……あれ? あの、ミシャさん」
「うにゃ? ナツちゃん、どうしたんだい?」
「えっと、あそこに居る方って去年の大会で2位だった方じゃ……」
「……うん、そうみたいだね。あ、あはは……ま、まぁ、1位2位が出場しないのはあくまで暗黙のルールであって強制ではないからね!彼、去年2位だったことを凄く悔しがってたし」
「確かにそうですけど……よりにもよって今年その暗黙のルールを破らなくても……」

 そのプレイヤーは去年2位の成績をだしたパフォーマーで、去年は『攻撃技能と食材を使った前衛アート』というパフォーマンスで観客を沸かせていた。1位も2位もどちらも凄く、どちらが優勝してもおかしくないクオリティであったことを鮮明に覚えている。

「うん、でも今更慌てたって仕方がないですね! 今はとにかく自分のことに集中します!」
「お、いいねいいね! ナツちゃん大物だねぇ♪」
「はい、そのために……他の参加者のパフォーマンスは極力観ずに、自分の番が来るまで目を瞑ってイメトレしてます!」
「それは大物なのか小物なのか分からぬな」

 それから私はミシャさんとロコさんを観客エリアに残し、参加者控えエリアで1人イメージトレーニングに勤しむことにした。……そうしているうちに時間は過ぎ、遂に私の出番だ。
 私はサモンリングからレキを具現化し、インベントリからボールを取り出した。ちなみに今の私の恰好はいつものタトゥーと手枷足枷ではなく、ゲームを始めた当初に来ていた初期装備のみだ。そして今から私がやるのは……。

「続いてのパフォーマーは新米テイマーのナツちゃんだ! 見せてくれるパフォーマンスは、テイマーとペットによる100回リフティングラリー。2人の息の合ったコンビネーションをとくとご覧あれ♪」

 今でこそ私は引きこもりだが、実のところ運動は結構得意な方だ。小学校の頃、私自身は入っていなかったがクラス内には地元のサッカークラブに所属している子が多く、体育の時間やお昼休みにリフティング勝負が流行っていた時期があり、それに混ざっていた私は自然とリフティングが出来るようになっていた。
 更に、このゲーム内ではステータスによって現実より体が思うように動かせる。そしてもう1つのゲーム内でリフティングをやる利点が回避スキルだ。回避スキルは回避時や集中した際に反応速度が上がり、時間が緩やかに感じられるようになるのでリフティングのような反応速度が重要な演目には最適なのだ。

「えっと、私、ナツと言います! それで、この子が私のペットでピクシーウルフのレキです。今日のためにレキと2人で一生懸命練習してきましたので、是非応援よろしくお願いします!」
「ナツちゃん、頑張れ~!」

 私が緊張した様子で自己紹介を済ませると、早速観客エリアから応援が飛んできた。
 私は一度目を瞑り、一呼吸して気持ちを落ち着かせる。そして同じく気合が入っている様子のレキと目を合わせた。

「レキ、頑張ろうね!」
「ワフッ♪」

 まずは私から最初のパスを送る。レキはそれを器用に頭で弾き返し、私は極力ふわっと返しやすいようにまたパスを送る。それに対して司会進行のロロアさんがラリーの回数を声に出してカウントしてくれる。
 レキと私のラリーが2回3回と繰り返えされ、順調に回数を刻んでいき早くも30を超えた。……そして、そこから乱れだした。少しずつボールの軌道が右へ左へ揺れていき、レキも私もギリギリ拾い返せたような場面がちらほら出て気だしたのである。

「っ! くっ!」
「ワフッ!」
「あっ!?」

 私のパスが思った以上に低いボールになり、即座にレキが拾いにくい所へと飛んで行ってしまった。それに対してレキは懸命に追いかけて何とか弾き返す。だが、そのボールはあらぬ方向へと飛んでいき、走って追いかけるもギリギリ間に合わなかった。

「あぁ~、惜しい!! 惜しくも47回目で失敗してしまいました。……どうします? もう一度だけ挑戦してみますか?」
「……はい、もう一度だけ挑戦させて下さい!」
「よろしい! プログレス・オンラインの公認アイドルロロアちゃんの権限により、2回目の挑戦を認めます!!」

 プログレス・オンラインの公認アイドルにどれだけの権限があるのかは分からないが、私は2度目のチャレンジを認めてもらうことが出来た。
 私は気合を入れなおし、また1からカウントを始める。2度目のチャレンジは1度目よりかなり安定しており、早くも47回目を超えて回数を更新する事が出来た。……だが、そこでアクシデントが起きる。

「えっ、風がっ!?……間に合わない!!」

 突然強い風が吹き込み、ボールの軌道が大きく変わってしまったのだ。そして私はそれに間に合わず2度目のチャレンジは72回目で幕を閉じた。
 プログレス・オンラインの風はリアルさが追及されており、風邪の向きや強さがランダムとなっている。そして勿論、今回のように突然突風に煽られることもある。
 
「これは何たる不運!! あんなに順調であったのに、ここに来て突風が吹き荒れるなんて! プログレス・オンラインの神様は鬼か悪魔なのか~!!」

 公認アイドルのロロアさんがノリノリで実況を加える。

 ――ここで、勝負だ!!

 私は観客エリアの方へと向くと、大きく頭を下げた。

「お願いします! あと1度だけ、本当に次が最後です! もう一度だけチャンスを頂けませんでしょうか!!」
「……如何でしょうか? もし観客の皆様がそれで良ければ、私は公認アイドルロロアちゃんの権限により正真正銘のラストチャンスを与えたいと思います」

 そして一瞬の静寂のあと、声が上がった。

「いいよー! ナツちゃんレキちゃん頑張れー!!」
「ナツちゃんファイト~♪」
「次はいけるぞー!!」

 観客エリアから、私に対する沢山の応援や最後のチャンスを認める声が上がった。

「観客の皆様からの承認も得られましたので、ナツちゃんにはラストチャンスを与えたいと思います。ですがナツちゃん、次が本当の本当にラストチャンスですよ?」
「はい、ありがとうございます!……これが本当にラストチャンスです! 皆さんどうか応援をよろしくお願いします!!」

 そうして私はまた大きくお辞儀をして、レキと向き合った。レキと目を合わせると一瞬の間を置いてレキへと歩みより、1度ぎゅっと抱きしめる。

「レキ、これが最後のチャンス。頑張ろうね」
「ワフッ!」

 そして3度目のチャレンジが始まる。3度目は今まで以上に丁寧にパスを送り、慎重に慎重にラリーを繰り返す。
 まずは危なげなく1度目で終わった47回目を超えた。それからも高い集中力を維持したまま順調に回数を増やしていき、ついに2度目の72回目をも超える。そして80を超えたあたりから観客エリアからの熱量も増え始め、いつの間にかラリーのカウントにロロアさんだけでなく観客の声も重なっていく。

「「「83、84、85……91!92!93!」」」

 カウントが90を超えると観客エリアからの声も更に大きくなりはじめる。カウントを取る声が響く度に空気が大きく震えているような錯覚さえする。
 今まで以上に安定していたラリーだが、90回目を超えたあたりからまた少しずつブレ始める。そして96回目からブレは大きくなり、かなり危うい場面が出て来た。
 96、97回目を何とかクリアしたが、98回目で私がミスをする。レキから送られてきた低めのパスを何とか返したのだが、その軌道はかなり高い位置になってしまいレキが届くか分からないパスになってしまったのだ。

「ワオーン!!」
「「「99!!」」」

 空を飛ぶレキでも間に合わない高さに上がってしまったパスは、それを見た観客からはもう駄目だと思わせるようなものであった。だが、ここでレキの魔法が発動する。空を飛ぶレキより更に高い位置にマナシールが出現し、なんとかボールを弾き返したのだ。
 だが、弾き返されたボールは私よりはるか前方に落ちていた。私は全力で前へと走り込んでスライディングしながらボールと地面との間に足を滑り込ませる。
 
「っんのぉおおおおおお!!!」
 
 そして思いっきりボールをけり上げた。

「「「100!!!!」」」
「いったー!!」
「ナツちゃん凄~い!!」
「ナツちゃんおめでとう!!!」
「レキちゃん可愛い~♪」

 会場のボルテージは最高潮だった。観客エリアのあちこちから賞賛の声が上げられ、今日一番の盛り上がりを見せる。
 ……そしてそれは、全てミシャさんの計画通りだった。
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