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3章:それぞれのテイマーの道

【こぼれ話 side.ロコ】わっちの親友

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「ロコ……久しぶり」

 蟻巣の森で発生したバグモンスターを倒し祝勝会を行った数日後、わっちはリンスから突然の連絡を受けた。理由は聞いておらぬが、何か伝えたいことがあるとの事で、わっちはすぐに了承の返信を送り現在に至る。

「久しぶりじゃのぅ。……お主がまだこのゲームを続けていてくれて嬉しいのじゃ。他のギルドメンバーに聞いてもはぐらかされてばかりじゃったからの」
「あぁ、ごめんね。ロコの力を借りずに頑張りたかったから、皆には私のことをロコに伝えない様にお願いしてたんだ」
「わっちの力を借りずにと言うと、何をしておったんじゃ?」

 わっちがそう問うと、リンスはサモンリングからペットを呼び出した。それはリンスが初めて手に入れたペット、モカさんじゃった。
 リンスはネットサーフィン中に偶々見かけた新ペット追加というプログレス・オンラインの広告を見て、そこに写っておったカウントベアーに惚れこみ、衝動的に10万近くをガチャに突っ込んでプログレス・オンラインデビューを果たしたらしい。

 初めてリンスと会ったのは、商業の街近くの森じゃった。その時のリンスはキャーキャー悲鳴を上げながらカウントベアーのモカさんを抱いて逃げ回っておって、それを助けたのが出会った切っ掛けじゃった。その後、テイマーについて教えて欲しいと頼み込まれ、それから何だかんだ長い付き合いになっておる。
 少々経緯は違うがナツと似たような流れじゃな。

「モカさんね、レベル100になったのよ。凄いでしょ♪」
「お主がペットのレベルをカンストさせたのかえ!?」
「……そんなにビックリされると、流石にちょっと傷つくんですけど」

 そう言ってリンスはわっちのことをジトっと睨むが、これは仕方がないと思うのじゃ。オブラートに包んで言えば慎重派、はっきり言ってしまえばリンスはヘタレじゃった。そんなリンスがペットのレベルをカンストさせられるとは夢にも思わない。

「凄く頑張ったんだから。前のギルメンにも手伝ってもらって強いモンスターにも挑んだし、不器用なりにペット支援の立ち回りを一生懸命練習したし。ほんっとうに今までの人生で一番頑張ったと思う! うん、私偉い!!」
「……何故、そんなに頑張ったのじゃ? あんな事があった後じゃ、わっちはお主がテイマーを辞めておったとしても驚かんかったよ」
「う~ん、あの時ロコ、キーちゃんがロストしたことを自分の所為だと思ってたでしょ? 多分私が何を言ったとしても、自分を責め続けたと思うし。……正直言うとね、キーちゃんを失って、その上自分のことを責め続けるロコを見るのが嫌だったの。だから私はギルドからもロコからも逃げ出したの。……ごめんね、何も伝えずに一方的に逃げて」

 それに関してわっちは何も責めることは出来んかった。何せリンスの言った通りじゃとわっちも思ったからじゃ。恐らく、リンスがわっちは悪くないと言ってくれたとしても、わっちは自分を責め続けたじゃろう。表では空元気を見せたとしても、リンスにはバレバレじゃったろうしの。

「でも、これでロコとお別れなんていうのも嫌だったし、また前みたいに一緒に遊びたいって思ってたのよ? だから、ロコの手助けを受けずにモカさんをレベル100にして、私は立派なテイマーになったぞ~って自慢げに凱旋しようと思ったわけよ! そしてキーちゃんが死んじゃったのはロコの所為じゃなくてあの頃の私が弱かったから、そして貢献派閥の奴らの所為なんだって声高らかに宣言するつもりだったの」
「……と言うことは、これからはまた前のように会えるのかえ?」
「あ、あはは~。それがそうも行かなくなっちゃったんだよね~。……私、この度ママになります! そして今度結婚します!」

 リンスは右腕をビシッと上げて、声高らかに宣言した。

「あぁ、それは仕方がないのぅ。……ん? と言う事はお主、デキ婚かえ!? お主は昔からその場のノリで動くところがあった故、そういう事になるんじゃないかと危惧しておったわ!」
「違いますぅ~。これは神様からこの人と結婚しろって啓示だから、デキ婚なんてアクシデントじゃなくて啓示婚なんですぅ~」
「何を阿呆なことを言っとるんじゃ! お主、デキ婚の離婚率を知っておるのかえ!? 10代なら8割、それ以上でも1/3が離婚するんじゃぞ!!」

 それからは2人で少し言い合いとなったが仕方がないと思うのじゃ。わっちの所にもよくこの手の依頼者が現れるんで、デキ婚に対して全く良いイメージを持っておらんかったからの。

「はぁ、全くお主は。……もし何か困ったことがあったらわっちに必ず相談するんじゃぞ? ほんの些細なことでも構わん。絶対にわっちが力になるでな」
「うん、ありがとう。ロコはきっと私の味方で居てくれるって思えるし、それが心強いから不安が少ないって言うのもあるんだよね。……それはそうと、ロコ?」
「なんじゃ? わっちはそんな目で見られるようなことをした覚えは無いのじゃが」
「あの目立つことが嫌いなロコが最近やけに活発に動いているようだけど。それに、二つ名ギルドなんて物にも入ってるし……いったい何をしてるの?」

 守秘義務がある故言う事が出来んと突っぱねるわっちと、いいから言えとしつこく強要してくるリンスとの攻防が続いた。その後はアイテムやペットの相続についての話、あとは弟子のナツに会わせろなどと唐突に言われ、何とも慌ただしい再会じゃった。

 ――まぁ、これだけ元気であれば、いつかまたひょっこり現れることもあるじゃろう。

 慌ただしい再会じゃったが、これが永遠の別れにはならないと自然と思える再会じゃった。
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