36 / 38
第八章
悪鬼の終焉-03
しおりを挟む
「シズカ様!」
その敵兵たるエイサー=フラットは思わず声を上げた。エイサー=フラット… グロウサー帝国第13騎士団親衛隊の一員である。白い巻髪、整った顔立ち。どこからどう見ても、女性好みのいい男である。それだけに、なんだか面白くない。とにかく、リーヴァのことを知るために静の協力を得ることにしたのだ。
「よくぞご無事で…」
「私が無事なことはおわかりでしょう? 第一、私がそう簡単に軍門に下るように見えて?」
静は髪を掻き上げ、首を傾げながら微笑んだ。いやいやあなた、結構アッサリと降ったじゃありませんか?
「はい! …とにかく安心しました。あなたがこの無粋な男に倒された時には、息も止まるかと…」
「無粋な男?」
「ええ、あのライヴ=オフウェイという…」
エイサーの瞳に邪険な光が宿っていた。
「…いくらNo2のあなたでも、この方のことを悪く言うのは許しませんことよ」
「何と嘆かわしい! あなたほどの方が、こんなにも簡単に籠絡してしまうとは…」
…こいつ、本気で馬鹿にしてないか?
「…おい」
「なんでしょう、ライヴ様!」
静の声のトーンが跳ね上がった。
「…いや、静もそうなんだけどさ。エイサー、君は俺に何かおかしな感情を持ってないか?」
「ああ、持っているとも。俺が掴んだ情報だと、次々と女という女をタラしこんでいるらしいじゃないか」
「それは誤解だ。勝手に、とは言わないけど、自然発生的にそういう感情を持たれてしまってるだけで…」
「なんにせよ、だ。我々のシズカ様を惑わした罪は死罪に値する!」
「いや、そーゆーのはこっちに置いといてさ。俺は人の居所を探している。協力して欲しい」
「誰がお前の頼みなぞ…」
「…エイサー、私からもお願いしたいのだけれど?」
「はい! 喜んで!」
◇ ◇ ◇ ◇
「クーリッヒ=ウー=ヴァンの物語を知るものは幸いである。心穏やかであろうから。それ故に、伝えよう。連綿と受け継がれてきた、英雄たちの物語を。…皆さん、こんばんは。クーリッヒ=ウー=ヴァンの世界へようこそ。私が当番組のナビゲーターを努めます、ブレンドフィア=メンションです。ご機嫌はいかがですか?
…さて。戦後処理のお話です。深夜から朝にかけてのわずか数時間で、グリーティスタンの州都スタディウム・ノーディスタンは陥落しました。その経緯についてはいまだ詳しくはわかっていません。ですが、海浜の都市ズィーゲン=ダミーラスから発掘された書簡には、戦後復興に関する資料が書き込まれていました。では、ライヴ=オフウェイ少年たちはどのようにこの州の復興に関わってきたのでしょうか…?」
ここに、数巻のバンバスの書簡がある。ここに描かれているのは、他国からの侵略に対抗する要衝としての州:グリーティスタン地方全体の戦後復興に関する内容だ。当時無事だった都市からの資材や人員などの流通の情報が事細かに記載されていた。その内容について、アンスタフト=ヒストリカ教授はこのように語ってくれた。
「…当時戦争に巻き込まれずにすんだズィーゲン=ダミーラス、フォフトヴァーレン、ディーツァ、グリート・レインスの4都市から、陸路を通じて人と物の動きがあったことが記されています。特に被害の酷かったダズアルト砦のシュタークフォート城では、数多くの人夫が出入りしていたとされています。中でも、非常に興味深い書簡があります。この書簡にには、シュタークフォート城修復に携わった人夫のタイムカードが記載されていました。朝の7時頃から、夕方の6時まで。もちろん休憩時間にはおやつも出されていた模様です。また休暇の理由も事細かく書かれていて、『工事中の怪我のため』という理由から、中には『二日酔いのため』などというユニークなものまで遺されています。このように、当時の人々が生き生きと働いていた様子が窺い知れますね」
では、軍事面ではどうだったのだろうか? その疑問には、ミンダーハイト=ギリアートン教授が答えてくれた。
「…少なくとも、国境近くにあるフィスクランドやブラガルーンのフェアンレギオン砦には、一旦集結した各地の各部隊が配備されたとあります。城塞都市であるアーサーハイヴの第13号遺跡で発掘された書簡によると、兵士の配置についての詳細な情報が遺されていました。その中に、ライヴ=オフウェイ少年の名前が列記されていたのは言うまでもありません。とにかく。奇跡的に城以外の大きな破壊を免れたスタディウム・ノーディスタンのハープシュタット城の修復を含め、この時期でも非常に早いスピードで復興が成されたとされています。そう、流通の基礎は、この頃には既に確立されていたのです…」
◇ ◇ ◇ ◇
…結論から言おう。
捕虜として捉えたエイサー=フラット、エース=ロイター、タレント=ツァズァイトの三名は全くお話しにならなかった。ただひたすら静を讃え、敬い、愛していたことだけは痛いほど理解できた。そんな中でわかったことが一つだけある。
静は”ジーベン・ダジール”である以前に、更に東にある”ナフバシュタート州”の貴族の娘であったらしい。しかも数ヶ月前までは美しい黒髪にブラウンの瞳の少女だったと言う。そんな静の本名はブラウヌ=アーガン。数年前に突然ジーベン・ダジールが起こり、静としてのパーソナリティが発現したというのだ。
静は言う。
「ええ、私は列記としたこの世界の住人でしたわ。たしかに、もう一人の自分に気がついた時には正直ビックリしましたけれど…。でも、今の自分も嫌いではありませんの。あなたという運命の人と巡り会えたんですもの!」
で、静のフリーク三人組は言う。
「たとえシズカ様が誰であろうとも、我々の愛は変わることはないッ!」
くり返し言おう。つまり、お話にならないのである。
仕方ない。他を当たるしかなかった。そんな時である。
「そう言えば私の実家… オリエンアリッシュからの便りでは、領主様のところに少女がひとりやって来たそうですわ。それがライヴ様の言う方かどうかは存じ上げませんが…」
◇ ◇ ◇ ◇
「…では、東に向かいたいと?」
アジ・ダハーカのブリッジにて。俺はローンに今後の相談をしにやって来ていた。
「はい。たとえ僅かな情報でも、リーヴァにつながる手がかりになるなら行ってみて損はないと思います」
「しかし、…本当にいいのかね? かの州もそう簡単には落とせはしないぞ」
「と、いうと?」
「キミは知らないだろうが、ナフバシュタート州というのは先のウィクサー首長国と、砂漠と海とで繋がっている緩衝地帯だ。それだけに、強固な砦で固められている。当然ではあるが、それなりに強力な兵士も多い。…できるかね?」
「できるできないではなくて、やるしかないんです。マーダーの脅威は去っても、彼女が無事でいる保証はない…」
ローンは大きく深呼吸をした。そして空を仰ぎながらサングラスのブリッジを直し、横目で俺を見つめる。
「もう決まっているようだな」
「…はい。」
「ならば、今なすべきことは…」
「既に手配済みです」
「…だったな。後は私のサインを待つのみ… なのかね?」
「よくご存知で」
「ハハハ… 君には参ったよ。わかった。承認しよう。ただし、ちゃんと勝算の目処が付いてからだ」
◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇ、今度はナフバシュタートへ向かうって?」
アジ・ダハーカのラウンジで地図を眺めていた俺に、シェスターが後ろから抱きついてきた。
「ちょ、シェスター、苦しいって!」
「で、リーヴァの居所でも掴めたのカナ?」
シェスターは頬を俺の頬に擦りつけながら嬉しそうに聞いてくる。
「ま、まぁね。居所になるかどうかはわからないけど、ヒントらしきものがあったから…」
「そっかぁ! 良かったじゃん」
「あ、アリガト。それよりも、ムネ、ムネ…」
「え? ボクのムネがどうしたって?」
「そう言いながら、更に押し付けてくるんじゃなーい!」
「へへっ! 臆病者にはなんにもできないでしょ?」
「お、おまえなぁ…」
「あ、怒った!」
シェスターはピョンと飛び退くと、笑いながら走り去っていった。
「どうした? シェスターが顔を真っ赤にして嬉しそうに走っていったぞ?」
シェスターと入れ違いにフラウが入ってきた。風呂上がりなのか、なんだか少し艶っぽい。
「あ、ああ。なんでもないよ。次に向かう土地について調べてたんだ」
「ほう… で、今度はどこへ行こうと言うんだ?」
何気なしにフラウは俺の隣りに座って、地図を覗き込む。頭にタオルを巻いていて、うなじがやけに色っぽい。しかも、なんだかいい匂いがする。これは、シャンプーの香り? それとも、香水?
「…あ…」
フラウが、顔の近さに驚いたようだ。段々と頬が、耳まで真っ赤に染まる。つられて俺まで頬が熱くなる。
「あ、あわわわわわわ…」
「フラウ、えっと、あっと…」
「ララララライヴ、ええええっとな!?」
「…そんな、人の名前を謳い上げるみたいに言うな」
「すすすすまん、こんな、わたし、そんな、つもりじゃ…」
「い、いや。そういう事もあるさ。ドンマイ」
「…で、ナフバシュタートか…」
気付くと俺とフラウは背中合わせになって、話をしていた。
「そう。で、実際どんな場所なんだ?」
「暖かい国だ。冬がないと言ってもいい」
「そんなに温かいの?」
「冬でも泳げる」
「そうなんだ?」
「ああ。それから、大きな神殿がある。アブソルート・ゴットを祀っている…」
「七大天使?」
「…ああ、…その、お前をこの世界に召喚した… 天使たちを祀っている」
「魂の入れ替え…」
「そうだ。できれば私は行きたくないな…」
「なぜ?」
「…察しろ、バカ!」
フラウは突然立ち上がり、歩いていった。
「…クックック…」
「…アギル、見てたろ?」
ラウンジの入口から、笑い声の主が現れた。
「フラウもシェスターも、可哀想に…」
「なんだよ。責めるなよ」
「だから、前から言ってんじゃん。早く気持ちに答えてやれってさ」
「アギルはどうなんだよ?」
「俺? もちろん、お持ち帰りしてるぜ?」
「…お持ち帰り…」
「ああ。俺が死んじまったら可愛そうだから、一夜限りの関係だけどな」
「…アギル、お前っていくつだっけ?」
「俺? 21」
「成人か、なら…」
「何言ってんの? もうお前、ちゃんと自分で生活できてんじゃん?」
「…へ?」
「兵士だろうが文民だろうが、生活できてりゃ、立派な成人だよ。例え10歳でもな」
「じ、10歳って…」
「俺が知ってる奴で、2人嫁貰ったのがいるぜ。12で」
「12歳って… その人の仕事ってば…?」
「ああ、ドラグナー乗り。優秀でね、今ダス・ヴェスタのレジスタルスメンバーだよ」
デ・カルチャー!!!!
「おい、どうしたライヴ?」
「いや、ちょっち目眩が…」
「ちなみに、ふたりとも年上女房だそうだ。毎日のように可愛がられてるってよ」
「…へ、へぇ~…」
「とにかく。連中の気持ちを知っているなら、死んじまう前にちゃんと気持ちに答えてやりな」
「あ。ああ…。参考にさせてもらうよ…」
それにしたって、12で二人の嫁さんか…。文化が違えば、制度も変わるもんだな…。一体、どんな嫁さんなんだろ?
◇ ◇ ◇ ◇
数時間後、俺はスタディウム・ノーディスタンの市街地にいた。フレンドリッヒャー=プロデュセン… フレディが会いたいと言ってきたのだ。彼はヌッツからこの国内における興行権を手にしていた。そんな彼からの、突然の呼び出しである。なんとも不思議な感覚だった。一体どのような要件なのだろう…?
時は夕刻、街中の小さなオープンカフェにて。俺は店に最も近い席に座り、その時を待った。
「やぁ、お待たせしました。お早いですね」
フレディがポロシャツにジーンズという出で立ちでやって来た。ナルホド、デニム生地はこの世界にもあるよな。
「いえ、いま来たところです。で、ご用というのは?」
「いやぁ、お呼びだてして本当に申し訳ありません。実は、ライヴさんにお見せしたいものがありまして…」
俺に? 興行のことに関したら、今やフレディのほうが手練なはず。一体何を見せてくれるのだろう…?
「…お見せしたいというのが、…これです」
彼は一枚の写真を見せてくれた。そこには、内戦中と思われる一人の人物が映されていた。…なんだ、ただの戦場写真か。最初はそう思った。だが、そこに映っていたものに、俺の目は釘付けになった。
「…フレディさん、コレ…」
「…お気づきになりましたか。この写真は、ほんの昨日に撮影されたものです。場所は、ナフバシュタート州にあるラウレスランド。ご存知かもしれませんが、ナフバシュタート州で最も激しい戦闘が行われてきた場所です。そして… この写真に映された人物こそ、…リーヴァ=リバーヴァその人です…」
その敵兵たるエイサー=フラットは思わず声を上げた。エイサー=フラット… グロウサー帝国第13騎士団親衛隊の一員である。白い巻髪、整った顔立ち。どこからどう見ても、女性好みのいい男である。それだけに、なんだか面白くない。とにかく、リーヴァのことを知るために静の協力を得ることにしたのだ。
「よくぞご無事で…」
「私が無事なことはおわかりでしょう? 第一、私がそう簡単に軍門に下るように見えて?」
静は髪を掻き上げ、首を傾げながら微笑んだ。いやいやあなた、結構アッサリと降ったじゃありませんか?
「はい! …とにかく安心しました。あなたがこの無粋な男に倒された時には、息も止まるかと…」
「無粋な男?」
「ええ、あのライヴ=オフウェイという…」
エイサーの瞳に邪険な光が宿っていた。
「…いくらNo2のあなたでも、この方のことを悪く言うのは許しませんことよ」
「何と嘆かわしい! あなたほどの方が、こんなにも簡単に籠絡してしまうとは…」
…こいつ、本気で馬鹿にしてないか?
「…おい」
「なんでしょう、ライヴ様!」
静の声のトーンが跳ね上がった。
「…いや、静もそうなんだけどさ。エイサー、君は俺に何かおかしな感情を持ってないか?」
「ああ、持っているとも。俺が掴んだ情報だと、次々と女という女をタラしこんでいるらしいじゃないか」
「それは誤解だ。勝手に、とは言わないけど、自然発生的にそういう感情を持たれてしまってるだけで…」
「なんにせよ、だ。我々のシズカ様を惑わした罪は死罪に値する!」
「いや、そーゆーのはこっちに置いといてさ。俺は人の居所を探している。協力して欲しい」
「誰がお前の頼みなぞ…」
「…エイサー、私からもお願いしたいのだけれど?」
「はい! 喜んで!」
◇ ◇ ◇ ◇
「クーリッヒ=ウー=ヴァンの物語を知るものは幸いである。心穏やかであろうから。それ故に、伝えよう。連綿と受け継がれてきた、英雄たちの物語を。…皆さん、こんばんは。クーリッヒ=ウー=ヴァンの世界へようこそ。私が当番組のナビゲーターを努めます、ブレンドフィア=メンションです。ご機嫌はいかがですか?
…さて。戦後処理のお話です。深夜から朝にかけてのわずか数時間で、グリーティスタンの州都スタディウム・ノーディスタンは陥落しました。その経緯についてはいまだ詳しくはわかっていません。ですが、海浜の都市ズィーゲン=ダミーラスから発掘された書簡には、戦後復興に関する資料が書き込まれていました。では、ライヴ=オフウェイ少年たちはどのようにこの州の復興に関わってきたのでしょうか…?」
ここに、数巻のバンバスの書簡がある。ここに描かれているのは、他国からの侵略に対抗する要衝としての州:グリーティスタン地方全体の戦後復興に関する内容だ。当時無事だった都市からの資材や人員などの流通の情報が事細かに記載されていた。その内容について、アンスタフト=ヒストリカ教授はこのように語ってくれた。
「…当時戦争に巻き込まれずにすんだズィーゲン=ダミーラス、フォフトヴァーレン、ディーツァ、グリート・レインスの4都市から、陸路を通じて人と物の動きがあったことが記されています。特に被害の酷かったダズアルト砦のシュタークフォート城では、数多くの人夫が出入りしていたとされています。中でも、非常に興味深い書簡があります。この書簡にには、シュタークフォート城修復に携わった人夫のタイムカードが記載されていました。朝の7時頃から、夕方の6時まで。もちろん休憩時間にはおやつも出されていた模様です。また休暇の理由も事細かく書かれていて、『工事中の怪我のため』という理由から、中には『二日酔いのため』などというユニークなものまで遺されています。このように、当時の人々が生き生きと働いていた様子が窺い知れますね」
では、軍事面ではどうだったのだろうか? その疑問には、ミンダーハイト=ギリアートン教授が答えてくれた。
「…少なくとも、国境近くにあるフィスクランドやブラガルーンのフェアンレギオン砦には、一旦集結した各地の各部隊が配備されたとあります。城塞都市であるアーサーハイヴの第13号遺跡で発掘された書簡によると、兵士の配置についての詳細な情報が遺されていました。その中に、ライヴ=オフウェイ少年の名前が列記されていたのは言うまでもありません。とにかく。奇跡的に城以外の大きな破壊を免れたスタディウム・ノーディスタンのハープシュタット城の修復を含め、この時期でも非常に早いスピードで復興が成されたとされています。そう、流通の基礎は、この頃には既に確立されていたのです…」
◇ ◇ ◇ ◇
…結論から言おう。
捕虜として捉えたエイサー=フラット、エース=ロイター、タレント=ツァズァイトの三名は全くお話しにならなかった。ただひたすら静を讃え、敬い、愛していたことだけは痛いほど理解できた。そんな中でわかったことが一つだけある。
静は”ジーベン・ダジール”である以前に、更に東にある”ナフバシュタート州”の貴族の娘であったらしい。しかも数ヶ月前までは美しい黒髪にブラウンの瞳の少女だったと言う。そんな静の本名はブラウヌ=アーガン。数年前に突然ジーベン・ダジールが起こり、静としてのパーソナリティが発現したというのだ。
静は言う。
「ええ、私は列記としたこの世界の住人でしたわ。たしかに、もう一人の自分に気がついた時には正直ビックリしましたけれど…。でも、今の自分も嫌いではありませんの。あなたという運命の人と巡り会えたんですもの!」
で、静のフリーク三人組は言う。
「たとえシズカ様が誰であろうとも、我々の愛は変わることはないッ!」
くり返し言おう。つまり、お話にならないのである。
仕方ない。他を当たるしかなかった。そんな時である。
「そう言えば私の実家… オリエンアリッシュからの便りでは、領主様のところに少女がひとりやって来たそうですわ。それがライヴ様の言う方かどうかは存じ上げませんが…」
◇ ◇ ◇ ◇
「…では、東に向かいたいと?」
アジ・ダハーカのブリッジにて。俺はローンに今後の相談をしにやって来ていた。
「はい。たとえ僅かな情報でも、リーヴァにつながる手がかりになるなら行ってみて損はないと思います」
「しかし、…本当にいいのかね? かの州もそう簡単には落とせはしないぞ」
「と、いうと?」
「キミは知らないだろうが、ナフバシュタート州というのは先のウィクサー首長国と、砂漠と海とで繋がっている緩衝地帯だ。それだけに、強固な砦で固められている。当然ではあるが、それなりに強力な兵士も多い。…できるかね?」
「できるできないではなくて、やるしかないんです。マーダーの脅威は去っても、彼女が無事でいる保証はない…」
ローンは大きく深呼吸をした。そして空を仰ぎながらサングラスのブリッジを直し、横目で俺を見つめる。
「もう決まっているようだな」
「…はい。」
「ならば、今なすべきことは…」
「既に手配済みです」
「…だったな。後は私のサインを待つのみ… なのかね?」
「よくご存知で」
「ハハハ… 君には参ったよ。わかった。承認しよう。ただし、ちゃんと勝算の目処が付いてからだ」
◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇ、今度はナフバシュタートへ向かうって?」
アジ・ダハーカのラウンジで地図を眺めていた俺に、シェスターが後ろから抱きついてきた。
「ちょ、シェスター、苦しいって!」
「で、リーヴァの居所でも掴めたのカナ?」
シェスターは頬を俺の頬に擦りつけながら嬉しそうに聞いてくる。
「ま、まぁね。居所になるかどうかはわからないけど、ヒントらしきものがあったから…」
「そっかぁ! 良かったじゃん」
「あ、アリガト。それよりも、ムネ、ムネ…」
「え? ボクのムネがどうしたって?」
「そう言いながら、更に押し付けてくるんじゃなーい!」
「へへっ! 臆病者にはなんにもできないでしょ?」
「お、おまえなぁ…」
「あ、怒った!」
シェスターはピョンと飛び退くと、笑いながら走り去っていった。
「どうした? シェスターが顔を真っ赤にして嬉しそうに走っていったぞ?」
シェスターと入れ違いにフラウが入ってきた。風呂上がりなのか、なんだか少し艶っぽい。
「あ、ああ。なんでもないよ。次に向かう土地について調べてたんだ」
「ほう… で、今度はどこへ行こうと言うんだ?」
何気なしにフラウは俺の隣りに座って、地図を覗き込む。頭にタオルを巻いていて、うなじがやけに色っぽい。しかも、なんだかいい匂いがする。これは、シャンプーの香り? それとも、香水?
「…あ…」
フラウが、顔の近さに驚いたようだ。段々と頬が、耳まで真っ赤に染まる。つられて俺まで頬が熱くなる。
「あ、あわわわわわわ…」
「フラウ、えっと、あっと…」
「ララララライヴ、ええええっとな!?」
「…そんな、人の名前を謳い上げるみたいに言うな」
「すすすすまん、こんな、わたし、そんな、つもりじゃ…」
「い、いや。そういう事もあるさ。ドンマイ」
「…で、ナフバシュタートか…」
気付くと俺とフラウは背中合わせになって、話をしていた。
「そう。で、実際どんな場所なんだ?」
「暖かい国だ。冬がないと言ってもいい」
「そんなに温かいの?」
「冬でも泳げる」
「そうなんだ?」
「ああ。それから、大きな神殿がある。アブソルート・ゴットを祀っている…」
「七大天使?」
「…ああ、…その、お前をこの世界に召喚した… 天使たちを祀っている」
「魂の入れ替え…」
「そうだ。できれば私は行きたくないな…」
「なぜ?」
「…察しろ、バカ!」
フラウは突然立ち上がり、歩いていった。
「…クックック…」
「…アギル、見てたろ?」
ラウンジの入口から、笑い声の主が現れた。
「フラウもシェスターも、可哀想に…」
「なんだよ。責めるなよ」
「だから、前から言ってんじゃん。早く気持ちに答えてやれってさ」
「アギルはどうなんだよ?」
「俺? もちろん、お持ち帰りしてるぜ?」
「…お持ち帰り…」
「ああ。俺が死んじまったら可愛そうだから、一夜限りの関係だけどな」
「…アギル、お前っていくつだっけ?」
「俺? 21」
「成人か、なら…」
「何言ってんの? もうお前、ちゃんと自分で生活できてんじゃん?」
「…へ?」
「兵士だろうが文民だろうが、生活できてりゃ、立派な成人だよ。例え10歳でもな」
「じ、10歳って…」
「俺が知ってる奴で、2人嫁貰ったのがいるぜ。12で」
「12歳って… その人の仕事ってば…?」
「ああ、ドラグナー乗り。優秀でね、今ダス・ヴェスタのレジスタルスメンバーだよ」
デ・カルチャー!!!!
「おい、どうしたライヴ?」
「いや、ちょっち目眩が…」
「ちなみに、ふたりとも年上女房だそうだ。毎日のように可愛がられてるってよ」
「…へ、へぇ~…」
「とにかく。連中の気持ちを知っているなら、死んじまう前にちゃんと気持ちに答えてやりな」
「あ。ああ…。参考にさせてもらうよ…」
それにしたって、12で二人の嫁さんか…。文化が違えば、制度も変わるもんだな…。一体、どんな嫁さんなんだろ?
◇ ◇ ◇ ◇
数時間後、俺はスタディウム・ノーディスタンの市街地にいた。フレンドリッヒャー=プロデュセン… フレディが会いたいと言ってきたのだ。彼はヌッツからこの国内における興行権を手にしていた。そんな彼からの、突然の呼び出しである。なんとも不思議な感覚だった。一体どのような要件なのだろう…?
時は夕刻、街中の小さなオープンカフェにて。俺は店に最も近い席に座り、その時を待った。
「やぁ、お待たせしました。お早いですね」
フレディがポロシャツにジーンズという出で立ちでやって来た。ナルホド、デニム生地はこの世界にもあるよな。
「いえ、いま来たところです。で、ご用というのは?」
「いやぁ、お呼びだてして本当に申し訳ありません。実は、ライヴさんにお見せしたいものがありまして…」
俺に? 興行のことに関したら、今やフレディのほうが手練なはず。一体何を見せてくれるのだろう…?
「…お見せしたいというのが、…これです」
彼は一枚の写真を見せてくれた。そこには、内戦中と思われる一人の人物が映されていた。…なんだ、ただの戦場写真か。最初はそう思った。だが、そこに映っていたものに、俺の目は釘付けになった。
「…フレディさん、コレ…」
「…お気づきになりましたか。この写真は、ほんの昨日に撮影されたものです。場所は、ナフバシュタート州にあるラウレスランド。ご存知かもしれませんが、ナフバシュタート州で最も激しい戦闘が行われてきた場所です。そして… この写真に映された人物こそ、…リーヴァ=リバーヴァその人です…」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる