蒼き炎の神鋼機兵(ドラグナー)2nd Season

しかのこうへい

文字の大きさ
7 / 22
第一章

マーダーの影-03

しおりを挟む
ダス・ヴェスタは小さな町だが、その町が内包する迎撃装備は一級品だった。

行動にえらく難儀した湿地帯のオースティンと比べ、この土地はしっかりした花崗土に覆われた恵まれた大地にあった。敵ドラグナーはキエイドルジェと呼ばれるカマキリを思わせる顔の指揮騎を筆頭に、SSナンバーを着けたヘイムダル・ファハンで防御を固められていた。

『-何だよコレ! いくら潰してもキリがないぜ!?-』
『-ボヤいてるんじゃねぇ、クライネ。それよかしっかり前を見ろ!!-』
『-そういうリハリングも、気を抜くんじゃないの!-』
『『-フラウ隊長!-』』
俺から観て2時の方向、ズム…という爆発音がその爆炎より遅れて響いてきた。

「フラウ隊、損害は!?」
『-オールグリーンだ。何も問題ない-』
「ダメージはないんだな?」
『-心配してくれるのも嬉しいけれど、ここはもっと私を信じて欲しいわ-』
「わかった。引き続き右翼の攻撃はフラウに一任する」
『-フフ…、観てて。任された-』

俺は未だ、アジ・ダハーカの艦橋にいた。出たくても出られないのだ。それ程までにダス・ヴェスタの防御網は完璧だった。
「…おいおい、こりゃ、下手な砦よりも難儀だぞ…」

そうなのだ。張り巡らされた塹壕には兵士が張り付き、ドラグナーで下手に突入しようものなら足元を救われる。もしもこの世界に無限軌道のクロウラが装着された戦車があれば、この小煩い塹壕を突破できるのだが…。

いや、あるにはある。かつてテレビのドキュメンタリーで観た、第一次大戦時の…。

化学兵器を含む、大量殺戮兵器。

もしもこの世界にもそういった類のものがあるとするならば、敵は躊躇なく使ってくるだろう。実際にそうだった。ダーフの村を壊滅させたのは、見まごうことなき火炎放射器だったのだ。

そしてもし、当方の兵士が塹壕を制圧した時には…。
「間違いなく使ってくるだろうな…」
「何をです?」
俺の呟きが聞こえたのか、エッセン=ハンプトフィンガーが聞いてきた。
「ああ、この世界にもB/C兵器があるのかなって」
「B?…C…?」
「生物兵器と化学兵器のことですよ、大尉。俺の世界ではBとかCとかって呼んでたんです。そういや、この世界にもあるんですか?」
「なるほど! そういう手がありましたね」
「いや、もしもこの世界にもあるというのなら、俺は絶対に使いたくない。絶対にだ!」

「…一瞬で塹壕の敵を鎮圧する方法ですか…。そんなものがあれば、私が今、使いたいところですよ」
「一瞬で… 一瞬で制圧…」
そうだ。まだこの地域は雨季だった。俺はカーゴにいるメイーダを呼んだ。

◇     ◇     ◇     ◇

クーリッヒ・ウー・ヴァンの物語を知るものは幸いである。こころ穏やかであろうから。だからこそ、伝えよう。勇敢なる戦士たちの物語を…。

「皆さんこんばんは。クーリッヒ・ウー・ヴァンの世界へようこそ。私が当番組のナビゲーターを努めます、ブレンドフィア=メンションですご機嫌はいかがですか?

さて。ダズ・ヴェスタへと舵を切ったライヴ少年一行。彼らは一体何を求めて彼の地へと赴いたのでしょう? そこには鉱山があったと、史記ゲシュヒテに記述が残っています。では何のために? 補給? それとも…? これらの問に答えてくれる歴史上の発掘物はあるのでしょうか?」

「私は今、ダズ・ヴェスタのあったツルック・ゴット山地の真南に位置する第3号遺跡に陣取っています。さぁ、この規模がわかりますか?」

アンスタフト=ヒストリカ教授だった。狭い土の通路からカメラがグッと引かれ、大きな遺構が現れた。それは網の目のように掘られた、塹壕の跡だった。

「ご覧のとおり、大規模な塹壕跡が見て取れます。これでもまだ、全てを発掘して終わった訳ではありません。それだけ広大な土地に渡って、この塹壕が掘り進められていたのです。これだけの塹壕を掘ってまで守ろうとした物とは、一体何だったのでしょう?

…残念ながら、それは未だに分かっておりません。あくまで推測に過ぎませんが… もしそれ・・が私の想像通りであれば、歴史がひっくり返るような発見につながるでしょう!」

そして、もう一人… ミンダーハイト=ギリアートン教授だ。
「私が今、どこにいるかお分かりの方はいらっしゃいますか?…そう、ここにはかつて、ムーアの砦があったとされる場所です。現在はその名残も全く感じさせられない近代的な都市となってしまいましたが、その都市の開発段階で数多くの遺跡が発掘されました」

画面は切り替わり、何らかの施設の中を映し出した。教授はボックストレーに埋め尽くされた棚に囲まれている。

「さて。ここはムーア県立歴史博物館の資料室です。ここに、ダズ・ヴェスタに関する銅板の碑が安置されています。まるで筆で書いたような美しい文字。そこには、このような記述がありました。

『ダズ・ヴェスタからのドラグナー十数騎もの援軍により、此度もウィクサー首長国の侵攻を防ぐことができた』

ダズ・ヴェスタは決して大きな街ではありません。が、大規模な塹壕の跡が発見されていたりインフラが想定以上に整えられていたという事実から、彼の地は当時から重要な、特別な場所だたと考えています。そもそも、ダズ・ヴェスタという街に、他所の防衛に回せる十数騎ものドラグナーが駐機していた…。実に不自然ですよね? つまり、ダズ・ヴェスタとは、発掘兵器であるドラグナーの発掘抗である可能性が実に高いのです!」

◇     ◇     ◇     ◇

「ドラグナーのコンバーターを使って、発電… ですか?」
カーゴにて。メイーダはその大きな瞳を更に大きくしながら身を乗り出してきた。
「…そうだよ、メイーダ。なんとかならないだろうか?」
「そりゃ、作れといわれれば作りますけど…」
「何か、問題でも?」
「そもそもドラグナーは発掘兵器です。維持はできても、開発はできないのはご存知ですよね?」
「勿論」
「それでは、下手に弄ることで、出力設定のバランスが崩れる可能性については?」
「想定内だ。第一、やってみなければ以降の運用にも問題が出てくる。違う?」
「それはその通りなのですが…」
「ほんの一瞬、高電圧のパルスショットが放てればいいんだ。それを数発。なんだったら、俺のレクルートだけに装備してもいい」
「コンデンサを使って蓄電ができれば、それほど負担をかけずに運用も可能かもしれませんね」
「と、言うことは…」
「ハイハイ、やってみましょう。少し時間をいただけますか?
「ありがとうございます!」
「…言い出したら全然人の話を聞かないんだから…」
「で、いつまでにできそう?」
「そうですね… 後3日もいただければ…」
「了解した! その線で頼みます!」

艦橋へと戻る道すがら、エッセンは俺の跡を追いかけながら聞いてきた。
「ライヴ艦長、一体何を考えているんですか?」
「まぁ、観てりゃわかるよ」
「それで、騎体のバランスを崩してまでやるべきことなんでしょうか?」
「この地はまだ、雨季が続いてるよね?」
「そうですが?」
「だからこそ、今できることがあるんですよ」
「?」
「さぁて、これで作戦はできた! 後は頼んだものが出来上がるのを待つだけだ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...