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12.幸福な愛、信じあう心

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それから、僕はたびたびお嬢様の快楽のご奉仕をすることがあったが、ミエル様の処女には手をつけず、固く守っていた。
それは別に、お嬢様の婚約者への義理立てのつもりではない。お嬢様を満足させるだけなら、僕のイチモツなど必要はないからだ。僕のご奉仕で快楽に浸るミエル様のお姿を見ているだけで、十分過ぎるほど幸せだった。

しかし、幸福な日々はそう長く続かない。
僕は、お嬢様のご結婚の日が迫ってくるのがとても辛かった。この秋には、お嬢様はマレシャル家のセルジュに嫁いでしまう。
僕に権力と財産があればお嬢様を自由にさせてあげられるのに、ただの使用人でしかない自分は無力だった。万が一二人で駆け落ちしても、お嬢様を幸せにできる自信など、端からなかった。何不自由なく育てられた良家のお嬢様に、生活のために泥臭いことをやらせるわけにもいくまい。
心に暗雲を抱えながら、僕は日々を送っていた。

あっという間に毎日は過ぎていき、いよいよ明日に婚礼の日が迫っていた。その日、僕は朝から憂鬱で、お嬢様を見るたびに心が締め付けられた。
お嬢様の一挙手一投足が愛おしく、もう二度とこのようにお目にかかることができなくなるのだと思うと、居ても立っても居られなかった。

一日が終わりかけていたその晩、僕は眠る前のハーブティーと、温室でポールさんに分けてもらったブルースターの花束を持って、お嬢様のお部屋へ向かった。ブルースターの花言葉は「幸福な愛」「信じあう心」であると、ポールさんに教えてもらった。
「ハーブティーをお持ちしました」
「入って」
お嬢様の声や表情には感情がなく、僕はミエル様のお気持ちを読み取ることができなかった。
「こちら、僕からの贈り物です。お嬢様にお仕えできて、僕は幸せでした。どうかお幸せに・・・」
僕が青い花束を差し出すと、お嬢様はそれを受け取らず、一瞬で僕に近づき接吻した。不意をつかれた僕は、花束を床に落としてしまった。
激しいキスだった。僕は自由になった手でお嬢様を抱きしめ、ミエル様の熱い口付けに応えた。
「ジュール、私は一生、あなたとは離れない。覚悟しておいて」
「・・・でも僕は、お嬢様とご一緒にそちらへ行くことは、叶わないのです」
「それはわかってる。だけど、最終的に、あなたは私と共に生きるの」
お嬢様は自信に溢れた様子でそうおっしゃった。
もしかしたら、お嬢様に何か腹づもりがあるのだろうか。僕にはミエル様の意図がわからなかったが、お嬢様の力強いお言葉に、僕は何だか希望が湧いてくるのを感じた。

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