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危険な取引き
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セルジア国第一王女・ロイ=フォーヴは、深い闇の中から意識を取り戻した。
ここは、どこだ……?
見慣れない場所だ。天井は高く、簡素だが美しい部屋だった。
ロイは起きあがろうとしたが、体を動かした瞬間、左腕にピリッと鋭い痛みが走った。
「うっ……」
ロイは小さく声を上げた。痛んだところを見ると、上腕に白い包帯が巻かれていた。それを見た瞬間、ロイの脳裏に宿敵クロード王との闘いの場面が蘇ってきた。
「セルジアの山猫」と呼ばれた自分と、「ウルスラの狼」の異名を持つクロード王との一騎打ちで、ロイは完全に破れたのだ。
190センチの長身から繰り出される敵の力強い攻撃に、ロイは健闘するものの、最後には打ちのめされてしまった。剣の腕では負け知らずだったロイにとって、それは初めての敗北だった。
私の国、セルジアは無事なのだろうか……。
お父様、妹のリュリ、私の忠臣たち、そして国民たち……。
ロイは愛しい者たちの無事を確かめるため、慌ててベッドから飛び起きた。腕の痛みは、彼女にとって取るに足らないことだった。
「これはこれは!お目覚めですか、ロイ様」
背後から、男の声が聞こえた。
ロイが振り返ると、そこにはあのクロード王の姿があった。
鴉の羽のような艶のある黒髪と、底の見えない闇を思わせる瞳。その青年王は、不吉な美しさを湛えていた。
「お前、よくも……私の国の者たちは無事なのだろうな?!」
威嚇をする猫のように、ロイは鋭い眼光でクロードを睨め付けながら叫んだ。
「……はい、無事ですよ。ロイ様と、貴女の可愛い忠臣のスノウ君だけ、我々の宮殿にご招待しました」
「私たちは、人質というわけか。スノウは無事なのか?」
「人質とは、人聞きが悪いですね。スノウ君なら、ほとんど無傷でしたし、元気にやっていますよ。今に会えるでしょう」
「お前の狙いは何だ?私たちから領土や主権を奪おうというのか?!」
「違います。正直に申し上げて、僕は貴女方の領土には興味がありません」
「では、なぜ我が国に攻め入った?」
「……それは、貴女が欲しいからです、レディ・ロイ。僕は、貴女が好きです」
「はあ?!」
クロードの思いがけない答えに、ロイは心がざわつくのを感じた。
「お前、私を揶揄っているんだろう?こんな男のような女が欲しいなどと!」
ロイは自分が男性に求められるなど、夢にも思っていなかった。男勝りで誰よりも強い彼女は、女性には黄色い声を上げられてきたが、男性に異性として意識された経験は一度もなかった。
自国に侵攻してきた忌むべき男に「好きだ」などと言われ、ロイの頭の中は大混乱になった。
「揶揄っているだなんて、心外です……。貴女はご自分の恐ろしいまでの魅力を知らないのです。僕がどれだけ貴女のことを考えてきたか……!僕は、貴女を妻に娶るために、今まで生きてきたのです!」
穏やかだったクロードの表情は一変し、その目には狂気が感じられた。
「ロイ内親王殿下、僕と、ウルスラ国王クロードと、結婚してください」
クロードは跪き、ロイの手をとった。
ロイは咄嗟に手を引き、クロードから一歩下がった。
「急にそんなことを言われても、困るじゃないか」
ロイは狼狽した。
「……突然で申し訳ありません、ロイ殿下。ですが、僕の求婚を受け入れていただかないと、忠臣の命や、セルジア国の安全は保証できません。国境には、いつでも侵攻できるよう軍を配置済みです」
クロードは口元に笑みを浮かべ慇懃に言うが、目の奥には冷たい炎が燃えていた。
この取引を受け入れなければ、大惨事が引き起こされるだろう。ロイは、自分一人が犠牲になるだけで皆が救われるなら、それも致し方ないだろうと思った。
何を考えているのかわからない変態男に、とんでもない辱めを受けるかもしれないという不安はあるが、ロイは自分の腕っぷしだけで国を守ってきた自信があった。私なら、いつかこの男を屈服させることができるかもしれない。
「……わかった、受け入れる。だから、私の部下をすぐに釈放し、セルジア国には一切手を出さないと約束してほしい」
「ありがとうございます!!!わあ、嬉しいなあ!」
ロイの言葉に、クロードは大声を上げて喜んだ。
「そうと決まれば、すぐに婚礼の準備をしないといけませんね!それでは、また後ほど」
クロードは今にも踊り出しそうな軽快な足取りで、ロイの部屋を後にした。
ロイは呆気に取られ、為す術もなく立ち尽くしていた。
ここは、どこだ……?
見慣れない場所だ。天井は高く、簡素だが美しい部屋だった。
ロイは起きあがろうとしたが、体を動かした瞬間、左腕にピリッと鋭い痛みが走った。
「うっ……」
ロイは小さく声を上げた。痛んだところを見ると、上腕に白い包帯が巻かれていた。それを見た瞬間、ロイの脳裏に宿敵クロード王との闘いの場面が蘇ってきた。
「セルジアの山猫」と呼ばれた自分と、「ウルスラの狼」の異名を持つクロード王との一騎打ちで、ロイは完全に破れたのだ。
190センチの長身から繰り出される敵の力強い攻撃に、ロイは健闘するものの、最後には打ちのめされてしまった。剣の腕では負け知らずだったロイにとって、それは初めての敗北だった。
私の国、セルジアは無事なのだろうか……。
お父様、妹のリュリ、私の忠臣たち、そして国民たち……。
ロイは愛しい者たちの無事を確かめるため、慌ててベッドから飛び起きた。腕の痛みは、彼女にとって取るに足らないことだった。
「これはこれは!お目覚めですか、ロイ様」
背後から、男の声が聞こえた。
ロイが振り返ると、そこにはあのクロード王の姿があった。
鴉の羽のような艶のある黒髪と、底の見えない闇を思わせる瞳。その青年王は、不吉な美しさを湛えていた。
「お前、よくも……私の国の者たちは無事なのだろうな?!」
威嚇をする猫のように、ロイは鋭い眼光でクロードを睨め付けながら叫んだ。
「……はい、無事ですよ。ロイ様と、貴女の可愛い忠臣のスノウ君だけ、我々の宮殿にご招待しました」
「私たちは、人質というわけか。スノウは無事なのか?」
「人質とは、人聞きが悪いですね。スノウ君なら、ほとんど無傷でしたし、元気にやっていますよ。今に会えるでしょう」
「お前の狙いは何だ?私たちから領土や主権を奪おうというのか?!」
「違います。正直に申し上げて、僕は貴女方の領土には興味がありません」
「では、なぜ我が国に攻め入った?」
「……それは、貴女が欲しいからです、レディ・ロイ。僕は、貴女が好きです」
「はあ?!」
クロードの思いがけない答えに、ロイは心がざわつくのを感じた。
「お前、私を揶揄っているんだろう?こんな男のような女が欲しいなどと!」
ロイは自分が男性に求められるなど、夢にも思っていなかった。男勝りで誰よりも強い彼女は、女性には黄色い声を上げられてきたが、男性に異性として意識された経験は一度もなかった。
自国に侵攻してきた忌むべき男に「好きだ」などと言われ、ロイの頭の中は大混乱になった。
「揶揄っているだなんて、心外です……。貴女はご自分の恐ろしいまでの魅力を知らないのです。僕がどれだけ貴女のことを考えてきたか……!僕は、貴女を妻に娶るために、今まで生きてきたのです!」
穏やかだったクロードの表情は一変し、その目には狂気が感じられた。
「ロイ内親王殿下、僕と、ウルスラ国王クロードと、結婚してください」
クロードは跪き、ロイの手をとった。
ロイは咄嗟に手を引き、クロードから一歩下がった。
「急にそんなことを言われても、困るじゃないか」
ロイは狼狽した。
「……突然で申し訳ありません、ロイ殿下。ですが、僕の求婚を受け入れていただかないと、忠臣の命や、セルジア国の安全は保証できません。国境には、いつでも侵攻できるよう軍を配置済みです」
クロードは口元に笑みを浮かべ慇懃に言うが、目の奥には冷たい炎が燃えていた。
この取引を受け入れなければ、大惨事が引き起こされるだろう。ロイは、自分一人が犠牲になるだけで皆が救われるなら、それも致し方ないだろうと思った。
何を考えているのかわからない変態男に、とんでもない辱めを受けるかもしれないという不安はあるが、ロイは自分の腕っぷしだけで国を守ってきた自信があった。私なら、いつかこの男を屈服させることができるかもしれない。
「……わかった、受け入れる。だから、私の部下をすぐに釈放し、セルジア国には一切手を出さないと約束してほしい」
「ありがとうございます!!!わあ、嬉しいなあ!」
ロイの言葉に、クロードは大声を上げて喜んだ。
「そうと決まれば、すぐに婚礼の準備をしないといけませんね!それでは、また後ほど」
クロードは今にも踊り出しそうな軽快な足取りで、ロイの部屋を後にした。
ロイは呆気に取られ、為す術もなく立ち尽くしていた。
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