狼と山猫 〜囚われの男装麗人は倒錯王に溺愛される〜

灯台守

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軍服を脱がされて

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しばらくの間、ロイは窓辺に佇み、物思いに沈んでいた。

気分は最悪だった。

好きでもない――否、むしろ憎むべき相手から突きつけられた、突然の結婚話。ロイのことを「好きだ」と言っていたが、そこにはきっと何か裏がある。あの男に斬られた左腕の傷は、今も鈍く痛んでいた。

そんな時、控えめなノックの音がして、侍女が部屋に入ってきた。

「奥方様、晩餐のお支度に伺いました。こちらへどうぞ」

「奥方様」という呼び方に、ロイは強い違和感を覚える。

――クロードが、侍女たちにそう呼ぶよう命じているのだろう。

侍女はロイをバスルームへ案内し、彼女が身に着けていた軍服に手をかけた。

「やめてくれ。自分で脱ぐ」

ロイは即座に侍女を制した。

他人の手で、自分の「強さの象徴」を剥ぎ取られるようで、どうにも我慢ならなかった。

腕の痛みに歯を食いしばりながら、ロイは軍服を脱ぐ。

露わになった肌は白く、滑らかで、疑いようもなく女のものだった。

鍛え上げられた腕や引き締まった腹筋とは対照的に、乳房や臀部は柔らかな曲線を描いている。男らしさと女らしさ、その両方を併せ持つ身体が、そこにあった。

風呂を終えたロイは、待機していた侍女に体を拭かれ、若草色の美しいドレスを着せられた。

「こんなものを借りるわけにはいかない。さっきの軍服を持ってきてくれ」

「申し訳ございません。国王陛下が、奥方様にはこちらをお召しになるようにと」

侍女は無表情のまま答えた。

ここではクロードの命令が絶対なのだ。逆らえば、祖国の者たちが無事で済む保証はない。

ロイは小さく息を吐き、腹を括った。

そして久方ぶりに、ドレスに袖を通した。

* * *

晩餐会が終わり、ようやく独りになれたロイは、むしり取るようにドレスを脱ぎ捨てた。白いネグリジェにガウンを羽織り、ベッドに身を投げ出して天井を仰ぐ。

クロードは晩餐の席で、ウルスラ国の要人達を前に、ロイと婚約した旨を宣言した。こうなると、もう自分に逃げ場はないのかもしれない。

激しい疲労が一気に押し寄せ、まぶたが重くなりかけた、その時――。

ノックの音と同時に、返事を待たず扉が開いた。

クロードだ。

一瞬で眠気が吹き飛び、ロイは身を起こして彼を睨みつけた。

「そんなに僕を威嚇しないでください、山猫さん」

そう言って、クロードはロイの手を取る。

振り払おうとしたが、祖国が人質に取られている現実が脳裏をよぎり、ロイは歯を食いしばって耐えた。

「今日は本当にありがとうございました。ロイ殿下のおかげで、素晴らしい晩餐になりました」

クロードは跪き、彼女の手に口づける。

その瞬間、ロイはぞくりと身を震わせ、思わず手を引いた。

「お前に触れられると、虫唾が走る!」

「……僕が怖いのですか、ロイ殿下」

クロードはロイの言葉にも臆することなく、再び手を取り、強く握りしめる。

間近で覗き込まれ、ロイは息を詰めた。

――こんなに近くで、この男を見るのは初めてかもしれない。

漆黒の髪、冷たく光る瞳、陶器のように青白い肌。

あまりにも整った、美しすぎる顔に、ロイは一瞬、言葉を失った。

「……愛しています、ロイ殿下。僕は、誰よりも貴女を愛せる自信があります……!」

そのまま、クロードは彼女の唇を奪った。

あまりに唐突で、ロイの思考は完全に停止する。

殺したいほど憎い相手からの口づけ――それなのに、仄かな甘さが胸の奥に広がっていく。何も言葉が出なかった。

「ああ……素晴らしい初めての接吻でした」

クロードは恍惚とした表情を浮かべている。

「名残惜しいですが、今夜はここまでに致します。また明日、続きを楽しみましょう」

そう言い残し、彼は部屋を去った。

独り残されたロイは、キスの余韻の中で立ち尽くし、どうにもならない想いに胸を締めつけられていた。
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