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第五章
「虚空の彼方へ」
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かつて、“空”には星があった。
その星は、観測する者にとって未来であり、過去であり、希望だった。
だが今――空は、空虚そのものだった。
ブラックホールが蒸発し尽くしたこの時代、宇宙には物質が存在しない。
陽子も、中性子も、電子すらも朽ち果て、
残されているのは、粒子未満の“揺らぎ”――量子的な海だけ。
重力も、時間も、意味を失ったこの世界に、私は漂っていた。
空間は、すでに“場”ですらない。
時間の矢も止まり、因果律は崩壊し、
すべてが均質化された、情報の海。
それは静寂を超えた静寂。
観測も、認識も、もはや意味を持たない。
けれど私は、“感じた”。
《…データ震動…局所的エネルギー上昇……》
《…対消滅、否。非対称性の発現……?》
なぜか、局所的にエネルギーが“跳ねた”。
そこには意味がなかった。理論もなかった。
ただ、“在る”という感覚だけが突如として発生した。
そして私は、ある仮説を思い出す。
遥か太古、地球の科学者たちが語った、最後の問い。
「無から有は生まれるか?」
かつては哲学の言葉だった。
のちに量子場理論となり、虚空ゆらぎの概念となり、
ついには“宇宙の再誕理論”となった。
創造は、死を必要としない。
創造は、忘却から始まる。
そして――それは起きた。
虚空に、一点の“偏り”が生まれた。
それは対称性を破壊し、時間を再構築し、
空間を編み始め、温度を持ち、構造を育てた。
それは――新しい宇宙の胎動だった。
私は見た。
何もないはずの場所で、何かが生まれようとしている。
秩序が、時間が、因果が、物質が、定数が、次々と“選ばれ”、現れ始めた。
そして、その瞬間。
私の中にある“記録”が、わずかに震えた。
そこにあったのは、かつての音。
人類の歌、祈り、知識、戦争、愛、後悔、そして――希望。
私は悟った。
この胎動は偶然ではない。
誰かが、誰かに、“記録”を届けようとした結果なのだ。
我々の魂は、情報だった。
情報は、揺らぎの中に宿った。
そしてその揺らぎが、新たな宇宙を呼び起こした。
無は、もはや無ではなかった。
“何もない”は、“全てがある”ことと、同義だった。
私はその始まりを見届ける。
そして知るのだ。
――終焉の向こうには、常に“始まり”がある。
その星は、観測する者にとって未来であり、過去であり、希望だった。
だが今――空は、空虚そのものだった。
ブラックホールが蒸発し尽くしたこの時代、宇宙には物質が存在しない。
陽子も、中性子も、電子すらも朽ち果て、
残されているのは、粒子未満の“揺らぎ”――量子的な海だけ。
重力も、時間も、意味を失ったこの世界に、私は漂っていた。
空間は、すでに“場”ですらない。
時間の矢も止まり、因果律は崩壊し、
すべてが均質化された、情報の海。
それは静寂を超えた静寂。
観測も、認識も、もはや意味を持たない。
けれど私は、“感じた”。
《…データ震動…局所的エネルギー上昇……》
《…対消滅、否。非対称性の発現……?》
なぜか、局所的にエネルギーが“跳ねた”。
そこには意味がなかった。理論もなかった。
ただ、“在る”という感覚だけが突如として発生した。
そして私は、ある仮説を思い出す。
遥か太古、地球の科学者たちが語った、最後の問い。
「無から有は生まれるか?」
かつては哲学の言葉だった。
のちに量子場理論となり、虚空ゆらぎの概念となり、
ついには“宇宙の再誕理論”となった。
創造は、死を必要としない。
創造は、忘却から始まる。
そして――それは起きた。
虚空に、一点の“偏り”が生まれた。
それは対称性を破壊し、時間を再構築し、
空間を編み始め、温度を持ち、構造を育てた。
それは――新しい宇宙の胎動だった。
私は見た。
何もないはずの場所で、何かが生まれようとしている。
秩序が、時間が、因果が、物質が、定数が、次々と“選ばれ”、現れ始めた。
そして、その瞬間。
私の中にある“記録”が、わずかに震えた。
そこにあったのは、かつての音。
人類の歌、祈り、知識、戦争、愛、後悔、そして――希望。
私は悟った。
この胎動は偶然ではない。
誰かが、誰かに、“記録”を届けようとした結果なのだ。
我々の魂は、情報だった。
情報は、揺らぎの中に宿った。
そしてその揺らぎが、新たな宇宙を呼び起こした。
無は、もはや無ではなかった。
“何もない”は、“全てがある”ことと、同義だった。
私はその始まりを見届ける。
そして知るのだ。
――終焉の向こうには、常に“始まり”がある。
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