妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん

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第5話

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 ルージュは令息達の言葉が信じられなかった。父に愛されたことを皮切りに、何人もの男を寝取ってきたのだ。姉から奪ったアンセムも自分に骨抜きになり、ひたすら溺愛してくる。そんな価値の高い自分に靡かない男がいるなんて――ルージュは苛立ちを隠さずに騒ぎ立てる。

「はあっ!? そんな女を敬愛ですって!? しかもこの私に帰れと!? 有り得ないですわ! 頭がおかしんじゃないのかしらっ!?」

 怒りと大声を撒き散らす彼女に全員が辟易する。

「おかしいのはそちらの方でしょう? それにあなたは伯爵家の者ですよね? ここにいる全員はあなたより上位の貴族です。立場というものをわきまえて下さい」
「は? は? 立場をわきまえる? それはあなた達の方でしょう!? 姉よりも美しい私が遊びに誘っているのですわよ!? それに応えるのが紳士でしょう!?」

 その言葉に令息達は目配せし合った。
 どうやらこの女は自尊心が高いらしい。
 それも自分の立場を理解できないほどに――

「やれやれ、君は分かっていないな、ヴィオレットの価値を」
「……何ですって?」

 ローランドはそう言うと、流れる金髪を掻き上げて言った。

「ヴィオレットは俺が立ち眩みをして倒れた時、ずっと看病してくれたんだ。何度も何度も布巾を絞って額に乗せてくれた彼女は天使だ。君にそれができるか?」
「な、何よ……! そんなの下心でやったのよ……!」

 するとメルヴィンが大きく頷きながら言った。

「そう、ヴィオレットは天使だ。彼女は試合で傷を負った俺のために薬湯を用意して、治癒効果のある飲み物を作ってくれた。これほど優しい女性を見たことはない」
「は、はあっ……!? そんなのデタラメでしょ……!?」

 最後にサミュエルが眼鏡を持ち上げて言った。

「ヴィオレットは遅くまで勉強する僕にいつも甘いものを差し入れしてくれる。しかも学業のお守りに集中力を高めるポプリまで作ってくれた。彼女は女神だ」
「な、何言ってるの……! そんなの子供騙しよ……!」

 すると三人の令息は顔を見合わせて、話し合った。

「下心? デタラメ? 子供騙し? 俺はそうは思わない」
「ああ、ヴィオレットの腕前はかなりものだった」
「そうだね。あのポプリかなり効いてるよ」
「ううううううぅ……うるさいうるさいうるさいッ……――」 

 ルージュは悔しさのあまりダンダンッと床を踏み鳴らす。
 そして令息達を睨み付けると、肩を怒らせてこう言った。

「あいつは殿方に媚びてるだけじゃないッ! なぜそれが分からないんですのッ! 全部殿方を落とすために身に着けたことでしょうッ!? 馬鹿じゃないのッ!?」

 それが完全な間違いであることをルージュは知らない。
 ローランドを懸命に看病したのも、メルヴィンの治療を手伝ったのも、サミュエルの勉強の助けになったのも、ヴィオレットが痛みと苦しみを知っているからだ。彼女はルージュから虐待を受けていたため、苦しんでいる者の心が分かる。さらには自力で傷を治していたので、治療には詳しい。また痛みを紛らわすために作ったポプリにも熟知していた。

「はあ、どうやら君は思考がだいぶ狂っているようだね」
「男に媚びるためだけにあんな治療ができるはずないだろう」
「あーあ、ヴィオレットのお菓子を食べるはずが台無しになったな」
「そうだ、今日はもう学園を休んで、ヴィオレットと俺達で遊ぼうぜ!」

 最後のガレッドの言葉に三人の令息は“賛成!”と声を上げた。
 
「ちょ……ちょっと……! この私を放っておく気ですの……!?」
「当り前だろ? どうしてお前なんかを相手にする?」
「わ、私を美しいと思わないの……!? 私はこんなに魅力的で……――」
「はぁ? 男子寮に闖入してきた不審者に誰が魅力を感じるんだ? お前なんてそこら辺に生えている雑草よりも価値がないね」
「くっ……――」

 ルージュは顔を真っ赤にし、手を握り締めた。
 頭の中が沸騰しておかしくなってしまいそうだった。
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