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第5話
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「なるほど、あの妹は姉から淑女としての美徳を奪っていたのか」
「ああ、ウルティアを見てみろ。前は獣のようだったが、今は姫のようだ」
ウルティアはすやすやと眠っていた。
かつては寝相が悪かったが、今では行儀良く寝ている。
そんな愛らしいウルティアを見て、ヴィンスは微笑まし気に頷いた。
「僕のウルティア……目覚めたら好きなものを買ってやろう……」
「ああ、それがいい。少し休憩した方がいいだろう」
そして二人はウルティアが目覚めるのを待ち、街へ出た。
足の不自由な彼女をヴィンスは軽々と抱き上げて歩く。
やがてウルティアはおもちゃの店の前でこう訴えた。
「ねぇ、伯爵様。私、あの熊さんが欲しいですわ」
「ああ、あれが欲しいんだね? 僕は伯爵じゃないが、買ってあげよう」
そして男達は大きな熊のぬいぐるみと玩具のティーセットを買って帰った。
それを屋敷の客間に置いてやると、ウルティアはごっこ遊びを始めた。
「そうよ、王子様。中指、人差し指、親指で取っ手を支えてティーカップを持ち上げるんですわ。ええ、お上手ですわ。流石、王子様です」
ウルティアは熊のぬいぐるみ相手に礼儀作法を教えている。
そこにヴィンスも混ざって、楽しいお茶会になった。
「まあ、伯爵様ったら、とてもお上手なのね?」
「僕はウルティアのことが大好きだからね」
「でも私には王子様がいますわよ?」
そう言って、ウルティアは熊のぬいぐるみをチラリと見る。
「王子様って……君の王子様は熊なのかい?」
「いいえ、伯爵様。私の王子様は運命の番なんです」
「運命の……――」
「ええ! ずっとずっと探していた番の王子様なんです!」
そう言って熊のぬいぐるみを抱き締めるウルティア――ヴィンスはそんな彼女を見て、目を潤ませていた。
「早く……早く正気に戻してやらないと……」
「ああ、ヴィンス。すぐに仕事へ戻ろう」
「次は何を奪い返す?」
その問いにクレイグは頷いた。
「そうだな、次は……――」
「ああ、ウルティアを見てみろ。前は獣のようだったが、今は姫のようだ」
ウルティアはすやすやと眠っていた。
かつては寝相が悪かったが、今では行儀良く寝ている。
そんな愛らしいウルティアを見て、ヴィンスは微笑まし気に頷いた。
「僕のウルティア……目覚めたら好きなものを買ってやろう……」
「ああ、それがいい。少し休憩した方がいいだろう」
そして二人はウルティアが目覚めるのを待ち、街へ出た。
足の不自由な彼女をヴィンスは軽々と抱き上げて歩く。
やがてウルティアはおもちゃの店の前でこう訴えた。
「ねぇ、伯爵様。私、あの熊さんが欲しいですわ」
「ああ、あれが欲しいんだね? 僕は伯爵じゃないが、買ってあげよう」
そして男達は大きな熊のぬいぐるみと玩具のティーセットを買って帰った。
それを屋敷の客間に置いてやると、ウルティアはごっこ遊びを始めた。
「そうよ、王子様。中指、人差し指、親指で取っ手を支えてティーカップを持ち上げるんですわ。ええ、お上手ですわ。流石、王子様です」
ウルティアは熊のぬいぐるみ相手に礼儀作法を教えている。
そこにヴィンスも混ざって、楽しいお茶会になった。
「まあ、伯爵様ったら、とてもお上手なのね?」
「僕はウルティアのことが大好きだからね」
「でも私には王子様がいますわよ?」
そう言って、ウルティアは熊のぬいぐるみをチラリと見る。
「王子様って……君の王子様は熊なのかい?」
「いいえ、伯爵様。私の王子様は運命の番なんです」
「運命の……――」
「ええ! ずっとずっと探していた番の王子様なんです!」
そう言って熊のぬいぐるみを抱き締めるウルティア――ヴィンスはそんな彼女を見て、目を潤ませていた。
「早く……早く正気に戻してやらないと……」
「ああ、ヴィンス。すぐに仕事へ戻ろう」
「次は何を奪い返す?」
その問いにクレイグは頷いた。
「そうだな、次は……――」
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