美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん

文字の大きさ
4 / 7

第4話

しおりを挟む
 疑念を深めたエドウィンは一度この二人から、詳しく話を聞こうと思った。姉妹は元々、没落貴族の娘達であり、貧困に喘いでいたところをワレント侯爵に拾われたのである。しかしワレント夫妻はその姉妹に虐待を加え、やがて捕まることになったのだ。姉妹がこの聞き取りで心を傷付けぬよう、優しく聞かねばならない。まずは妹のアレクシアを呼び出して、そっと尋ねる。

「辛いことを思い出させて申し訳ないが、君達は義理の両親に虐められていたの?」
「はぃ……私とテレシ……お姉様は確かに虐待されていました……」
「もし嫌でなければ、その時のことを教えてくれるかな?」
「えっと……ずっと地下室に閉じ込められて、お義父様とお義母様にお仕置きをされていました……。鞭で打たれたり、剃刀で切られたり、火を押し付けられたり、水を浴びせられたり……そんなことを毎日されてて……」
「その虐待は姉のテレシアにも行われたの?」
「それは……――」

 そこでアレクシアは口を噤んだ。
 その後、何を尋ねても答えてくれなくなった。
 エドウィンはアレクシアを下がらせ、今度はテレシアを呼び出した。

「ああ、エドウィン様! 私のことを疑っているんですね!」
「疑っている? どういうことだい?」
「アレクシアだけが虐待されてたって思っているんでしょう! でも私もちゃんと虐待を受けていました! ただし私は美しいので、その美しさを損ねないように体が傷付かない虐待を受けていました!」
「それはどんな虐待か、聞いてもいいかな?」
「水を大量に飲まされたり、寒い部屋や暑い部屋に放置されたり、気を失うほどくすぐられたり、耳元で大きな音を立てられたり……そんな虐待です!」
「なるほど、辛い目にあったんだね」

 エドウィンが同情を示すと、テレシアは彼の膝の上に乗った。
 そして唇を舌で湿らせながら、上目遣いで誘うような仕草をする。

「ね……? だから私に情けを与えて下さい……? エドウィン様……?」
「何を言っているんだい? さあ、膝から降りてくれ!」
「そんなことを言わないで、ベッドへ連れていって下さい……?」
「テレシアッ!」

 その一喝で、テレシアは身を竦めた。そしてそそくさと膝から降りると、部屋を後にした。エドウィンはテレシアの行動に頭を抱え、大いに悩んだ。こんな幼い子供が男に媚びる術を知っているはずがない。だとすれば、彼女は義父から性的虐待を受けていた可能性が高い――それは彼にとって胸が痛くなる事実であると同時に、頭も痛くなる事実だった。

 そして数日後、予想もしなかった事態に陥る。

 妹のアレクシアが二階の窓から落ち、怪我を負ったのだ。幸いなことに落下地点には洗濯物が山積みになった籠が置いてあり、大した怪我ではなかった。さらには彼女を着替えさせた侍女によると、その体には新しい切り傷がいくつもあったという。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

裏切られた氷の聖女は、その後、幸せな夢を見続ける

しげむろ ゆうき
恋愛
2022年4月27日修正 セシリア・シルフィードは氷の聖女として勇者パーティーに入り仲間と共に魔王と戦い勝利する。 だが、帰ってきたセシリアをパーティーメンバーは残酷な仕打で…… 因果応報ストーリー

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

常識的に考えて

章槻雅希
ファンタジー
アッヘンヴァル王国に聖女が現れた。王国の第一王子とその側近は彼女の世話係に選ばれた。女神教正教会の依頼を国王が了承したためだ。 しかし、これに第一王女が異を唱えた。なぜ未婚の少女の世話係を同年代の異性が行うのかと。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...