2 / 15
第2話
しおりを挟む
翌朝、わたくしは荷物を持ってリジューレ伯爵家の門の前に立っていました。すぐ後ろにはお父様とお母様とロサが立ち、にこにこと笑っています。
「そろそろ親戚が迎えに来る時間だな」
お父様がそう言った時、一台のボロ馬車がやってきました。御者は強面の太っちょ男性で、こちらを睨んでいます。彼こそが悪名高いお父様の親戚です。
やがてボロ馬車は門の前に停まり、親戚が降りてきました。それを見るなり、お父様とお母様とロサは嬉しそうに言ったのです。
「ほら、挨拶しろ。こいつの言うことをよく聞くんだぞ?」
「そうよ? 何を言われても、何をされても、従順にするのよ?」
「うふふふ、お姉様はようやく自分自身に相応しい場所へ行くのね?」
でもその言葉はすぐに遮られました。
「邪魔だ! この馬車をどけろ! 宮廷馬車が停まるぞ!」
突如、宮廷の召使が現れて怒鳴りました。お父様の親戚は狼狽え、すぐにボロ馬車を出します。
「我が屋敷前に宮廷馬車だと……?」
「どうしてそんな馬車が……?」
お父様とお母様が首を傾げていると、豪華絢爛な馬車がやってきました。やがてその馬車からはひとりの美しい青年が降りてきたのです。彼は第一王子のグラキエス様でした。
「きゃあん! 美氷のグラキエス様よ!」
ロサが黄色い悲鳴を上げて、彼へ駆け寄ります。すると二人の護衛が走り出し、ロサの腕を捻り上げました。
「い、痛いッ……!?」
護衛達はそのままロサの体を地面に押しつけます。
「お、おい! 私の娘に何をする!?」
「やめてちょうだい! ロサを離して!」
すると後続した馬車から数名の護衛が現れ、お父様とお母様も地面に押しつけました。そして三人が地に頭をつけると、グラキエス様がゆっくりと近づいてきたのです。
「――リジューレ伯爵、頭が高いぞ。貴様は貴族であるのに、王族への敬意の払い方も知らないのか?」
その冷たい言葉に、お父様とお母様とロサは硬直しました。しかしお父様は声を振り絞って、尋ねます。
「なぜ王子のあなたがここへ……!?」
「おや? リジューレ伯爵。俺は発言を許していないぞ?」
「うっ……うう……」
王族の前では頭を下げる、許してもらうまで発言しない、この国での礼儀を三人は知らないのです。やがてグラキエス様はわたくしの前まで歩いてくると、恭しく跪きました。
「リリウム様、お迎えに上がりました」
「ありがとうございます、グラキエス様」
お父様も、お母様も、ロサも、驚愕の表情を浮かべます。
「それでは参りましょう」
「ええ」
そしてわたくし達は馬車に乗り込み、リジューレ伯爵家を去りました。きっとあの三人は何が起きたのか、まるで理解していないでしょうね。拘束を解かれた後、この馬車に向かって暴言を吐いていましたから。
まあ、それは置いておきましょう。
それより問題なのは、馬車の中です。
グラキエス様は“美氷”呼ばれるほど美しく冷たい男性なのですが、氷も溶けるような熱視線をわたくしに送ってくるのです……。
「そろそろ親戚が迎えに来る時間だな」
お父様がそう言った時、一台のボロ馬車がやってきました。御者は強面の太っちょ男性で、こちらを睨んでいます。彼こそが悪名高いお父様の親戚です。
やがてボロ馬車は門の前に停まり、親戚が降りてきました。それを見るなり、お父様とお母様とロサは嬉しそうに言ったのです。
「ほら、挨拶しろ。こいつの言うことをよく聞くんだぞ?」
「そうよ? 何を言われても、何をされても、従順にするのよ?」
「うふふふ、お姉様はようやく自分自身に相応しい場所へ行くのね?」
でもその言葉はすぐに遮られました。
「邪魔だ! この馬車をどけろ! 宮廷馬車が停まるぞ!」
突如、宮廷の召使が現れて怒鳴りました。お父様の親戚は狼狽え、すぐにボロ馬車を出します。
「我が屋敷前に宮廷馬車だと……?」
「どうしてそんな馬車が……?」
お父様とお母様が首を傾げていると、豪華絢爛な馬車がやってきました。やがてその馬車からはひとりの美しい青年が降りてきたのです。彼は第一王子のグラキエス様でした。
「きゃあん! 美氷のグラキエス様よ!」
ロサが黄色い悲鳴を上げて、彼へ駆け寄ります。すると二人の護衛が走り出し、ロサの腕を捻り上げました。
「い、痛いッ……!?」
護衛達はそのままロサの体を地面に押しつけます。
「お、おい! 私の娘に何をする!?」
「やめてちょうだい! ロサを離して!」
すると後続した馬車から数名の護衛が現れ、お父様とお母様も地面に押しつけました。そして三人が地に頭をつけると、グラキエス様がゆっくりと近づいてきたのです。
「――リジューレ伯爵、頭が高いぞ。貴様は貴族であるのに、王族への敬意の払い方も知らないのか?」
その冷たい言葉に、お父様とお母様とロサは硬直しました。しかしお父様は声を振り絞って、尋ねます。
「なぜ王子のあなたがここへ……!?」
「おや? リジューレ伯爵。俺は発言を許していないぞ?」
「うっ……うう……」
王族の前では頭を下げる、許してもらうまで発言しない、この国での礼儀を三人は知らないのです。やがてグラキエス様はわたくしの前まで歩いてくると、恭しく跪きました。
「リリウム様、お迎えに上がりました」
「ありがとうございます、グラキエス様」
お父様も、お母様も、ロサも、驚愕の表情を浮かべます。
「それでは参りましょう」
「ええ」
そしてわたくし達は馬車に乗り込み、リジューレ伯爵家を去りました。きっとあの三人は何が起きたのか、まるで理解していないでしょうね。拘束を解かれた後、この馬車に向かって暴言を吐いていましたから。
まあ、それは置いておきましょう。
それより問題なのは、馬車の中です。
グラキエス様は“美氷”呼ばれるほど美しく冷たい男性なのですが、氷も溶けるような熱視線をわたくしに送ってくるのです……。
1,000
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
2025.10〜連載版構想書き溜め中
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
婚約者マウントを取ってくる幼馴染の話をしぶしぶ聞いていたら、あることに気が付いてしまいました
柚木ゆず
恋愛
「ベルティーユ、こうして会うのは3年ぶりかしらっ。ねえ、聞いてくださいまし! わたくし一昨日、隣国の次期侯爵様と婚約しましたのっ!」
久しぶりにお屋敷にやって来た、幼馴染の子爵令嬢レリア。彼女は婚約者を自慢をするためにわざわざ来て、私も婚約をしていると知ったら更に酷いことになってしまう。
自分の婚約者の方がお金持ちだから偉いだとか、自分のエンゲージリングの方が高価だとか。外で口にしてしまえば大問題になる発言を平気で行い、私は幼馴染だから我慢をして聞いていた。
――でも――。そうしていたら、あることに気が付いた。
レリアの婚約者様一家が経営されているという、ルナレーズ商会。そちらって、確か――
短編 一人目の婚約者を姉に、二人目の婚約者を妹に取られたので、猫と余生を過ごすことに決めました
朝陽千早
恋愛
二度の婚約破棄を経験し、すべてに疲れ果てた貴族令嬢ミゼリアは、山奥の屋敷に一人籠もることを決める。唯一の話し相手は、偶然出会った傷ついた猫・シエラル。静かな日々の中で、ミゼリアの凍った心は少しずつほぐれていった。
ある日、負傷した青年・セスを屋敷に迎え入れたことから、彼女の生活は少しずつ変化していく。過去に傷ついた二人と一匹の、不器用で温かな共同生活。しかし、セスはある日、何も告げず姿を消す──
「また、大切な人に置いていかれた」
残された手紙と金貨。揺れる感情と決意の中、ミゼリアはもう一度、失ったものを取り戻すため立ち上がる。
これは、孤独と再生、そして静かな愛を描いた物語。
裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!
サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。
「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」
飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう――
※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる