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第2話
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翌朝、わたくしは荷物を持ってリジューレ伯爵家の門の前に立っていました。すぐ後ろにはお父様とお母様とロサが立ち、にこにこと笑っています。
「そろそろ親戚が迎えに来る時間だな」
お父様がそう言った時、一台のボロ馬車がやってきました。御者は強面の太っちょ男性で、こちらを睨んでいます。彼こそが悪名高いお父様の親戚です。
やがてボロ馬車は門の前に停まり、親戚が降りてきました。それを見るなり、お父様とお母様とロサは嬉しそうに言ったのです。
「ほら、挨拶しろ。こいつの言うことをよく聞くんだぞ?」
「そうよ? 何を言われても、何をされても、従順にするのよ?」
「うふふふ、お姉様はようやく自分自身に相応しい場所へ行くのね?」
でもその言葉はすぐに遮られました。
「邪魔だ! この馬車をどけろ! 宮廷馬車が停まるぞ!」
突如、宮廷の召使が現れて怒鳴りました。お父様の親戚は狼狽え、すぐにボロ馬車を出します。
「我が屋敷前に宮廷馬車だと……?」
「どうしてそんな馬車が……?」
お父様とお母様が首を傾げていると、豪華絢爛な馬車がやってきました。やがてその馬車からはひとりの美しい青年が降りてきたのです。彼は第一王子のグラキエス様でした。
「きゃあん! 美氷のグラキエス様よ!」
ロサが黄色い悲鳴を上げて、彼へ駆け寄ります。すると二人の護衛が走り出し、ロサの腕を捻り上げました。
「い、痛いッ……!?」
護衛達はそのままロサの体を地面に押しつけます。
「お、おい! 私の娘に何をする!?」
「やめてちょうだい! ロサを離して!」
すると後続した馬車から数名の護衛が現れ、お父様とお母様も地面に押しつけました。そして三人が地に頭をつけると、グラキエス様がゆっくりと近づいてきたのです。
「――リジューレ伯爵、頭が高いぞ。貴様は貴族であるのに、王族への敬意の払い方も知らないのか?」
その冷たい言葉に、お父様とお母様とロサは硬直しました。しかしお父様は声を振り絞って、尋ねます。
「なぜ王子のあなたがここへ……!?」
「おや? リジューレ伯爵。俺は発言を許していないぞ?」
「うっ……うう……」
王族の前では頭を下げる、許してもらうまで発言しない、この国での礼儀を三人は知らないのです。やがてグラキエス様はわたくしの前まで歩いてくると、恭しく跪きました。
「リリウム様、お迎えに上がりました」
「ありがとうございます、グラキエス様」
お父様も、お母様も、ロサも、驚愕の表情を浮かべます。
「それでは参りましょう」
「ええ」
そしてわたくし達は馬車に乗り込み、リジューレ伯爵家を去りました。きっとあの三人は何が起きたのか、まるで理解していないでしょうね。拘束を解かれた後、この馬車に向かって暴言を吐いていましたから。
まあ、それは置いておきましょう。
それより問題なのは、馬車の中です。
グラキエス様は“美氷”呼ばれるほど美しく冷たい男性なのですが、氷も溶けるような熱視線をわたくしに送ってくるのです……。
「そろそろ親戚が迎えに来る時間だな」
お父様がそう言った時、一台のボロ馬車がやってきました。御者は強面の太っちょ男性で、こちらを睨んでいます。彼こそが悪名高いお父様の親戚です。
やがてボロ馬車は門の前に停まり、親戚が降りてきました。それを見るなり、お父様とお母様とロサは嬉しそうに言ったのです。
「ほら、挨拶しろ。こいつの言うことをよく聞くんだぞ?」
「そうよ? 何を言われても、何をされても、従順にするのよ?」
「うふふふ、お姉様はようやく自分自身に相応しい場所へ行くのね?」
でもその言葉はすぐに遮られました。
「邪魔だ! この馬車をどけろ! 宮廷馬車が停まるぞ!」
突如、宮廷の召使が現れて怒鳴りました。お父様の親戚は狼狽え、すぐにボロ馬車を出します。
「我が屋敷前に宮廷馬車だと……?」
「どうしてそんな馬車が……?」
お父様とお母様が首を傾げていると、豪華絢爛な馬車がやってきました。やがてその馬車からはひとりの美しい青年が降りてきたのです。彼は第一王子のグラキエス様でした。
「きゃあん! 美氷のグラキエス様よ!」
ロサが黄色い悲鳴を上げて、彼へ駆け寄ります。すると二人の護衛が走り出し、ロサの腕を捻り上げました。
「い、痛いッ……!?」
護衛達はそのままロサの体を地面に押しつけます。
「お、おい! 私の娘に何をする!?」
「やめてちょうだい! ロサを離して!」
すると後続した馬車から数名の護衛が現れ、お父様とお母様も地面に押しつけました。そして三人が地に頭をつけると、グラキエス様がゆっくりと近づいてきたのです。
「――リジューレ伯爵、頭が高いぞ。貴様は貴族であるのに、王族への敬意の払い方も知らないのか?」
その冷たい言葉に、お父様とお母様とロサは硬直しました。しかしお父様は声を振り絞って、尋ねます。
「なぜ王子のあなたがここへ……!?」
「おや? リジューレ伯爵。俺は発言を許していないぞ?」
「うっ……うう……」
王族の前では頭を下げる、許してもらうまで発言しない、この国での礼儀を三人は知らないのです。やがてグラキエス様はわたくしの前まで歩いてくると、恭しく跪きました。
「リリウム様、お迎えに上がりました」
「ありがとうございます、グラキエス様」
お父様も、お母様も、ロサも、驚愕の表情を浮かべます。
「それでは参りましょう」
「ええ」
そしてわたくし達は馬車に乗り込み、リジューレ伯爵家を去りました。きっとあの三人は何が起きたのか、まるで理解していないでしょうね。拘束を解かれた後、この馬車に向かって暴言を吐いていましたから。
まあ、それは置いておきましょう。
それより問題なのは、馬車の中です。
グラキエス様は“美氷”呼ばれるほど美しく冷たい男性なのですが、氷も溶けるような熱視線をわたくしに送ってくるのです……。
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