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第5話
ふとコーディを見ると、その顔に驚愕の色が浮かんでいた。
美しい碧眼がゆらゆらと揺らめいている。
「あぁ……我が姫君……やはりあなた様は素晴らしい……――」
コーディはそう言って涙を零すと、それを拭い、正面を見据えた。
いつもとは違った面持ちに、エイリスは息を飲んだ。
「ど、どうしたの……? コーディ……?」
「わたくしは今まで、姫君に嘘を吐いておりました」
「う、嘘――」
コーディの申し出にエイリスは衝撃を受けた。
心から信頼していた従者が嘘を吐いていた――どんな嘘だろうか。
エイリスが嫌な考えを巡らせていると、相手が予想外のことを言った。
「わたくしは平民の出と申しましたが、実は伯爵家の息子です」
「伯爵家……? でもあなたの姓を持つ伯爵家はないはずよ……?」
「ええ、姫君。わたくしはこの国の者ではないのです。私の正体は――隣国スライアからの使者です」
「スライア国からの使者……?」
「その通りです。あなた様をこのデルラ国から連れ出し、スライア国の聖女とする。それが国王より授けられたわたくしの任務なのです」
エイリスは驚きの余り、目を見開いた。
スライアと言えば、善政をする若き王がいる国だ。
さらにはまっとうな貴族が多く、国民の気質も穏やかで住みよいという。
自分もスライア国へ生まれればよかった、そう思っていたほどの白い国――願ってもない話だった。
「でも……どうしてスライア国は私を……?」
「ご存知ありませんか? スライア国には聖女がいないのです。我が国は栄えておりますが、その歴史は浅く、聖女という古代からの力を持った人間はいないのです」
「そうなの……。それでこの国から連れてこようとしたのね……」
「はい、このデルラ国での聖女の扱いは不当だと、我が国の者達は誰しも憤っております。それならスライアに来て国を守ってほしい、それが国王と国民の願いです」
エイリスはコーディの説明に納得した。
デルラ国を出て、スライア国の聖女になる――望むところだ。
今まで聖女として王侯貴族や王都の住民達を見てきたが、酷いものだった。
自らの安全と安楽を求めて、国民を蔑ろにする王族。
爵位ばかりを重んじ、自分より下の者を虐げる貴族。
聖女をペテン師だと軽んじて、嘲笑うばかりの国民。
王宮や王都で受けた辛い仕打ちがエイリスの脳裏に蘇っていた。
「分かったわ。私、スライア国へ行きます」
「本当ですか! 姫君!」
「ええ、リネットさんとの力比べはわざと負けます。その後、城を追い出されたら、二人で隣国へ行きましょう」
「はい……! そう言って下さると信じていました……!」
はらはらと涙を零すコーディを宥め、エイリスは微笑んだ。
真っ暗だった未来が開けて、明るくなった気がしていた。
美しい碧眼がゆらゆらと揺らめいている。
「あぁ……我が姫君……やはりあなた様は素晴らしい……――」
コーディはそう言って涙を零すと、それを拭い、正面を見据えた。
いつもとは違った面持ちに、エイリスは息を飲んだ。
「ど、どうしたの……? コーディ……?」
「わたくしは今まで、姫君に嘘を吐いておりました」
「う、嘘――」
コーディの申し出にエイリスは衝撃を受けた。
心から信頼していた従者が嘘を吐いていた――どんな嘘だろうか。
エイリスが嫌な考えを巡らせていると、相手が予想外のことを言った。
「わたくしは平民の出と申しましたが、実は伯爵家の息子です」
「伯爵家……? でもあなたの姓を持つ伯爵家はないはずよ……?」
「ええ、姫君。わたくしはこの国の者ではないのです。私の正体は――隣国スライアからの使者です」
「スライア国からの使者……?」
「その通りです。あなた様をこのデルラ国から連れ出し、スライア国の聖女とする。それが国王より授けられたわたくしの任務なのです」
エイリスは驚きの余り、目を見開いた。
スライアと言えば、善政をする若き王がいる国だ。
さらにはまっとうな貴族が多く、国民の気質も穏やかで住みよいという。
自分もスライア国へ生まれればよかった、そう思っていたほどの白い国――願ってもない話だった。
「でも……どうしてスライア国は私を……?」
「ご存知ありませんか? スライア国には聖女がいないのです。我が国は栄えておりますが、その歴史は浅く、聖女という古代からの力を持った人間はいないのです」
「そうなの……。それでこの国から連れてこようとしたのね……」
「はい、このデルラ国での聖女の扱いは不当だと、我が国の者達は誰しも憤っております。それならスライアに来て国を守ってほしい、それが国王と国民の願いです」
エイリスはコーディの説明に納得した。
デルラ国を出て、スライア国の聖女になる――望むところだ。
今まで聖女として王侯貴族や王都の住民達を見てきたが、酷いものだった。
自らの安全と安楽を求めて、国民を蔑ろにする王族。
爵位ばかりを重んじ、自分より下の者を虐げる貴族。
聖女をペテン師だと軽んじて、嘲笑うばかりの国民。
王宮や王都で受けた辛い仕打ちがエイリスの脳裏に蘇っていた。
「分かったわ。私、スライア国へ行きます」
「本当ですか! 姫君!」
「ええ、リネットさんとの力比べはわざと負けます。その後、城を追い出されたら、二人で隣国へ行きましょう」
「はい……! そう言って下さると信じていました……!」
はらはらと涙を零すコーディを宥め、エイリスは微笑んだ。
真っ暗だった未来が開けて、明るくなった気がしていた。
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