辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん

文字の大きさ
9 / 18

第9話

しおりを挟む
 力比べをした日の夜――
 エイリスとコーディはスライア国の王都に到着していた。
 コーディが手回しをし、ドラゴンが引く竜車を手配していたのだ。
 本来ならそのまま王宮へ向かうはずだったが、エイリスが王都を見学したいと言ったため、二人は門の前で竜車を降りた。

「わあ! スライア国の王都ってとても素敵な場所ね!」
「気に入っていただけて、何よりです」

 王都は夜であるにも関わらず、明るく賑やかだった。
 魔道の力で光る街灯、よく整備された道、新しい立派な建物――
 古い以外に価値のない石造りの家が並び、汚物の水溜まりが泥道にいくつもあったデルラ国王都とは大違いである。

「このスライア国は他国と比べ、飛躍的に発展しています。一般家庭には安価な燃料で家中を灯せる照明、調理に役立つ魔道具、国からの伝令を伝える魔道具などがあります。姫君も以前より良い暮らしを送れるでしょう」
「それは凄いわね……! でもどうしてそんなに技術躍進したの?」
「異世界から転移者や転生者をこの国に集めたからですよ。他国で勇者を得るため、召喚の儀をしているのを知っていますね? その時、勇者ではないと追放された人々を我が国王が迎え入れたのです」
「そうだったの……。転移、転生者が技術を齎したのね……」

 その時、道の先から騎士の一団が歩いてきた。
 先頭に立つのは銀の長髪を一つに束ね、同色の切れ長の目を輝かせ、褐色の肌をした美青年――この国の騎士団長トワイルである。
 彼はエイリスを見ると、一瞬目を大きく見開いた。
 しかしすぐに表情を戻すと、恭しく跪いたのである。

「ようこそ我がスライア国へいらっしゃいました、聖女様。わたくしはこの国の騎士団長トワイル・アウツと申します」
「わ、私はエイリス・ライトです……。よろしくお願いします……」
「ええ、これからはわたくしが貴女をお護り致します。麗しきエイリス様」
「……っ!」

 エイリスが頬を染めると同時に、コーディが前に出た。

「最も身近で姫君を護るのはこのわたくしです。あなたはただの護衛でしょう?」
「何を言っている、コーディ。貴様では彼女を守り切れない」
「何だと!?」
「ちょ……ちょっと……揉めないで……」

 今にも掴みかかりそうなコーディをエイリスが宥める。
 すると彼はすぐに大人しくなり、引き下がった。

「それでは王宮へ案内いたします。エイリス様はご用意した馬にお乗り下さい」

 そして聖女達は騎士団に率いられ、王宮へ向かった。
 すると聖女の到来を知った住民達が騒ぎ、ちょっとしたパレード状態となる。
 エイリスは困惑したが、それと同時に感動もした。
 ここへ来て良かった――早々とそんな思いが湧いてくる。
 やがて王宮へ到着すると、すでに国王が待っているという。
 エイリスとコーディ、そしてトワイルはすぐに謁見の間へ向かった。
 国王という立場の人間に会うことにエイリスは慣れていたが、それでも相手がスライアの国王だと思うと緊張してきた。
 王座前の広間で跪き、頭を垂れて待機していると、柔和な声が響いた。

「頭を上げて下さい、聖女様」
「は、はい……」

 エイリスが顔を上げると、そこには微笑むスライア国王の姿があった。
 彼の名はレイト――若くして即位したため、年齢はエイリスの少し上くらいだ。
 柔らかな茶髪、慈悲深い茶の瞳、その顔貌は端正で優し気だ。

「スライア国へ来ていただき、心より感謝します。早速本題に入りますが……我が国の聖女になっていただけるのでしょうか?」
「はい、私はそのために来ました。全てはコーディのお陰です」
「おお……! 本当ですか……!?」

 レイトは感嘆の声を漏らし、嬉しそうな笑みを浮かべた。
 エイリスはそれでも不安が消えず、こう尋ねた。

「スライア国は私などが聖女で、ご迷惑じゃありませんか……?」
「迷惑などと、そんなことはあり得ません! 私も、国民も、聖女様の到来を待ち望んでいました! 聖女様は今から我が国の守護者です!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~

岡暁舟
恋愛
 名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

【完結】妹が私から何でも奪おうとするので、敢えて傲慢な悪徳王子と婚約してみた〜お姉様の選んだ人が欲しい?分かりました、後悔しても遅いですよ

冬月光輝
恋愛
ファウスト侯爵家の長女であるイリアには、姉のものを何でも欲しがり、奪っていく妹のローザがいた。 それでも両親は妹のローザの方を可愛がり、イリアには「姉なのだから我慢しなさい」と反論を許さない。 妹の欲しがりは増長して、遂にはイリアの婚約者を奪おうとした上で破談に追いやってしまう。 「だって、お姉様の選んだ人なら間違いないでしょう? 譲ってくれても良いじゃないですか」 大事な縁談が壊れたにも関わらず、悪びれない妹に頭を抱えていた頃、傲慢でモラハラ気質が原因で何人もの婚約者を精神的に追い詰めて破談に導いたという、この国の第二王子ダミアンがイリアに見惚れて求婚をする。 「ローザが私のモノを何でも欲しがるのならいっそのこと――」 イリアは、あることを思いついてダミアンと婚約することを決意した。 「毒を以て毒を制す」――この物語はそんなお話。

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

処理中です...