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第10話
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レイトははっきりとそう言うと、コーディを見た。
「コーディ・パイロフよ、よくぞ聖女様を我が国に導いてくれた。そなたには公爵の爵位を与え、何なりと望みを叶えよう。さあ、何でも言ってくれ」
「光栄に存じます、陛下。願わくば、わたくしを聖女様のお傍に置いて下さい」
「従者のままでありたいか」
「はい、それがわたくしの願いです」
「よろしい。その願い、叶えよう。ただし聖女様がよろしければ、だ」
するとコーディはおずおずとエイリスを見た。
その捨てられた子犬のような視線にエイリスは胸を打たれた。
どうしてコーディは私なんかの従者でいたいのかしら……?
後で聞いてみなくちゃ……――
「はい、構いません。コーディは私の恩人ですもの」
「ああ……我が姫君……!」
レイトはそんな二人とトワイルに目をやりながら言った。
「コーディを従者、トワイルを護衛として付けます。よろしいですか、聖女様?」
「ええ、ありがとうございます、陛下」
「いいえ、礼には及びません。大事な聖女様を守るためです。……そこで、ひとつお尋ねしたいことがあるのですが」
レイトの声色が真剣みを帯び、エイリスは緊張する。
何だろうか、まさかデルラ国の機密を教えろと言うのではないか。
あの国にはどろどろに腐敗した負の面はいくらでもあるが、重要機密と言えるものなんてなかったはずだけど――
しかしレイトはエイリスが予想していなかった点を突いた。
「デルラ国では王家の者が聖女を守るはずですね? その守護が消えて、聖女様は平気なのですか……?」
レイトの言葉にエイリスはぎくりとした。
その通りだった。
今の私は王家の守護を失っている。
辺境伯としての二年間も守護がなかったため、何度魔王に襲われかけたか――
「そ、それは……――」
『問題ないぞ、スライアの国王よ』
その時、エイリスの影が揺らぎ、ひとつの美しい形を造った。
漆黒の長髪と瞳、月の如き白肌、鋭い牙――魔王がその姿を露わにした。
魔王は辺りを見渡すと、愉快そうにくつくつと肩を震わせた。
それと同時にエイリスの血の気が一気に引いていく。
終わった……スライア国の聖女として終わってしまった……――
これで私はこの国を追い出される――
もう駄目だ――
「なっ……! 魔王……!?」
「どうしてここに魔王が……!?」
コーディとトワイルが剣を抜いて、魔王に突き付ける。
しかしその抜身を魔王が撫でると、一瞬にして砕け散った。
『ふん、他愛もない』
魔王は剣を撫でた手で、エイリスの肩を抱いた。
そして楽し気に笑いながら、周囲の者へ告げる。
『このエイリスは俺が守護している。王家の者の守護など比べ物にならない、強き守護だ。そもそもこの娘の聖女の力を奪い、やがて国を出るように仕向けたのはこの俺だ。そこの従者の働きは案内役程度だな』
「何だと……!? 貴様、姫君から手を放せ……!」
コーディが怒りを露わにしても、魔王は動じない。
むしろエイリスの肩を強く抱き、見せ付けている。
やめて……――
これ以上、話さないで……――
エイリスは顔面蒼白のまま口を開く。
「陛下……これは……このことは……――」
エイリスはレイトに罵られることを覚悟した。
ようやく聖女を手に入れたと思ったのに――
まさか魔王に魅入られていたとは――
そんな言葉が浮かんだが、レイトは柔和な表情のまま、こう言ったのだ。
「大丈夫ですよ、聖女様。私は魔王と実際に会って、話しをしたことがあります」
「ごめんなさい、ごめんなさい……えっ!?」
「この魔王と私は秘密裏に協定を結んでいます。魔王は全ての国を滅ぼす存在ではないのですよ」
エイリスはその言葉に唖然とする。
魔王と言ったら、人類を滅ぼす存在――デルラ国ではそう教わった。
しかしスライア国王は魔王と協定を結んでいるという。
どういうことなのか。
『スライア国王が言った通り、俺は全ての国を滅ぼす存在ではない。俺が滅ぼすのは腐敗し、堕落した人間とその国だけだ。邪悪は二つもいらぬ。そして善良はむやみに滅すべきではない』
「コーディ・パイロフよ、よくぞ聖女様を我が国に導いてくれた。そなたには公爵の爵位を与え、何なりと望みを叶えよう。さあ、何でも言ってくれ」
「光栄に存じます、陛下。願わくば、わたくしを聖女様のお傍に置いて下さい」
「従者のままでありたいか」
「はい、それがわたくしの願いです」
「よろしい。その願い、叶えよう。ただし聖女様がよろしければ、だ」
するとコーディはおずおずとエイリスを見た。
その捨てられた子犬のような視線にエイリスは胸を打たれた。
どうしてコーディは私なんかの従者でいたいのかしら……?
後で聞いてみなくちゃ……――
「はい、構いません。コーディは私の恩人ですもの」
「ああ……我が姫君……!」
レイトはそんな二人とトワイルに目をやりながら言った。
「コーディを従者、トワイルを護衛として付けます。よろしいですか、聖女様?」
「ええ、ありがとうございます、陛下」
「いいえ、礼には及びません。大事な聖女様を守るためです。……そこで、ひとつお尋ねしたいことがあるのですが」
レイトの声色が真剣みを帯び、エイリスは緊張する。
何だろうか、まさかデルラ国の機密を教えろと言うのではないか。
あの国にはどろどろに腐敗した負の面はいくらでもあるが、重要機密と言えるものなんてなかったはずだけど――
しかしレイトはエイリスが予想していなかった点を突いた。
「デルラ国では王家の者が聖女を守るはずですね? その守護が消えて、聖女様は平気なのですか……?」
レイトの言葉にエイリスはぎくりとした。
その通りだった。
今の私は王家の守護を失っている。
辺境伯としての二年間も守護がなかったため、何度魔王に襲われかけたか――
「そ、それは……――」
『問題ないぞ、スライアの国王よ』
その時、エイリスの影が揺らぎ、ひとつの美しい形を造った。
漆黒の長髪と瞳、月の如き白肌、鋭い牙――魔王がその姿を露わにした。
魔王は辺りを見渡すと、愉快そうにくつくつと肩を震わせた。
それと同時にエイリスの血の気が一気に引いていく。
終わった……スライア国の聖女として終わってしまった……――
これで私はこの国を追い出される――
もう駄目だ――
「なっ……! 魔王……!?」
「どうしてここに魔王が……!?」
コーディとトワイルが剣を抜いて、魔王に突き付ける。
しかしその抜身を魔王が撫でると、一瞬にして砕け散った。
『ふん、他愛もない』
魔王は剣を撫でた手で、エイリスの肩を抱いた。
そして楽し気に笑いながら、周囲の者へ告げる。
『このエイリスは俺が守護している。王家の者の守護など比べ物にならない、強き守護だ。そもそもこの娘の聖女の力を奪い、やがて国を出るように仕向けたのはこの俺だ。そこの従者の働きは案内役程度だな』
「何だと……!? 貴様、姫君から手を放せ……!」
コーディが怒りを露わにしても、魔王は動じない。
むしろエイリスの肩を強く抱き、見せ付けている。
やめて……――
これ以上、話さないで……――
エイリスは顔面蒼白のまま口を開く。
「陛下……これは……このことは……――」
エイリスはレイトに罵られることを覚悟した。
ようやく聖女を手に入れたと思ったのに――
まさか魔王に魅入られていたとは――
そんな言葉が浮かんだが、レイトは柔和な表情のまま、こう言ったのだ。
「大丈夫ですよ、聖女様。私は魔王と実際に会って、話しをしたことがあります」
「ごめんなさい、ごめんなさい……えっ!?」
「この魔王と私は秘密裏に協定を結んでいます。魔王は全ての国を滅ぼす存在ではないのですよ」
エイリスはその言葉に唖然とする。
魔王と言ったら、人類を滅ぼす存在――デルラ国ではそう教わった。
しかしスライア国王は魔王と協定を結んでいるという。
どういうことなのか。
『スライア国王が言った通り、俺は全ての国を滅ぼす存在ではない。俺が滅ぼすのは腐敗し、堕落した人間とその国だけだ。邪悪は二つもいらぬ。そして善良はむやみに滅すべきではない』
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