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第17話

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 数日後、魔王の言う通りデルラ国は滅んだ。
 そしてエイリスは何のしがらみもなく、スライア国の聖女として認められた。
 彼女は喜んで、国に、国民に、聖女の力を限りなく尽くす――
 そんなある日のこと――

「ふう、午前中は忙しかったわね」
「お疲れ様でした、姫君」
「ええ、ありがとう」
 
 季節は移り変わり、花盛りの日々が訪れていた。
 そんな麗らかな午後、エイリスとコーディは中庭でお茶をしていた。
 焼きたてのジャム入りクッキー、新鮮な果物たっぷりのタルト、香り高い拘り抜かれたお茶――侍女達は働き者の聖女のために飛び切りのアフターヌーンティーを用意していた。
 いつもは世話焼きな侍女達が給仕するのだが、今日はその姿がない。
 エイリスは秘密の話しがあると言い、侍女達を下がらせていた。

「ねぇ……コーディ……」
「何でしょう?」

 飲んでいたお茶を下げ、こちらを見詰めるコーディ。
 いつ見ても、彼は理想の王子様のように麗しい。
 褒美として私の従者になることを望んだコーディ……魔王はその彼が私のことを慕っていると言った……――
 それが本当なのか、どうしても確かめたい……――

「コーディ、あなた、私のことをどう思っているの?」
「わたくしは姫君を素晴らしき聖女様だと思っておりますよ」
「そ、そうじゃなく……もっと……女性としてどう思ってるかよ……」
「え……――」

 コーディは美しい碧眼を見開いた。
 そしてみるみるうちに、その頬を薔薇色に染める。
 あまりに素直な反応に、エイリスも釣られて赤面しそうになった。
 するとコーディはすぐさま席を立ち、そのまま芝生の上に跪いたかと思うと、エイリスの手を恭しく取った。

「我が姫君、あなた様をひとりの女性として、深くお慕い申しております」

 その告白にエイリスの鼓動が高鳴る――
 やはりコーディは自分のことを慕ってくれていたのだ。
 辺境伯としての二年間、彼には世話になりっぱなしだった。
 そんな中で、エイリスはコーディに惹かれる自分に気付いていた。
 だから……このままもし彼が求婚してくれたら……きっと私は……――

「必ず幸せにすると約束します。ですから、わたくしと……」
「――その言葉、聞き捨てならないな」
「――私もその話しに混ぜてもらえますか?」
「……え?」

 恐ろしげな声に顔を上げると、テーブルの横にトワイルとレイトが立っていた。
 こめかみに青筋を浮かべたトワイル――
 冷ややかな笑みを浮かべたレイト――
 凄まじい迫力にエイリスとコーディは怯んだ。

「え、えっとトワイルさん……? 陛下……?」
「エイリス様、まさか従者と結婚するなんておっしゃりませんよね?」
「エイリス様、私からの求婚を断るなんてこと、ありませんよね?」
「えっと……えっと……――」

 その時、上空から風を切る音がした。
 そして目の前の芝生の上に振ってきたのは――キリヤ。
 彼は着地すると、一直線にエイリスへ近寄ってコーディの手を振り払った。

「エイリスさんと結婚するのは僕です。コーディさんは引っ込んでて下さい。僕達は街の外れに小さな家を建てて、辺り一面を花畑にして幸せに暮らすんです。子供の数は最低でも……――」
『離れろ、小僧』

 エイリスの影――それが蠢き、キリヤを押し返した。
 その影はエイリスの体の下へと滑り込むと、やがて麗しき魔王となる。
 今や椅子には魔王が座り、その膝の上にエイリスが乗っている状態となっていた。
 コーディも、トワイルも、レイトも、キリヤも、苛立たし気に睨んでくる。
 エイリスは魔王の膝で硬直するしかない――
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