桜ノ森

糸の塊゚

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2.5章:血濡れのstudent clothes.

少年は夢を見る。(Ⅱ)

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 ────夕焼けで紅く染まる教室の中。俺は特に何をすることもなく、並べられた椅子に座ってぼんやりと手に持ったものを見つめていた。

 「──×××」

 そう名前を呼ばれた俺は声がする方に顔を向けると、長い銀髪を一つにまとめた少年が心配そうな、それでいてどこか不満そうな顔をして立っていた。
 俺が少年に「どうしたんだ?」といつもの様に尋ねると、少年は周りから端正な顔立ちと評価される顔を少し歪ませながら、「今度は、何をされたんだよ」と問うてきた。

 「さぁ、なんの事かな」
 「すっとぼけるなよ、分かってるんだろ?」

 いつもの様にとぼけてみるけど、矢張り通じなかった。諦めて俺は手に持ったものを少年に見せると、思った通り少年は怒りから一転して、悲しそうに顔を歪めた。

 「いつも通り呼び出されて好き勝手殴られたり蹴られた後、教室に戻ってきたら、もうこの通りだよ。……全く、教科書もノートも無料じゃないんだけど」

 そう言いながら俺は刃物でズタズタに傷つけられたらしい教科書とノートを机の上に放る。

 「お前を呼び出したヤツは?知ってるヤツか?」

 悲しみからまた一転して怒りを抑えようとしているらしい少年は俺にそう聞いてくるので、俺は素直に「さぁ、知らない」と答えると、少年はため息を吐いた。

 「お前がそう言うのは嘘でもなんでもないのはもう分かってるけどさ、自分の事だろ。もう少し真剣に考えろよ」
 「真剣に考えたって何も変わらないよ。俺が居なくならない限りは」

 そう。何も変わらない。俺に対する暴力や暴言、その他諸々。それはもうこれから先ずっと、変わることは無い。

 「……そんなの、おかしいだろ。何回聞いたって、何度考えたって、俺にはそれが正しいものだなんて……お前は少し、たった少しだけ他と違うだけなのに」
 「その違いが決定的なんだから仕方ないよ」

 俺は未だ納得していないらしい少年にそう言い捨てながら椅子から立ち上がって、ボロボロになった教科書とノートを適当に鞄に投げ入れて、帰る準備を整えて教室から出ようとする。

 「───×××」

 少年が静かに俺の名前を呼んだ。

 「俺さ、不安なんだよ。お前はいつもそうやって何もかも諦めたみたいに笑うけど、いつか、何もかも我慢できなくなって……どこかへ、消えてしまいそうで」

 その予感は外れるよ、とは口が裂けても言えなかった。
 だって、俺にはやるべき事があって、そのやるべき事さえ終われば俺は──────。



 …………やるべき事って、なんだったっけ。
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