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第一章(2/3)
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天地狭間の虚ろ
第一章
高い地形を利用して建てられている殿舎は、高雅で荘厳、そして華麗であった。白い壁に灰色の瓦、回廊には朱に塗られた円柱が並び、どこまでも続いている。所々でつかわれている瑠璃細工が朝の新鮮な光を浴びて眩しいほどに煌めいていた。
その奥でおごそかに行われているのは一国の朝議である。
玉座には皇帝、居並ぶのは高位にある官吏。
それはいつもと同じ朝の風景であったはず。が、一転、ざわめいたのはどこからともなく男が現れたからだった。
当然のことながら、殿舎の周りには衛兵がいる。関係者以外立ち入りが禁止されているこの議場に部外者が入れはしない。無理に押し通ろうとすれば衛兵に止められる。にもかかわらず争った様子もなく、男は突然、飄然と現れたのだった。
男の歳は三十半ばといったところか。顔にかかる部分の髪だけを結って、立派な冠でとめている。顔の向きがかわるたびに翳をつくる切れ込んだ眦が特徴的であり、そのせいか、なにかの拍子に闇にとけて消えてしまいそうな雰囲気を色濃く纏っていた。
そう感じるのは着ている黒色の袍衫のせいもあるかもしれない。対襟の大袖の着物は豪奢でありながら品がよく、なにより男には黒がよく似合っていた。
男は議場の入り口で足を止め、ゆっくりと視線をめぐらせた。その間、気骨ある官吏が皇帝を庇うようにして前に出る。緊張が高まるさまをちらと眺める男は臆することなく、真正面に座す皇帝を見据えて口を開いた。
「我、幽冥地府の長官なり」
音律に乱れのない低声が議場に響く。
男が発した声は決して大きくはない。それでも、その場にいる全員の耳にしっかりと届けられた。
男の一言に、官吏は一様に沈黙する。
しかしそれは一瞬のことで、風に吹かれた小さな波のようにそれぞれの思いが囁きとなって広がっていく。
議場内はざわめいた。
「幽冥地府? 長官? ……本当か!?」
「これは現実か? 夢ではあるまいな……」
「どちらかといえば悪夢ではあるが……」
「そんなことがあるものかっ」
いくつかの、男を疑う怒声が重なった。
男は頓着することなく言葉を継ぐ。
「我が欲するは花嫁」
再び、場は沈黙した。要求を突きつけられて、官吏はみな、ああ、と心に思うところがあったのだ。そうか、そういうことか、と。
とはいえ、だ。
納得するものがあったからといって、すぐに信じられるものではない。人はそれほど簡単にはできていない。なんとも判断がつかず、迷った末、最終的には全員が皇帝を仰ぎ見た。受け入れるか否かの判断を、皇帝に投げたのだ。
この皇帝は現実主義である。見たもの――すなわち目の前に在るものが真実であるから、疑うことはしていなかった。ついでに肝が据わっている。更に加えて、この状況をつくりだした元凶でもあったのだ。
玉座に頬杖をついたままなにかを応えようとする豪胆な皇帝。しかし、待ったがかかる。
絶妙な間合いで遮ったのは群臣の一人、史館の長官だった。
「陛下、まずは環家に伝令を。護三家の一であれば真実を見分けられましょう」
第一景
ここは大陸の東の端にある大国、鼎。
鼎国皇都である天延は、天の延長上にある街と謳われている。
それは、天延には遥か昔から奇妙な言い伝えがあるからだった。獣頭人身の神将により守護されていると伝わっているのだ。この神将の数は十二であり、それぞれ十二の方位を護る。よって鼎国では、方位、時刻、年を表すのに十二支名を用いている。
もうひとつ、天延には奇妙な言い伝えがある。
天延の北から東にかけて山野が広がる。山はさほど高くはなく、これを泰山といった。
この泰山の麓は鄷と呼ばれていて、ここには幽冥地府〈略して冥府といい、冥府のある世界を冥界といった〉の入り口があると伝わっている。だけでなく、あると信じられている。幽冥地府とは地獄のこと。それもあって余計に民は、十二神将による加護をありがたく思っているのだった。
人は死ぬと等しく地獄に墜ちる。そこで冥府長官〈冥界の最高位は王であり、これを冥王という〉の裁きを受け、生前の功徳に応じて輪廻転生する。生まれかわることを赦されるのだ。功徳のない者だけが鬼卒に捕らわれ、業火に焼かれて苦しめられる。
一国の皇帝も所詮は命数ある人であり、いずれ死ぬ。命が尽きたのちは冥府で冥王の裁きを受けることになるのだが、そこは皇帝、庶人とは異なる〝しきたり〟があった。
皇帝が崩御すると、その陵墓には皇后も入ることになる。つまり、生き埋め。それは女人を捧げることで冥王の機嫌をとるためだとか、死してなお皇帝の傍らにあって世話をするためだとか伝わっているが、はじまりの理由は定かではない。だが、皇帝をより恵まれた身分へと輪廻転生させるため、どうしても必要な習わしであると歴代の王朝は捉えていた。そして、実行してきたのである。
このため、生き埋めになることを恐れて皇后の位が空いたままの時代もある。
慣例・慣習とは惨いほどに人を縛ってしまうものだ。もともとは重要な意味があったのかもしれない。けれど、その意味自体も時とともに変化していくのである。不変のものなどありはしないのに、変化を無視して人々は忌まわしき習わしにこだわり続ける。
哀しい現実だった。
さて、話はふりだしに戻る。
先の皇帝が崩御したとき、皇后はすでに亡き人であった。皇后空位の場合、皇帝が連れゆく女人を指名するものである。しかし、先帝はこれをせずに頓死した。ために、現実主義である二十九歳の新皇帝は「地獄などありはせぬ」と言い放ち、長く続いた慣習を無視。人を生き埋めにするという蛮行をしなかった。
女人を犠牲にすることをよしとしなかったのである。
皇帝崩御から一年、この日この朝までなんの異変もなかったのに。
どういうわけか災難というものは忘れた頃にやって来る。今頃になって、冥王を名のる男が朝廷に乗り込んできたのだ。ここに居並ぶ群臣は生きた人であり、死んだ経験がないのだから冥府に墜ちたことはない。よって、冥王に会ったことはないのだ。いきなり信じろと突きつけられても土台無理な話であった。
「まさか、本当に冥王が存在するとは……」
誰もが茫然と呟くだけである。
冥府はあると信じていた。信じていたが、今生で冥王に遭遇するとは信じられない。
「いやしかし、あれが冥王? どこからどう眺めてみても普通の男にしか見えんが……」
それももっともな意見なのである。
鼎国は、鬼〈オニとは読まない〉の棲む国でもあった。
鬼とはすべての怪しいものであり、なかでも妖怪となれば姿形が恐ろしいものもいる。見れば震えるほどの姿をした鬼もいて、冥界で多くの鬼卒を従える冥王であれば、それはそれは恐ろしい異形を想像してしまうのはしようのないことだった。長年、頭に描いていた想像を拭うのは難しい。
普通の男と囁かれているその冥王は、先程から沈黙している。
どうやら己の望み以外は話すつもりはないらしく、その望みを今代の皇帝が受け入れるかどうか、根気よく待っているらしい。口を挟んだ史館の長官にも気を害したふうはない。顔色ひとつかえずにゆったりと構えているだけだ。いきなりやって来て暴れられても厄介だが、おとなしく振る舞われるのも奇妙な感じがするのだった。
史館の長官は、鼎国では政治全体を統轄する宰相と同等位となる。当代一の知識人でもあるために、ほかの官吏達から異論や不満はでなかった。
『陛下、まずは環家に伝令を。護三家の一であれば真実を見分けられましょう』
史館長官の提案によって伝令が飛ばされ、ほどなくして。
議場内に蹄音が聞こえてきた。呼ばれた者は時を惜しんで皇城内を馬で突っ切ってきたのだろう。広い城内、呑気に歩いていたら日が暮れる。それほどに異例の事態なのだ。
ダレていた空気が再び張りつめていく。
馬がいなないて蹄の音が止まり、長靴の音も高らかに人が一人駆け込んできた。
頭巾のついた裾の長い上着を羽織っている。皇帝の御前とはいえ頭巾を深くかぶったままなので顔はわからないが、息づかいからして若い男であろう。皇帝に向けて丁寧に拱手する姿は少年といえるほどに矮躯だった。
「護三家の一、環家の剣楯華。御前にまかり越しました」
予想どおりの澄んだ若い声に、ここでも群臣達がどよめいた。
護三家とは、八十年前に太祖を支えた三家のことである。この三家にはそれぞれ異能力があって、その一つである環家の最高の異能者に与えられるのが【剣楯華】の名であった。
「なんと! 剣楯華を寄越すとは」
「まだ若いだろう……」
「あんな子供が……、任せて大丈夫なのか?」
官吏達は好き勝手に囁いている。
剣楯華は滅多に人前に出てこない。文官武官でも彼と面識のある者は限られていた。反発的な反応は仕方のないことであったが、見知っている者達からすれば、彼の能力は文句なく信頼できる。だからといって、彼の異能のほどを説明している場合ではないのだ。
皇帝の左右で、史館長官と宰相は額を突き合わせて話しこんでいた。この二人は剣楯華を知っている。到着に安堵したように微笑んだ宰相は、つと片手を上げて指し示した。
「お忙しいところ、お呼びして申し訳ないですね。早速ですが剣楯華殿、そちらの御仁が自分は幽冥地府の長官だとおっしゃっている。しかし私達には、その言い分が真実かどうか見分けることができない。どうかここで剣楯華殿のお力を貸していただきたいのです」
一国の宰相が低姿勢で頼んでいる。居並ぶ官吏達は歳下相手に黙るしかなかった。
議場がすうっと静まりかえる中、受けて剣楯華はひとつ頷く。
頭巾をとる間も惜しいというふうに、宰相が指し示したほうへと向きなおる。剣楯華はなにをするでもなく、指し示された男をじっと見つめた。
見る。
ただそれだけの行為だった。あきれるほどに単純な。ごく普通の。誰にでもできること。感覚にして五拍ほどか――。
皇帝へと姿勢を戻した剣楯華は、はっきりと告げた。
「幽冥地府長官にして冥界の王、閻羅様に間違いございません」
今朝何度目か、議場内が騒然となる。
宰相と史館長官も思わずといった様子で顔を見合わせていた。突如としてこの場に現れた、それは人の為せる業ではない。武装した多くの衛兵を、気配なく振り切るのは不可能だ。可能にするとしたら人の身ではない。おそらく、と覚悟はしていたが、有能の剣楯華に迷いなく告げられれば疑う余地はなくなった。結果がでてしまえば、あとは事態をどうまるくおさめるかであって、皇帝の判断に一任するしかないのだった。
先程から皇帝は身じろぎひとつせず、立てた愛用の剣の柄に片手を置いて、残りの手で頬杖をついていた。周囲で起こっている騒ぎを他人事のように眺めているが、事の起こりはこの皇帝の『地獄などありはせぬ』発言である。
現実主義の皇帝は見たものが真実と、閻羅王の存在を受け入れてとっくに肚をくくっているらしい。玉座に座る雰囲気でわかる。ひしひしと肌に伝わってくる。
((らしいが、どう応えるのか?))
宰相と史館長官は同時に思った。
閻羅王が求めているのは〝花嫁〟である。それは先帝崩御の際、女人を生きたまま道連れにしなかった朝廷を責めての要求だろう。もし閻羅王の要求に応じるとなれば、それは皇帝が忌み嫌った〝女人を犠牲にする〟ことになるのだから。
「閻羅王よ、貴殿は花嫁を欲すると言われたが。それは誰でもよいのか?」
皇帝が訊く。まるで今朝の天候を問うように何気なく、挨拶のように気軽に。
「否、指名する」
応える閻羅王に、皇帝が薄く笑った。
「ほう。それは私の知っている女人かな?」
「はっ!?」
驚きの声をあげたのは閻羅王ではない。皇帝の傍らにあって状況を見守っていた宰相の声だった。おっとりした風貌の宰相ではあるが、その横顔には少々の焦りが滲んでいる。
「お待ちを、陛下。もしかしなくても陛下は、閻羅王の要求を呑むおつもりですか」
「うん? 呑むつもりだが」
「ですが、陛下。人を生き埋めにするのは蛮行だと、女人を贄とすることはしないと、私達臣下の前で宣言されたではありませんか」
「うん? だけどな宰相、見てみろ。閻羅王はそこにいる。生きて動いているだろう、であれば私達は対等だ。話し合って解決せねばならん。呑める要求であるならば、呑む。少なくとも女人を生き埋めにするのではない。花嫁として送り出し、手に手をとって冥界へと連れていってもらうのだ。姿も人とかわりないことだし、花嫁を幸せにしてくれると誓ってくれるなら問題はなかろうよ」
「……はあ」
「見た目も悪くないしな、いい男だ。声もいい。女人は男の低声に心を奪われるという。どうしてか、憂い顔の翳ある男に惹かれるともいうし、閻羅王を嫌がる女人は少ないかもしれないな」
(冥界の王を受け入れすぎだ、現実主義にも限度があるのでは!)
と、宰相は思ったものの口にはできない。どこまでが冗談なのか判然としない皇帝の軽口に対し、結局は別の言葉を吐くだけだ。
「そうはいっても、相手は冥界の頂点に立つもの。鬼なのです」
「鬼、だな」
「人の姿をしていようとも、人と鬼は隔たりのある存在ですよ。鬼は自らのことを絶対に語らぬといいます。たとえこちらが鬼の存在と能力を認めていようとも」
長く続いた習わしを無視したのは皇帝であり、非はその意に従った朝廷にもある。皇帝の言にも筋はとおっていて、閻羅王の要求を呑むという判断も理解できないこともない。
だが、冥界の最高位にある閻羅王の花嫁だ。
(もし閻羅王が「皇帝の妻を欲する」と言ったらどうするつもりなのか……)
皇帝には妻がいる。現在、正式な妻は一人で、位は貴妃。貴妃は妃嬪の最高位であるから、閻羅王の妻として釣り合っている。
(……困りましたね)
どうしたものか。
反射的に視線を流せば、いつの間にか頼りの剣楯華は議場内の端へと移動していた。そこには殿中監が控えていて、話しかけようとしているところだった。
「お久しぶりです、殿中監殿」
剣楯華は小さく笑って話しかける。
殿中監は軽く頭を下げただけだった。
殿中監は高位の文官ではあるが、その職掌上、朝議には参加しない。突然現れた閻羅王が花嫁を欲したために、念のためと宰相が呼んだのだろう。議場に到着したのは剣楯華とほぼ同じ頃だった。
「つかぬことを伺いますが。先頃、後宮に入った女人がいらっしゃいますね」
だしぬけの質問に、殿中監はぽかんと口を開けた。今、それを訊く? という顔で。
「ええ、采女が……」
「後宮の規定では采女の数は二十七。今回の入宮もそのとおりで?」
「ええ。剣楯華殿もご存知でしょうけれど、陛下には夫人四妃のうち、妃は貴妃しかいらっしゃいません。残り三妃が空位であるために、その位を埋めようということで、ここに至ってやっと采女二十七人の募集をいたしました」
やっと、という一言が現王朝の苦労を表している。
繁栄を謳歌する大鼎国。当然、王朝の事業も安定している。それでも皇帝が私的なことに目を向けるのに一年の時を必要とした。先帝が崩御して一年、やっと朝廷は落ち着いてきたのだった。
とはいえ、夫人は皇后に次ぐ高い位である。これから三妃の選抜がはじまるのだから、殿中監の苦労はここからになる。皇帝に愛されるため、後宮という隔絶された世界で采女達は嫉妬や憎悪、様々な駆け引きを繰り広げるのだ。とくに今代の女人はみな自己主張が強い。たいへんな時期がまたやって来る。
「お気持ち、お察しします」
そう剣楯華が労えば、殿中監は柳眉をひそめた。
「遠回しの物言い、やめてくれません」
遠慮ナシに責められて剣楯華は笑う。
「では、こちらも遠慮なく。実は皇宮の門をくぐった直後から気になっていることがありまして。そこで殿中監殿にお願いがあるのですが」
護三家が願い事? また妙なことを言いだしたものだと殿中監は思った。
剣楯華はずっと、後宮のある宮城の方角を見ていた。
第一章
高い地形を利用して建てられている殿舎は、高雅で荘厳、そして華麗であった。白い壁に灰色の瓦、回廊には朱に塗られた円柱が並び、どこまでも続いている。所々でつかわれている瑠璃細工が朝の新鮮な光を浴びて眩しいほどに煌めいていた。
その奥でおごそかに行われているのは一国の朝議である。
玉座には皇帝、居並ぶのは高位にある官吏。
それはいつもと同じ朝の風景であったはず。が、一転、ざわめいたのはどこからともなく男が現れたからだった。
当然のことながら、殿舎の周りには衛兵がいる。関係者以外立ち入りが禁止されているこの議場に部外者が入れはしない。無理に押し通ろうとすれば衛兵に止められる。にもかかわらず争った様子もなく、男は突然、飄然と現れたのだった。
男の歳は三十半ばといったところか。顔にかかる部分の髪だけを結って、立派な冠でとめている。顔の向きがかわるたびに翳をつくる切れ込んだ眦が特徴的であり、そのせいか、なにかの拍子に闇にとけて消えてしまいそうな雰囲気を色濃く纏っていた。
そう感じるのは着ている黒色の袍衫のせいもあるかもしれない。対襟の大袖の着物は豪奢でありながら品がよく、なにより男には黒がよく似合っていた。
男は議場の入り口で足を止め、ゆっくりと視線をめぐらせた。その間、気骨ある官吏が皇帝を庇うようにして前に出る。緊張が高まるさまをちらと眺める男は臆することなく、真正面に座す皇帝を見据えて口を開いた。
「我、幽冥地府の長官なり」
音律に乱れのない低声が議場に響く。
男が発した声は決して大きくはない。それでも、その場にいる全員の耳にしっかりと届けられた。
男の一言に、官吏は一様に沈黙する。
しかしそれは一瞬のことで、風に吹かれた小さな波のようにそれぞれの思いが囁きとなって広がっていく。
議場内はざわめいた。
「幽冥地府? 長官? ……本当か!?」
「これは現実か? 夢ではあるまいな……」
「どちらかといえば悪夢ではあるが……」
「そんなことがあるものかっ」
いくつかの、男を疑う怒声が重なった。
男は頓着することなく言葉を継ぐ。
「我が欲するは花嫁」
再び、場は沈黙した。要求を突きつけられて、官吏はみな、ああ、と心に思うところがあったのだ。そうか、そういうことか、と。
とはいえ、だ。
納得するものがあったからといって、すぐに信じられるものではない。人はそれほど簡単にはできていない。なんとも判断がつかず、迷った末、最終的には全員が皇帝を仰ぎ見た。受け入れるか否かの判断を、皇帝に投げたのだ。
この皇帝は現実主義である。見たもの――すなわち目の前に在るものが真実であるから、疑うことはしていなかった。ついでに肝が据わっている。更に加えて、この状況をつくりだした元凶でもあったのだ。
玉座に頬杖をついたままなにかを応えようとする豪胆な皇帝。しかし、待ったがかかる。
絶妙な間合いで遮ったのは群臣の一人、史館の長官だった。
「陛下、まずは環家に伝令を。護三家の一であれば真実を見分けられましょう」
第一景
ここは大陸の東の端にある大国、鼎。
鼎国皇都である天延は、天の延長上にある街と謳われている。
それは、天延には遥か昔から奇妙な言い伝えがあるからだった。獣頭人身の神将により守護されていると伝わっているのだ。この神将の数は十二であり、それぞれ十二の方位を護る。よって鼎国では、方位、時刻、年を表すのに十二支名を用いている。
もうひとつ、天延には奇妙な言い伝えがある。
天延の北から東にかけて山野が広がる。山はさほど高くはなく、これを泰山といった。
この泰山の麓は鄷と呼ばれていて、ここには幽冥地府〈略して冥府といい、冥府のある世界を冥界といった〉の入り口があると伝わっている。だけでなく、あると信じられている。幽冥地府とは地獄のこと。それもあって余計に民は、十二神将による加護をありがたく思っているのだった。
人は死ぬと等しく地獄に墜ちる。そこで冥府長官〈冥界の最高位は王であり、これを冥王という〉の裁きを受け、生前の功徳に応じて輪廻転生する。生まれかわることを赦されるのだ。功徳のない者だけが鬼卒に捕らわれ、業火に焼かれて苦しめられる。
一国の皇帝も所詮は命数ある人であり、いずれ死ぬ。命が尽きたのちは冥府で冥王の裁きを受けることになるのだが、そこは皇帝、庶人とは異なる〝しきたり〟があった。
皇帝が崩御すると、その陵墓には皇后も入ることになる。つまり、生き埋め。それは女人を捧げることで冥王の機嫌をとるためだとか、死してなお皇帝の傍らにあって世話をするためだとか伝わっているが、はじまりの理由は定かではない。だが、皇帝をより恵まれた身分へと輪廻転生させるため、どうしても必要な習わしであると歴代の王朝は捉えていた。そして、実行してきたのである。
このため、生き埋めになることを恐れて皇后の位が空いたままの時代もある。
慣例・慣習とは惨いほどに人を縛ってしまうものだ。もともとは重要な意味があったのかもしれない。けれど、その意味自体も時とともに変化していくのである。不変のものなどありはしないのに、変化を無視して人々は忌まわしき習わしにこだわり続ける。
哀しい現実だった。
さて、話はふりだしに戻る。
先の皇帝が崩御したとき、皇后はすでに亡き人であった。皇后空位の場合、皇帝が連れゆく女人を指名するものである。しかし、先帝はこれをせずに頓死した。ために、現実主義である二十九歳の新皇帝は「地獄などありはせぬ」と言い放ち、長く続いた慣習を無視。人を生き埋めにするという蛮行をしなかった。
女人を犠牲にすることをよしとしなかったのである。
皇帝崩御から一年、この日この朝までなんの異変もなかったのに。
どういうわけか災難というものは忘れた頃にやって来る。今頃になって、冥王を名のる男が朝廷に乗り込んできたのだ。ここに居並ぶ群臣は生きた人であり、死んだ経験がないのだから冥府に墜ちたことはない。よって、冥王に会ったことはないのだ。いきなり信じろと突きつけられても土台無理な話であった。
「まさか、本当に冥王が存在するとは……」
誰もが茫然と呟くだけである。
冥府はあると信じていた。信じていたが、今生で冥王に遭遇するとは信じられない。
「いやしかし、あれが冥王? どこからどう眺めてみても普通の男にしか見えんが……」
それももっともな意見なのである。
鼎国は、鬼〈オニとは読まない〉の棲む国でもあった。
鬼とはすべての怪しいものであり、なかでも妖怪となれば姿形が恐ろしいものもいる。見れば震えるほどの姿をした鬼もいて、冥界で多くの鬼卒を従える冥王であれば、それはそれは恐ろしい異形を想像してしまうのはしようのないことだった。長年、頭に描いていた想像を拭うのは難しい。
普通の男と囁かれているその冥王は、先程から沈黙している。
どうやら己の望み以外は話すつもりはないらしく、その望みを今代の皇帝が受け入れるかどうか、根気よく待っているらしい。口を挟んだ史館の長官にも気を害したふうはない。顔色ひとつかえずにゆったりと構えているだけだ。いきなりやって来て暴れられても厄介だが、おとなしく振る舞われるのも奇妙な感じがするのだった。
史館の長官は、鼎国では政治全体を統轄する宰相と同等位となる。当代一の知識人でもあるために、ほかの官吏達から異論や不満はでなかった。
『陛下、まずは環家に伝令を。護三家の一であれば真実を見分けられましょう』
史館長官の提案によって伝令が飛ばされ、ほどなくして。
議場内に蹄音が聞こえてきた。呼ばれた者は時を惜しんで皇城内を馬で突っ切ってきたのだろう。広い城内、呑気に歩いていたら日が暮れる。それほどに異例の事態なのだ。
ダレていた空気が再び張りつめていく。
馬がいなないて蹄の音が止まり、長靴の音も高らかに人が一人駆け込んできた。
頭巾のついた裾の長い上着を羽織っている。皇帝の御前とはいえ頭巾を深くかぶったままなので顔はわからないが、息づかいからして若い男であろう。皇帝に向けて丁寧に拱手する姿は少年といえるほどに矮躯だった。
「護三家の一、環家の剣楯華。御前にまかり越しました」
予想どおりの澄んだ若い声に、ここでも群臣達がどよめいた。
護三家とは、八十年前に太祖を支えた三家のことである。この三家にはそれぞれ異能力があって、その一つである環家の最高の異能者に与えられるのが【剣楯華】の名であった。
「なんと! 剣楯華を寄越すとは」
「まだ若いだろう……」
「あんな子供が……、任せて大丈夫なのか?」
官吏達は好き勝手に囁いている。
剣楯華は滅多に人前に出てこない。文官武官でも彼と面識のある者は限られていた。反発的な反応は仕方のないことであったが、見知っている者達からすれば、彼の能力は文句なく信頼できる。だからといって、彼の異能のほどを説明している場合ではないのだ。
皇帝の左右で、史館長官と宰相は額を突き合わせて話しこんでいた。この二人は剣楯華を知っている。到着に安堵したように微笑んだ宰相は、つと片手を上げて指し示した。
「お忙しいところ、お呼びして申し訳ないですね。早速ですが剣楯華殿、そちらの御仁が自分は幽冥地府の長官だとおっしゃっている。しかし私達には、その言い分が真実かどうか見分けることができない。どうかここで剣楯華殿のお力を貸していただきたいのです」
一国の宰相が低姿勢で頼んでいる。居並ぶ官吏達は歳下相手に黙るしかなかった。
議場がすうっと静まりかえる中、受けて剣楯華はひとつ頷く。
頭巾をとる間も惜しいというふうに、宰相が指し示したほうへと向きなおる。剣楯華はなにをするでもなく、指し示された男をじっと見つめた。
見る。
ただそれだけの行為だった。あきれるほどに単純な。ごく普通の。誰にでもできること。感覚にして五拍ほどか――。
皇帝へと姿勢を戻した剣楯華は、はっきりと告げた。
「幽冥地府長官にして冥界の王、閻羅様に間違いございません」
今朝何度目か、議場内が騒然となる。
宰相と史館長官も思わずといった様子で顔を見合わせていた。突如としてこの場に現れた、それは人の為せる業ではない。武装した多くの衛兵を、気配なく振り切るのは不可能だ。可能にするとしたら人の身ではない。おそらく、と覚悟はしていたが、有能の剣楯華に迷いなく告げられれば疑う余地はなくなった。結果がでてしまえば、あとは事態をどうまるくおさめるかであって、皇帝の判断に一任するしかないのだった。
先程から皇帝は身じろぎひとつせず、立てた愛用の剣の柄に片手を置いて、残りの手で頬杖をついていた。周囲で起こっている騒ぎを他人事のように眺めているが、事の起こりはこの皇帝の『地獄などありはせぬ』発言である。
現実主義の皇帝は見たものが真実と、閻羅王の存在を受け入れてとっくに肚をくくっているらしい。玉座に座る雰囲気でわかる。ひしひしと肌に伝わってくる。
((らしいが、どう応えるのか?))
宰相と史館長官は同時に思った。
閻羅王が求めているのは〝花嫁〟である。それは先帝崩御の際、女人を生きたまま道連れにしなかった朝廷を責めての要求だろう。もし閻羅王の要求に応じるとなれば、それは皇帝が忌み嫌った〝女人を犠牲にする〟ことになるのだから。
「閻羅王よ、貴殿は花嫁を欲すると言われたが。それは誰でもよいのか?」
皇帝が訊く。まるで今朝の天候を問うように何気なく、挨拶のように気軽に。
「否、指名する」
応える閻羅王に、皇帝が薄く笑った。
「ほう。それは私の知っている女人かな?」
「はっ!?」
驚きの声をあげたのは閻羅王ではない。皇帝の傍らにあって状況を見守っていた宰相の声だった。おっとりした風貌の宰相ではあるが、その横顔には少々の焦りが滲んでいる。
「お待ちを、陛下。もしかしなくても陛下は、閻羅王の要求を呑むおつもりですか」
「うん? 呑むつもりだが」
「ですが、陛下。人を生き埋めにするのは蛮行だと、女人を贄とすることはしないと、私達臣下の前で宣言されたではありませんか」
「うん? だけどな宰相、見てみろ。閻羅王はそこにいる。生きて動いているだろう、であれば私達は対等だ。話し合って解決せねばならん。呑める要求であるならば、呑む。少なくとも女人を生き埋めにするのではない。花嫁として送り出し、手に手をとって冥界へと連れていってもらうのだ。姿も人とかわりないことだし、花嫁を幸せにしてくれると誓ってくれるなら問題はなかろうよ」
「……はあ」
「見た目も悪くないしな、いい男だ。声もいい。女人は男の低声に心を奪われるという。どうしてか、憂い顔の翳ある男に惹かれるともいうし、閻羅王を嫌がる女人は少ないかもしれないな」
(冥界の王を受け入れすぎだ、現実主義にも限度があるのでは!)
と、宰相は思ったものの口にはできない。どこまでが冗談なのか判然としない皇帝の軽口に対し、結局は別の言葉を吐くだけだ。
「そうはいっても、相手は冥界の頂点に立つもの。鬼なのです」
「鬼、だな」
「人の姿をしていようとも、人と鬼は隔たりのある存在ですよ。鬼は自らのことを絶対に語らぬといいます。たとえこちらが鬼の存在と能力を認めていようとも」
長く続いた習わしを無視したのは皇帝であり、非はその意に従った朝廷にもある。皇帝の言にも筋はとおっていて、閻羅王の要求を呑むという判断も理解できないこともない。
だが、冥界の最高位にある閻羅王の花嫁だ。
(もし閻羅王が「皇帝の妻を欲する」と言ったらどうするつもりなのか……)
皇帝には妻がいる。現在、正式な妻は一人で、位は貴妃。貴妃は妃嬪の最高位であるから、閻羅王の妻として釣り合っている。
(……困りましたね)
どうしたものか。
反射的に視線を流せば、いつの間にか頼りの剣楯華は議場内の端へと移動していた。そこには殿中監が控えていて、話しかけようとしているところだった。
「お久しぶりです、殿中監殿」
剣楯華は小さく笑って話しかける。
殿中監は軽く頭を下げただけだった。
殿中監は高位の文官ではあるが、その職掌上、朝議には参加しない。突然現れた閻羅王が花嫁を欲したために、念のためと宰相が呼んだのだろう。議場に到着したのは剣楯華とほぼ同じ頃だった。
「つかぬことを伺いますが。先頃、後宮に入った女人がいらっしゃいますね」
だしぬけの質問に、殿中監はぽかんと口を開けた。今、それを訊く? という顔で。
「ええ、采女が……」
「後宮の規定では采女の数は二十七。今回の入宮もそのとおりで?」
「ええ。剣楯華殿もご存知でしょうけれど、陛下には夫人四妃のうち、妃は貴妃しかいらっしゃいません。残り三妃が空位であるために、その位を埋めようということで、ここに至ってやっと采女二十七人の募集をいたしました」
やっと、という一言が現王朝の苦労を表している。
繁栄を謳歌する大鼎国。当然、王朝の事業も安定している。それでも皇帝が私的なことに目を向けるのに一年の時を必要とした。先帝が崩御して一年、やっと朝廷は落ち着いてきたのだった。
とはいえ、夫人は皇后に次ぐ高い位である。これから三妃の選抜がはじまるのだから、殿中監の苦労はここからになる。皇帝に愛されるため、後宮という隔絶された世界で采女達は嫉妬や憎悪、様々な駆け引きを繰り広げるのだ。とくに今代の女人はみな自己主張が強い。たいへんな時期がまたやって来る。
「お気持ち、お察しします」
そう剣楯華が労えば、殿中監は柳眉をひそめた。
「遠回しの物言い、やめてくれません」
遠慮ナシに責められて剣楯華は笑う。
「では、こちらも遠慮なく。実は皇宮の門をくぐった直後から気になっていることがありまして。そこで殿中監殿にお願いがあるのですが」
護三家が願い事? また妙なことを言いだしたものだと殿中監は思った。
剣楯華はずっと、後宮のある宮城の方角を見ていた。
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