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終章(1/2)
しおりを挟むそれは奇妙な昼下がりのことだった。
気づけば独り心と対話してしまうほどの静けさが周囲を取り巻いている。外は随分と冷えこんでいたが、緋逸からもらった狐白裘を羽織った丹緋は、大気に誘われるようにして歩きだしていた。
誰かが呼んだ、とまでは思わないが。
誰かに呼ばれたような不思議な、それでいて、どこか虚しい感覚が拭えない。
背後には二人の護衛武官が付き添ってくれている。いつの間にか現れる武官はほのかな影のようで、付かず離れずの距離がありがたい。(寒いのに申し訳ないな)と心中で詫びながら、とはいえ戻る気にもならなくて丹緋はふらふらしていた。
「丹緋っ」
はっきりと名を呼ばれ、人の声のしたほうへ目線を投げる。今し方まで感じていた声とは異なり、人だ、と感じたのが妙でもあったが深くは考えず、慌てた様子で駆け寄ってくる男にごく自然に微笑んだ。
男の走り方はとても安定している。体幹がブレないからだと少々専門的に説明してくれたのは大将軍で、だからこそ体術もしっかりしているらしい。剣で激しく争う男を間近で見てしまったからこそ、丹緋は護られているという安心感に満たされる。
「緋逸様、今日はお仕事はもう?」
「もう終わりにした。これで明日の朝まで其方と二人きりで過ごせる」
「……え、大丈夫なのですか?」
「うん? 臘日の三日連休も休みを返上して働いたんだからな。宰相も文句を言えないだろうし、言いたくても逃げきってやる。私を捜しにくる武喬も午過ぎには帰ったしな」
「ああ、そういえば、久々に奥様とお約束があるとか」
奥方は元武官らしい。しかも競争相手だったというから二重の驚きだ。
項に掌をあてて照れながら話していた大将軍を思い浮かべ、ふふ、と丹緋は指先で口許を覆って笑う。吐息がかかって掌が温まった。意外に凍えていたのだなと思った瞬間、心を読まれたように緋逸に手をとられる。たったそれだけでぐっと距離感が縮まった。
「なんで外に? どこかへ行く用事でも?」
行き違いになるところだったのだ。それで慌てて走ってきたのかと、丹緋はやっと納得した。最近、なんとなくではあるが、緋逸の行動の裏側にある想いを読めるようになってきている。読める分、間合いがはかれるようになって話しやすく感じていた。
(わたしを独りにしないようにお時間をつくってくれたのね)
実はここ二十日ほど、緋逸とはゆっくり話をしていなかった。
逃亡していた蒼呉が落馬して死亡、続いて、緋逸の正妻である鄭氏が毒酒を呑んでの服毒自殺。皇城での火災処理に加え、こういった凶事が次々と起こったために働きづめだったのだ。もともと機動力があり勤勉といわれている皇帝ではあるが、彼の忙しさは冗談抜きに目が回るようだったらしい。時々は殿舎に逢いにきてくれたものの、疲労のせいでほぼ会話が成立しない状態だった。
南方へ追いやっていた蒼呉の死はまだしも、鄭貴妃の死に関して、あまりに緋逸が素っ気ないことに丹緋はひっかかりを覚えていた。騒動でちょっとだけ働いた丹緋への労いのほうがはるかに上回っていて……。
(心配をかけまいとする緋逸様なりの気づかいなのかもしれないけれど)
思えば穏やかな時間をとれるのは、蒼呉の捕縛で大騒ぎになってから、はじめてのことではないだろうか。
「これといった用事はありません。なんだか外に出てみたくなっただけで」
「そう? なら、ちょっと歩こうか。この先の園林には異国の温突を設けた四阿があるんだ。そこなら暖かい、すぐに用意させよう」
温突とは、床下の暖房装置のことである。床下に煙道をつくって薪や藁などを燃やした火の熱気を送りこみ、室内を暖める。冬には身体にありがたい建物だ。
四阿に落ち着いて、しばらく雑談をした後だった。
不意に緋逸に訊かれた。
「丹緋は閻羅王……や、……あのときの、黒い着物の男のことを見知っていたのか?」
あまりにふっと話の流れがかわったので、丹緋は一瞬、なんのことかわからなかった。「あ」と声をあげるまで結構な間が空き、その間がそのまま、二人の会話時間の少なさを表しているようだった。二十日ほど前で、二人の時は止まっているといってもいい。
(……羅翔様のことよね?)
そこまで思い至って、負の感情に押されるかのように丹緋は細い顎を引いた。
自分の抱えていることを、他人に打ち明ける。
それにはまだためらいがあったし、迷いもあった。話すことによって相手に嫌われるんじゃないかという、不安。これはものすごい恐怖に直結する。それでも、と丹緋は着物の袖を握りしめた。
(話せる誰かすらいなかった。数ヵ月前に比べれば、わたしは贅沢になったもの……)
贅沢になったのは、与えられる住居や抜かれることのない食事に対してだけではない。
だから。
ここらで〝孤独〟という重しを取り除いてしまいたかった。
羅翔が鬼であり閻羅王と呼ばれていることは、すでに侍女の豈華から説明してもらっている。無能でも環家の姫だけあって鬼の知識は蓄えているらしく、彼女の説明は実にわかりやすかった。実際丹緋も、羅翔が眼前で姿を消すのを目撃しているのだ。衝撃的だった。
ちなみに、豈華だが。彼女は年内いっぱいで長期休暇に入るらしい。それも丹緋には衝撃的だったが、個人的な心情の揺れ動きについてはここではひとまずおいておく。
「実母はわたしが幼い頃に他界しましたので、記憶はほとんどありません。商家の仕事が忙しかった父は、稼ぎの面でも序列ある社会の底辺で一生を終えたくないと、わたしのためにもすぐに再婚したのですが。折り合いが悪くて……」
微かに膝を丹緋のほうへと傾けた、緋逸。その仕種が丹緋には、順を追って話していいからと、約束どおりに「其方の声に耳を傾けて、其方の声を聞き逃さない」と、今一度言われているような気持ちにさせる。
「継母や異母妹と折り合いが悪いのは仕方がありません。なにせわたしには、……怪しい力がありましたから。異母妹を傷つけてしまったこともありましたので、彼女らと仲よく暮らすことは諦めていました。けれど父は……血がつながっています。なのに……」
家庭事情の感情に触れれば息がつまるほど心が痛い。だから言葉にするのがつらかった。
丹緋はずっと我慢してきたのだ。感情を押し殺してきた。でないと、穏やかさ激しさ、希望や絶望といった感情の均衡を保てないから。それは、平均的な〝人〟でいたかったからかもしれない。家族という集団の中にあって目立たないようにするために。
言葉にして感情をさらけださないのは丹緋なりの努力の結果だった。
どこにも入っていけない、交われない、彷徨い人と化していた。
けれど、限界だったのだろう。きっともう、胸に溜めこんだものが満杯になって、あとは垂れ流しにこぼれでるしかないところまできていた。
「父とは、……わたしが成長するにつれ、距離が広がったように感じます。わたしを見ているのに、わたしではないなにかを見ている。当人以外にはすかし視ることのできないなにか、それは、わたしの内側に秘めていた風の力だったのかもしれません。父と母はなかなか子を授からず、長く悩んでいたと聞いていました。わたしは望まれて生まれてきた子だったはず――にもかかわらず父は、歳を経ていくわたしのなにを見ているのだろうと。考えれば考えるほど、それが逆に家族の中で浮いてしまう原因となってしまったのでしょうね。
ついに父は決断したのです」
「入宮か?」
「……後宮に入れる前に、妓楼で修業させることを」
歌舞音曲に優れているから、詩文の素養を磨かせたいから、といった理由で妓楼へ送ったのではない。本気で修業させるつもりなど、父には微塵もなかっただろう。彼にあったのは〝捨てたい〟という気持ち。娘を扱いあぐね、もてあましていたのだ。
緋逸は静かに耳を傾けていたが、このときばかりは微かに目蓋を動かした。
遊里の妓女は宮中の宴に動員されることもある。そういった意味でも皇帝は、街の妓楼というものを知っている。皇帝の寵愛を得るための修業ならまだしも、捨て場として妓楼へ送られた女を皇帝がどう思うか――丹緋の薄い肩は、知らずしらずのうちに震えていた。
今日の外気は肌を刺す。雲は低く垂れこめて、天と地の距離が縮まっていた。一時的に雲が切れたのか、午後の陽が一筋窓から射しこんでくる。四阿の中で暗がりにいる自分だけが異世界に取り残されたような気持ちになる。
「わたしが入ったのは、父と付き合いのあった玄家の営む老舗の妓楼だったのですけれど。はじめての日にたまたまいらしたのが閻羅王様で、わたしが出るようになってからずっと通ってくださいま――」
「ちょっと待て!」
片手を上げて緋逸が制する。
丹緋の肩がびくっとすくんだ。
「あ……や、すまない大声をだして。あまりに唐突に閻羅王がでてきたのでな、少し驚いたというか。いいや、それはいい。なあ、丹緋」
緋逸の声音からは、制したときの男らしい尖りはきれいに消えていた。表情も怒っているというよりは、なにかを心配しているようで。きつく眉根が寄せられている。
丹緋は覚悟した。というより、感謝した。
風の不思議な力を目の当たりにしても緋逸は邪険にしなかった。ここで嫌われるとしたら、それは、欲望渦巻く妓楼の出だからだ。人らしい理由で、人として厭われる。
(化け物と罵られるよりましだもの。本当に、全然。だから……仕方ないのだわ)
皇帝に寄り添う存在として相応しくない、そうとられてもしようがない。
「私はずっと、其方に言うべきなにかを飛ばしてしまったような――そんな苦い気分を味わっていたんだが。なにを飛ばしてしまったのか、今、はっきりわかった」
「……え?」
「好きだ」
「え?」
「一人の女人として丹緋が好きだ。出逢いの日からずっと好きだった」
「……え? 好き?」
「うん」
「好き、って。……え? ええっと、どういう意味でしたっけ……」
「どういう意味って……え?」
きょとんとする丹緋に、緋逸もここできょとんとするかという感情丸出しで首を傾けた。
二人、かなりの間「え?」という間抜けた問いを繰り返した。それなりの歳の女といい歳の男が間の抜けたことではあるが、おかげで場の空気がわずかにやわらぐ。
「緋逸様は、わたしを好きでいてくれたのですか?」
「そう」
「あの……ええっと、好きって恋愛感情のことですよね? ですが、緋逸様は皇帝で、わたしは采女ですから。夫婦ですし、そういったお気持ちは不要なのかと」
「は? なに言ってる? 私は丹緋が采女だから好きだと告白したんじゃない! それとな、閻羅王とのことは水に流す」
「は……い?」
「二人になにがあったのか、疑念が裏打ちされたようで気になるが……いやもう心は折れたが。この世に記憶を消せる方術があるのなら琉家の巫祝に頼んですぐさま執行してもらいたいし、この際、耳を塞いで聞こえなかったふりでもして全力ですっとぼけたいところだがな。そうもいかん。父親のせいで行きたくもない妓楼へ送られたのだろう? 父親を恨んでいるだろう、なんなら凛家を叩き潰してやってもいいが」
どうする? と目顔で訊かれ、さすがに丹緋は慌てた。ついでに、
『其方の望みであれば、なにひとつ洩らすことなくすべてかなえよう』
そう言われたことを思い出し、過ぎ去りし日にはまさかそんな夢物語みたいなことがあるのかと信じられなかった言葉も、なぜか今の緋逸ならやりそうだと焦ってしまう。
「私にしてみれば、其方と閻羅王が知り合ったのは父親のせいでしかない」
緋逸のほうが連れ合いの父親を恨んでいるようにも聞こえる。
想像すらしなかった方向へ物事が進み、なんだか丹緋は、ぐずぐずと悩んでいた自分がバカみたいに思えてきた。
人というものは結局のところ、この瞬間が幸せなら過去はどうでもいいのかもしれない。生き続ければ、その刹那に抱えた問題なんて、些細な出来事にかわってしまうのだ。
生きてこそ、別の自分にめぐりあうことができる。
「其方の笑顔ならば年がら年中見ていたいものだがな……」
心配を通り越し、心許なげに覗きこまれる。
「なにを笑っている?」
しっかりと顔を上向けた丹緋は、疑心と恋情の狭間で揺れる緋逸の双眸をひたと見据えた。
「父のことは、もういいんです。美信様には見抜かれていたようですけれど、本音を言えば、縁が切れてほっとしていたのです。家族のことも、本当に、もう」
自分はこんなにも【感情】というものに欠乏していたのかと、丹緋は改めて実感する。
人とかかわるということは諦めないことの連続なんだと思い知ったからこそ。
「閻羅王様が毎夜指名してくださったおかげで、わたしは清いまま後宮に入れました」
「!?」
「閻羅王様とはなにもありませんでした」
最後まで言い終わらないうちに丹緋は抱き寄せられていた。気づいたときにはもう、緋逸の胸の中にすっぽりとくるまれていた。
(あったかいな)
思ったのは、それだけ。
温もりを逃したくないから丹緋も腕を精一杯伸ばし、緋逸にすがりつく。
囲われているこの腕の中だけが特別な居場所なのだと思えてしまう。自分だけの、特別な、意味のある場所なのだ、と。なにかにすがるほど願うとき、人は、本気だから。
全体重をかけてもびくともしないたくましい男の肩越しに白銀の輝きが落ちるのを見た。
雪が降りだしたのだ。
ひそやかな輝きは次から次へと降ってくる。その純真な白さゆえか、余分な思考が停止し、気づけば独り心と対話してしまう。
人はみな、ふわりふわりと舞うように人生を生きている。けれど、いつか必ず地に落ちるもの。もし着地の速度を誤ったとしたらそれは、本来生きるべき道を逸れたときかもしれない。自分に譲歩できず、自分でいることの重みに耐えかねて――。
「丹緋」
かすれた声で名を呼ばれ、二人の距離が少しだけ離れる。
「先に好きだと想いを押し付けておいて卑怯なのは百も承知している。なにせ私は欲深いだけでなく、嫉妬深いらしいから」
口唇に、口唇が重ねられる。
「自分の心音が、孤独が近づいてくるその音に聞こえたこともあった。もうたくさんだ、だから丹緋。私の秘密を聞いてくれるか」
しんしんと降る雪の中、いっさいの音がのまれていく。
涙がにじむほど安堵する緋逸の声だけが心地よく胸に響いた。
《次回 完結です》
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