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35.一見、甘い生活

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犬飼宅のベッドの上で桐原は覚醒した。
一瞬、どこにいて今何時なのかがわからず焦るが、今日が日曜日で、自分は昨夜犬飼宅に泊まったのだということに気づく。

若い恋人との夜を過ごして迎える朝は、いつも桐原を面映い気分にさせる。
はれて恋人となったからといっても、多忙ゆえに言うほど二人での時間がとれるわけではないのだが、だからこそそういうときの犬飼の情熱はすさまじいものがあったからだ。

「おはようございます」

いつ寝たのかは記憶にはないのだが、情交の痕跡もなくTシャツが着せられているので、値落ちした後に犬飼が後始末をしてくれたのだろう。
軋みそうな体を引きずってリビングにでると、明るい日差しで包まれたそこで犬飼は洗濯物の山と格闘していた。
平日溜め込んた分を洗って干したものを畳んでいるらしい。

「畳んでるのか」

「そりゃそうでしょう。畳まないと死人になりますよ…ってお婆ちゃんに教わりませんでした?まさか、畳まないとか…?」

「そんな迷信…」
 
桐原は全部まとめて洗濯サービスであるし、洗った物はそのままカゴに入れてそのまま着るタイプである。
その話をすると、犬飼は大仰に顔をしためた。

「ちょっと不精すぎですよ」

価値観のすり合わせの時期であるのだが、以外とまめで驚く時がある。最も桐原が不精すぎるのかもしれないが。

「一緒に暮らします?」

「…シャワー借りる」

桐原はスルーするとバスルームに足をふみいれると、バスタオルを持って追いかけてきた犬飼が後ろから腰を抱いてくる。

「彼シャツ――」

「そんなにサイズ違わないだろうが」

「なんかまだ桐原さんとこうしてられるのが信じられなくて」

犬飼としては、コマンド暴発からパートナー解消と思い込んで過ごしていたあたりは悪夢の中にいるような時期であったらしい。
転職まで考えていたらしいから相当なものだったらしい。

甘いムードを出しながらあわよくばという体でいちゃついてくる犬飼を脱衣所から追い出すと、桐原はシャワーを浴び初めた。

絵に描いたような甘い生活である。

お互い多忙だが同じ職場でもあるから、今まで付き合った女性たちのように「仕事のほうが大事なの」と詰め寄られるという面倒なこともない。

忙しいわりには順調な恋人生活の滑り出しといえるだろう。


だが。 


熱いお湯を浴びながら、桐原は犬飼の主治医に呼び出された時のことを思い出していた。

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