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41.知らない番号
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仕事に集中しているときはいいのだが、ふと気がつくとぼんやりとしてしまっていた。
そんな時は熱いのぼせるような感覚と、冷たく心臓を掴まれるような感覚が交互にやってくる。
今の桐原はもう29歳の大人である。
自分にかかる埃は自分ではらえる力はあるはずだという自負はあるのに、過去の亡霊との出会いは彼を確実に萎縮させていた。
「桐原さん、顔色すごく青いですよ」
普段が普段なので気安くいたわられることはないが、部下たちが顔をあわせるなり皆驚いたような顔をしてるので顔色が悪いことはわかっていた。
桐原を恐れていない補佐の女性社員がいるとむしろいてくれないほうがという雰囲気をありありと出しながら言わなければそのまま会社で呆然と仕事をしていただろうが「帰られて家で仕事されたらいかがですか。何かありましたらリモートしますから」と促されれば、さすがに退社する気になった。
下っぱ社員である犬飼は普段あまり接点がないだけに声をかけに来ることはしていなかったが、気がかりだったのか桐原が手洗いに立ったタイミングでさりげなく追いかけてきた。
「桐原さん…」
「社内だ。後にしろ。後で連絡する」
「でも」
犬飼はただでさえでかくて目立つ。
早く話を切り上げたい桐原は早口に言ったが、犬飼は納得いかない顔でいる。このままいかにも心配という顔でうろつかれるのは忌避したかった桐原は、とりあえず手近な会議室に犬飼を押し込んだ。
「…後で連絡するといって、忘れること多いですよね」
「忘れない」
宣言したものの、確かによくやりがちなことだから自分でも自分が疑わしい。
説得力ねえなあと思っていると、それが伝わったのか犬飼は鼻白んだ。
「僕も一緒に行きます」
「だめだ。午後打ち合わせあるだろ。仕事投げ出すな。クビだぞ」
いらないと思われたら明日は席がないのが外資の会社である。肩書があっても桐原も能力がないとみなされればいつ何時そうなるのかわからない。
給料は高いが、気を抜くと足を踏み外す険しい道で若くて活力があるうちにできるだけ高みにかけあがり、知識と経験を吸収する必要がある。
仕事より愛情を優先する気持ちは嬉しいが、実際にそれをするのは
強く言ったので、さすがに
「じゃあ、後で家に…」
「来なくていい。本当に大丈夫だから」
恋人がいる安らぎにも心が動いたが、今日は一人でいたいような気もした。
ひとまずなだめるさせるために桐原は若い恋人に身を寄せる。こんな所でという後ろめたさも、社内恋愛の醍醐味であるとも思いながら唇を触れさせ柔らかく吸うと、舌が性急に入って口内を舐め回してくる。桐原は舌を優しく絡めて迎え、柔らかく吸い応じた。
思わぬ長いキスになったが、犬飼は少し落ちついたようだった。
躊躇いがちに言う。
「もしかして、プレイしてないから体調が悪い?」
「そうじゃない。今は仕事中だから今度ちゃんと話す」
犬飼がダイナミクスに関することを自ら口にするのは実に久しぶりだった。これは一歩前進だと思ってよいのだろうかと、桐原は考える。
別にしなくていい、プレイなんて。
…と言ってやりたいのが本音だが、実際はそうはいかないのが歯がゆい。
桐原はまだもの言いたげな犬飼を「もういけ」と部屋から一方的に押し出し、自分も時間差で出た。
外で待ち構えていたら困ると思ったがさすがにそれはなく、仕事に戻ったようなので安堵する。
こちらはこちらの問題でやっかいだが、犬飼のおかげで陰鬱な事態から少し気がそれたと思いながら桐原は席に戻った。
帰宅するためにノートパソコンを鞄に入れていると、個人用の携帯がバイブ音を出しながら震えているのに気づく。
登録されていない、知らない番号がそこに表示されていた。
そんな時は熱いのぼせるような感覚と、冷たく心臓を掴まれるような感覚が交互にやってくる。
今の桐原はもう29歳の大人である。
自分にかかる埃は自分ではらえる力はあるはずだという自負はあるのに、過去の亡霊との出会いは彼を確実に萎縮させていた。
「桐原さん、顔色すごく青いですよ」
普段が普段なので気安くいたわられることはないが、部下たちが顔をあわせるなり皆驚いたような顔をしてるので顔色が悪いことはわかっていた。
桐原を恐れていない補佐の女性社員がいるとむしろいてくれないほうがという雰囲気をありありと出しながら言わなければそのまま会社で呆然と仕事をしていただろうが「帰られて家で仕事されたらいかがですか。何かありましたらリモートしますから」と促されれば、さすがに退社する気になった。
下っぱ社員である犬飼は普段あまり接点がないだけに声をかけに来ることはしていなかったが、気がかりだったのか桐原が手洗いに立ったタイミングでさりげなく追いかけてきた。
「桐原さん…」
「社内だ。後にしろ。後で連絡する」
「でも」
犬飼はただでさえでかくて目立つ。
早く話を切り上げたい桐原は早口に言ったが、犬飼は納得いかない顔でいる。このままいかにも心配という顔でうろつかれるのは忌避したかった桐原は、とりあえず手近な会議室に犬飼を押し込んだ。
「…後で連絡するといって、忘れること多いですよね」
「忘れない」
宣言したものの、確かによくやりがちなことだから自分でも自分が疑わしい。
説得力ねえなあと思っていると、それが伝わったのか犬飼は鼻白んだ。
「僕も一緒に行きます」
「だめだ。午後打ち合わせあるだろ。仕事投げ出すな。クビだぞ」
いらないと思われたら明日は席がないのが外資の会社である。肩書があっても桐原も能力がないとみなされればいつ何時そうなるのかわからない。
給料は高いが、気を抜くと足を踏み外す険しい道で若くて活力があるうちにできるだけ高みにかけあがり、知識と経験を吸収する必要がある。
仕事より愛情を優先する気持ちは嬉しいが、実際にそれをするのは
強く言ったので、さすがに
「じゃあ、後で家に…」
「来なくていい。本当に大丈夫だから」
恋人がいる安らぎにも心が動いたが、今日は一人でいたいような気もした。
ひとまずなだめるさせるために桐原は若い恋人に身を寄せる。こんな所でという後ろめたさも、社内恋愛の醍醐味であるとも思いながら唇を触れさせ柔らかく吸うと、舌が性急に入って口内を舐め回してくる。桐原は舌を優しく絡めて迎え、柔らかく吸い応じた。
思わぬ長いキスになったが、犬飼は少し落ちついたようだった。
躊躇いがちに言う。
「もしかして、プレイしてないから体調が悪い?」
「そうじゃない。今は仕事中だから今度ちゃんと話す」
犬飼がダイナミクスに関することを自ら口にするのは実に久しぶりだった。これは一歩前進だと思ってよいのだろうかと、桐原は考える。
別にしなくていい、プレイなんて。
…と言ってやりたいのが本音だが、実際はそうはいかないのが歯がゆい。
桐原はまだもの言いたげな犬飼を「もういけ」と部屋から一方的に押し出し、自分も時間差で出た。
外で待ち構えていたら困ると思ったがさすがにそれはなく、仕事に戻ったようなので安堵する。
こちらはこちらの問題でやっかいだが、犬飼のおかげで陰鬱な事態から少し気がそれたと思いながら桐原は席に戻った。
帰宅するためにノートパソコンを鞄に入れていると、個人用の携帯がバイブ音を出しながら震えているのに気づく。
登録されていない、知らない番号がそこに表示されていた。
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