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43.ただ弱かった時代
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桐原の産まれた家は絵に描いたような普通の家族だった。
落ち着いた地方都市に両親と桐原の三人家族の、平凡な、ほんとうによくあるような家庭。
一人っ子であった桐原は愛情を存分に注がれて育ったように思う。記念日ごとに写真を撮り、両親が嬉しそうに家中のあちこちに飾ったりしていたのを覚えている。
それが一転してしまったのは15歳の時に一斉に行わるダイナミクスの検査結果で桐原がSUBということが判明したことである。
保守的な価値観を持つ両親はUSUALであった。
普通である彼等は彼等はSUBである息子を普通でないという風に捉えた。
虐められて喜ぶ性という世の中の偏見じみた考えも後押しした。実際は抑制剤で一生普通に暮らせるひとも多数いるのだが、えてして特性は悪いことばかりを誇張されがちである。
そんな風になるなんて気味が悪いと、彼等は息子がSUBなのを受け入れないばかりか、SUBである息子の存在が受け入れられなかった、らしい。
父親は特に嫌悪感を示した。
思春期で性のなんたるかなどもさしてわかっていない彼に異常性癖者と罵り、唾棄すべき存在と見なし、平凡で幸せな家庭は急にとげとげしく冷たい場所になった。
次第に夫婦喧嘩が多くなり、父がだんだん家に寄りつかなくなった。
母親ははじめは桐原を厭う様子だったが次第に無関心になった。生活の世話だけはかろうじてしてくれたが、普段はいないもののように扱われる。
「産まなければよかった」
直接言われなかったが、両親からそういう気配がひしひしとしていた。
少年だった桐原は自分は何一つ変わらないのに、いきなり両親の態度が冷淡、嫌悪、無関心に変化してゆくのに戸惑った。
愛情に飢えていた。
そして今のように心を冷徹さで覆うすべも知らず、親を見限ることもきず、むきだしの心はただただ傷ついてばかりいた。
*
「そうだったんですか。桐原さんにそんな頃があったなんて…」
相槌を打ちながら聞いていた犬飼はしみじみと呟いた。
「俺をなんだと思ってるんだ。そういうイタイケな頃もあったんだよ、これでも。笑えるだろ」
桐原は嘲笑った。
他人に対して何かを求めていた過去の自分に対する嘲笑でもあった。
*
勉強だけはしていたので、桐原は県内有数の進学校に合格した。
出来がよければ認めてもらえるのではないかという気持ちがあったが、見事にそのかすかな望みは打ち砕かれた。
自分が悪いのだろうかという気持ちを抱えたままの桐原は、暗くこれといって目立たない地味な学生であった。
背もその時は高くなかったし、下を向いてばかりいた気がする。
しかも、周りは勉強できる人々の集まりであり、モチベーションが低くなった桐原はズルズルと成績が下がっていった。
入った時は一番上の特進クラスだったのに、赤点をとるようになってしまった桐原に、やはり親は興味を示さなかった。
桐原はさらに失望した。
無関心はお前は変態になるのだと貶められるよりもさらに心をえぐられる。
ただ、学校のほうは親ほど無関心ではなかった。
桐原個人に、というよりも進学率という数字のためである。
高一の夏休み、補修を受けるように教師に言われて桐原は、そこではじめて吉川と出会った。
クラスも交友関係も違う吉川とは全く交わることはなかったが、桐原は名前くらいならうっすら知っていた。
吉川は派手めで目立つ生徒だった。
そして桐原がはじめて目にしたDOMだった。
落ち着いた地方都市に両親と桐原の三人家族の、平凡な、ほんとうによくあるような家庭。
一人っ子であった桐原は愛情を存分に注がれて育ったように思う。記念日ごとに写真を撮り、両親が嬉しそうに家中のあちこちに飾ったりしていたのを覚えている。
それが一転してしまったのは15歳の時に一斉に行わるダイナミクスの検査結果で桐原がSUBということが判明したことである。
保守的な価値観を持つ両親はUSUALであった。
普通である彼等は彼等はSUBである息子を普通でないという風に捉えた。
虐められて喜ぶ性という世の中の偏見じみた考えも後押しした。実際は抑制剤で一生普通に暮らせるひとも多数いるのだが、えてして特性は悪いことばかりを誇張されがちである。
そんな風になるなんて気味が悪いと、彼等は息子がSUBなのを受け入れないばかりか、SUBである息子の存在が受け入れられなかった、らしい。
父親は特に嫌悪感を示した。
思春期で性のなんたるかなどもさしてわかっていない彼に異常性癖者と罵り、唾棄すべき存在と見なし、平凡で幸せな家庭は急にとげとげしく冷たい場所になった。
次第に夫婦喧嘩が多くなり、父がだんだん家に寄りつかなくなった。
母親ははじめは桐原を厭う様子だったが次第に無関心になった。生活の世話だけはかろうじてしてくれたが、普段はいないもののように扱われる。
「産まなければよかった」
直接言われなかったが、両親からそういう気配がひしひしとしていた。
少年だった桐原は自分は何一つ変わらないのに、いきなり両親の態度が冷淡、嫌悪、無関心に変化してゆくのに戸惑った。
愛情に飢えていた。
そして今のように心を冷徹さで覆うすべも知らず、親を見限ることもきず、むきだしの心はただただ傷ついてばかりいた。
*
「そうだったんですか。桐原さんにそんな頃があったなんて…」
相槌を打ちながら聞いていた犬飼はしみじみと呟いた。
「俺をなんだと思ってるんだ。そういうイタイケな頃もあったんだよ、これでも。笑えるだろ」
桐原は嘲笑った。
他人に対して何かを求めていた過去の自分に対する嘲笑でもあった。
*
勉強だけはしていたので、桐原は県内有数の進学校に合格した。
出来がよければ認めてもらえるのではないかという気持ちがあったが、見事にそのかすかな望みは打ち砕かれた。
自分が悪いのだろうかという気持ちを抱えたままの桐原は、暗くこれといって目立たない地味な学生であった。
背もその時は高くなかったし、下を向いてばかりいた気がする。
しかも、周りは勉強できる人々の集まりであり、モチベーションが低くなった桐原はズルズルと成績が下がっていった。
入った時は一番上の特進クラスだったのに、赤点をとるようになってしまった桐原に、やはり親は興味を示さなかった。
桐原はさらに失望した。
無関心はお前は変態になるのだと貶められるよりもさらに心をえぐられる。
ただ、学校のほうは親ほど無関心ではなかった。
桐原個人に、というよりも進学率という数字のためである。
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クラスも交友関係も違う吉川とは全く交わることはなかったが、桐原は名前くらいならうっすら知っていた。
吉川は派手めで目立つ生徒だった。
そして桐原がはじめて目にしたDOMだった。
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