32 / 43
第三章
10.戦略的撤退
しおりを挟む
あと、気がかりなのは「刺して」という言葉だった。
そうしるとロイドは刺されたのだろうか。
「ロイド王はご無事なのか」
「何を言ってる。やったのはお前たちのくせに」
クライヴは喚いたが、グレンは無視してすがるようにシエルを見た。
「…今医師が見ているが、傷が深くて予断を許さない状況だ。なお使われたのは彼の、レオンの短剣だ」
シエルの周りの空気は当然だがいつになくピリピリしていた。強い言葉には抑えた怒りと威圧感が漂う。それでもシエルは律儀にこたえた。
亡くなったわけではないと聞いてグレンはほっとしたが、予断を許さないというのはいつどうなるかわからないということでもあることに気づき、改めて動揺する。
うかつな事態を招いてしまった気がしてならなかった。
「暗殺する気なら、自分の剣なんて使うわけないねぇだろ!ちょっとは考えろよ」
しかも、キレて荒くれ騎士団員の本性まるだしになったレオンが丁寧さをかなぐり捨て年相応の喧嘩と早さで言いはなったので、グレンは頭を抱えたくなった。
挑発的なものいいに、シエルの周りの空気が凍りついた。
「---実際逃げようとしている。グレンが関与してようがしまいが、レオンが僕の父を刺して、逃がそうとしたのではと思われても仕方ない状況だな。竜から下りろ」
「下りるわけあるか」
レオンは一笑すると騎竜に合図をくれた。
はっとしたシエルが槍を投げたが、当たると思えた槍先を竜は器用に軌跡を変えて間一髪槍避けた。
本気がうかがえる鋭い投擲に、グレンは震えあがった。
「逃げるな!」
「うるせぇ!逃げてねえわ。戦略的撤退と言ってほしいね」
あとは脱兎のごとく庭園を走り抜けていく。
レオンのあっというまに小さくなる後ろ姿に、シエルは二本目の槍をとり握りしめた。
「シエル、やめてくれ!お願いだ。俺たちじゃないんだ」
もし槍が当たったら。
シエルがレオンを殺す、などということは絶対あってほしくなくて、グレンは立ちふさがった。
「…お前の息子が刺したという目撃者がいる。話を聞こうとしたのに逃げたのはそっちだろう」
ちゃんと訳が、と話をしかけて、グレンは口をつぐんだ。
今、誰がシエルの味方で、誰がクライヴの味方なのかわからない状態で今知っていることを口にするには危険かもしれない。クライヴがどこまで何を掴んでいるのかもわからないし、レオンは証拠があると言っていた。
ここで乱戦になるよりは、危険はあるが待つ方がよいかもしれない。
「グレン、どけ!あなたに当てたくない」
「いや、どけない。…シエル、俺を信じてくれ」
「------」
シエルはグレンを見た。
青い、暗い中でも光る綺麗な双眸を、グレンもじっと見返す。
まるで長い時間に感じた数秒だったが、シエルのその目に怒りの炎が再燃するのを見た。
それから、レオンの竜が城壁の低いところを垂直にかけあがると、壁の向こうに消えるのが見えた。
城壁につめていた見張りの兵士が叫ぶ声がそれに続いたが、たぶん、この調子だと騎竜の機動力にまかせて追手をまくのは容易そうだとグレンは思い、ほっと胸を撫で下ろした。
だが、怒りに燃えたワーウルフの王子が眼前に迫っていた。
がん、と、槍の長い柄で殴られて、グレンはよろめいた。
先程足に傷を受けたので、身体を支えきれずに地面に手をついてしまう。
冷たい敷石に、手が擦れるのを感じた。
「…この状況でどう信じろと?」
ぐさり、と、槍の穂先がその側に突き刺さり、グレンを動けなくする。
眼前に真剣の冷ややかな鋼の反射がひらめいた。
そして、それ以上にシエルの声は冷ややかだった。今まで聞いたことがないくらいに。
「この男を捉えて、牢にいれろ。決して逃さないように、先程の奴が助けにきても決して奪いされないように、見張りをつけろ」
抵抗しないまま手に縄をうたれたグレンを冷たく一瞥すると、シエルはきびすを返した。
そうしるとロイドは刺されたのだろうか。
「ロイド王はご無事なのか」
「何を言ってる。やったのはお前たちのくせに」
クライヴは喚いたが、グレンは無視してすがるようにシエルを見た。
「…今医師が見ているが、傷が深くて予断を許さない状況だ。なお使われたのは彼の、レオンの短剣だ」
シエルの周りの空気は当然だがいつになくピリピリしていた。強い言葉には抑えた怒りと威圧感が漂う。それでもシエルは律儀にこたえた。
亡くなったわけではないと聞いてグレンはほっとしたが、予断を許さないというのはいつどうなるかわからないということでもあることに気づき、改めて動揺する。
うかつな事態を招いてしまった気がしてならなかった。
「暗殺する気なら、自分の剣なんて使うわけないねぇだろ!ちょっとは考えろよ」
しかも、キレて荒くれ騎士団員の本性まるだしになったレオンが丁寧さをかなぐり捨て年相応の喧嘩と早さで言いはなったので、グレンは頭を抱えたくなった。
挑発的なものいいに、シエルの周りの空気が凍りついた。
「---実際逃げようとしている。グレンが関与してようがしまいが、レオンが僕の父を刺して、逃がそうとしたのではと思われても仕方ない状況だな。竜から下りろ」
「下りるわけあるか」
レオンは一笑すると騎竜に合図をくれた。
はっとしたシエルが槍を投げたが、当たると思えた槍先を竜は器用に軌跡を変えて間一髪槍避けた。
本気がうかがえる鋭い投擲に、グレンは震えあがった。
「逃げるな!」
「うるせぇ!逃げてねえわ。戦略的撤退と言ってほしいね」
あとは脱兎のごとく庭園を走り抜けていく。
レオンのあっというまに小さくなる後ろ姿に、シエルは二本目の槍をとり握りしめた。
「シエル、やめてくれ!お願いだ。俺たちじゃないんだ」
もし槍が当たったら。
シエルがレオンを殺す、などということは絶対あってほしくなくて、グレンは立ちふさがった。
「…お前の息子が刺したという目撃者がいる。話を聞こうとしたのに逃げたのはそっちだろう」
ちゃんと訳が、と話をしかけて、グレンは口をつぐんだ。
今、誰がシエルの味方で、誰がクライヴの味方なのかわからない状態で今知っていることを口にするには危険かもしれない。クライヴがどこまで何を掴んでいるのかもわからないし、レオンは証拠があると言っていた。
ここで乱戦になるよりは、危険はあるが待つ方がよいかもしれない。
「グレン、どけ!あなたに当てたくない」
「いや、どけない。…シエル、俺を信じてくれ」
「------」
シエルはグレンを見た。
青い、暗い中でも光る綺麗な双眸を、グレンもじっと見返す。
まるで長い時間に感じた数秒だったが、シエルのその目に怒りの炎が再燃するのを見た。
それから、レオンの竜が城壁の低いところを垂直にかけあがると、壁の向こうに消えるのが見えた。
城壁につめていた見張りの兵士が叫ぶ声がそれに続いたが、たぶん、この調子だと騎竜の機動力にまかせて追手をまくのは容易そうだとグレンは思い、ほっと胸を撫で下ろした。
だが、怒りに燃えたワーウルフの王子が眼前に迫っていた。
がん、と、槍の長い柄で殴られて、グレンはよろめいた。
先程足に傷を受けたので、身体を支えきれずに地面に手をついてしまう。
冷たい敷石に、手が擦れるのを感じた。
「…この状況でどう信じろと?」
ぐさり、と、槍の穂先がその側に突き刺さり、グレンを動けなくする。
眼前に真剣の冷ややかな鋼の反射がひらめいた。
そして、それ以上にシエルの声は冷ややかだった。今まで聞いたことがないくらいに。
「この男を捉えて、牢にいれろ。決して逃さないように、先程の奴が助けにきても決して奪いされないように、見張りをつけろ」
抵抗しないまま手に縄をうたれたグレンを冷たく一瞥すると、シエルはきびすを返した。
0
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
身代わりの出来損ない令息ですが冷酷無比な次期公爵閣下に「離さない」と極上の愛で溶かされています~今更戻ってこいと言われてももう遅いです〜
たら昆布
BL
冷酷無比な死神公爵 × 虐げられた身代わり令息
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる