騎士団長、狼王の花嫁になるーー拾った子犬はワーウルフの王子でした

鳥海あおい

文字の大きさ
34 / 43
第四章

2.一日目

しおりを挟む
(畜生!)

心の中でグレンは悪態をついた。
乱暴に牢に戻された際に、あちこち痛めつけられた身体をさらに打ったのだ。

はじめは穏便に尋問されていたのだが、聞かれても知らぬ存ぜぬでのらりくらりとしていたら、散々殴る蹴るされたのだ。

初日のせいか幸い今日のところは身体の部位を壊されるような拷問は受けなかったが、この手のことはエスカレーするのが普通だろう。明日も五体満足でここに戻れるとは限らない。
ワーウルフの爪と牙、力をもってすれば、人間の肉体など脆いものだし、彼らの一派にとって、人間はワーウルフより下の生き物という区分であることが様子からはっきりうかがえた。

本当のことを言うと騎士としての訓練で痛みにはまあまあ慣れてはいたのでとりあえずグレンは誰がクライヴ派で誰がそれ以外であるかを様子を見ながら特定しようとしていたが、途中で昨日痛めた肋骨部分を殴られてからはそれどころではなくなってしまった。未だに体の内側からじくじくと痛みが渦巻いていた。


レオンが戻るまでどのくらいなのだろう。
最短距離でもいったん獣人国を出て人間の国を横断し、それからまたエリクシールに入るから、騎竜の機動力でも数週間かかるのではと思われた。

思わずため息をつく。
だからといって、クライヴにグレンの身柄を任せたシエルを恨む気にはなれなかった。
もしロイド王がこのまま亡くなったら、シエルが次代の王となる。半分人間の血をひくシエルが王に相応しいことを示すには、弱みや私情に流される姿をあからさまに見せるわけにはいかないだろう。
グレンはシエルを信じていた。
そしてシエルもグレンを信じてくれていると信じていた。

だが、さらにシエルと接点を持つことが難しくなってしまった。 

煩悶していると牢の外から足音がして、食事のトレーが置かれる音がした。
朝とは違う丁寧さを感じる音。
そして聞き慣れた声。      

「…グレン殿」

「…ステファン!」

グレンは思わず足を引きずりながら定位置のベッドから立ち上がり、鉄格子の前まで移動した。 
冷たい鉄の棒の向こうに見慣れた色の狼頭と金色の目が見えた。

「しー!…グレン殿、食事を運ぶ者に頼んでこっそりすり替わってきたので長居はできないが、大丈夫か?」

「…なんでこんなことになったのか全くわからないんだ」

優しい言葉をかけられれば、しぜん胸があつくなる。
自分で思っているよりこの状況を辛いと思っているのに気づいてしまった。
ステファンはレオンを探す旅の間に様々なことを分かちあった友とも言える。
でも、やはり心の内を晒すわけにはいかなかった。

「でも、俺もレオンもやってない」

思わず言うと、ステファンは強く頷いた。

「わかっている。一緒に旅していたからグレン殿がそんな事をする人となりであるはずがないと信じているし、この事件自体に疑惑を持っている者もいる。何とかしたいが、やっていない証明は難しい」

「ロイド王なら証言してくれるはずだ」

「危ない状況が続いていて、残念ながら意識不明のままだ。かなりの深手だったから」

グレンはがっかりした。

「王の身辺は大丈夫なのだろうか。今、また狙われたら…」

「王妃がついているから大丈夫だと思うけれど」

「おーい、食事は置いたらすぐあがってこいー!」

見張りの兵士らしい声がしてステファンは「わかった。すぐいく!」と大声を返した。
時間を気にするそぶりをしつつも、ステファンがぐずぐずとなにかものすごく言いづらそうにしているので、グレンは「何かあるのか?」と聞いた。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...